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1 妖ヵ奇談 参
銀糸が夕日に照らされながら揺れる。ビスはその薄い色の唇を開いた。

「今回の任務、自分の指示に従っていただきます」


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(―――――人とはなんと恐ろしいものだろう)


この古びた屋敷の外観に反し、この学園が出来たのはつい最近のことらしい。
『最近』といっても、この学園に集うのは人ならざる者である。さかのぼるは、人が繁栄しだす百年ほど前。

もともと人と妖は布の縦糸と横糸のように、支え絡み合い世界を構成するものであった。
それが変わったのは、人が変化と自立と繁栄をかかげて闇から離れて行った頃である。

人は変化を求めるものだ。闇に残された妖達は、そう言って自らも自立を掲げた。


しかし。

変化がより謙虚に起こったのは妖達の方だった。
支えを無くした彼らは一気に弱体化していく。

気づけば自らの足で立っているものはごく僅か。
増え続ける人の塊を避けるように、端へ追いやられた妖達は、闇を舐めるようにしか入ってこないごく僅かな人間達を糧に存在するようになった。

学園が設立されたのはそんなときである。


弱体した妖再教育施設。

集うのは感情の無い死神、鳴けない夜雀、踊らないしょうけら、雨を呼べない雨降小僧など。
座敷わらしなどは、とうに人のいない廃墟から屋敷に執着するあまり取り憑き雪女に連れてこられた、精神面での改善が求められる生徒だ。

そんな彼の人も、余波を食らって今や生徒の一人として在籍している。


嗚呼、何故あんなにも美しい人がこのような仕打ちを受けなければいけないのか。

あの人は生まれを違っただけの、ただ綺麗なだけの人だった。

何度も繰り返し、何故あんなにも優しくなれるのかと、私は思う。

同時に、私はあの人のためなら何だってできる、と思う。

もっと早く出会いたかった。もっと早く産まれたかった。
そうしたら・・・・・きっと。


――――――ああ、人とはなんと恐ろしい。


かつては私も、その『ヒト』だったのだ。


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いくら眼を細めても闇は濃く、辺りを漂っていた。


濃緑の制服は、この緑の多い土地では良く闇に紛れる。

しかし相手はその闇を住みかとする者達である。当然、夜闇など自分たちで言う昼間と同じだ。

エリカは漆喰の壁の脇に沿うようにして進む足をとめた。



エリカ=クロックフォードは魔女である。



魔女と言って最初に連想するのは、森の奥の鍋をかき回す老婆だろうか。それとも杖を持った少女か。
ジャンヌ=ダルクなどのヨーロッパの魔女狩りの罪のない被害者達かもしれない。

彼女はそのどれでもなく、『一つの種族として魔法の使える者』としての魔女が一番適切だと僕は思う。

魔女と一言にいっても、彼女は人というくくりは出ないと言っていたし、突然変異が増殖した特殊な人種の様なものだと考えてもらえばいい。

どちらにせよ、彼女は人としてはかなりその闇に近いところにある血筋なのだ。

彼女は慣れたように闇に眼を凝らす。指に力が入り、手袋に付いた滑り止めが僅かに鳴った。


「・・・・隊長は何を考えているのかしら」

彼女はこういった場面ではまったくと言っていいほど口を開いたりしないので、少し驚く。

「晴光は即戦力だもの。戦闘能力は私より第四部隊の晴光の方がずっと上だわ」
「・・・・まぁね。第四は前線部隊だから」

大丈夫なのだと判断し、立ちあがった。とたんに感じる重力に慌てて脚に力をこめる。

落としかけた本を抱えなおし、僕は改めて彼女を見た。


晴光とエリカは、物語管理局内の夢人研修生として出会った。晴光が局に来て一年、研修を終えて一年。二年の付き合いだ。

そのころには彼女はもう僕と組んでいて傍にいたから知っているのだが、彼女と晴光は研修四年目とまるっきりの新人ながら、同い年ということでくっつけられたコンビだった。

今でもああだが、それも最初に比べたらマシだと思う。

なにせ彼女、まるっきり猫を被っていたのだ。何かと世話をやいてやりながらも最初はそれはもう酷い嫌われ具合で、よくもまぁあの少年はめげなかったものだと思う。

表だって何かしたりは絶対にしなかったが、あれで勘のいい彼はエリカの不穏な空気を肌で感じていただろうから。


「でも晴光は諜報活動には向かないわよね。あいつ存在からして無駄が多くて五月蠅いのよ。詰めが甘いんだわ」

エリカが言ったのに、苦笑した。

しかし僕は知っている。彼女は本気で拒絶する時は、その存在すら否定するほど無視するのだ。
彼への彼女の扱いは、(こう言うと嫌な顔をされるのだけれど)ひとえに彼への愛によるものだ。


僕はニル。エリカ=クロックフォードとパートナーを組んでいる、『本』である。






















おまけ
挿絵(By みてみん)
ニル
エリカのパートナーの本。ミスターノーマル。
基本的に温和で世話焼き。今はやりの草食系。節約マスター。
エリカ・晴光の同い年組より二つ年上。しかし童顔なので、実年齢を言うと驚かれる。






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