chapter 6
遅刻をしなくなってからの数週間、チャーリーは何もかもが順調でとても充実した日々を送っていた。ウィルズは気持ち悪いくらいに優しくなったし、仕事もはかどり、会社に来るのが楽しくて仕方がなかった。そういった訳で彼は毎日わき目もふらず、バリバリと働いた。真正面に座っているモーリスに、
「気分でも悪いのか?」
といきなり聞かれたときでもまるでおかまいなしという口調で、
「どうして?」
と聞き返し、すぐに机の上の伝票に目を戻したほどだった。どこも悪くないのにそんなことを聞かれたら誰だって変に思うだろう。しかし今のチャーリーにはたいしたことではなかったのだ。
「いや、顔色が悪いんじゃないかと思ってな」
モーリスはデスクを仕切っているファイルの隙間から顔をのぞきこむようにしてそう言った。向かい側に座っている男は顔を上げることもなく、
「気のせいだろ」
と言い、仕事を続けた。気分が悪いはずないじゃないか。悩みのない生活がどんなにすばらしいことか。ほら、大量にあるこの伝票ももうすぐ仕上がるぞ。
彼は心配してくれている同僚の言葉を気にも止めず、手早く仕上げたその伝票を上司に渡そうと席を立って行ってしまった。
「ならいいんだが…」
モーリスは少し怪訝そうに首を傾げた。本当に気のせいかな?彼の顔はどう見ても真っ青だぞ。
その見解は正しかった。それはさっきの会話から五分と経たぬうちにウィルズがまったく同様の質問をチャーリーにしたことで証明された。
「二日酔いか、チャールズ。顔が真っ青じゃないか」
やっとの思いで書き終えた伝票を受け取ろうともせずウィルズは言った。チャーリーは少しむっとし、とがめるような目つきで相手を見ながら、
「本当ですか」
と聞いた。
「ああ。具合が悪いんだったら早退してもいいんだぞ」
ウィルズは心配そうにそう言った。
変だな。どこも悪くないのに。
さすがにチャーリーも気にしない訳にはいかなくなり、トイレに駆け込むと鏡で自分の顔を観察した。なるほど、確かに顔面蒼白だ。でもなんでだろう。風邪はひいてないし、昨日は酒を一滴も飲まなかった。気分が悪いだと?何言ってんだ。今日なんか最高に調子いいぞ。そう思いながらも彼は心当たりを探していた。そしてただ一つ、気がかりなことを発見した。
朝だ。あの目覚まし時計で起きるようになって、どうも朝から動悸がするようになった。心臓に悪いのかな?ほら、今だってそうだ。胸がどきどきして時々苦しくなるほどだ。しかし、だからといって会社を休むほどひどくはないし、病気とは思えない。たぶん仕事の疲れが溜まってきたんだろう。最近はりきりすぎたからな。体調の悪い日だってあるさ。
その日を境にして、チャーリーはこの症状を十分に自覚するようになった。実際、彼は体調のすぐれない日が続いた。どちらかというと精神的に不安定で、それが体に影響を及ぼしているようだった。しかし生活に支障をきたすほどではなかったのであまり気にしせず、深く考えないようにした。にしても彼には体調が悪くなる原因がさっぱりわからなかった。
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