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鉄研でいず! シーズン2 作者:YONEDEN
10/13

特別編 アスタリスクは止められない

特別編プロローグ

「え?」
「ヒドイッ!」
「うぬ、この話が先になるとは」
「あれ、総裁、この話は13話ですよね」
「さふなり。本来なら「鉄研でいず2」本編第9話のあと、第10話の鉄道模型コンベンション2度めの参加編、そして第11話・12話で我々の沖縄への修学旅行の前後編となるはずであったのだが」
「普通そうなるでしょ」
「ところが! なんと! 著者が『シーズン2』大詰めの第13話を先に書いてしまったのだ!」
「ええーっ!」
「しかも2万8千字も先に! まったく、なんたる非常識な!」
「総裁、本気で激おこしてる!」
「ワタクシはかくなる上は! 著者に、我が『アイタクチガフサガラナイー』の鉄槌を下すのである!」
「ひゃあ! キャラクターが著者に実力行使!?」
「しかも総裁のこの激おこぶりだと……レールガン『ストーンヘンジ』の一斉射撃以上の威力に!」
「……なにか、著者さんが可哀想に思えてきましたわ」
「詩音ちゃん! そんな情けをかけることないわよ! ほんと、シーズン2になってから、著者、やりたい放題がすぎるわ! ヒドイっ!」
「でも、この2015年冬って、私達があの事件に遭遇する話でしょ?」
「そうよ。あの事件。アスタリスク事件」
「ですよねー」
「ふ、さふであるな」
「わっ、総裁、口から発砲煙吐いてる!」
「本当に砲撃してきちゃったんですね……」
「うむ、ワタクシを本気で怒らせたらどうなるか、再び思い知らせたのである」
「で、著者、どうなっちゃったの……?」
「うむ、腹パンにカカト落としぐらいのダメージをキメておいたのだが」
「キメちゃったんですね……」
「さふなり。しかし」
「え」
「あのアスタリスク事件のような話を年末にするのは、読者のみなさまの年末年始に読後感という面でどうかとの配慮もあるのだな」
「たしかにあの話は、って!
私たち、今、2016年にいることになってるの!? 時間軸めちゃめちゃじゃない!」
「うぬ、実録小説などというオソロしいことになるのもどうかと思われるのであるし、著者、持病の高血圧で、正直よもやのことがあるかもしれぬ」
「それに腹パンチとカカト落としキメちゃったんですね……」
「故に、ワタクシも怒り狂っておったのであるが、そののち、ここは大人の判断として、先にできたこの13話を特別編として先行公開することを認めたのであるな」
「ええっ、先行公開!」
「それに、高校生のキャラクターに大人の判断される著者って、どうなの?」
「む。まあ、我々もあれだけの事があったのに、著者の体調によってその活躍がなかったことになるのは、よしとせずなのだな」
「そうですわねえ。世の中には、そういうこともありますわよねえ」
「ないない! 絶対無い! ヒドイッ! ヒドスギル!」
「まあ、ないものをあるようにするのが創作であるのだな。そこはワタクシの金剛たる信念において、理解するところなのだな」
「金剛? 総裁って金剛さんだったの?」
「なのデース! ではねいのだ。ワタクシはあくまでもテツな女子高校生であるのだな」
「そうは思えない時が多すぎるけどね……」
「著者ももともと『艦これ』もせず、『アイマス』でも遊ばず、さらにここ数日はなんと! 模型すらも一切触らず、ほぼ寝る間も惜しんで原稿うちをしておったのだ!」
「それは、本当に可哀想ですわねえ。あれだけ模型が好きでこんな私達の話書いてしまうほどなのに」
「バツイチ独身で、ネコ2匹と一人でマンションの一室で原稿打ちしてる四十路男……」
「な、なんか、それを想像すると、ものすごい悲哀が」
「ワタクシたちの活躍が唯一のココロの救いであったのであろうからの。
 それに、これはこれで、今公開すべきエピソードでもあるとワタクシも思うのだ。
 故に、ゼーレの老人たちのように、時計の針を2015年冬に進めることとし、ワタクシは第13話を先行公開とする聖断を下したのであるな」
「しょうがないなー、もう」
「うむ、しかもこれは特別先行公開であるが故に、後で順序は元通りになるかもしれぬ。そこは読者の皆さんにも、了解を頂きたいところであるのだ」
「そうですね。
 というわけで、てへ。
 うちの著者が毎度ご迷惑をお掛けしておりますが、ここは一つ、大目に見てやってください」
「ほんと、もうしわけないのですけど」
「ヒドイッ、とは重々承知しておりますが」
「そういうことで、ご理解とご協力くださいー」
「うむ、ワタクシからもおねがいするのだ」
「って、総裁、いつの間にポップコーンを? って、ここ、試写室じゃない!」
「うむ、一応ワタクシたちの特別編を観るにあたって、我々に著者が特別試写室を用意してくれたのだ」
「おー、全員分のフカフカのソファに5.1chサラウンドシステムに8Kスクリーンだ!」
「でも、書くだけはタダよね……」
「うむ、では、我々もここでくつろぎながら、この我々の特別編を改めて鑑賞しようかの」
「そうですね。もう、いまさら呆れても仕方ないし。ヒドイッ」
「さふなり。読者の皆さんも、ここは諦めて、お楽しみいただきたいのだ。
 では、ここから特別編、スタートなのだ」
鉄研でいず特別編
アスタリスクは止められない
挿絵(By みてみん)



