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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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5月12日にお前みたいなヒロインがいてたまるか!2巻の電子書籍版が配信となります。
どうぞよろしくお願い致します!
 年が明けて三学期が始まりしばらく経った頃、椿の耳に『夏目透子と水嶋様が二人で出掛けていた』という噂が飛び込んできた。
 噂を信じる、信じないで生徒達は盛り上がっていた
が、実際にこの噂は本当である。

 それは、毎年恒例である水嶋家へ新年の挨拶に朝比奈家が出向いた時のことであった。
 椿は伯父から手招きされ、去年と同じように庭で彼からコッソリと話を聞いたのである。

「恭介の専属運転手を交代した。前の運転手は年齢的に厳しくなってきていたからな」
「……恭介さん専属の運転手を交代したことが、私に何か関係があるんですか?」
「前の運転手は父の直属だった、というだけだ。父に交友関係を知られたくないからという理由で、私にまで秘密にするような行動を取って欲しくないのでね。やはり親だから子供がどこで何をしているのか、ということは心配だし知っておきたいんだよ」

 ため息交じりに伯父から言われたことで、椿は恭介と透子と三人で志信に送迎を頼んで出掛けていたことが彼にバレたのだと理解した。

「ご心配をお掛けしまして申し訳ございませんでした。お祖父様の耳に入ると色々と面倒があると思いまして」
「いや、その判断は間違っていない。だからこそ、運転手を交代させたんだ」
「ということは、後任の方は伯父様直属の?」
「ああ、そうだ。ちなみに富美子の甥に当たる人物だ。父に報告されないようにと百合子が富美子に頼んだらしくてな」
「お母様ったら、いつの間に……」
「あいつも心配性だからな。それと一応、椿に言っておくが、私としては恭介が他の人と関わることによって、あの子の世界が広がるのは良いことだと思っているし、沢山の人と交流を持って貰いたいと思っている。同性異性問わずにだ」

 異性、という言葉が出たことで椿は伯父の目を見てみるが、彼が何を思っているのは全く読み取れなかった。

「現時点で私が口にするのは、それだけだ」
「……分かりました」

 キッパリと言い切られたことで、椿は伯父にそれ以上の質問を投げかけることができなくなってしまう。
 だが、伯父は恭介が同性異性問わずに仲良くすることを問題視してはいないし、恭介の専属運転手を彼の直属の人間に任せたという点を見ても、恭介と透子が二人で出掛けることを大きな問題であるとは思っていないようである。
 そう頻繁に出掛けたりしなければ、目を瞑ってくれるということだと椿は判断した。

 ということがあったのだが、それから椿は恭介が透子と二人で出掛けたという話を聞いてはいたのだ。
 恭介と透子が順調に仲良くなっていることに椿は、ガッツポーズをしたい衝動に駆られたが、そう上手くもいかない。
 いずれは二人で出掛けていたことが生徒達にバレるのではないかと、椿は気になっていた。
 けれど、バレるとしても、もっと先のことだと思っていた椿は新学期早々に『夏目透子と水嶋様が二人で出掛けていた』という噂を耳にして、どうしたものかと頭を悩ませている。
 噂になったということは、誰かが恭介と透子が二人で出掛けていたのを見た、ということだ。
 どういう状況であったのかを椿が知ることができれば、一緒に居てたまたま彼女が席を外していただけだとも、急病になってしまい行けなくなり結果として二人になったとも言って助けることができる。

 椿は杏奈や千弦、蓮見達に噂の発信源と恭介と透子が出掛けていたのを見た人が居るかどうかを尋ねたのだが、全員分からないという答えを返してきた。
 どうしたものか、と考えながら放課後に椿が窓の外を眺めながら廊下を歩いていると、彼女は背後から女子生徒に声を掛けられた。

「朝比奈様、ちょっとよろしいですか?」

 考え事をしながら歩いていたので、椿は反応するのが遅れてしまう。
 不自然さを感じさせないように椿が振り向くと、不機嫌さを前面に出した烏丸蘭子が腕組みをして彼女をジッと見つめていた。

「……何かしら」
「水嶋様と夏目さんのことでお話があります。ここでお話してよろしいですか?」
「……あちらに参りましょうか」

 いくら放課後だといっても、生徒の往来はある。
 他の生徒の注目を浴びる中で恭介と透子の話をするのは嫌だと思い、椿が先導する形となって人気の無いところへと烏丸を連れて行く。

「それで、お話とは?」
「水嶋様と夏目さんの噂は御存じでしょう? 皆さん口にしていますが、何故、朝比奈様は夏目さんに何も仰らないのですか? あれだけ立花さんを遠ざけようとしておいて、何故夏目さんだけ放っておくのですか?」
「申し訳ございませんが、恭介さんと夏目さんの噂と申しましても、沢山ございますでしょう? 私には、どの噂なのか判別がつかないのですが?」
「……水嶋様と夏目さんが二人で出掛けた、という噂です」
「ああ、それですか。何とも現実味のないお話だと思っておりましたの。恭介さんが夏目さんとお二人で出掛けるなど、現実では考えられませんわ。それに、お二人がご一緒だったのをご覧になった方はいらっしゃらないのでしょう?」
「私の友人が見たそうです」

 ハッキリと言い切る烏丸の口調からは自信がみなぎっており、椿は彼女が言っていることが嘘ではないと感じた。
 後は、その人にどこまで見られたか。上手く烏丸から情報を聞き出さなければならない。

