18.Crime and Punishment
『皆が傷つくことが、怖い……?』
俺は黙って頷く。
『偽善だな』
たった一言で、切り捨てられた。
『嘘付け。お前は、お前が傷つくのが怖いだけだろ』
「違う!」
大声を出し、俺は立ち上がった。
「絶対に違う! 俺は、俺はっ……!」
『じゃあどうしてお前は闘う!? 以前、自分のためにしか人を殺していないと言ったのはお前だろうが! 答えろ! お前はどうして闘う!?』
そんなこと、決まってるじゃないかっ!
「どうして分からないんだよっ! 俺たちが護るべきものは、すぐ傍に在ったって!」
『認めない! 絶対に認めない! 俺は、俺のためだけに戦う!』
その時だった。
(人は、自分以外のために戦う時こそ真の力を発揮できる)
この声……!
『倉沢一樹、だな』
そうだ。彼も、俺が殺した。
「だからこそだよ。俺は狩野と久美を死なせたくなかった。だから――」
『あの力を珍しくマトモに使えたって訳か?』
首肯。
「だからって調子に乗ってアレを使い続けるわけには行かないだろ?」
そう言って俺は、自分のシャツをめくり上げた。
わき腹に広がる、青い染み。
『内出血か。酷いな』
「あの状態って、体への負担がハンパないからな」
『おい、一応俺にだってその傷はあるぞ。ホレ』
「あ、本当だ。ってどこまでめくってんだテメェ!」
『おいおい、男なら裸の付き合いだろ』
「落ち着け! 現実世界の俺は同性愛者じゃないぞ! つーかズボン脱いでんじゃねぇえええええええええええええええ!」
『ほらほら、お前も早く脱げよ……はぁはぁ』
「いやぁあああぁああぁあぁああぁあぁああああ! 変態ぃいいぃいいぃいいいぃいぃいいいい!!」
違う違う違う! こんなの俺じゃない! こんなホモ、俺の欠片もないっ! 同じなのは外見だけで、中身はまったく別人なんだ!
『まあ、冗談はこのくらいにして』
「冗談かよぉっ!」
全力でツッコム! というか悲鳴を上げる!
『兎にも角にも、とりあえずお前の言いたいことは分かった』
「本当か?」
さっきまでの言動からして、かなり怪しい。
『要するに、だ』
けれどそいつはニヤリと笑い、
『お前は、戦う意味を見失ってるんだな』
言い放った。
「……そう、だ」
否定、できない。
「あの時、力が抑えきれなくなって、俺は……人を、たくさん殺した」
返り血を浴びながら、一般人を切り捨てていくあの感覚。
「それまでは、俺は俺のために人を殺すって決めてた。けど、」
あの瞬間。アーライトとかいう男が狩野達を殺そうとした刹那、あの瞬間――俺の中で、何かが崩れ落ちた。
凍っていたものが溶ける感覚。
パズルの最後のピースがはまる感覚。
そして、錠前が鍵で外される感覚。
「あの時、俺は確かに、狩野と久美が死ぬのを『怖い』って感じた」
嫌だ。死なせたくない。死なないでくれ。頼む。置いていかないで。俺を独りにしないで。独りは、怖い。
「それで、気づいたら――」
『――――――――――――Unlock』
『なるほどねえ』
深く頷く青年。
「俺は、あいつらを死なせたくない。死なせやしない。そのためにも」
そこで言葉を切り、空気を吸って、
「――――――――――――力が欲しいっ!」
『だから、俺にどうしろと?』
「力を貸して欲しい」
頭を下げ、お願いする。
『……自分が何言ってるか、分かってんだろうな』
無論だ。
「分かってるよ」
『俺の力を与えたが最後、お前は闘いという宿命から一生逃れられなくなる。強き力は大きな代償を伴う。けっして力の返還はできない。お前は一生、羅刹として生きていくことになる』
随分と長い忠告。
俺はゆっくりと瞳を青年に向け。
「だから、何だ?」
『大した度胸だ』
「度胸がなきゃ、暗殺者なんて務まらねえよ」
『確かにな』
そこで、沈黙が降りる。
「人殺しは、罪か?」
その言葉に、彼は頷く。
『命を奪うことは、神への冒涜だ』
「神なんて居るのかよ?」
『居なきゃ、やってらんねえよ』
「神社とか寺とかもな」
『まあ、人殺しが正しくなる時もある』
「パラドックスとか?」
『やめろ、東野さんはマジでいい作家なんだから、ネタに引っ張り出すな』
「確かに東野もいいが、俺としては伊坂さんの方が好みかな。バッタの自警団とかはマジで傑作だ」
つーかどんだけパロディネタ連発してんだよ!
『お前はその罪を重ねすぎたよ。罪には罰がついて当然だ』
「ドエストフスキー?」
『ちょっお前、今マジで語ってんだから喋んな!』
「わ、悪い」
『で、お前には罰が下されるべきだよな』
「当然だな。それも終身刑レベルの」
その言葉に、青年も大きく頷いた。
「と、いうわけで!」
『ああ。そーゆーことで!』
瞬間、視界がホワイトアウト。
まさしく人の人智を越えた光が、俺を包んだ。
罪には罰がついてくる。
けれど、それらは決してセットではない。
どちらが高く、どちらが低いわけでもない。
俺からすれば、その二つは共生している。
罪があるから、罰は下される。
逆に、罰がなければ罪は意味を成さない。
俺の罪に対する罰は――
「よっ」
「あー、岡田か……」
「何だよ、そのいい加減な反応」
目を開けることもせず、俺は返事をする。
「報酬はきっちりと払ってもらうぜ」
「またスイスか」
岡田はくくっと笑う。
「20億分のエロゲ、買ってこい」
「無理がある!」
一体何本買ってこいと?
俺は欠伸をかみ殺しながら瞳を開く。
「――ッ! 悟お前!」
岡田は慌てたように、その場であたふたしたあと、俺を姿見の前に引っ張り出した。
「何だよ? ふあぁ」
「眼! 眼ェ見ろ!」
その言葉通りに、鏡へ視線を向ける。
そこには。
双眼ともに鮮血に染まった青年の姿。
「大丈夫か!? 充血とかじゃないのか!?」
独り騒ぎまくる岡田を捨て置き、俺は口元を歪めた。
俺は、俺は――
「――――――――戦う」
それは、少年の傷をさらにえぐる決意。
今回のサブタイトルは、そのまま『罪と罰』です。
いや、同名の小説久々に読んでハマったとか、そんなんじゃないですよ!
断じて違いますからねっ!
それでは、感想・評価お待ちしています!
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