chapter 9
チャーリーの朝の起き方はしだいに異様なものとなっていった。まず目覚まし時計が鳴る。するとすかさずベッドから飛び起き(彼は本当に飛ぶのだ)アラームのスイッチを切ると、そこに手を置いたまま数分間立ちすくみ、息を切らし、困惑の表情で時計を見つめるのである。遅刻をしなくなってから二ヶ月が経ったその日もそんなドタバタした朝から始まった。
チャーリーは大きなため息をつくとベッドに腰掛け、両手で深々と頭を抱えた。
普通じゃないな。今の私は絶対に普通じゃない。
こめかみの血管が激しく脈打つのを指先で感じながら、ぼんやりとそんな考えを巡らせていた。まだ目覚まし時計の音が耳に残っている。その残響は強迫観念となって襲いかかり、平生をおびやかす存在となった。たまらず頭を持ち上げ、体に染み付いた悪夢を振り払うかのように体全体を揺さぶった。外は雨が降っている。ガラスにぶつかる雨音に神経を集中し心を静めた。キッチンへ行き、コップに水を汲み一気に飲み干した。いくらか冷静さを取り戻すことができ、安堵した彼はこれまでの過去の経緯を考えてみた。
目覚し時計を買い換えたこと、体調を崩したこと、朝の気分、アラーム音、ドアのきしむ音。あらゆることが一つの方向性を帯びていた。彼の意識はその考えに猛烈に反発し、受け入れようとしなかった。
目覚し時計の音が怖いだと?そんな馬鹿な!
喉の奥に苦いものを感じた。どうしようもなく気が滅入り、思わず悲嘆の声を漏らした。またもや不安が、今度は吐き気を伴ってこみ上げてきた。
私は病気か?本当に頭がおかしくなりかけているのか。一体いつから。遅刻をし始めた頃からか、それとも初めから私は…。
自分に嫌気が差してきたチャーリーは冷淡に鼻で笑い、そうすることによって自分を罵った。
たとえばムチで何回か叩かれた動物はムチのしなる音がしただけで痛みを思い出し、音に怯える。音が恐怖を誘うものを連想させるというのであれば、音が怖いというのもうなずける。しかし私の場合はそうではない。そのアラ−ム音には何のできごとも連想させないからだ。音自体が怖いのか。まさか。音が怖い人間なんてこの世にいるものか。考えすぎだ。
彼はまったく普通の人間同様の拒否反応を表した。音が怖いという、ともすれば精神異常の兆候を示す事実に困惑し、ただやみくもにそこから逃れようとしていた。自分に対する目覚まし時計の音の影響を信じられなかった。信じたくなかった。とにかく自分はおかしくなっていない、そう思いたいだけだった。
すでにチャーリーは会社に行く気をなくしていた。風邪をひいて三十九度の熱を出したときでさえ会社を休まなかったチャーリーにとって、会社を休むという用件の電話をかけることは非常に勇気がいる作業だった。こんな気分のまま仕事をしたってはかどるはずがない。それよりも今日一日安静にして休養した方が明日からきちんと働けるというものだ。彼は勇気を振り絞って会社に電話をかけた。ウィルズとの会話はチャーリーがあっけなく思うほどすんなりと終わった。体を気遣う言葉が二、三述べられ、すぐに了承が得られた。安心したためか受話器を置くと即座に眠気が襲い、それに身を任せるべくベッドの上にひっくり返った。
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