アミューズ

 葛城御波はプロファイラーである、といったら嘘になるが、それに近い要素を持つ子だ。
 何の事はない、ちょっと現代国語が得意で、小説とか本が好きで、そしてちょっと美形なだけの、よくいる女子高生である。
 彼女を彼女と識別するものは、片手に持った通学バッグにぶら下がったチャームが、もう廃止されてしまった寝台特急『トワイライト・エクスプレス』のものであることだけである。
「おっはよー! 御波ちゃん。今日も絶好調に不調そうね!」
「ツバメは血圧高いのよ。私、低血圧だもん。朝は苦手」
 声をかけたツバメという女の子は、小柄で、ちょっとボーイッシュ。高校生なのにウェアラブルの腕時計をしていたりと大丈夫なのかという子だが、この学校、海老名高校では無問題なのであった。
「低血圧? 血圧の話とかお年寄りみたい。やだなー、私たちまだ高校生よ」
「うぬ、さふなり。しかし低血圧には鉄分補給、鉄剤が効くと聞いておるが、鉄道趣味のテツ分補給では代わりにはならぬからのう。新幹線用60kgレールでもなめれば改善するであろうか」
「総裁はなんで朝からそんなくどいんですか。総裁血圧高すぎですよ、というか、総裁の着ぐるみを絶対昭和のおっちゃんが着込んでるんですよ! 背中のチャックおろして中見せて!」
「そんなものはねいのであるな。しかもその『チャック』ネタは西原理恵子先生であるな」
 そういう総裁と呼ばれた小柄な子は、髪飾りをしているのだが、なぜかその飾りが蒸気機関車C62の動輪になっている。
「そうですけど……もうっ。こんな話してたら遅刻しちゃいますよ。あ、総裁、冬のわたしたち鉄研の旅行の軍資金の計画、大丈夫なんですか?」
「む、相変わらず遠征続きで逼迫の状況にある。いよいよ皇国の命運を決める沖縄決戦で、いよいよ摩文仁の丘に追い詰められた状況にあるな」
「こまりましたわねえ。こうなったらお父様に資本注入をお願いするしかないですわ。でもいくらぐらいだったら足りるのかしら。ああ、でも大丈夫! 私もやりくり上手だから、お小遣いから200万円ぐらいに活動費を納められますわ!」
「詩音ちゃん、この世の中にお小遣い200万円ってのは、拡声器で『私を誘拐してください!』って触れて回ってるのと同じよ……でもほんとうにいるのね、この日本に富裕層って」
「うむ、大昔の『おぼっちゃま』くんと同じ、『歩く身代金』なのであるな」
「あら、私の家はいたって普通のお家ですのよ」
そういう詩音、武者小路詩音は、笑う口に必ずハンカチを添える。その時点でたしかに尋常ではない。
「うむ、現実に存在したとは、まさに驚きである。詩音くんの普通もまたやはりド外れているのだな」
「驚きって何ー! フユウソーって何? それはオトーサンに頼めば作ってもらえる?」
「ここでそういうボケをかまして、本当にバカな子に見えるのが華子の人徳というべきか」
「バカってゆーな!」
 そう戯れに言う華子は、背の高い女子バスケの選手のような子だ。
「バカと呼ばれた時の反応とか、ほんと、華子ちゃんは愛らしいですわ。
 あれ、そういえば、カオルさんは」
「ありゃ、カオルどうしたんだろう」
 そのとき、みんなの前にタクシーが停まった。
 そこから降りてきた切れ長の目の美少年のような高校生女子に、みんな目が点になった。
「カオルちゃん!」
「初めて見たわ、タクシー通学の高校生って」
「お母さん、カオルちゃんをそんな子に育てた覚えはありませんよ!」
「誰がお母さんなの!」
 カオルは顔を上げた。少しやつれた顔が妙に艶めかしい。
「ああっ、また妄想がはかどってしまいますわ!」
「詩音ちゃんがまたヤオイの攻め受け考えて失神しそうになってるー」
「やめてよー。もう。朝っぱらから」
「朝っぱらからなのはカオルちゃんも。どうしたのいったい?」
「バイトで時間押しちゃって、タクシーチケットもらって」
「バイト? 例の電鉄さんのダイヤ編成のアルバイト?」
「ほんと、北急電鉄もどうかしてるわよね。いくらギフテッド、IQ800の天才だとはいえ、高校生にダイヤ編成の手伝いのバイトさせるとか。まあ、その分私たち鉄研はカオルちゃんが『歩くダイヤ情報』になってくれるから助かるけど」
「ダイヤって、来年のダイヤ改正? この海老名にロマンスカー停車するってやつ?」
「それもあるんですけど、今、プログラミングの方の応援に回ってて」
「え、カオル、プログラミングも?」
「ええ。前からCとかJavaできましたし、最近、統合開発環境って触れ込みでAsteriskUTKってのが出てきて、すごく作りやすくなったんですよ」
「あ、あすたたりりすくく?」
「アスタリスク。同じ名前で電話用のサーバもあるんですけど、このアスタリスクは7年前ぐらいから使われてたんです。でも1.61までは少数派で。1.7から、クロスプラットフォームって言って、パソコンから携帯電話、パッド端末、さらに極端なことに、組み込み回路や鉄道模型にも使えるArduinoとかRaspberry Piとかにも使えるようになったんですよ」
「え? じゃあ、私のiPhoneでも動くの?」
「そうですよ。北急電鉄のiPhoneアプリ、それで開発してますもん」
「カオルちゃん、そんなことまで」
「部費が足りないぶん、頑張らないといけないなと思ってバイトの手を広げたんですよ。生徒会の会計のアラ探しはこれ以上やり過ぎると可哀想だし」
「カオルちゃん、15分で日商簿記1級マスターしたもんね。それで生徒会と学校事務局の会計をチクチクあらさがしして、その引き換えに部費ぶんどったのよね」
「てへ、それほどでもー」
「そこは照れるところじゃないでしょ!」
「でも、へー、この北急電鉄アプリ、カオルちゃんがバイトで作ってるんだ。前から興味あって私のスマホに入れてあるけど」
「私も! 便利だもん、列車の時刻だけじゃなくて、現在位置もわかるもんね。見てるだけで楽しい!」
「テツの血がくすぐられちゃうわよね」
「うむ、なかなかの便利なのであるな。『こんぴた』とうものはこう使うべきとの例であるな」
「え」
 そのみんなのケータイの画面に、小さなボックスが浮かぶ。