「でしたら、その方の見間違いだったのではなくて? ご覧になったからといって、恭介さん本人に直接尋ねた訳ではないのでしょう?」
「……確かに、遠目ではあったと聞いてますが……でも! 水嶋様のお顔を見間違えるはずがありません」
「遠目でしたら、恭介さんはともかくとしても、夏目さんのお顔は判別できたのですか? さすがに証拠も何も無い状況で、噂話とたった一人の目撃談を鵜呑みにすることはできませんわ」
「それは」

 恭介と一緒に居た女性が絶対に透子であったと言い切ることができず、烏丸は言い淀む。
 即答されなかったことで、椿は烏丸の友人が恭介と透子が一緒に居る決定的な証拠を持っている訳ではないことを知った。
 もしも写真を撮られていたらどうしようかと思っていたので、撮られていなくて本当に良かったと椿は胸を撫で下ろした。

「で、ですが、水嶋様のお隣に朝比奈様ではない違う女性が居たというのは事実です。去年までのことを考えれば、その女性が夏目さんだと思うのは仕方ないのでは?」
「まあ、そうですわね。ですが、私は想像だけで証拠も何もない状態の夏目さんを疑って噂を流して嫌がらせをするのはどうかと思いますわよ?」
「証拠って……。あ、朝比奈様は立花さんの時はあんなに!」
「立花さんは私の目に見える場所で恭介さんに言い寄ってましたもの。証拠なんて有り余るほどございました。夏目さんの場合はそういったことがございませんので」
「朝比奈様はそれでいいのですか!? どうしてそこまで夏目さんを庇うのですか! あんな子に水嶋様を奪われてもよろしいのですか!」

 激しい口調で椿に詰め寄る烏丸を一瞥すると、彼女は鼻で笑った。
 何故、笑われるのか分からないのか烏丸は若干勢いを失ったように見える。
 椿は心の中で透子に強く謝罪をした後に、相手を馬鹿にしたような笑みを浮かべながら口を開く。

「恭介さんは水嶋グループの御曹司という目で見てこない夏目さんが珍しいだけでしょう? 心配せずとも、恭介さんは現実を良く理解していらっしゃいます。夏目さんに対してどのような感情を抱こうとも、それを実行に移すような真似はなさいません。私という存在が居るのですから、絶対ですわ。最後には私の元へ戻って来るのですから、わざわざ恭介さんから嫌われるような真似は致しません。それに健気に待ち続けた方が、恭介さんの中で私の評価が上がるでしょう?」

 髪を手で後ろへと払った椿は、これは完璧な悪役だと一人悦に入っていた。

「大体、庇うも何も証拠が何もない状態で夏目さんを攻撃したら、私が恭介さんから嫌われてしまいますもの。私は夏目さんを放っておいている訳ではございませんわ。ただ、ジッと大人しくその時がくるのを待っているだけです。待っている間に皆さんが色々として下さるので、私は楽に恭介さんの評価を上げることができますのよ? その点では感謝しておりますわ。私が夏目さんを庇えば庇うほど、恭介さんの中で私の価値が上がるのですから」

 尊大な態度の椿を、烏丸はしばし呆然と見つめていたが、やがて何かに納得したのか笑い声を上げる。

「どうして朝比奈様が夏目さんを庇うのか、やっと納得がいきました。最初は朝比奈様のご友人である鳴海さんが仲良くされているからだと思ってましたが、まさかそのようなことを考えていらしたとは」
「だって、その方が恭介さんに与える印象は良くなりますでしょう?」
「それで、私にバラしてよろしかったのですか? 立花さんに告げ口するかもしれませんよ」
「構いませんわ。それで立花さんが恭介さんに申し上げたところで、恭介さんは彼女の言葉に耳を傾けることはありません。それは他の皆さんでも。ですので、今の話を立花さんにバラした所で、私は全くこれっぽっちも困りませんの」
「ええ。そのようですね。ですがもし、仮に、仮にですよ? 水嶋様が夏目さんを選んでしまったら、どうなさるおつもりですか?」

 どうするも何もそうなった場合、椿は椅子から立ち上がって盛大にガッツポーズをした後に床をローリングするに決まっているのだが、今はそちらの方を彼女が口にすることはできない。
 そのようなアホなことを考えているとは思われないように椿は冷ややかな笑みを浮かべた。

「残念ですが、そうなった場合は夏目さんに退場していただきます。あれだけ私が庇っているのですから私が泣くふりをすれば、彼女から身を引くに決まっておりますもの。仮に身を引かなかった場合は、父や伯父様に私が泣きつけばどうとでもなりますわ」

 椿が言ったことは全くのでたらめ、嘘である。
 露ほどもそのようなことは思ってもいない。けれど、そう言わなければ噂は収まらないだろうし、透子に対する陰口や嫌がらせも止まらない。
 お前らすら椿の駒なのだと生徒達に知らせることで、こいつに利用されたくない、こいつの得になるようなことはしたくないと生徒達に思わせたかった。
 椿のこの行動は正しく間違って烏丸に理解されたようで、彼女はまるで自分が優位に立っているかのような笑みを浮かべながら、校舎の方へと戻っていった。
 これなら明日にでも朝比奈椿は恭介に良く思われたいから透子を庇っている、と言う情報が出回り、彼女に対する嫌がらせも減るはずだ。

 椿はよくもまぁ、こんなに簡単に騙されるものだ、と校舎へと戻っていく烏丸の後ろ姿を見つめながら考えていた。
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