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めぐり逢う恋  作者: 茶とら
第一章
20/47

嫌悪と標的と1

 目が冴えて眠気はまだまだ来る気配はしなかった。

 フェルラートからもらったブローチを手に取ったときに突如として聴こえた彼の声とその意味が気になっているからだろう。

(何故彼は怒っていたの……?)

 単に聴こえただけならある意味納得はできた。

 魔石とはすなわち魔力の塊であり、その石を作りだした人物の声が聴こえてきたと、無理やりにでも解釈すればいいだけだ。

 小説や漫画もそうだが、何よりもテレビゲームでファンタジーという世界になれた私にとっては、そうした無理やりな解釈でも大して不思議に思う事なく納得出来てしまうのだ。

 こどもが興味を持ったものに対して親に尋ね、親がそれに夢のある答えを言い聞かせるのと同じような理屈に近い。

 いや、本来は不思議に思うべきなのかもしれないし、その原理や意味をちゃんと理解すべきであるとは思うのだが、私の頭はそこまで有能では無いから、全部を全部正確に理解しながらでは、何事も亀のような遅さで物事を進めていかなければならなくなってしまう。

 流石にそれは色々と生活していく上で不自由が出てくるし、それがとっさに起きた出来事に対してだった場合は致命的な遅れを生み出す事にも繋がってしまう。

 だから、程ほどに知ったかぶりをかまし、わからない物事を仮定の何かに置き換え、今まさに必要だと思う部分を必要なだけ考えていき、残りは後で必要になったり暇を見つけた時に考え、パズルや積木の様につなぎ合わせて答えを導き出して行くようにしていく。

 今はそういう考え方の中では、必要だと思った部分、フェルラートが怒声をあげていた事、それについて考える必要があると、自分の頭では無意識に判断しているのだろう。

 まだ眠気は来なくとも目を閉じたままに思考する。

 自分に対してとても厳しい様子の彼が、そうそう簡単に怒声をあげるとはどうしても考えにくかった。

 自分が我慢をすれば事を穏便に済ませられると判断したら、可能な限り我慢をしそうな感じが、彼からはしていた。

 女性嫌いな所は全く隠そうとはしていなかったようだけど、それはあの優れた容姿の事もあるから、むしろ隠さない方が彼自身の身の為である気がするので棚上げをしておくとして、それ以外では、相当に自分を律する事に卓越しているような気がするのだ。

(わかっているのは、彼からもらったあのブローチが光っていた際に、それを手にとったら声がしたこと。魔石から聴こえる声の主はきっと彼だけだろうなあ。創り出した本人だし)

 魔石を創った本人以外から声が聴こえるようになれば、それこそこの世界の通信技術が手紙のままなわけがない。

 魔石が相手を思う事により創り出せるという点から、魔石を創った人間と、それを受け取った相手との間で声が聴こえるようになるという可能性が一番高そうだ。

 現に、クリスティーヌとファルセットには彼の声が聴こえて居なかった様子であるし。

 しかし、声が聴こえた時には魔石が光っていたという点を考えれば、常に声が届くと言う訳ではなさそうである。

(となると。何らかのトリガーがあるわけだけど、それが何なのかがわからないから、結局の所、彼の声が届いた所で意味がわからないのよね……)

 トリガーがそれこそ彼に生命の危機とかだと非常に困るのだが、助けて欲しいとか、何か願いの言葉だったりではなかったので、少なくとも今回のものはそれとは違うような気はする。

(うーん……わからんっ)

 考えが堂々巡りしてきたところで頭がつかれたのか、徐々に眠気が押し寄せてくる。

 意識が眠りにのまれる前に、そういえばと、この街に来る前に王都にいる弟に宛てた手紙の事を思い出す。

(あまり派手でお金のかかったものじゃないから、あのやたらと美人ぞろいな皆には少し地味かなあ、やっぱり……)

 危険な任務に出たりすることはきっと多いはずだからと、日本で過ごした日々の中でも、安価ではあるが、相手に贈りやすいという理由で贈られる事が多いミサンガ。

 それが少しだけ彼らの負担を減らす物になればいいのだが、と眠りにのまれはじめた意識の中で思った。。




 目が覚めたのは夜が明けきる少し前だった。

 慣れと言えば慣れと言える時間。早い話が、狩りに出かける時の起床時間である。

 魔物の大半は夜行性であり、普通の動物であっても危険な動物たちもまた夜行性が多いことから、準備を整え森に入る頃には丁度良い時間になるこの時間帯に起きるのは、もはや習慣になっているため簡単に変わるものではない。