 -エラーが発生したため、北急電鉄を終了します-

「ありゃ、北急電鉄終わっちゃった」
「電鉄さんが終わり。あちゃー」
「なんか心臓に良くない表示よねえ。これ。カオルちゃん、このぶんだと大変ね」
「ほんと、修正をやってもやっても、バグがなくならないんですよ」
 カオルは頭をかく。
「おつかれさま。ほんとうに。あ、学校についちゃう」
「じゃあ、また放課後に!」
「ええ!」
 昇降口で解散するみんなのなか、カオルの表情だけが、深刻に曇っていた。



小さな発覚

「カオルさん、ほんと、大丈夫ですの?」
「ええ」
 放課後、みんなで鉄研の会議を終えたあと、カオルと詩音は途中まで一緒に電車に乗った。
「でも、今度の冬旅行、一つは北急電鉄大野基地と、併設されてるH-TREC、北急車両製作所の見学ですって。カオルさんのバイトの場所もおじゃまするのかしら」
「いちおうセキュリティあるけど、ボク、バイト代のついでにねじ込んでおきました。お金なくてもたのしめるように、って。ちゃんとゲスト用のIDパスみんなのぶん手配できるはずです」
「嬉しいですわ。案外車両基地の見学って、なかなかできませんもんねえ。特に高校生になっちゃうと。普通は小学生の子の親子ペアで何名様とかで」
「そうだけど……」
 それに詩音が気遣う。
「ボク、もうここ数日、バグを取ってるのか、バグを作っているのか、わかんなくなってきますよ。
 将棋の棋譜の研究のほうがずっと楽です」
「元気、出せませんわよねえ」
 すると、詩音が、かばんの中の小さなポーチから、錠剤を出した。
「これ、民間薬の強壮剤。体の弱い私にお父さまが探してくれたお薬ですわ。お飲みになって」
「あ、ありがとう」
 カオルはそれをペットボトルのお茶で飲んだ。
 そして、微笑みかけている詩音の顔に気付いた。
「御波ちゃんが詩音さんで『充電』したがるの、少し理解しちゃいましたよ」
「えっ、どういうことですの?」
「癒し系中の癒し系」
「まあ、光栄ですわ」
「ほんと、みんな……がんばってきたんだもん。ぼくも頑張らないと」
「頑張っちゃ、ダメですわ」
 カオルの目が止まった。
「頑張るってのは、いい意味じゃない時もありますわ。
 ムリなものはムリという勇気も、時には必要ですわ。
でも、よく事情が飲み込めてないのにこんなこと言って、済まないですけど」
 カオルは、しばらく考え込んでいる。
「カオルさん?」
「いや、詩音さん、ありがとう!」
「ええっ、どうしたんですの?」
「ここまでがんばってた。ぼく。
 でも、本当はがんばっちゃいけなかったの! 今わかった!」
 詩音の目がすっかり『はてなマーク』になっている。
「でも、ありがとう。ここで詩音さんは降りるんですよね」
「そうです。でも、大丈夫ですの?」
「大丈夫。さすが癒し系。助かっちゃった」
「それなら、いいんですが」
 詩音は相武台前で降りた。そこに彼女の家、工学博士・武者小路教授の邸宅があるのだ。



 カオルは相模大野の駅を降り、車両基地の近くにある北急システムズのオフィスに入った。回りは住宅と倉庫の入り交じる郊外の風景である。
 守衛さんは顔パスだが、そのあとオフィスの部屋にはIDパスをリーダーにタッチして、スチールのドアを開けて入る。
「リーダー! 気付いたんですよ!」
「カオルくん、今度は何に気づいたの? もー」
 小太りのリーダーは夕食の時間でもないのに天丼を食べている。
「ぼくたちが頑張っても仕方なかったんですよ」
「それ、今更言ってもなあ」
「いや、これです」
 カオルはPCでバグ・リポートを並べ、それが正面の打ち合わせ用マルチ液晶パネルに表示される。
