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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 色々なことがあった夏休みが終わり、椿は新学期早々に透子が男子生徒を含む数名の生徒達と一緒にいる所をよく見掛けるようになった。
 透子に友達が増えて良かったなぁ、と椿はまるで自分のことのように嬉しくなる。


 そして始業式からしばらく経ち、文化祭のクラスの出し物を決める話し合いが行われ、椿のクラスは人探しビンゴをすることに決まった。
 単純に仮装した生徒達が高等部の校舎内に散らばり、客がビンゴカードに書かれている"○○の仮装をした人"を捜しだし、本人からハンコを貰ってビンゴを完成させる、というもの。
 仮装しない生徒達は制服に目印を付けて、どこら辺に仮装した人が居るのかヒントを客に教える役目をすることになっている。
 公平を期するため、担任が用意したくじ引きで仮装担当とヒント担当を決めていくのだが、運悪く椿は仮装担当を引いてしまった。
 途端に教室内は騒然となり、文化祭実行員やクラス委員長などは顔を青くさせている。

「あ、あの……もしよければヒント担当に変更も出来ますが?」

 むしろそうして下さい、という委員長の心の声が椿には聞こえたが、特別扱いされるのは嫌なので与えられた役割ぐらいはちゃんとこなそうと彼女は思っていた。

「いえ、仮装担当で結構です。ただ、あまり奇抜な恰好は遠慮したいのですが……」

 あまりにおかしい仮装であったら恭介や杏奈に絶対に笑われるし、ずっとネタにされるに違いない。椿としてはそれだけは避けたいと思っている。

「勿論、お好きな仮装を選んでもらって大丈夫です! でも、本当に良いんですか? 無理して参加しなくても平気ですよ? 何の担当にも当たらない人もいますから、朝比奈様は好きにしても」
「別に構いませんわ」

 どうも他の生徒は椿が行事にあまり積極的では無いと思っている節がある。
 毎回、一歩引いた状態でいるのでそう思われているのだろうが、椿としてもヒャッハー! 祭りだぜー! という状態になれる訳もないので誤解は解けないままだ。

 黙ったままの椿に委員長はこれ以上説得するのは諦めたのか、クラスメイト達に仮装の案を聞き始める。
 さて、どのような仮装になるのかと椿が考えている間に、黒板には色々な仮装案が書き出されていた。
 中には着ぐるみ、禿げヅラ、ひげメガネなどネタに走ったものも見受けられる。
 あれは絶対に嫌だな、と思った椿であったが、そもそも彼女にそのような仮装をさせるような愚か者はこのクラスに存在しない。

「……朝比奈様はどれにしますか?」

 椿の機嫌を伺うような文化祭実行委員の態度に、彼女はそこまで気を使わなくてもいいのだけど、という気持ちになった。
 一番最初に決めさせて貰えるのはありがたいが、椿はこの特別待遇に何だか悪い気がして申し訳なく思ってしまう。
 だが、さっさと決めないと残りの生徒も決まらないし、と彼女は黒板へと視線を移し、書き出された案を見る。
 あまり統一性のない一覧に椿は頭を悩ませるが、奇抜ではなくありきたりなものをその中から選んだ。

「そうですわね……。私はチャイナドレスに致します」

 椿が決めたことで残りの生徒達も何にするかを決めていき、文化祭の出し物を決める時間が終わる。
 放課後になり、椿は帰宅しようと廊下を歩いていたところ後ろから声を掛けられた。
 振り向いた彼女は、相手が鳴海であったことから嬉しそうに微笑みを浮かべる。

「あら、鳴……海、さん」

 夏休みは鳴海と出掛けることが出来ず、新学期からSNS作戦を開始するぜ! と意気込んでいた椿であったが、心の準備をする前に声を掛けられたことで出鼻を挫かれてしまった。

「朝比奈様? 大丈夫ですか?」
「大丈夫ですわ。ちょっと呼吸が上手くいかなくて詰まってしまっただけですので、気になさらないで。それよりも何かお話があったのではなくて?」
「あ、はい。文化祭の出し物なんですけど、朝比奈様のクラスは何になったのかと思いまして」
「私のクラスは人探しビンゴになりました。私は仮装担当になりましたので、文化祭当日は指定のエリアから出られないのが残念ですわ」
「面白そうな出し物ですね。ちなみに朝比奈様はどのような仮装をなさるのですか?」
「私はチャイナドレスになりました。学園が所持している衣装の中にチャイナドレスがあるらしいので、今度選びに参りますの。鳴海さんのクラスは出し物は何に?」

