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1 妖ヵ奇談
障子が風にカタカタと揺れる。

外は曇天。薄暗い部屋、じりじりと少しずつ蝋燭がくうを焼く

闇にも映える目にも鮮やかな赤毛のその人は、ひざ下に垂れる裾をさばき百合の散る袂を畳に白い羽のように伸ばして三つ指をついた。

「よくぞこの辺境にいらっしゃいました御六名。わたくしこの学園長代理いの組学級長、雪女ユキオンナにございます。我ら学園関係者・教員・生徒一同、精一杯の助力をお約束いたしましょう」


その男とも女ともつかない声が座敷に響く。

雪女はそっと、下げていた頭をあげた。

切れ長の濡れた黒の大きな瞳を細め、それこそ人外の天女の如く。ゆるりとほほ笑んだ。











挿絵(By みてみん)











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ざらりとした木肌が右の手の皮に刺さった。地からはみ出す、根と根の間に小さく身をかがめ、赤茶の眼で緑の先を見る。

左手には一冊、手のひらを少しはみ出すほどの小さな赤い表紙の本。

風に揺れる細い葉の一枚一枚の動きにすら眼を凝らし、行くべき瞬間を見逃さないよう、硬い土を踏みしめる足に力を込めた。


細く息を吐く。

(――――――今!)地を蹴る。
その時だった。


「 晴光!! 」

よけるはずだった小石を踏む。

バランスを崩し、ぐらり、と、体が傾いだ。「ぉおおっ!?」

落葉のまだ少ない季節、雨に固められた地面。勢いよく尻をついた晴光は、強かに打ちつけた腰をさすりながら顔をしかめた。


「―――ってぇ・・・・・誰だよ・・・・・急に声掛けやがるやつは・・・・」

『せ、晴光君、大丈夫?』

その声に土の付いた右手を軽く振ってこたえる。

「・・・・あ~」
視線の先で軽やかに、真っ赤なその鳥は飛び去って行った。



「なんですかもう・・・・折角、俺が勝ちそうだったのに」

「馬鹿言ってんじゃねーぞ!おっちょこちょい」

口を尖らせた晴光に、周りの青年たちが囃したてた。むっとして睨むと、ゲラゲラ笑われる。

戦闘担当の前線部隊、第四部隊の青年たちは例外無く晴光よりも年上で、中でも年の近い者達だった。

その第四部隊の隊長である彼女は大袈裟に溜息をつき、晴光とは比べ物にならない眼力の睨みを利かせる。短く刈った飴色の髪に男並みに筋骨隆々とした姿の上司に、ぴたりと彼らは押し黙った。


「鍛錬なら修練場で管理の届くところでしなさい。またあちこち壊されたら我が隊の遠征の食事がもっと貧しくなるよ」

ぼそぼそと母親に叱られた子供の様な謝罪が響いた。

「・・・・で、隊長なんすか?」

「・・・・・・日ごろから敬語はちゃんと使いなさいと言っているでしょう」

「隊長何かあったんですか」

叱る以前の呆れたような声色に晴光はぴっと背を伸ばし、真面目に言い換える。「まぁいいでしょう」片手でぐりぐりと彼女は晴光の頭を撫でまわした。


ぼそぼそと声を潜めて青年たちがこぼす。

「・・・隊長って晴光に甘いよな」

「ちげぇよ、アレはほら、飼い主と飼い犬」

「馬鹿な子ほど可愛いってやつだよ」

「贔屓だよなァ、俺たちも頑張ってるのに。馬鹿なりに」

「あいつほどじゃねぇけど、頭の緩さじゃ負けねェのになぁ・・・・」


「黙れ餓鬼共」


静かに響いた声に、一瞬で屈強な男たちが肩をすぼめて小さくなった。条件反射で晴光も釣られて肩を跳ね上げる。

くるりと彼女は晴光に向き直り、苦笑して言った。



「遅いかったわね」

左手に晴光より一回り大きい赤い表紙の本を持ってほほ笑むエリカに、晴光は今しがた全力疾走してきたのにも関わらず、息も乱さないままただ罰が悪そうに頭を掻いた。

『ほほ笑む』といっても彼女のそれは、その口の端を曲げたそれはどことなくどす黒い。

此処は物語管理局本部入り口前のホールである。馴染みの受付のお姉さんに手を振ると、無愛想に手を振り返してきた。ちなみに彼女、『受付のお姉さん』というよりも『お局様』が似合う黒ぶち眼鏡のクールビューティーである。

「・・・・・今回ってエリカも参加すんの?」

「ええまぁ。私達だけじゃないみたいだけど」



そう言って彼女はすっと半歩後ろに下がった。「ほら」

「え?」

エリカはホールの吹き抜けの上を指差した。晴光が視線をたどるが、二階の廊下の壁と会議室のドアが見えるばかりだ。「何?」

「馬鹿ね。あそこの廊下のズラーッと長い掲示板に『第四部隊所属 周 晴光 第五部隊所属 エリカ=A=クロックフォード  三月五日遠征』って書いてあるじゃない」

「見えねェよ!あんな掲示板の文字なんか!!」

「あら、日常的に力を使えてない証拠ね。精進なさい」



(「お前単体での任務だ」)

先ほどの女隊長の言った台詞がよみがえる。

「なぁ、隊組むんなら隊長って誰だよ」

「えー・・・・・『隊長 第五部隊所属ビス=ケイリスク』・・・・私と同じ第五部隊所属?知らないわね」

「『本』のほうは?」

「『スティール=ケイリスク』」

「あれ、同じ名字?」

「・・・・・・・」

「・・・・エリカ?」
押し黙った彼女に晴光が声をかける。「どうした。何かあんのか?」

「あるっていうか――――――・・・」

エリカはちらりと自分より高いところにある晴光の顔を見やって溜息を吐いた。

(なんか、今すっげー馬鹿にされてる気がすんなぁ・・・)たぶん、「もう少し勉強しなさいよ馬鹿ね」といったところだ。


エリカは少し小さく、しかしよく通る声で晴光に言った。

「・・・・禁忌の『名字持ち』よ」

首をかしげる晴光に、「一般常識よ」とエリカは溜息と共に吐いた。















おまけ
挿絵(By みてみん)
しゅう 晴光せいこう
主人公その1。やることなすこと空回る馬鹿。しかもそれ本人気付いてない。笑われ時に殴られ蹴られ、二言目には『馬鹿』と言われるという愛情に日々晒されている。そしてそんな自分は幸せだと思っている。馬鹿な子ほどかわいい。
顔は中の上くらいである。見苦しくない程度見ようによっては爽やか。口をちょっと開くとうざやか。テンション高いとうざい。

恵まれた体格を持ち、同世代よりも頭一つ飛びぬけている(色々な意味で)。頭は染めているため赤いが、根は素直ないい子と他称され自称もする。
ライフワーク兼特技はバスケ。趣味はTシャツ集め。最近パーカーも気になる。


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