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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 一連の騒動を野次馬達の後ろから見ていた琴枝は怒りで震えていた。

 彼女は今朝になって詳細を美緒から聞いたのである。
 昨日の放課後、美緒が椎葉に呼び出されていたことも彼女は知らなかったのだ。
 話を聞いた琴枝はすぐに美緒に椎葉への言葉を撤回すべきだと忠告したが、彼女はヘラヘラと笑っていたのである。

『大丈夫よ。椎葉は部屋で泣きながら震えているタイプだもん。実行する訳ないじゃん』

 だが、結果はこのザマだ。
 こんなことなら互いを監視しあうように仕向けるんじゃなかったと琴枝は後悔する。
 グループから逃げようとしている人間を素早く見つけるためのものだったが、自分以外は敵である状況に持っていってしまい、グループ内の誰にも相談出来ないようにしたのは失敗であった。
 自分のあずかり知らぬところで行われていたことと、ずさんな計画、これからのことを考え、このままでは怒りで我を忘れて叫び出しそうだと思い、急いで人の居ない場所へと向かう。

 人が居ないことを確認した琴枝は近くにあるゴミ箱を思いっきり蹴飛ばした。

「あの役立たずども! おもちゃはおもちゃらしく大人しくこっちの言うこと聞いてればいいのに! 余計なことしやがって!」

 盛大な音を立ててゴミ箱が転がり、中の物が廊下にこぼれ落ちる。
 はぁはぁと息を切らせた琴枝は怒りが全く収まらずに廊下にこぼれたゴミをジッと見ていた。

「あーあ。ゴミ箱がへこんでんじゃん」

 突如現れた第三者に琴枝は驚いて勢いよく顔をそちらに向けると、養護教諭の護谷が不敵な笑みを浮かべながら突っ立っていた。
 彼は確か朝比奈家の使用人一族出身だったはず。
 今の行動を見られていたらかなりやばい。いや、絶対に見られていたし聞かれていた。
 どうする?

「あ、心配しなくてもいいよ? 今のことは椿様にはバラさないから」
「……どういうことですか?」

 護谷は朝比奈側の人間だ。黙っているメリットなどないはずである。

「ぶっちゃけて言っちゃうとさ。俺は椿様の方はどうでもいいんだよねー。どっちかといえば杏奈様の方が俺は大事な訳。だって朝比奈家の血筋なのは杏奈様だけだし。あ、これは琴枝さんは知ってたっけ?」
「……朝比奈様は母親の連れ子だというのは知ってます」
「だったら分かるよね。椿様は水嶋家の人間が守るから大丈夫。俺は安心して杏奈様だけをお守りするってだけ。だから杏奈様が巻き込まれない限りは手も口も出さない。分かってくれた?」
「……それでも朝比奈様は貴女の主人ではないのですか?」
「えー! 止めてよ! 俺は朝比奈家の血を一滴たりとも引いてない椿様を主人だなんて認めてないんだから。なんで俺があんな人に忠誠を誓わなきゃいけないのさ。俺は杏奈様の為にしか動きたくないし、動かないよ」

 護谷の口振りから察するに、鳳峰学園に居るのは八雲杏奈の為であり、彼女が被害を受けた場合のみ動くということだと琴枝は判断した。

「でもさー、琴枝さんも面白いことしてるよね」
「何のことですか?」
「またまたー。安全地帯で他人の揉め事見ているのが好きなくせに。俺もそういうの好きだから分かるよ。あの自分の発した何気ない一言でどんどん悪い方向に転がっていく様を見るのが好きなんだよね。琴枝さんはまだ十五歳なのに、上手くやってて凄いなって思ってたんだ」

 最初と変わらず笑みを浮かべたままである護谷の言葉に、琴枝は彼も自分と同じ考えを持つ人間なのだと察し、急速に仲間意識が芽生え始める。
 それに彼の言葉から察するに、事前に琴枝のことを知っていたにも拘わらず、誰にも彼女のことはバレていない。
 つまり、護谷はこれまで知っていて黙っていた、ということである。
 これにより、琴枝は簡単に護谷を信用してしまう。

「……本当に朝比奈様には言わないんですね」
「言ったところでメリット無いし、こんなに早くネタバラシしたらつまんないでしょ? もうちょっと楽しませてよ。あ、ただし杏奈様が被害者になったら黙ってないよ」
「分かってます。これまで以上に気を付けますよ。それに八雲さんにも朝比奈様にも手出しは出来ませんから。そんなことをしたら破滅しかないのは分かってますし」
「でも、今回のことで立花さんの権威は地に落ちちゃったよね。せっかく琴枝さんが頑張ったのに勿体ないな。……でもさ、学校外での揉め事だったら見られる心配も無いし、椿様も藤堂さんも口も手も出せないんじゃないかなぁー? じゃ、上手いことやりなよ」

