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1 妖ヵ奇談 弐
「よろしくお願いします」

ビス=ケイリスクは畳に手をついて頭を下げた。晴光とエリカを両脇に挟んで座る彼の白い髪がふわりと揺れる。

長い前髪に隠されていない蒼の左目が雪女を見据えた。その体躯は小さい。

この地の人間ならば、中学校に上がるか上がらないかほど。しかし外見に見合わない落ち着きと確固たる意志をひしと感じた。


赤毛のその人は、伏し目がちに切れ長の目を細めてほほ笑み、彼に歓迎の意をもう一度示した。



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物語管理局とは、その名の通り、『物語』を管理する組織である。

『その人のすべてを物語とする』。人の想像力という力を以って、生まれた数多の世界の『筋書き』を守ることを主な目的としている。 


道端の小石一つ、それが有るのと無いのと、それにつまずく人間が居るのと居ないのとで、物語が変わることさえあるのだ。

そのイレギュラー要素を除くのが、物語管理局、しいては夢人といわれる実行員の役目である。



「ニル」


物語管理局 夢人科 調整部 第五部隊所属、エリカ=クロックフォードは、制服の裾をひるがえし歩きながら片手の赤皮の本に語りかける。

『なあに?』

返事は間を置かず返ってきた。耳に通る少年の声である。彼はすぐにアスファルトに軽い足音を立て、その場に現れた。

黄色の民族衣装をまとった少年、ニルは、エリカから本を受け取り同じく歩き出す。身長は少しばかりニルが大きい。
「どうしたの?エリカ」

「別に」
「さっきの話?」
「・・・・・」

眉を寄せたエリカの顔を見て、ニルは口を開く。


「僕ら『本』の一族の禁忌って知ってるよね」
「ええ」

「『異端と交わるな』つまり、我が一族の血を守れ。外に出すな。だから、名字というものを持たない本で、家名を持つ者は『禁忌の家名持ち』と呼ばれる。
僕らが持つ能力は、『全ての力の増幅』。その血肉は不老不死の糧。僕らという人間はおごりでもなく、天地を統べる第一歩になる」



人という特殊な種族が繁栄しだす頃から、この世界で他世界の存在を知りながら、血を守り力を守ってきた本の一族は、しかし、他世界の繁栄と技術の進歩と共にこの世界へ侵攻してきた一族以外の人間との共存を強いられる。

本とはつまり、人の想像力という無限の力を宿すもの。だから彼らは、すべての人間の、人間だけの力となる。

大きな力は世界を滅ぼすのだ。共存を選んだ一族はしかし、自分たちの能力を提供する代わり、一つの掟を一族と力を扱うことになるだろう人間達に出した。


『人と交わることなかれ』
『みだらに力をその身に取り込むことなかれ』

『それつまり、人という種の滅びの種』


「本は、物語管理局の人員提供を約束する。

夢人はもともとはただの人間だ。

世界は人間の想像力が許すまま、世界によっては何が起こってもおかしくない。だから力の手段として、実行員の夢人に本の一族を各一人、パートナーとして同行させるようになった。
本の一族にはそれぞれ自分だけの『色』があるんだ。僕は、ほら、この黄色の眼」


ニルの瞳は言うとおり黄色で、肩に触れるほどの髪と同じこげ茶の、丸い、人間にしては大きい瞳孔が浮かんでいる。

「赤・青・黄・緑・紫・そして黒。誰一人として同じ色は持たない。でも一色だけ、一族の誰も持たない色がある。


一族でも、その他の人間でもない彼らの色は、禁を犯した目印としてその身に刻まれ、変わることは無い」


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絵のように整えられた中庭らしい場所から、板張りの廊下に夕日が差した。

先導するのはおかっぱに、着物姿の童女である。彼女は雪女いわく、『座敷わらし』らしい。
この屋敷に一番詳しいのは彼女なのだと雪女は言った。


低い位置にある黒い頭を見ながら、三人は進む。目線の近いビスは一番後ろをただ口を閉ざして歩いていた。

「・・・・・此処は、危ない人も多いから、あまり部屋から出ない方がいい」

脚を進めつつ、警告のように座敷わらしが声を発する。

「どのへんが危ねぇの?」

不躾に聞く晴光に、控え目な座敷わらしは言った。

「・・・・えっと、ここは学校だから、あまり出来ない・・・・力の未熟な人も多いんだ。みんな人間慣れしていないから、はしゃいでうっかり、雪女のお客さんを潰したり、かじったり、殺しちゃったり・・・・人の魂を集めるのが趣味の人もいるし」

「こわっ!マジかよ」

「あ、でも、外よりはましだから」

雪女の客を不快にさせてはいけないと思ったらしい座敷わらしは慌てて言葉を選ぶが、ズンと重い沈黙が落ちる。
これから彼らは、その『外』へ調査に出るのだ。

「・・・・・なァエリカ、俺、待機っていうの、駄目?」
「分かり切ったことを聞かないで馬鹿」



「いえ、そうしてもらいましょう」

一番後ろ。固い口を開いたビス=ケイリスクに、一挙に視線が集まった。「・・・・え?」



「よっしゃー!!」晴光は一人、夕日に叫ぶ。
「ちょっと、隊長。いいんですか?」

静かに、ビスはうなずいた。

夕日が、彼の真白い髪を紅く染めていた。



挿絵(By みてみん)


















おまけ
挿絵(By みてみん)
エリカ=A=クロックフォード
主人公という名のヒロイン。美人だけど性格がアレな感じ。最凶。
サッパリしているのでメンバー内で一番漢らしい。
瞳の色は紺。髪は黒。ありえないほど父似らしいが、中身と髪質は母似。英日ハーフ。
趣味は魔法薬調合。
曽祖父、母、自分の三人家族。実家は英国のとある商店街のしがない小さな魔具専門店。


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