「そもそも、たかが高校生ごときが飛行機で旅行なんて、そんな贅沢なことはするべきじゃない。新幹線とか観光バスとか、そういうもので充分だと俺は思うんだ。あのガタンガタンという独特の心地よいリズムとか、窓の外を流れる景色とか、ガイドさんの楽しいお喋りに比べたら、空飛ぶ鉄のかたまりなんか取るに足らないものだ。雲の海や青い空なんか見て何が楽しいんだ。あれはただ光の反射でそういう色に見えてるだけなんだよ。ああまったく下らないったらありゃしない。なぁ、お前もそう思うだろう? ぜったい陸路で旅をした方が楽しいに決まっているよ。輝く緑、窓をそっと開けば爽やかな風、最高じゃないか。確かに時間はかかるけど、こんなどでかい飛行機を手配するよりは、ずっと安上がりだよ。地方公共団体のお金で運営している公立高校なんだから、旅費の節約にはより一層努めるべきだと思わないか? 思うだろう? そうだよだからこそ俺は飛行機に乗りたくなかったんだ。こんな鉄のかたまりが大気を汚しながら空を飛ぶなんて冗談じゃない。美徳に反する。そもそも修学旅行ってものはだな、陸路で行くものと昔から相場が決まってるんだ。国内で良いんだよ国内で。誰が国外に行きたいなんて言ったんだ。国際科の連中か? それとも英語教科主任のクソオヤジか? ちっくしょう覚えてやがれ。修学旅行が終わったらとっちめてやる。なぁ、お前も協力しろよ。お前は俺の幼馴染みだろ親友だろ。裏切ったりするなよな。俺の傍から離れたら許さないぞ。頼むから隣にいてくれ頼むから」
「…トイレに行きたいときはどうすれば?」
「我慢しろ。俺の傍から離れるな!」
彼はそう言って、隣に座る俺の袖をギュッと強く握りしめる。
―――…苦手なら苦手だと、素直にそう認めればいいのだ。まったく素直じゃない。
俺は溜め息をつきながら、横から絶え間なく聞こえるマシンガントークに耳を澄ませた。ちゃんと聞いてやらないと、彼が後で機嫌を悪くするからだ。
離陸してから、まだ30分も経っていない。俺たちの修学旅行はまだ、始まったばかり。
それなのに彼は、見ている方が可哀想になるくらい真っ青な顔でガタガタと震え、俺の腕をまるで命綱のように抱き込んで、自分に暗示をかけるようにパクパクと口を動かし続けている。その言葉はもう支離滅裂。きっと何を言っているか自分でもわかっていないんだろう。
ヨーロッパは遠い。これで何時間もつのか。
(やれやれ…困った友人だ)
睡眠薬でも持ってきてやれば良かった。
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