こんなはずじゃなかった。
小さく、喉の奥でその言葉が引っかかった。
(こんなはずじゃなかった)
違う。違う。違う。こうじゃない。
こんなふうになりたかったわけじゃない。
視線を落とせば赤いというよりも、どす黒いもの。
顔を振ればそれが絡みつく自分の髪が頬にベタリと張り付いた。
視線を少し上げれば、
「こんな、はずじゃ・・・・・っ」
じわじわと灰色の地面が黒く染まっていく。
体の奥から染み出てくる冷たさが。
(こわい、こわい、こわいこわいこわいこわい・・・・)
もう、居ない。
「・・・・・・っこわい・・・・」
どうして、どうして、(僕は、どこにいけばいいんだ・・・・っ)
君がいなければ、僕は、どうしたら。
なんで、
眼の前に影が落ちた。
光に照らされ、伸びた影は僕の元まで届く。あの人の傍らに立ちつくすあれは、僕を凝視していた。
僕も彼を見る。
あれの髪が風に揺れる。
あの人の黒髪は地面に張り付いたままだった。
僕の髪は、少し揺れた。
歯がカチカチ音を立てる。
蛇口を少しだけひねった様に、チョロチョロと頬を涙が伝った。
僕は、身勝手だったのだろうか。
僕の何かの行為が、あの人をこうさせたのではないだろうか。
僕の、せいで。
僕は、
「僕のせい?」
そうか。
僕は、ただ、ほしかった。あれだけがほしかった。あの人はただひとつそれをくれたのだ。
あの人だけだった。僕には他に居なかった。あの人が、あの人が居た時は、全部がそれで良かったのに。
全部、全部が、今は全部が嫌だ。
――――――もし、やり直せるの、なら。
それなら。
「・・・・・・そうだ」
やり直す?
「やり直す、か・・・・・」
次がある。
「・・・・それでいいか・・・・・」
やり直せる。きっと。
次は、貴方を死なせません。
だから――――――――
そっと、僕は薄い頁を撫でる。
ここは一ページ目。この物語の最初のページ。
物語はここから語られる。
これはきっと、ハッピーエンドの物語。
ここは物語から外れた色溢れる混沌の世界。
そして僕らは傍観者。
そして君は
異端者。
愚かな神様は自分の無力にむせび泣く。
その周りに満たされるのは、羨望、欲望、希望、夢と現実、そして孤独。
一時の夢を見せるのもいい。
しかし神様はその先の現実を思って泣く。
未来その先、その現実から目をそむけたくて人はまた夢を見る。
羨望に夢を見て、欲望を夢の糧とし、夢に希望をたくし・・・・――――ああなんて愚かだと神様は泣く。涙の流せないその目に水を垂らして神様は泣く。
傍観するのみの神様は、それこそが彼の仕事であったけれど、だからこそ世界から弾かれる神様はいつ何時もひとりぼっち。
この世界の土台を作ったのは確かに彼だった。この世界は彼のものだ。
しかしその世界に緑を、赤を、青を、黒を白を色づけたのは、紛れもなく愚かな人々の夢だった。
―――なぜ自分が孤独に耐えなければならないのか・・・・!
そんな彼はただ、幸せになりたかった、それだけだった。