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39  大人のパジャマパーティー (2)

 


 戻ってきた昴さんたちがパジャマに着替えてから、パジャマ・パーティーが始まった。

 武田さんは紺色の地に白い水玉模様のパジャマ、永野さんのは上が薄いグレーと白のボーダーで下はグレー一色だ。河合さんはチェック柄だし、浅倉さんは黒、昴さんはグレーのスウェット、そして私は薄い桃色のパジャマだ。

 パジャマって意外といろんなデザインがあるんだ。


 みんなで円になって飲み物や食べ物を広げる。今すぐ飲まない分は、厨房の冷蔵庫の隅っこをお借りして冷やしておいた。

 食べ物を入れるお皿と飲み物を入れるコップも、一緒に厨房のものをお借りすることにした。マスターにはあらかじめ断りを入れてあるし、もちろん後でちゃんと洗っておくつもりだ。


「おい、永野」

 不意に浅倉さんの声がした。私の隣に居た永野さんが顔を上げ、飛んできた何かを咄嗟に顔の前でキャッチする。何かと思ったら、ポテトチップスの袋だった。

「ちょっと、浅倉! 危ないじゃない。ジュース零れたらどうするのよ?」

 永野さんが怒ったように言ったけど浅倉さんは笑っている。その手にはもう半分ほどになったビールのコップがあった。

 この二人、本当にお似合いのカップルに見えるんだけどな。でも、お付き合いしているわけじゃないみたいだし……なんでだろう?

 それにしても、浅倉さんって笑うと子供みたいだ。昴さんといい勝負かも。

 私がぼぉっとそんなことを考えていたら、武田さんに「これお願い」とトランプを託された。

 飲みながらトランプ大会をするらしい。何のゲームするんだろう? 私、『七並べ』とか『ババ抜き』くらいしかルールを知らないんだけど、大丈夫かな。

「ここ、ええか?」

 昴さんが私の返答を待たずに永野さんと反対側の私の隣に座る。そして腕を伸ばすと私の手からトランプをさっと奪った。

「あ……」

 一瞬だけ手が触れて、どきっとする。昴さんは気付かなかった……よね?

 確認するように昴さんを窺ってみたけど、やっぱり気付いてないみたい。大きな手で、すごく手際よくトランプを切っている。きっと、私がやるともたもたしちゃうってわかったんだろうな。

 昴さんの手付きを感心して見てたら、河合さんに声を掛けられた。

「雪奈さん、『大富豪』ってゲーム知ってる?」

「え? いえ……。聞いたことはあるんですけど」

「そうかぁ。どうしようかな。口で教えるよりも実際にやりながらの方がわかりやすいよね」

「あー。ほんなら、雪奈が慣れるまでオレとペアでやりましょか?」

 困り顔に見えない表情で困ったと言う河合さんに、切り終わったカードを整えながら昴さんが言った。

「それはいい考えだ。それなら雪奈さんも楽しめるしね。雪奈さん、それでいい?」

「えっ? あ、はい……」

 条件反射みたいに答えちゃったけど……。昴さんとペアかぁ。嬉しいような、恥ずかしいような。変に意識しなきゃ大丈夫、だよね、きっと。

 昴さんが切り終えたカードをみんなに配っていく。永野さんと武田さんはカードが手元に飛んでくる度に手に取って眺めているし、浅倉さんと河合さんはビールを片手に何か話していた。

 全部配り終えると、昴さんが私を手招きする。

「雪奈がカード持ってんか」

 昴さんはそう言って私にカードを持たせると私の後ろに座り、肩越しにカードを覗き込んでくる。そして私を包むように腕を回してカードの見方とかルールとかを教えてくれた……んだけど、そんな状態で私の頭が正常に働くはずもなく。

「――って感じやねん。わかった?」

 ごめんなさい昴さん。全然わかりませんでした。

 と言うか、全っ然集中して聞けませんでした……。

 だって、身体が、顔が、近いんですってば! 後ろからぎゅってされてるような、されてないような? されてませんけどっ!

