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1 妖ヵ奇談 奴
「僕らも今日仕事で来たんだ。雪女さんへの使いで」
笑顔を絶やさず、エルは言った。

「あら、あの人の?さっき会ったわ」

「うちのリーダー、人使い荒いったら。あちいけーこっちいってこいー、って」

「旅する仕事なの?」

「あは。そんな感じ。ねっリュー」
急に話を振られた影の様な人物は、慣れているのか静かに首肯した。

「いつかはどこかで静かにダラダラ過ごしたいな、って思ってるんだけど。何分、僕ら働き者だから」
エリカは大袈裟に驚いて上目づかいにエルを見た。「その年でそんなこと考えるの?それともまさかとは思うけど、見た目通りの年齢じゃないのかしら」

夢と仕事に小さく胸を張る彼女は、一見エリカとそう外見年齢の差は無い。
「やだなぁ、僕まだ17だよ。リューは16。エリカちゃんも同じくらいでしょう?」

(・・・・よくやるなぁ、エリカ)
ニルはエリカの右手に収まったまま、素直に関心した。

真っ黒い猫の様な外見だからか、猫かぶりは彼女の十八番おはこだ。
引きだす色は真面目で無知な、少し不器用な少女。その世界に入り込む演技力は、老年の教官に手放しで褒められたほど。

エリカは何気なく右手を動かし、腰に手を当てるふりをしてニルを背に回した。
『背中を頼む』、つまり『警戒せよ』の合図だ。

(了解)
いつでも姿を現せる状態に(気分的に)構えながら、ニルは頭半分、のんきに考えていた。

(あの人、エリカの嫌いそうなタイプなのに)
身ぶり手ぶりを交え朗らかに会話する修道女は、例えば少しあの赤く髪を染めた大柄な彼に似ているかもしれない。
エリカという少女は公私わけるタイプではあるが、だが天然そうなあのふわふわした雰囲気は癇に障りそうだ。現に、普段を知るニルから見れば、この無駄に見えるほど輝かしい作り笑いは少し冷やりとするものがある。

一見和やかに会話を進めていくエリカは知らなかった。
こちらだけではなく、相手の顔も幻だということを。



この世は恐ろしい。



あの得体のしれない使者たちは恐ろしいことを言って去って行った。
ああ、どうしようどうしようどうしよう。
私は知っている。
あの人が、あの人が。

いつも一番に思うのはこの学園のこと。そして今亡きお祖母様の想い。
あの人の誇りの根には、いつでもお祖母様という存在がある。

その血を疎ましく思う反面、誇っているのだ。


私はその場から動けなかった。否、動かなかった。
そして聴いたのだ。あの使者があの人に迫る瞬間を。

「照朱朗さん・・・・!」
先ほどのが嘘のように足は部屋に雪崩れ込む。
「大丈夫なんですかやはり私のせいですか!私は、わたしは―――――」
「落ち着いて、朝子ちゃん」
僅かに低く、彼はぎこちなく笑い、言った。

「大丈夫だよ。君のせいじゃない」

「・・・・でもっ」

「でもじゃない。良く聴きなさい、朝子ちゃん。
この学園に存在し教鞭を取る限り、君は学園が守る。いいかい、覚えておくんだ。
君はもう人ではない。『人であったもの』、『幽霊の朝子』だ。油野朝子じゃない。もうそろそろ迷いは捨てなければならないよ。君はもうただの朝子なんだ」

何故それを今言うのか。
それが私には分からなかった。

「ここで生きていくのなら『朝子』という一つの存在になりなさい。君はもう幽霊で、人ではないんだ。
そうじゃないと、私はもう君を守りきれないよ」


(何故それを今言うの)

この世の全てが恐ろしい。





この人にこんなことを言わせる世界が恐ろしい。



IRREGULAR のPVっぽいの出来ました。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm9897862


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