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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 椿はあれから何度も恭介に話し掛けようとしたが、彼はその度に逃げ回り未だに捕まえることができない上、ついに彼女の携帯は着信拒否されてしまった。
 結局、恭介とは何の進展もないまま、椿は体育祭の日を迎えることになる。

 今年の体育祭では椿は去年と同じく綱引きと学年競技の二つのみに出場する予定なので、休憩スペースにて杏奈や千弦達と今後のことを相談していた。

「恭介君は相変わらず朝比奈さんのメールを無視してるの?」
「それどころか着信拒否までされてます。学校でも近づいたら逃げられますし、夏目さんと話し合ってもらおうにも連れて行く手段が無いとどうにもなりませんわ」
「徹底しておりますわね。あからさますぎて夏目さんが可哀想になってきます」
「本当よ。問題が解決したら絶対にあいつ殴る」
「椿さん、口調が戻っておりますわよ」
「これは失礼。それにしても、どうやって夏目さんと二人きりにするかです」
「夏目さんが恭介君と話し合う気がなければ、余計なお節介になっちゃうけどね」

 佐伯の言う通りではあるのだが、透子が恭介に対する恋愛感情を自覚しているので話し合う気は絶対にあると椿は思っている。

「椿さんは水嶋様がどうして夏目さんを避けてるか御存じですの?」
「恐らくこのような理由なのでしょうね、という予想はしております。それは夏目さんにはお話ししました」
「そうですか、夏目さんは理由を御存じですのね。何も存じ上げずにどうして避けられているのかという状態ですと、悪い方へ悪い方へと考えてしまいますから」
「ええ。私もそう思います。……夏目さんにばかり負担を掛けてしまうことが申し訳なく思いますわ」
「早く落ち着けばよろしいのですが」
「こればっかりは恭介さんの気持ち次第なので、何とも」

 ここでこうして話していても、椿達にできることといえば彼を追いかけ回して説得するのみ。

「伯父に助けを求めようにも、夏目さんのことは目を瞑ってもらっている状態ですので、手を貸して下さるかどうか」
「というか、学校のことは報告されてるんだからすでに知ってるでしょ? それで椿に事情を聞きに来ないってことは手出しする気はないってことなんじゃないの?」
「杏奈さんの仰る通りですわね」

 この場合、伯父の手助けは期待できないし、彼がするのは息子である恭介のケアだけだ。
 大人に頼れない以上は椿達だけで何とかしなければならない。

「見ていることしかできないって歯痒いね」
「恭介さんは相変わらず佐伯君達の話を聞いては下さらないの?」
「『その話はしたくない』の一点張りだよ。最近じゃ、夏目さんの話を出した時点で席を立つ始末なんだから」
「……あらあら、まあまあ……これは恭介さんを遠くまで飛ばしてしまっても構いませんわよね?」
「椿さん、お気持ちは分かりますが丁寧に仰ればよろしいという訳ではございませんわよ」
「分かっておりますわ。精神攻撃が基本ですわね」
「そのようなことでもございません!」

 いつの間にか話が脱線してしまった椿と千弦を見て、杏奈と佐伯は顔を見合わせて苦笑する。

「今は水嶋様も冷静に考えられないのかもしれないし、あんまりこっちからうるさく言うのも逆効果かもしれないわね」
「そうね。少し時間を置いた方がいいかも」

 全員が恭介に理由を訊ねて透子の話を聞けと言ったところで彼は意固地になるだけだ。
 ここは杏奈や佐伯の言う通りにした方が賢明なのかもしれない。

「あまり時間を掛けたくはないのだけど、周囲から毎日、あれこれ言われたら確かに嫌でしょうね」
「急いては事をし損じる、とも申しますから、焦らずに参りましょう」
「じれったいですが、仕方ありませんわ」

 佐伯達との話し合いが終わって、椿がトイレへと行った帰りに清香と透子を見掛ける。
 二人は同じクラスの女子生徒達に囲まれていたので、何だろう? と気になった椿は彼女達の方へと向かっていく。

