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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 十二月に入り、高等部では期末テストが行われた。
 順位が掲示されないので、詳しい順位は聞かなければ分からないようになっているのだが、恭介が当然だと言わんばかりの顔をしていた為、今回も彼が一位だったようだ。
 篠崎も千弦も椿にわざわざ順位を伝えるような人でもないので、椿が聞かなければ答えることもない。
 更に二人は生徒会役員になっており、椿と顔を合わせる頻度がめっきり減ってしまっていたが、特に変わった様子は見られなかった為、順位もいつも通りなのだろうと彼女は勝手に思っていた。
 ちなみに椿は十二位であり、まったくいつも通りの順位であった。

 そんな話を昼食時に杏奈としていた椿は、ご飯を食べた後で残りの休み時間を図書室で過ごすために移動を始めた。
 だが、いつも途中で別れて自分のクラスに帰るはずの杏奈が付いてきたことに首を傾げる。

「杏奈さんも図書室に用事が?」
「うん、世界の海だけ載ってる海外で出版された写真集を借りに行こうと思って」
「取り寄せればよろしいのに」
「絶版になってて、日本じゃ国会図書館か寄贈された高等部の図書室くらいにしか無いのよ。誰が所有しているかまでは分からないし、そこまでして見たい訳でもないから。気軽に借りられるなら見てみようかなって感じ」
「さすが、鳳峰学園……OBや保護者からそういったものが贈られるのでしょうね」

 椿は図書室の全ての本を把握している訳ではないので、興味対象が違う人からこうして話を聞き、新たな本を知ることが出来ることを嬉しく思った。

「世界の海……。今度、私も借りてみようかしら」
「海の色の確認が終わったらすぐに返す予定だから。っていっても図書委員なんだから返却されたらすぐに分かるわよね」
「そうですが、当番じゃ無いときに返却されたら分かりませんので、当番の日にして下さいます? できれば私のカウンターでお願いします」
「了解」

 これで疑似海外旅行ができたような気分になれる、と椿は期待を膨らませる。
 その後も二人は他愛ない話をしていたが、図書室まであと少しのところまで来た時に、杏奈が何かを見つけて椿の脇腹辺りを軽く叩いてきた。

「どうかなさったの?」
「あれ」

 何だ? と思った椿が杏奈の見ている方へ視線を向けると、中庭の隅辺りで数名の生徒達と楽しそうに話している透子が居ることに気が付く。
 側には鳴海清香と白雪、椿に背を向けている男子生徒の四人が居り、何やら話が弾んでいるように見えた。

「色々とございましたが、友達は着々と増えておりますわね」
「いや、私が言いたいのはそれじゃないから」
「え?」

 てっきり杏奈は、透子の学園生活が上手く行っているようだと伝えたいのかと思っていたので、椿は反射的に聞き返してしまった。

「では白雪君のことですか?」
「え? 椿さん、凪君と知り合いなの?」
「杏奈さんも白雪君を御存じでしたの?」
「知ってるも何も、前に話してた天文部の面白い男子の話を覚えてる? あれが凪君よ」
「……なるほど、確かに面白い方だとは思いますわ」
「どういう経緯で凪君と知り合ったのかは後で聞くとして。こっちに背中向けてる男子が居るでしょ? あれ、保科八尋よ」

 予想外の言葉に椿は足を止めて、口を開けて杏奈の顔を凝視する。

「ぶっさいくな顔してるわね」
「なっ、ふがっ!」

 ここが学校だということを忘れて、椿が素のままツッコミを入れてこようとしたのを察した杏奈が彼女の口を手で塞ぐ。
 止められたことで冷静になった椿は、口を塞がれたまま視線だけを保科と思われる男子生徒の方へと向けた。
 後ろ姿のせいで確認ができなかったが杏奈が言うのだから、あれが保科ということなのだろう。
 再び杏奈に視線を戻すと、椿が落ち着きを取り戻したと分かったのかようやく彼女は手を離してくれた。

「……せめてぶさいくじゃなくて、間抜けって仰って下さらない?」
「どっちも似たようなもんでしょ」
「全然違いますわ。って、言い合いをしている場合ではございませんのよ。後ろ姿しか分かりませんが、確かに体育祭で見掛けた時と体型が同じだったような気がしますわ」
「まだ顔を見たことが無かったの?」
「大体、廊下を歩いている時は窓や教室側を見るようにしておりますから、すれ違う相手の顔は拝見致しません」

 うっかり椿と相手の目が合おうものなら怯えられるか固まられるのどちらかであることから、彼女はあまり他人と目を合わせないようにしているだけだ。

「……ですが、保科君と仲が良いということは、彼ともフラグが立っていると見ていいのかしら? 嫌ですわ。ライバル出現じゃありませんか」
「フラグが立ってるかは分からないけど、同じ高等部からの外部生だから話しやすいってのもあるんでしょうね」
「……闇討ち」
「冗談だと分かってるけど、一応ツッコミをいれておくわ。止めときなさいよ」
「あらあら、冗談ですわ。うふふ」

 透子が誰を選ぶのかは彼女の自由だ。椿が強制することではないと分かっている。
 けれど、椿にしてみれば透子が恭介とくっついて欲しいと思っている。
 大体、恭介が透子以外の女性を好きになるとは椿には考えられない。
 これまでのことを考えれば、透子は恭介に対して良い感情を持っているのは間違いないはずだ。
 何かきっかけさえあれば、恋に変わると椿は思っていたが、ずっと透子達を見つめていた為、彼女の視線に清香が気付いてしまう。
 清香が気付いたことで透子も椿に気が付き、その場で慌ててお辞儀をする。
 その様子を見た保科が振り返り、椿は彼と目が合う。
 こちらの世界で見た保科は、短髪のスポーツ少年という感じである。
 部活の関係で肌は焼けており色黒。『恋花』と同じく天真爛漫そうな性格をしてそうだ、というのが椿の印象であった。