 感覚からいって昨夜というよりも日も変わったぐらいに寝付いたのだろう。

 睡眠がやや足りていない感じがするし、頭も少しだけぼうっとする。

 なんだかんだと騒がしい旅だったのもあって、少しだけ疲れも出てきているのかもしれない。

 額に手をあてて熱が出て居ない事を確認してから、ぐっと伸びをして頭を軽くふる。

 隣のベッドではクリスティーヌがまだすやすやと寝息を立てて居た。

(こうして静かに眠っている姿は本当に美女って感じだよねー。本当に、勿体無いな)

 そんな感想を抱きながら、顔を洗う用に備えて置いた水を貯めた二つの桶の一方で顔を洗い、残りの水に手拭いを浸して絞った後、軽く体を拭った後服に着替える。

 生活習慣で言えばそう、日本人は恐ろしいほどに綺麗好きだとよく言われていたものだが、この世界でもまた、上流貴族でもないのに水を使って身綺麗にする私はおかしいらしい。

 まあ、蛇口をひねれば飲める水が出てくる日本では当然に出来る事でも、そのまま海が近いわけでも無い地域で水をふんだんに使って身綺麗にするとか、普通の人なら頭が可笑しいと本気で思うに違いない。

 だが、ここミスティレイは水の都と言われる場所である。

 水に困る事はまず無いため、よその村や町では別料金である洗顔用の水も無料というから嬉しい話である。

 利用者は少ないがお風呂も存在しているので、この街を出る前に一度はお風呂に入りたいなと考えたところで丁度着替えも済み、まだ夜が明けきらないうちに宿の裏庭へ出た。

「流石に矢番えしては出来ないけど、素引きはやっておかないとね」

 宿の裏庭と言っても街中の裏庭なので高くない塀の向こうは人が通る道がある。

 だが、夜が明けきらない時間と言うだけあって人通りはまず無く、宿の女主人が朝食の準備をしているであろう音がよく聴こえるくらいに静かな場所でとりだしたのは、昨日フェルラートの声が聴こえた魔石がはめ込まれたブローチである。

 実はこの魔石には、旅に出る時に持っていくかどうか悩んでいた長弓が収納されている。

 正確に言えば、魔石によって弓という存在が保持されているのである。

 弓という存在を魔力に変換して、その変換した魔力と魔石自身の魔力とを一時的に融合させることで保持する事が出来るのだ。

 初めは物凄く驚いたものだが、魔石の利用方法を教えてくれたファルセットが魔剣の話をしてくれたので納得したものである。

『魔剣とは魔石がはめ込まれた剣と思われているかもしれませんが、正確に言えば、剣を魔力に変換してそれを魔石の魔力と融合させた後に実体化させた場合に、魔石を中核として剣の姿が現れるんです。魔石がはめ込まれているわではなく、はめ込んだ形になってしまう、というのが正しいんです。そして魔石自体は持ち主以外は持てないものでしょう? 魔剣は持ち主を選ぶとか、守護的な力があるとか、単に持ち主を護る意味で魔石が発動しているからそう言う効果が出ているだけなんですよね』

 ちなみに魔力が融合すると言うのは、いわゆる相性のいい魔力同士が磁石のプラスとマイナスのような関係性でくっつき合う感じの事を言うらしい。

『フェルラートさんの魔石はカレンさんを護るためにつくったものだから、相性が良いのは当然ですよ!』

 にこにことしてそう言ったファルセットに、私は少し躊躇いがちに笑ったものである。

「相性が良いのは結果的に色々といい方向に動いているわけだからいいけど、本当にいいのかなあ……」

 なんとなくそう思うも、今考えた所で何がどうなるわけでもないと考え直し、魔石に意識を向け魔力を少しだけ送り込む。

 すると、青紫色の炎が現れ、それが弓の形をつくり、その炎が消え去った時には手に馴染みの弓が握られていた。

「何時見ても凄いよねー。これ」

 魔石がはめ込まれたブローチは、魔剣の話同様、弓の握りのやや上のあたりにはめ込まれているような形で存在している。

 魔石の力なのか、どこか上品に様相に変わってはいるが持った感覚は馴染みの弓そのままなのもまた不思議である。

 弦を軽く弓手の肘あたりまでひいてから話せば、心地よい弦の音を響かせ、くるりと弓が返った。

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