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1 妖ヵ奇談 護
今日の月は、まるであの人の瞳の様だった。



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音を立てて襖が開く。

「・・・・雪女さん」

声と共に滑り込んできたのは少女だ。

スカーフの無いセーラー服姿の彼女は、月明かりだけの部屋、チョコレート色に光る髪を揺らして雪女の横顔を見た。ゆるく波打つ背までの髪は、彼女をこの平成に生きていた者であったことを象徴している。

雪女は緩く笑って無言で横に座ることを促した。

幽霊と呼ばれる彼女は、視線をさまよわせながら腰を下ろす。

「あの、雪女さん、わたし・・・・」

「朝子ちゃん」

幽霊―――『朝子』だった彼女の言葉をさえぎって、雪女は困った様に笑う。首を傾げた拍子に、肩を赤毛が滑り落ちた。

「君の名前は、朝子ちゃんだろう?」

「――――っ、照朱郎しょうしゅろうさん・・・・」

朝子は知っていた。

彼が、自分の名前を嫌っていることを知っていた。

彼女は乞うように畳に額を擦り付ける。

「すみません照朱郎さん・・・・・すみません、わたし」

悲しい。
寂しい。
怖い。


この人はとても綺麗。

この人はなんて優しい。



「今日来た、あの人達・・・・・きっと、わたしを―――――」

異端のわたしを、慈しんでくれる。

「私はここに集う人を追い出したりはしない。ここは私の屋敷だからね」

「でもわたしは、ここに居るべき者では無かった・・・・――――――
最初から、きっと最初から・・・・・きっと、わたしはここに居るべきでは無かった。わたしのこの場所にはきっと他の人がいたんです。わたしは・・・・」

揺れる声が畳に染みを作る。


彼はきっと知っていました。

彼はきっとわかっていました。


彼はきっと―――――










挿絵(By みてみん)











今日の月はまるであの人の瞳のようでした。

あの小さな子供はちっぽけなもので、あの人に会ったころの自分を思い出します。

人と妖の境に生まれた私は、過去どうしようもない半端ものでした。

恐らく、あの頃の自分は紛れもなく、当時の世界からしてみれば『異端』だったのでしょう。

そんな私は、なぜだか。あの人という存在を、大きく見てしまうのです。


「・・・・・忘れたころに、なんて、どこまでも皮肉な方だな、あの人は」

朝子ちゃんが居なくなった部屋、一人唇を釣り上げる。

彼女がこの世界にとって『違う』ことはわかってはいた。それなのに。





「失礼します」

襖が開く。

次に入ってきたのは、彼女でも、この学園のものでもなかった。灰蒼の眼、灰色の髪、異邦の色の者は、微笑を浮かべて場違いな修道女の恰好をしている。

先ほど彼女がいた場所に腰をおろし、使いは口を開く。

「大きな独り言ですね」

「放っておいてくれるかいお客人」

声は厳しい。

「どういうつもりだ、あの方らを呼び込んだのは君らだろう?とんだ嫌がらせだね」


朝子ちゃんをどうするつもりだ。

暗に、そう言って照朱郎は眉をきりりと釣り上げた。「あの子はもう学園の教師ものだ」

「確かに、彼女の性根が曲がっているのはわかっていますけどね?僕らは使いっぱしりに使われただけの、むしろ被害者ですよ」

使いはとびきり大きな溜息を吐いた。

「ああ、申し遅れました。エルディア、気軽にエルとお呼び下さい委員長様」


「戯言を」

照朱郎は吐き捨てる。

「あの人はどうせ、僕らを仲間だとも思ってないですよ。僕らをただの駒だと思っている。ありそうな話でしょう?」
肩をすくめるエルに、照朱郎は一片も不穏な顔を崩さない。それを見て、エルは大仰に腕を広げると芝居がかった仕草で右手を頬に当てた。

「ですがねぇ・・・・貴方には大変に残念なことに、今回は彼女のことではないのですよ。関係が無い、わけではありませんが」

「なんだ、と?」

照朱郎の顔が固まった。



「今回は別件です。とっても大きな――――そう、貴方にも関係する、ね」



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