「何をしていらっしゃるの?」
「え!? 朝比奈様!」
「な、なんで」

 女子生徒達は椿から話し掛けられるとは思っていなかったようで、ひどく驚いている。
 彼女はそんな女子生徒達の反応を無視して事情を知っているだろう清香へと視線を向けた。

「清香さん、一体何が?」
「先程の競技の最中に転んで捻挫した子が居たんですけど、その子、午後の二人三脚で透子と組んでた子だったんですよ。それでその子の代わりに他の人に出てもらおうと話し合っていた最中という訳なのですが、この場に居るのは出場競技が二つの方や二人三脚の前後の競技に出場する生徒ばかりで中々決まらなくて」
「清香ちゃんの出場競技も二つなので、二人三脚に出てもらうのは無理なんです」
「でしたら、私が出ましょうか?」

 椿がそう言った瞬間にその場の空気が凍り、なぜか女子生徒達の方が慌て始める。

「大丈夫ですよ、朝比奈様!」
「そうです! 朝比奈様の手を煩わせることはありません」
「それに彼女に頼もうかって話をしようと思ってたんですよ!」
「わ、私が出ますから!」

 透子が椿に迷惑を掛けたくないとのことで彼女が慌てるなら分かるが、なぜ女子生徒達の方がこんなにも慌てるのか。
 いくら椿を怖がっているとはいえ、仮に透子が転んで怪我をしても透子のせいになるだけで彼女達のせいにはならないのに、と彼女は疑問を持つ。
 尤も、透子が転んで椿が巻き込まれても彼女が自分で出ると決めたのだから誰のせいにもしない。

「やけに慌てているようですが、私が出ると何か不都合があるのかしら?」
「いえ、そんなことはございません!」
「朝比奈様はゆっくりしたいのではないかと思いまして」
「別に、学年競技と午後の綱引きだけしか出場しませんから時間はございますもの」
「本当に? 本当によろしいのですか?」
「ええ。構いません」
「あの、でしたらよろしくお願い致します」

 発言した女子は後ろに居た別の女子生徒からちょっと! と声を掛けられていたが、彼女が何やら耳打ちすると声を掛けた女子生徒はニヤッと笑って大人しくなった。

「それでは私達はこれで」

 嫌らしい笑みを浮かべた女子生徒達は足早に去っていき、申し訳なさそうな表情を浮かべている透子と清香が残される。

「あの、朝比奈様」
「あれは、私を巻き込んで貴方が転けて、私の怒りを買えばいいとでも思っているのでしょうね。馬鹿馬鹿しい」
「いや、そんなことは考えてないと思いますよ」
「相変わらず透子はポジティブね。最後のあの笑いを見たでしょう? あれはそういう意味を含んでいると思うわよ」
「そんなことよりも、二人三脚は午後でしたわね。まだ時間はありますから練習致しましょう」

 有無を言わさず、椿は透子を引き連れて本部まで行き、怪我をした生徒のことや椿が代わりで透子と二人三脚に出ることを伝え、彼女達は昼の休憩まで二人三脚の練習をしたのだった。

 午後になり、椿は綱引きを終えて透子と最後の練習をしようと思い彼女を探していると、杏奈から声を掛けられる。

「聞いたわよ。二人三脚に代わりに出るんだってね。夏目さんが転んで椿に怪我させれば夏目さんが酷い目に遭って面白くなるのに、って椿のクラスの子が言ってるのを聞いたんだけど」
「馬鹿じゃないのっていう言葉をそいつらに贈っておきますわ。ところで夏目さんを見ませんでした?」
「夏目さん? 夏目さんなら集合場所A辺りで見たけど」
「ありがとう」

 杏奈から腹の立つ情報を得た椿は、絶対に転ばずにゴールしてやる! という決意をした。
 集合場所Aの辺りまできた椿は周囲を窺っている透子を発見し、彼女と合流して最後の練習をした後で集合場所へと向かった。

 二人三脚が始まり、椿が順番を待っていると彼女に聞こえてないと思っているのか背後から女子生徒が話している声が聞こえてきた。

「これで朝比奈様が怪我したら夏目さん、終わりじゃない?」
「椎葉さんの時みたいに転校させられるに決まってるわ」
「これで邪魔な奴が居なくなるわ。たまには朝比奈様も役に立つよね」