 用件はそれだけだったのか、護谷は軽い口調で挨拶するとその場から立ち去って行った。
 護谷の姿が見えなくなり、琴枝は息を吐く。
 今回の件で、あんな命令を下した美緒にも腹を立てたが、椎葉のお粗末な計画にはもっと腹が立った。
 ああいうのは時間を掛けて行動パターンを調べ上げてから行うものである。
 一日、二日で出来るものではない。これだから育ちの良い人間は見通しが甘くて困るのだ。

 今回のことで、美緒の地位が地に落ちてしまうのは確実だ。
 彼女の権力が有効なのも小学校時代からの取り巻きや親が医者の子供のみに限定されてしまう。
 今まで以上に美緒のグループから抜ける生徒は増えるだろうし、学年グループの三番手を維持することはできない。
 本当に椎葉は余計なことをしてくれたものだ。

 琴枝は幼稚園の時と同じく自由に動けなくなり、舌打ちをする。
 中等部はこのまま大人しく何もせずにいてもいいが、今のままだと高等部でも我慢しなければならない。
 それはつまらないことであるが、護谷にバレている以上は椿と杏奈に被害が行くようなことはできないから仕方が無い。
 だが、先程の護谷のアドバイスを思い出し、琴枝はニンマリと微笑む。
 上手いこと美緒を言いくるめて学校外で頑張ってもらわなければならない。
 そのための計画をたてなければ、と琴枝は蹴飛ばしたゴミ箱をそのまま放置して教室へと向かった。


 一方、護谷は放課後に朝比奈本家を訪れていた。
 目的は当主である朝比奈修との面会である。
 彼は琴枝に椿にはバラさないと言ったが、誰にもバラさないとは言ってない。

「お時間を頂きまして、ありがとうございます」
「構わないよ。それで、報告を聞こうか」
「はい、……」

 と護谷は今日あったことを話し始める。
 勿論、美緒を動かしていた琴枝のことについても。

「……その子は、脅威となりそうかい?」
「彼女が立花美緒に飽きない限りはむしろ味方かと」
「と、言うと?」
「彼女は立花美緒を使って周囲の人間を揉めさせたいと考えています。となりますと、立花美緒が失脚もしくは退場させられる唯一の存在である椿様に逆らうことはまずありません。むしろ避けていますので、杏奈様や椿様が被害を受けることは無いのではないでしょうか?」

 ふむ、と呟いた修はしばらく何かを考えていた様子であるが、ややあって口を開いた。

「晃、君はこのことを椿ちゃんに知らせても構わないと思うかい?」
「推奨は致しません」
「理由は?」
「椿様はあまり大人に頼ろうとはなさらずにご自分でなんとかなさろうとしますので、琴枝美波の件を耳に入れれば、きっと椿様は自ら動きます。そうなりますと、琴枝美波がどう動くのか、という予測が出来なくなり、対応が後手に回る可能性が出てきます。現状、琴枝美波が立花美緒のストッパーとして機能しているのであれば、彼女のことは任せておくのが一番かと」
「……そうだな。では、そのようにしよう。一応あちらにも説明はしておくか」

 修が受話器に手をかけたのを見て、護谷は一礼し部屋を出る。

 護谷は琴枝の味方になったつもりも、彼女のように人を揉めさせて楽しむ趣味もない。
 全ては主人である杏奈の安全の為である。
 正直、椿のことはどうでもいいのだ。彼女は自分の身は自分で守れる人間である。
 こちらの助けなどきっと求めていないし、こちらも助ける気は毛頭無い。
 護谷にとって大事なのは朝比奈家の血筋である杏奈の無事、それだけだ。
 杏奈は椿と行動を共にしていることが多く、彼女に協力している動きを見せていた。
 ここで椿に琴枝の正体をバラせば彼女は確実に動き始め、杏奈も協力しようと動くに違いない。
 琴枝自体は脅威にはならないが、彼女は裏から人を操る能力に長けている。
 誰が彼女によって操られているのか分からなくなる状況になるのを護谷は避けたいからこそ、彼女のことは椿の耳に入れるべきではないと判断したのだ。
 それに、琴枝に外で楽しめと言ってあげたので、彼女は言い付け通りしてくれることだろう。
 美緒が椿の目の届くところで暴れなければそれでいい。その他の人間がどうなろうとどうでもいい。

 後は主人がなんとかしてくれると護谷は本家を後にした。
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