目覚まし時計(1/15)PDFで表示縦書き表示RDF


目覚まし時計
作:ごみ



chapter 1


 いつものようにチャーリーが会社に出勤すると、なかばあきらめ顔をした大柄な男は、今日もまた相も変わらず遅刻をしてきた勇気ある社員をため息混じりに待っていた。一方チャーリーはというと、スーツケースを自分のデスクに置こうともせず、やはりいつものようにウィルズの所へと一直線に進んで行き、弱々しい微笑を浮かべつつ大柄な上司の前に立った。

 実際二人とも、もううんざりだった。

 嵐の前の静けさ、といった怪しげな静寂がオフィス内に漂い始め、チャーリーは気まずさに身をくねらせ、自分の目の前にふんぞり返っている男が話しかけてくるのを待った。ところがウィルズは何を言う気配もなく、ただ(しかし明らかに敵意を含んだ目で)チャーリーを見ていた。さらに自分が窮屈になったのを感じ、ウィルズから目をそらせようと体を動かしたとき、ふと、まわりが変にピリピリしたおかしな雰囲気になっているのに気づき、彼は思った。
 なるほど、これは効果的だ。私を説得するのにはもってこいの雰囲気作りじゃないか。そうとも、ウィルズはいつだって私を説得しようとする。しかし説得なんてのは――
「よしわかった」
 出し抜けにウィルズはそう言った。チャーリーはびっくりして相手の顔をまじまじと見つめた。一体何がわかったんだ?
「原因があるはずだ、そうだろチャールズ。三十半ばの一人前の男が理由もなしに毎日会社を遅刻してくるわけがない。私を怒らせたいためか?それとも他に理由があるのか、どっちなんだ?」
 いやみのこもった質問を真剣にとりあおうともせず、チャーリーは言った。
「すみませんチーフ。前々から言ってるように、どうも私は早起きが苦手なたちで…」
 彼の曖昧な返事が、一層ウィルズの怒りを駆り立てた。だが今日のウィルズはちょっと違う。彼は普段の展開ではまるで考えられないような、とても穏やかな口調でしゃべり出した。
「しかしねぇ、こう何度も何度も遅刻するというのはえらく非常識なことだとは思わんかね?」
「わかります。ですが――」
「いいか、今度遅刻をしてきたら本当にクビだ。君だってその年で失業したくないだろ。わかったなチャールズ」
 ウィルズはそう言うなり横にあった書類に目を通し始め、もう話は終わったんだぞという態度をあからさまに示した。チャーリーはもっと言いたいことがあったのだが、無理にウィルズの癇癪を爆発させることもないだろうと思い、静かにその場を離れた。
 そう、確かに静かだった。
 今朝の二人のやりとりは、いつもに比べてあまりにも静かで平穏すぎた。この異変はチャーリーを動揺させるのに充分な演出だった。
 奴は本気だ。もしこれから先、ほんの少しでも八時三十分を過ぎて会社に出勤しようものなら、間違いなく会社をやめさせられるだろう。そして私は明日にでもさっそく遅刻をし、クビを宣告されるのだ。

 結果は見えている。悲惨な結果が、な。













ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




TOP | NEXT


小説家になろう