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日本人なら、漢数字は基本だ。

 私だ。校正者の南条だ。


 さてこのところ暑さが厳しいが、皆、熱中症になどかかっていないだろうな?


 そうは言うが、夏は短い。夏は楽しまねば損だぞ、青少年たちよッ!

 歩きスマホで「ポケ○ンGO」などにうつつを抜かす暇など、どこにもないはずだ!


 何? 今お前がスマホでやっているそれは、「ポ○モンGO」じゃないのか、だと?


 な、何を言うか作者ッ! こ、これはだな。大事な後輩たちが歩きスマホで怪我などしないよう、私が身をもって実証実験をしている最中だッ! 決してひとりで、抜け駆けで楽しもうだなどと……。


「――おや、通知……うむ、ここでモンスターボールを……。むぅ、ポケ○ン、ゲットだぜ! って、まさかこんなところに……」


 ううむ、楽しい……。画面を見て歩くのは危険だが、通知に応じてスマホを開くようにすれば、歩き回るだけで効率的に集められそうだ……。


 ――って、ぬぅッ! わ、私としたことがッ!


 まあ、そう怒るな作者よ。どのみち今は勤務中だ。スマホで遊んでいる場合ではないな。


 だがこれにのめり込んでしまったが最後、勤務中であろうが関係なく「ポ○モン、ゲットだぜ!」をやってしまいそうだ。

 社会生活を著しく阻害するスマホアプリには、今後も注意するべきだろうな。


「あ、あの~。南条さん……? 今、誰と話してたんですか……?」


 おう、そう言えば……。

 気が弱いDTPオペレーターの深井君が、私に質問しに来ていたのだったな。


 ううむ、まずい。私と作者との内的な語らいを見られてしまったではないか。このままでは、宇宙や神と交信できる、危ない変人だと思われかねないぞ。

 何? 少なくともお前が変人であることは、誰でも知っている、だと? うるさい、ほっとけ。


「……いや、なに。気にせんでくれ。それより、縦書きの時の漢数字について、私に質問だったな?」


「あ、はい……。このデータなんですけど、みんな半角のアラビア数字で入力されていまして。これを、縦書きに合うように変換するらしいんです」


「なるほど、そもそも縦書きを想定せず、横書きで作られたデータというわけだな」


 前回でも言ったが、縦書き向けに書く原稿でもついうっかり、横書き向けに入力してしまう傾向があるようだな。横書き主流の弊害ともいえるだろう。


「そうか、ではまず基本から行くぞ。指図書にある『縦中横不可』の、縦中横というのは知っているな?」


「ああ、はい。半角数字はそのまま縦書きにすると九十度右に倒れてしまいますが、二桁か三桁までの半角数字でしたら、縦書きにした後に九十度左に起こすことで、縦書きの中で横書きにできる……そう習いました」


 ――うむ、深井君はデザインの学校を出ているだけあって、基本がしっかりしている。

 気が弱いところを直せば、さらに伸びるだろう。鍛え甲斐があるというものだ。フフフ。


「その通りだ。だがこの仕事では、縦中横が不可で漢数字に直すようになっている。そこで必要になるのが、漢数字の使い方というわけだ」


「――はい、そこは習いませんでした。教えてもらっていいですか?」


「うむ、それではまず例として、この233,000円という表記を漢数字にしてみようか」


 233,000は半角数字だから、このままでは右に倒れた状態のまま縦書きになってしまう。この数字を、漢数字で入力してみるとどうなるだろうか。


「ええっと、二三三,〇〇〇円……っと。あれ、でも縦書きにするとカンマが左に寄ってしまいますね。一応、全角に直したんですけど……」


「よし、いいところに気づいた。この場合は、このように直すんだ――」


 それではまず、単位語の表記方針を三つの中から決める。そこから始めるぞ。


 単位語というのは、十・百・千・万・億といった区切り数字のことだ。この例で言えば、十も百も全部入れる「二十三万三千円」という表記と、万以上から入れる「二三万三〇〇〇円」という表記、そして単位語そのものを表記しない方法とに分かれるな。


 十から始まる単位語すべてを表記するのは、俗に「(トンボジュウ)方式」という。そしてもうひとつ、万から初めて十・百・千を省略するのを「一〇(イチマル)」方式と呼ぶ。

 コラそこ、重要なところだから、しっかり覚えるように。


 そして三つ目の、単位語を表記しないというのは、アラビア数字で桁取りに使われる三桁ごとのカンマをそのまま使う方式だ。これは「位取(くらいど)り」と呼ぶそうだ。

 ただし、カンマは左寄りになるので、読点に変換される。ここも重要なところだ。


 この例で言うと、「二三三、〇〇〇円」と入力するのが正解だ。

 ちなみに、小数点は中黒に変換されるぞ。「十五・一度」といった感じにな。


「な、なるほど、位取りのカンマは読点に、小数点は中黒になるんですね……。でも、単位語というのが指図書にありませんけど……」


「指図書にないのであれば、単位語を表記しない『二三三、〇〇〇円』にするのが無難だろう。逆に十円とか二十円といった二桁程度の数字を、一〇円、二〇円にするのもおかしいから、二桁数字に限って十円、二十円という表記にすることもあるぞ。そこは応相談だな」


 ――普段は何気なく読んでいる漢数字だが、実は明確なルールがあるのがわかったか?


 では特別に、日頃から『私の大活躍(ry』を読んでくれている読者にだけ、その他のルールについても伝授しておくことにしよう。


 まず西暦は、単位語も読点も入れないのが原則だ。ゆえに今年は二〇一六年、となる。間違っても、二千十六年などと表記してはならんぞ。

 そして暗証番号や電話番号、商品番号などの番号を表記するときも、単位語も読点も入らない。電話番号だと〇三-四五六七-八九〇一、となるわけだな。


 さらにだ。番号だけでなく数値的な性格が強いものでも、単位語や位取りを入れない方針で行くのが一般的だ。


 例えば緯度や経度といったものは、東経百二十度四十分三十五秒ではなく「東経一二〇度四〇分三五秒」と表記した方が、スッキリするな。

 富士山の標高も、三千七百七十六メートルではなく「三、七七六メートル」と書いた方がスマートだろう?


「――南条さん? こ、今度は誰とお話ししてたん、ですか……? よ、妖精とか?」


 おっと、読者諸君への解説に熱中しすぎて、深井君のことを忘れていたな。


 だが、あんな作者でも、話し相手が妖精というところがファンタジーな感じだな。その発想は嫌いじゃないぞ。


「フッ、確かにな。あれはもしかしたら、私にしか見えない妖精なのかもしれないな……」


 あの口うるさい作者も、妖精だと思えば可愛げがある……というものだな。


「ええッ! よ、妖精とお話ができるんですか南条さん! す、すごいです! その妖精ってもしかして、小さな女の子で……羽が生えてて、耳が尖っていて、空を飛んでいて……。ああでも違うッ! ヒラヒラした服を着ていて、剣の腕が立つ上に魔法も使えて……可愛くて……」


「……ふ、深井? 一体、何の話をしてるんだ?」

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