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プロポーズ By.勇者

作者: 笛吹葉月

挿絵(By みてみん)

(挿絵 By.島原あゆむさま)

「だって好きになっちゃったんだから、仕方ないじゃない!」


 あたしの半ば叫びに似た告白を聞いた時、魔術師は杖を取り落としたし、賢者は目を剥いたし、商人に至っては見たことないようなぽかん顔をしていた。いわゆる皆さん“絶句”。


「いや、しかしだな……」


 でも一番戸惑っていたのはもちろん告白のお相手。

 さらさらの銀髪に深い蒼の涼しげな瞳。鼻筋の通った細い線の顔。惚れたあたしが言うのもなんだが、かなりの美青年だ。彼は今とてつもなく焦った様子で落ち着きなく腕組みをしたり解いたりしていた。

 ……目の前の玉座で。


「余はその、まぁ一応魔王なんだぞ?」

 そう、あたしは魔王様を好きになってしまったのです。


「正気かよ?! 目ぇ覚ませー!」


 商人が肩を揺さ振ってくる。

 そりゃそこまで言いたくもなるわよね。あたしも一応勇者ってやつだもの。でも――


「正気よ! むしろ本気、えぇマジよ!」


 そう言ってあたしは商人の手を引き剥がし、魔王に向き直った。

 勇者勇者って祭り上げられて、泥まみれの服に鎧をつけて剣を握って……。あたしだって普通の女の子になりたいのよ。恋したいのよーっ!


「あたしと結婚して!」


 あたしの声が空虚で薄暗い部屋にこだまする。いささか強引な気もするが気にしない。だってこんなチャンス、二度とないわ!


「大体、お姫様をさらったところで、結局最後は勇者にとられちゃうじゃないの! あっちはハッピーエンド、なのに貴方は?! そんな姫様よりあたしみたいなのとくっついたら? その方が貴方も幸せよ」

 

 よしよし。魔王も何だか迷ってるみたい。

 

「愛のない姫より愛のある勇者よ!!」


 言っちゃった言っちゃったー! 魔術師が口をぱくつかせているけど気にしない!

 どうせあたしは女だから、姫様はもらえないしね。

 

 すると魔王がガバッと立ち上がる。そしてあたしの目の前に歩いてくると膝をついた。


「……プロポーズ、謹んでお受けしましょう」


「「「えぇぇぇっ!」」」


 その場のあたし以外全員が絶叫。あたしは心の中でガッツポーズ。ありがとう神様、魔物を退治し王様の長話に耐え、無駄にコインを集め、村人にパシリまがいのことをさせられ、頑張ってここまで来た甲斐がありました。


「待ってください! お姫様は? 王様には何て報告すればいいんです?」


 賢者が手をあげてあたしの思考を中断させた。なるほど、いつも冷静な賢者らしい発言ね。


「姫などくれてやる。連れて行くがいい。魔王は退治した、勇者は殉死した。完璧な感動のラストではないか」


 でも魔王は賢者以上に冷静だった。そんなんでいいのか。


「私も人を愛してみたいのだ! こんな陰気な城で、所詮は財宝目当ての勇者一行に封印されてばかりではなく!」


 あぁすごく同情するわ魔王様。てか貴方、多分いい人よね。

 彼はあたしの手を取って流れる動作で立ち、あたしの仲間に告げた。


「さぁこれでこの話は終わりだ。姫を連れて戻りたまえ」


 ……ところが、唐突に甲高い声が割って入ってくる。


「ちょっとお待ちくださいよ、魔王様! この城を、我々を残していくおつもりですか!」


 ひょこひょこ出てきたのは、小さな鬼のような魔物だった。確かにあたしと結婚したら魔王は魔王ではいられないのよね……。あたしだってさすがに世界征服の片棒は担ぎたく、は…………えっ? い、いやだなぁ、迷ってなんてナイヨ!

 さて本人はどうするのかと見上げると、彼はその鬼を指さして冷ややかに言い放った。


「お前が今から魔王だ」


 えーと……はい?


「魔王はいいぞ。土地は広いし魔物共は意のままに動かせる。おまけにひ弱な勇者が跪き、世界を手中に収められるのだ!…………力さえあればな」


 最後の小声はどうやら鬼には聞こえていなかったらしい。もうすっかり陶酔した表情で頷いている。


「俺、やりますよ〜っ」


 あ、こいつダメだよ。既に玉座に座ってやる気満々だし。


「では、」


 魔王……じゃなくて元魔王は微笑んだ。本当に綺麗な顔してるわ。


「参りましょう、勇者殿」

 そしてあたし達は城から抜け出した。いざ、夢の新婚生活が待つ外の世界へ――!



◇◆◇◆◇



「……平和ねぇ」

「あぁ」


 あたしは向かいに座る旦那様を見つめた。


「どうした?」

「ううん、何でもない」

 幸せだなぁ、あたしは。超美形の旦那様と一緒に毎日ご飯を食べられるなんて。


「にしても、“魔王”はこのところおとなしいな」


 コーヒーを啜りながら彼が言う。

 あれから数年、この世界が魔物に支配されたことはない。もちろんお姫様誘拐事件も、ない。


「まだ新しい王様で、慣れてないんじゃないかしら」

「違いない」


 あたし達はあの小さな鬼を思い出してひとしきり笑いあった。

 ほんと、人生って何があるかわからないものよね。下っ端がいきなり玉座に就いちゃったりとか。

 勇者が魔王の嫁になっちゃったりとか!


「なんだ? 急ににやけて」

「ううん、何でもないの。ただちょっと」


 ――あぁ、あたしは今、最高に……


「幸せだなぁと思って、ね!」


初の短編……。勢いで書いた面がありますが楽しんで頂けたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 暇潰しのつもりで読んでみたけど話が綺麗に終わっててとても読みやすかったです。勿論面白かったですよ。新魔王(小鬼)は元気にしてるのかな?
[一言] こんばんは、愚智者といいます。 コメディだから出来ることだと、読んでから思いました。 簡潔過ぎてすいません。 あと、面白かったですよ。 ではでは
[一言]  感想を書くのは苦手なので、簡潔(?)に。  面白かったです。主人公の勇者が可愛いと思いました。  ですが、主人公がなぜ魔王を好きになったのかよくわからず、つい首を傾げてしまいました。私だけ…
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