8.ブラックデイ・リターンズ
「おはようございます。ご機嫌いかがですか、悟君」
「気分は最悪です」
久しぶりの登校なのに、俺の体調は最悪だった。
通学路で他の学生とすれ違うたび、チラチラと視線が投げられる。まあ、俺の隣を歩いているのが、かの真下由美先輩なのだから仕方ないだろう。駅のホームで会ってから、ずっと一緒にいるわけだがよく人の視線が集まりやすい。本当に目立つ人だ。良い意味で。
頬には湿布が張られ、胴は包帯でぐるぐる巻き、左膝はパッドが付けられている。
「まあ、何かあったのですか?」
「いえ、階段から落ちただけですよ」
嘘だとはバレるだろう。
その言葉から雰囲気を察したのか、由美はそれ以上追求しなかった。代わりに、一昨日から飼い始めたというハムスターの話を始めた。本当に、良い先輩だ。
俺が完治したのは、ありえないことに5日後だった。
ビルの8階から転落したのに5日で完治するとは、我ながら恐ろしい。
「お、おっはー、悟」
「おはよう。っていうか何世代前のあいさつだよ、それ」
朝から我がクラスのテンションは無駄に高い。正直、迷惑。
「どうしたよ、その怪我。階段からすっころびでもしたのか?」
「よく分かったな」
うん、そう思ってくれたのならありがたい。というかそう思ってくれ。
「あ、今日は宮ちゃんと一緒じゃないんだ……って、真下先輩ぃ!?」
女子の一人が絶叫する。あ、そういえば由美が一緒だった。
「皆さんおはようございます」
『『『おはようございま――――す!!』』』
教室に響く大合唱。……耳が、耳の鼓膜がっ……!
「テメェら朝っぱらからうるせぇんだよ! しばらくだまごふっ!?」
瞬間、俺が見たのは教室に殴りこんできた隣のクラスの男子。そしてその男子の顔面にめり込む拳。
……アレ? おかしいな。今、一番彼に近いところに立っていたのは女子なんだけどなぁ……。あ、視線合った。笑顔で手を振ってきてる。手に赤い液体がついているじゃないか。お昼にケチャップを使った料理でも食べたのかな? ちゃんと拭かないとダメじゃないか。あははは。
こらそこ、「現実に目を向けろ」なんて言うな! 指摘するのはこっちだけど、指摘されたほうのことも考えてあげようよ! この件で彼女に『鮮血のジャイ子』なんてあだ名がついたらどうするつもり……あ、いや、何でもないです。本当に何も言ってませんってば。何も言ってなぎゃぁああああああああああ!!
結論。俺の日常は戻ってきた。季節は6月、もうすぐ梅雨だ。
その日俺は病み上がりだったためか、何にも持ってきていなかった。本当に、何にも。教科書も、筆記用具も、集中力も、そして武器も。
学校の授業をほとんど寝てすごした放課後。この瞬間から今日の波乱は始まる。
何気ない一日は、真下先輩の一言で呆気なく瓦解した――――
「今日の放課後、空いてるかしら?」
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