ビューティフル・ワールド(3/7)縦書き表示RDF


ビューティフル・ワールド
作:黒木 綾



第三話 歌










それでも娘は笑っていた。
愛する人を失っても、太陽のような笑顔を絶やさなかった。

それが何より死神にとって救いだった。
でも死神は知っている。娘が毎晩一人ぼっちで窓際に座り、泣きながら歌を歌っていることを。
時折寂しいと口からこぼしながら。

その歌は優しくて悲しい。とても。死神はその歌が好きだった。

「誰?」

屋根の上に座って歌を聴いていた死神に、ふいに娘が声をかけた。

「死神さんね?」
「どうして俺がわかるんだ?見えないのに。」
「さあ、どうしてかしら。でもわかるの。」

風もない静かな夜で、寂しかったからあなたの話を聞かせてと娘が言った。

死神は少し黙って、それから自分の仕事のことを話した。
嫌な仕事。ツライ仕事。辞めたい仕事だと。

「あんたが始めてだった。俺を見て泣かなかったのは。」
「そんなに怖い姿しているの?」
「いや、・・・そうかもな。」

泣かれるのが嫌でたまらない。だから辞めたいんだと死神は弱音を吐く。

「ふふ、死神さんが死神さんを辞めたら、何になるのかしら?」
「さあ、なんでもいいさ。この仕事を辞められるなら。」

夜が更け、星たちの輝きが一層深まる頃、じゃあおやすみと死神は飛び去った。


眠る街を風のように駆け抜けながら思っていた。
何になる?何になりたい?死神を終えて何になりたい?

そして死神は考えてしまった。そして思ってしまった。いけないことを。

「・・・人間に、なりたい。」


そしたら、抱きしめてもいいような、気がした。










つづく

























ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう