みかん星人襲来
なかなか上手くいかないもんだ。
テーブルに突っ伏して一人反省会。
自分では悪くない出来だと思っていたんだけど、人から見ればまだまだみたいだ。今になって振り返れば確かにその通り。自分の未熟さが悲しくなる。
はぁー。めちゃくちゃ悔しい……。
「はっはっはっはっはっ!愚か者め!」
突然、テーブルの下から低い声が聞こえてきた。
「違う!未熟者だ!」
とりあえず訂正させて貰った。
「おぉ!それは失礼、未熟者君。それにしてもキミは随分と元気がないようだね?」
「気のせいだよ」
「素直じゃないなー。私の目は誤魔化せないよ。見よ!この目の輝きを!」
ババン!という効果音と共にオレンジ色の物体が目の前に現れた。
そいつは少女漫画のようにキラキラとした目をしていた。何となくムカついたから、その物体にでこピンをした。
「うわー!何てことするんだ!酷いじゃないか!」
「そうかな?」
「そうだよ!もう怒ったぞー!こうしてやる!」
鼻を抓まれた。
仕返しに頭を取ってやった。
「あー!取っちゃダメ―!」
悲痛な声を上げるから可哀想になった。仕方ないから頭を返してあげる。
「はい、ごめんね。ところで君は誰かな?」
「――私はみかん星人」
そう言って不思議なポーズを決めた。
僕達の間に微妙な沈黙が流れた。
「それで、みかん星人さんは僕に何の用かな?」
「そんなの決まってるよ。キミに元気がないから励ましてあげに来たんだよ」
みかん星人は相変わらずキラキラした目をしている。
「どうやって励ましてくれるのかな?」
「んー。どうやったら元気になる?」
振り子のように頭を振りながら考えているみたいだ。
「それを聞いちゃうんだ?頭のみかんをくれるとか?」
みかん星人の動きが止まった。
「それは出来ないんだ。僕はあの人気キャラクターとは違うから……」
みかんで出来た頭をテーブルに着けてみかん星人が苦悶している。
「そっか……。ごめんね」
悪い事を言ってしまったようだ。
「そうだ!良い事を思い付いたよ!」
みかん星人が顔を上げた。
「良い事って?」
「キミもみかん星人になったらいいんだよ。僕は仲間が出来るし、キミはみかん星人になれる!なんて良いアイディアなんだ!どうかな?良い事づくめだろ!?」
みかん星人は非常にハイテンションだ。
「みかん星人になると元気になれるのかな?」
再びみかん星人の動きが止まった。
「え?なれないの?だってみかん星人だよ?」
とても悲しそうな声だった。
「うん。じゃあとりあえず、みかん星人になってみるよ。どうやったら僕はみかん星人になれるかな?」
「フフフフフ、それはね……」
そして厳しい指導により、僕もみかん星人になってしまった。
「先輩!これからどうしましょうか?」
僕は重い頭のバランスをとりながら尋ねる。簡単そうに見えて真っ直ぐにするのは、意外に疲れるんだ。
「そんなの決まってるだろ?仲間をもっと増やすんだ!」
先輩はそう言ってみかん箱へと飛び込んでいった。
新たなみかんを箱から取り出す。
油性ペンで顔を書いて指に突き刺せば、みかん星人の完成だ。
「食べる分だけにしようか」
「はい……」
少しシュンとした様子で妻がみかんを箱に戻す。
でもすでにテーブルの上には十個近いみかん星人が並んでいた。間抜けな光景に苦笑せざるを得ない。
「ありがと。元気でたよ」
僕はニッコリ顔のみかん星人を指にはめた。
「うん。良かった」
妻のみかん星人はなぜかウインクをしている。
バカみたいな事ばっかりしているけれど、結婚して良かったと思える。
妻には頭が下がる思いだ。
落ち込んでいた気持ちもいつの間にかスッキリした。もう一度頑張ろうと思えた。
「ねぇねぇ見て見て!」
言われるままに視線を向ければ、みかん星人が縦に積み重なっていた。
「みかん星人落としできるかな?」
「それはダメ!」
妻が驚愕の表情をした。
今日も我が家は平和だ。