 こんな状態で、私、ゲームできるかしら? 心配、かも。


 ――と言う予感の通り、結局私はほとんどゲームに勝てませんでした。

 だって、みんな上手すぎるんだもん! 特に河合さん。あの癒し系の優しい笑顔自体がまんまポーカーフェイスになってるってことに気付いたときは衝撃を受けました。

 浅倉さんは表情に出る方だけど手の内を隠すのが上手だし、昴さんは相変わらず掴みどころがないし、武田さんは永野さんとキャッキャしながらも意外と勝負師だし、永野さんは堅実に勝てる勝負しかしないし。

 ゲームに慣れてないって言ったら負け惜しみになるけど、一番最後に上がった回数は私がダントツ。だけど、すごく楽しかった。『大富豪』を十ゲームくらいプレイして、『セブン・ブリッジ』や『ブラック・ジャック』をやって……数時間は遊んだかなぁ。

 さすがにずっとやってると疲れてきちゃうから、今はおしゃべりと飲みに専念中です。

 意外にも一番酒豪に見える永野さんがジュースを飲んでる。体質的にアルコールが合わないんだって。人は見かけによらないのね。

 私はまだアルコール飲めないから、昴さんが買ってきてくれた桃のジュースを飲みながらみんなのお話を聞いてる。ボードやお仕事、それにゲームをしてちょっと疲れてるせいか、少し眠くなってきた、かも……。


「雪奈ちゃんは?」

 突然話を振られて、私は瞬きした。

 え? えっと、何の話でしたっけ……?

「あ、聞いてなかったな?」うろたえる私を見て永野さんが笑う。「ここで住み込みで働くの、誰も反対しなかったの?」

「え? あ、はい……」

 私は反対したんですけど、強引に応募させられました――とは言えないよね、やっぱり。それに、今はここで働くことになって本当に良かったと思ってるんだもの。

「へぇ。でも、彼氏とかは? クリスマスやお正月、一緒に過ごしたいって言ってこなかったの?」

「あ、私、彼氏とかいなくて……」

 私が答えると、永野さんと武田さんが驚いたように目を見開いた。

「可愛いのに、もったいない」

「そういえば、浅倉君って彼女いないんじゃなかった?」

 武田さんの言葉に、浅倉さんが困惑の表情を浮かべる。

「オレ? まぁいないけど……」

「じゃあ、立候補したら?」

「あ、それいいかもね」

 えっ? えぇぇぇええええっ?

 ちちちちょっと! 武田さんっ、何言ってるんですかっ! 永野さんもそんな簡単に同意しないでくださいよっ! 河合さんも笑ってないで、何かフォローするとか!

 私が慌てて止めようとしたとき、凛とした声が私の隣から聞こえた。

「あかん!」

 思わずその声の主を見る。昴さんだ。少し酔っ払ってるのかな、ちょっと顔が赤い気がする。大丈夫かな。

 だけど私の心配は、次に続いた昴さんの言葉のせいで完全に掻き消えた。

「オレが立候補するんやから」

 ――はい? 昴さん、今、何て?

「だから、浅倉さんは永野さんにしとき!」

「え? なんで私?」

 今度は永野さんが狼狽の声を上げる。狼狽って言うよりも、その発言の意図がまったく理解できませんって表情だけど。

「お二人、お似合いなんやもん」

 昴さんの発言に声を上げて笑う河合さんを浅倉さんが睨む。永野さんは「どういうこと?」って武田さんに聞いてるみたいだし。昴さんもそんな二人を見てしてやったりって顔で笑ってる。

 そうだよね、別に、さっきの発言に深い意味はないよね。

 なんだかホッとするのと同時に、一気に眠気に襲われる。

 なんでこんなに眠いんだろう? えっと……あぁ、そうか。そういえば昨夜、あんまり眠れなかったんだっけ。どうりで眠いはずだ。うん。でも、もうちょっと、起きてなきゃ。寝るのは、布団に、入ってから……


 笑い声が充満する賑やかなラウンジで、私はついに瞼を閉じた――


 

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