 またしても鳴海さん、と口にした瞬間に椿は心の中でしまったぁ、と後悔する。
 慣れとは本当に恐ろしいものだ。

「私のクラスは迷路になりました。図面を描くのと当日受付と迷った人のヘルプぐらいしかやることありませんけどね」
「作るのは業者ですものね」
「えぇ。楽なものです」

 会話が一段落したことで、椿は気合いを入れて覚悟を決め、このタイミングならば言える! と口を開いた。

「……きよ、……き、今日は良い天気ですわねぇ!」
「え? あぁ、確かに良い天気ですね。ですが、秋とはいえまだ夏のような気温ですから、あまり晴れると暑くなって困りますよね」
「そうですわね……」

 何をしているのだ、と椿は情けなくなるが気合いを入れ直して、再度鳴海に話し掛ける。

「き、きよ……っきよしこの夜といえばクリスマス・キャロルですが、鳴海さんはどの曲がお好きですか?」
「私ですか? もろびとこぞりてですね。まだクリスマスまで随分とありますが、どうかしたんですか?」
「……父から、昨日の晩にクリスマスプレゼントは何がいいか、そろそろ考えておいてと言われたのを今、思い出しましたのよ……」
「今の時期からですか!? あ、でも職人に作ってもらうのでしたら納得ですね」

 あまりに苦しすぎる己の言い訳に椿は鳴海から視線を外した。
 この場に杏奈が居れば、それは素晴らしく盛大にずっこけてくれたことだろう。
 それくらい椿は大きく空振りしたのだ。
 ただ一言「清香さん」と口にするだけなのに物凄い緊張感である。
 椿は楽勝だと思っていた夏休みの自分を殴ってやりたい気持ちになった。

「あ、帰るところでしたのに、長話をしてしまって申し訳ありません」
「いえ、大丈夫ですわ。久しぶりにき、鳴海さんとお話出来て嬉しいと思っておりますもの」
「クラスが離れてしまいましたからね」
「えぇ。来年は同じクラスになれればよろしいのですが」
「こればかりは運ですからね」
「今年一年で生徒の人間関係は分かるはずですから、来年はバランスを考えて下さると思っておりますわ」

 むしろ、誰か一人でも友人を付けてくれると非常に嬉しい、と椿は思っている。

「そこは考慮されると思いますよ。来年のクラス替えが楽しみですね」
「えぇ。本当に。ですが、まずは高等部の文化祭ですわね。色々と出し物があると伺っておりますし、そちらも楽しみですわ」
「当日が楽しみですね。それから私は、朝比奈様の仮装も楽しみにしておりますから!」
「ありがとうございます。私も見つけて頂けるのを楽しみにしておりますわ」

 あまり長話をして志信を待たせるのも悪いと思った椿は話題が終わったこともあり、鳴海に挨拶をしてその場から離れた。


 二日後、放課後に椿は文化祭のクラスの出し物で使用するチャイナドレスの衣装を選びに空き教室へと来ていた。
 空き教室にはカタログを持った教師が数名座っており、他のクラスの生徒もチラホラと見受けられる。
 同時に、ここで創立記念パーティーのレンタルドレス選びも行われていた。
 主に高等部から入学してきたと思われる生徒達がカタログと睨めっこしながら、教師とどのドレスにするかを話し合っている。

「次は朝比奈さんね」

 レンタルドレス受付の方を見ていた椿は、ハッとなり声を掛けた教師の前の椅子に座る。

「朝比奈さんのクラスは人探しビンゴなのね。朝比奈さんはチャイナドレス……っと。ここからここのページになるから気に入ったのを選んでね」
「はい」

 教師によって指定されたページをめくりながら、椿は様々なチャイナドレスの写真を前にどれにしようかと悩んでしまう。

「先生、文化祭ではOBや生徒のご家族もいらっしゃるんですよね? 例年の人数はどの程度でしょうか?」
「身動きがとりにくい程ではないけれど、人は多いわね。何か気になることでも?」
「いえ、人が多いのでしたら落ち着いた色よりも派手な方がよろしいかと思いまして」
「そうね。派手な方が見つけるのは楽だから良いかもしれないわね。でもチャイナドレスを着てる生徒はほとんど居ないから、目立つのは目立つわよ?」
「そうなんですよね」
「制服と似た色は避けるとして、緑か赤が良いんじゃ無いかしら? これとかどう?」

 指し示されたものは、半袖の赤いロングチャイナドレスであった。
 胸元に牡丹が刺繍されたシンプルなデザインのものを見て、椿は一目惚れする。

「では、これにします」
「じゃあ、この紙に必要事項を記入してね」

 いそいそと椿は紙に記入し、教師に提出した。
 教室から出ようとした椿が扉の取っ手に手をかけた瞬間に扉が開き、彼女の目の前に驚いた表情を浮かべた透子が現れる。

「あれ? 朝比奈様?」
「……夏目さんは……あぁ、創立記念パーティーのドレスを決めにいらっしゃったのね」
「そうなんです。朝比奈様は?」
「私は文化祭で使用する衣装を選びに参りましたの」
「あ、清香ちゃんから聞きました。当日までのお楽しみって言われたので、何の仮装をするかは聞いてないんですけど」