「あ!」

 椿の顔を見た瞬間に保科が大声で話しだそうとしたが、素早く透子が彼の口を手で押さえ、何か話し掛けていた。
 一体、何なのだろうか? と疑問に思った椿であったが、保科は透子の話に納得したような表情を浮かべ、イタズラがバレた子供のような顔をして笑っている。

「ごめんなさい、朝比奈様! 何でもないです!」

 二人の間に距離があったため、彼女はこちらに聞こえるように大声を出したのだが、椿は大声はダメだと顔を強張らせると同時くらいに、二人の周囲に居た他の生徒達が一斉に眉を顰めた。
 鳳峰学園において、よほどのことでない限り大声を出すのは、はしたないとされている。
 周囲の生徒達は透子をチラ見して、礼儀がなってないだとか囁き合っていた。
 いち早く、そのような状況に気付いたのは透子の隣に居た清香で、彼女は首を横に振りながら大声を出したことを注意している。
 清香の話を聞いた透子は、しまった! というような表情で慌てて椿に向かって何度も頭を下げ始めた。
 大声を出したことに関して特になんとも思っていない椿は、透子に対して首を横に振って、気にしていないという意思表示をする。
 それは正しく透子に伝わったようで、彼女は胸に手を置いて安堵の表情を浮かべていた。

「長居していると注目を浴び続けますわね。杏奈さん、参りましょうか」
「そうね」

 ただでさえ、相手が椿ということで注目を浴びているのだ。
 特に何もせずに立ち去るのが、この事態を収束させる最善の方法である。
 さっさと立ち去った椿には、その後どうなったのかは分からなかったが、注目を浴びた透子はやはり女子生徒達の間で悪く言われているようであった。
 透子の噂がなかなか下火にならないのは彼女があれ以来、保科と一緒に居ることが多くなったからである。
 廊下などで二人で話している時もあれば、清香や白雪も一緒に居る時もあって透子は恭介に言い寄りつつ、保科に色目を使っている等と言われていた。
 女子生徒達の間で流れている噂を椿はばかばかしいと思っているが、透子に恭介を押しつけたいと思っていることもあり、心穏やかにはいられない。
 もしかして、もういくつか保科とのイベントが起こっているのだろうか、と椿は悶々としている訳である。

 透子と保科との件で悶々としている椿とは対照的に、恭介は何事もないようにサロン棟の個室で静かにお茶を飲んでいた。
 全く普段と変わらない様子を見た椿は、透子と保科のことが気にならないのだろうか、と恭介に視線を向ける。

「……何だ」
「妙に落ち着いてるけど、気にならないの?」
「何がだよ」
「夏目さんと保科君のことよ」
「……特には。大体、気にするも何も、話の流れで説明をされているからな」
「はぁ!?」

 どういうことだ! と椿は恭介に詰め寄る。
 身を乗り出した椿の肩を押して彼女をソファに座らせた恭介は、落ち着いた口調で説明を始める。

「保科と夏目は共通の趣味があって、その話題で盛り上がっているというだけだ。一度、僕も二人の会話に参加してみたことがあるが、僕の知らない専門用語ばかりで良く分からなかった」
「……そういえば、恭介って保科君と面識あったもんね。忘れてたわ」
「体育祭以降、顔を合わせれば挨拶するし、普通に会話する仲だ」
「話って、テニスの話でもしてるの?」

 椿には、恭介と保科がどういう会話をしているのか全く想像がつかない。
 共通の趣味でもあったのかと悩むぐらいに分からない。

「保科からプロテインの重要性を力説されたから、筋力トレーニングにおける効果的な飲み方を教えたことはあるな」
「斜め上の会話内容だわ」
「あとは、テニスの話とかカフェテリアのメニューの話とか。さほど長話をする訳でもないし。ああ、そうだ。テスト前に篠崎達と一緒に勉強を教えたこともあったな。あまりの理解力の低さに、とりあえずこの公式だけ覚えておけとあいつの頭に詰め込んだのを覚えている」
「勉強会なんてしてたの!?」
「保科が泣きついてきたから仕方なくだ。ちなみにその場には佐伯と夏目と藤堂も居たぞ。あいつらは僕と篠崎がどの問題が出るのか予想して、答えを丸暗記させる方法に異を唱えていたが、保科は理解するよりも覚える方が合ってるんだよ」

 椿は、そんな面白い現場に立ち会えなかったことを悔しく思った。
 絶対に、傍から見てる分には面白かったはずである。
 五人の掛け合いを間近で見てみたかったと椿は本題のことをすっかり忘れて本気で悔しがっていた。

「ということで、僕は特に何も思ってない。そもそも何も思うはずがないだろ? 僕は夏目のことを何とも思ってないんだから」
「いい加減、好きだって認めなさいよ」
「認めるも何も事実だ」

 大事な感情を隠すのが上手い恭介は、透子への感情を全く表情に滲ませてもいない。
 目は口ほどに物を言うと言われているが、その目にすら何の感情も浮かんでいなかった。
 これまでの透子への態度を考えれば、恭介が彼女に対して友情以上の感情を抱いているのは間違いないと椿は思っている。
 一体、恭介に歯止めをかけているものは何なのか、と彼女は頭を悩ませるのだった。
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