 椿は怒鳴りつけてやりたくなったが、騒ぎを起こしたら椿だけではなく透子まで悪目立ちしてしまうことを考えて何とか抑える。
 透子は気にしてないだろうかと気になり、椿は隣を見た。

「大丈夫ですよ」

 若干の緊張はあるものの、透子はしっかりと椿に微笑み掛けてきた。

「私、貴女は怒りの感情がないのかしら? とたまに思ってしまいます」
「私だって怒ることはありますよ。ただ怒るのってすごい体力と気力を使うんです。だから疲れて持続しないだけだと思います。温厚な訳じゃないですよ」
「表に出さない時点で温厚ですわ」
「ありがとうございます。……でも、ちょっとさっきのは無理ですね。私だけならまだしも朝比奈様が怪我をすればいいって思ってるのは我慢できません。さっきまでは転けたらどうしようってそればかり考えてたんですけど、今の話を聞いて、転けずに一着でゴールしたくなりました」
「あら、奇遇ですわね。私もです」

 ニッと笑った椿を見て透子は少々面食らっていたが、すぐに彼女に笑みを返した。

「さあ、私達の順番です。参りましょう。練習通りやれば転けることはありませんわ」
「はい!」

 やる気に満ちた二人はスタート位置へとつき、ピストルの合図と共に走り始める。

 椿は小声でいち、に、と口に出し、透子と足を揃える。
 走り出した当初から三番手につけていた椿達であったが、徐々に転けたり足が止まったりする生徒が出始め、順調に走っていた彼女達が先頭となった。
 応援していた生徒は、傲慢我儘令嬢として名高い朝比奈椿が庶民の夏目透子と肩を組んで一生懸命走っている姿にかなりの衝撃を受けている。
 応援することも忘れてただ静かに彼女達が走っているのを見つめていた。
 そのまま転けることもなく椿達が一着でゴールするが、グラウンドはシーンと静まりかえっていた。

「やりましたね、朝比奈様!」
「私が出るのだから当然ですわ。それにしても小馬鹿にしていた生徒達は今どのような気持ちなのかしらね」

 透子は喜びではしゃいでいるが、椿は同じ組である生徒達が居る応援席へと視線を向けて、透子が転んで彼女の怒りを買えばいいとニヤニヤと笑っていた女子生徒達と目を合わせる。
 彼女達はばつが悪そうな顔をして椿から視線を逸らすと、そのまま応援席から出て行ってしまう。

「私、一着なんて初めてです。ゴールテープを切るのってこんなに気持ちの良いものなんですね」
「そうですね。私も頑張った甲斐がございます。もちろん他の方では絶対に無理でした。夏目さんだったからこそ、一着になれたのでしょう。お疲れ様でした」
「朝比奈様のかけ声のお蔭ですよ。ありがとうございます」

 こうして二人三脚が終わり、椿と透子は退場場所近辺で解散となった。
 それでは、と言って椿が立ち去ろうとすると、真剣な表情をした透子が真っ直ぐに彼女の目を見ながら話し掛けてくる。

「朝比奈様。私、ちゃんと水嶋様と話してみようと思います。気持ちを伝えることは考えていませんけど、今の状態のまま終わるのは絶対に嫌です」
「タイミングを見計らって恭介さんと接触しようとは思っておりますが、私まで避けられている状態ですので、どうなるか……。ですが、とにかくあの方を引きずり出さなければお話になりませんもの」
「でも私、今の二人三脚で勇気を貰いました。絶対に転けると思っていたのに、転けもせずに一着でゴールできて、苦手でもやればできるんだって自信に繋がりました。だから、ウジウジ悩むのは止めます。全部ぶつけて粉々になっても、私は後悔だけはしたくありませんから」

 力強く決意表明をした透子と別れた椿は去っていく彼女を見つめながら、その背中に向かって頑張れ! とエールを送った。
次で解決します。
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