 鳴海が透子に当日までのお楽しみと言ったということは、どうやら彼女も椿のクラスの出し物に参加するつもりのようである。

「あ、引き留めて済みませんでした。それじゃ」

 椿に向かってお辞儀をした透子は、なぜかそのまま文化祭の衣装受付のところへと行ってしまう。

「な、夏目さん! そちらは文化祭の衣装受付です。創立記念パーティーのドレス受付はあちらですわ」

 椿が声を掛けると、まさに椅子に座ろうとしていた透子は慌てて立ち上がり、教えられた場所まで早足で向かって行った。
 本当に透子は大丈夫なのだろうかと心配になった椿は、少しの間だけ様子を見ることにする。

「ここからここのページまでが対象のドレスだから、好きなのを選んでね」
「……は、はい」

 透子はパラパラとページをめくっては戻したり進めたりを繰り返している。

「あの、先生。皆、どんなドレスを着てくるんですか?」
「そうね。派手すぎず地味すぎず、かといって貧相にも見えないようなドレスかしら」

 透子の頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのが椿から見ても分かった。

「い、色は? どの色が多いんですか?」
「どの色が多いとかは数えたことがないから分からないわね」
「……レースとかフリルとかは」
「人によってとしか言えないわ」

 選択肢が全く狭まらないことに、透子はどうしようかと悩んでいるのが見てとれた。

「じゃあ、こっちのオフショルダーのドレスはどう?」
「お、おふしょるだー?」
「でも、生徒の多くはストラップレスドレスだから、目立つのが嫌というならそっちにするのが無難ね」
「……紐がないやつですか……」

 ついに透子が頭を抱え込み始めてしまい大丈夫なのかと椿が考えていると、ためらいがちに彼女がこちらに視線を向けてきた。
 明らかに目が助けてくれと訴えている。
 あれではいつまで経っても決まらないと椿も感じ、透子の元へと向かって行った。

「どのようなデザインのものがあるのか拝見してもよろしいですか?」
「どうぞ」

 教師の許可を得た椿は、透子の隣に座りページをめくりドレスを見ていく。

「ここにあるのは平均的なドレスですから、特別に目立つだとかはございません。どれを選んでも大丈夫ですわ。もっと派手なドレスをお召しの方もいらっしゃいます。学校側だって恥をかかせるためのドレスなんて用意しておりませんから大丈夫ですわ」

 椿の言葉に透子は安心したのか息を吐き出した。
 載っているドレスはどれもスタンダードなデザインのものだから、透子が悪目立ちするようなことにはまずならない。
 それこそオートクチュールドレスの生徒の方が本当に目立つだろうし、目立つためにそういったドレスを着てくるのだ。

「夏目さんは確かストラップレスのドレスはお嫌でしたのよね。でしたら、オフショルダーかホルターネック、ワンショルダーの方がよろしいかと思います」
「専門用語が分かりません……」
「オフショルダーはこちらのドレス。ワンショルダーはこちらです」
「あ、なるほど」
「夏目さんはピンクよりは水色が似合いそうですわね。後はゴールドとか黄色系でしょうか。貴女は爽やかで元気なイメージがありますから、きっと似合いますわ」
「あ、ありがとうございます」

 褒められたと感じたのか、透子は頬を染めて照れている。
 照れている場合では無くドレスを選びなさい、と椿はカタログを指で叩いた。

「す、すみません」
「いえ。ですがこれで候補はかなり絞られたはずですので、大丈夫ですわね」

 椿は席を立とうとしたが、ふと透子を見ると非常に憂鬱そうな表情をしていたことから彼女が心配になり、椅子に座り直す。

「まだ何か心配事がございまして?」
「……いえ、ヒールのある靴を履かなきゃいけないって考えたら不安になっただけです。安定感がないので、絶対にぐにゃってなりそうで」

 透子はヒール=転けると思っているのか、絶望したような表情を浮かべている。

「ヒールの低いものもちゃんとカタログに載っておりますから安心して下さい。それでも心配でしたら、選んだものと同じ高さのダンスシューズを履いてご自宅で練習なさったらどうかしら? 慣れていないから転ぶのであって、慣れれば大丈夫でしょう。まだ時間はございますし」
「そ、そうですよね。慣れですよね! 頑張って練習します!」

 グッと手を握りしめ気合いを入れている透子はやる気に満ちあふれている。
 椿は練習すれば転ぶ確率が減るとは思っているが、でも透子だしなぁという気持ちも捨てきれていなかった。

「夏目さん。早くドレスと小物決めて頂戴ね」

 カタログそっちのけで話し始めてしまった透子に向けて言った教師の言葉に、彼女は慌ててドレス選びの作業に戻ってしまう。
 後は好きなドレスを選べば良いだけだと思った椿はそっと席を立ち、教室から出て行った。
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