「ここまでの不具合をなんで我々が原因をつきとめられなかったか。そして、なぜ我々がAppleにアプリストア登録申請して通ったはずのアプリが不具合を起こすか」
「わかったの?」
「ええ。このバグレポートのこことここを見てください」
 マウスカーソルがその箇所でくるくると回る。
「で、これがここに、これがここに、そしてこれがここに組み合わさると、メモリ参照エラーが起きる」
「でも、それなら、コードからビルドする時点で弾かれるはずだよね」
「そこでですよ。
我々が前、別の開発環境を使っていた時は、こういうエラーは起きなかった。
 でも、そのあと、我々はSwiftでもC#でも何でもこいで、しかも生産効率最強、なおかつ習得に12時間で十分というものに乗り換えることにした。
 生産効率は上がった。機能の実装も、バグの解析も、まさにそれは痒いところに手が届くような、夢の開発環境だった。だからこれまで使ってきたソフトウェアをほとんど移植し、さらに改善を図った。
 国土交通省からお叱りを受けていた旧式の鉄道保安システムHM-ATSですら、あっという間にH-ATACSに更新して、それによって車両位置情報を駅の案内表示だけでなく、エンドユーザーのアプリに表示し、案内するなんてこともできるようになった」
「国土交通省は首都圏鉄道で多発する不具合に対応しきれてないことを問題視してたもんなあ。で、うちと同じように、JR東日本を始め、大手私鉄の殆どはシステムを更新した」
「そうです。他にもオンラインバンキングのシステムとかも更新が進んでいます。見ての通り」
 オフィス内は死にかけの顔で画面を見ているプログラマーが並んでいる。中には寝込んでいるのもいる。
「みんな、安い給料、劣悪な労働環境、圧倒的に足りない人月。それなのにそれだけのことを成し遂げたのは」
「メタ言語開発環境アスタリスクと、それに付属するUTKユニバーサルツールキットの導入、ってこと?」
「ええ。時期的にいろんなものが符合します」
「でもさ、それ、アスタリスクのコンパイラとツールキットとか、そこらへんに問題があると言っても、なんでそれが見つかんなかったの? だって、アスタリスクの開発に関わったのは、一人どころじゃないんだよ。だいたい『帆場暎一ほばえいいち』じゃあるまいし」
「え、誰ですかそれ?」
「あ、ごめん。平成生まれにはわかんないよね。それはともかく、多くの人が関わって開発している現代のシステムで、そんなことはありえない。あり得るとしても、それを他の原因ではない、と切り分けるのはすごくしんどいよ」
「でも、アスタリスクはおかしいですよ。そこがすでにおかしいとしたら、グズグズの地盤の上にまともな建物が建てられないのは当たり前です」
「でもさ、それ、責任転嫁に思われかねないよ。しっかり切り分けして、アスタリスクがおかしい、って特定しないと、よくある下手くそプログラマーの八つ当たりの言いがかり扱いされてオシマイだよ」
「そうですよね」
「それに、ただの脆弱性じゃ、ぜんぜん珍しくともなんともない。アップデートで穴塞いで終わりだよ」
「ですよねえ」
 そういったカオルの前を、子どもたちを展望席に載せたロマンスカーが走っていく。
 カオルは、それを見つめながら、何かを考えているようだ。
「じゃあ、切り分け、やってみます」
「まあ、無理しちゃダメだよ」
「いいえ、無理しますよ」
 カオルは腕時計を外した。カオルの本気モードだ。
「これ、お医者さんに月1回だけ、って止められてるけど」
「おいおい」
「でも、これが決着つかないと、ぼくに冬休み来ませんから」
 カオルは、私物のノートPCを用意して、微笑んだ。
「だって、ぼくは、現役高校生ですよ? このバイトだって、冬休み楽しみでやってるんですし」

 カオルは、冷静に画面をみている。
 そして、時折、PCと別のPCのキーを叩く。
 決して猛烈な勢いでの作業ではない。
 でも、傍らの飲料水『いろはす』のペットボトルに目もくれない。
「空気が変わるほど、すごく集中してますね」
 リーダーに、他のみんなが囁く。
「ああ。ああいうのが一番体力使うんだ。あ、俺たちはそろそろ定時だな」
「定時なんて飾りじゃないですか、やだなー。今日も残業どっさりじゃないですか」
「すまないな」
「でも、カオルの調査ではっきりしないと、やっぱり我々もすみませんよ」

「ここで投了」
 カオルはそう言うと、腕時計をとり、手元のノートPCにレポートを書き始めた。
「できたのか」
「ええ。ちょっときわどいところはありますが、ほぼ切り分けはすべてできたと思います」
「ほぼ? でもなあ」
 リーダーはレポを読んだ。
「なるほどねえ」
「どうでしょう」
 リーダーは、しばらく考えたあと、電話をとった。
 それは、北急社長室へのホットラインだった。



「ほんとうにアスタリスク開発のアスタリスク・ファウンデーションにこのレポート送るの?」
 来たのは、たまたま海老名に用事があった北急電鉄社長の樋田だった。社長室から連絡を受けて直行してきたらしい。
「他に方法はありません」
「参ったな」
 樋田はレポを読んでいたが、すっと顔を上げていった。
「これさ、僕は経営畑だからよくわかんないところもあるけどさ、これ、アスタリスク・ファウンデーションにあたる前に、警察にあたったほうが良くない?」
「事件性ですか? まさか」
「いや、事件性が結果、なかったらいいけどさ、あったらどうする?」
「でも、警察がこんなことに対応できます?」
「警察をバカにしちゃいけないよ。いまは情報犯罪専門の部署もあるし、情報鑑識センターなんてのもあるんだから」
 樋田はケータイをとった。
「あ、情報犯罪対策室の竹カナコ警部、いらっしゃいます?」



 今時らしく、テレビ電話みたいなシステムで、竹カナコ警部は顔をのぞかせた。
「お互い残業族ですな」
「しかたありませんわ。こういうことに昼も夜もありませんから」
 竹警部もレポを読んでいたようだ。
「本当にこれが正しいか、確認のために情報鑑識センターにも送っておきました」
「ありがとうございます」
「でも、こんなことが」
「現実になりかかっています!」
 カオルがいいはなった。
「え、こんな時間に高校生?」
 カナコが目を見開くと、樋田社長が片手で『すまない』のしぐさをした。
「まあ、本当はいろいろとこの時間に高校生が働いているのはマズイけど、彼がこの事に気づいたんだから、仕方ないわねえ」
「竹警部! カオルくんは女の子ですよ!」
「あら、すまないわ! あんまりハンサムだからてっきり。ごめんなさい」
 カオルは真っ赤になって起こっている。
「でも、これに事件性があるとしたら、その動機は?
 警察として動こうにも、確かにアスタリスク・ファウンデーションにいきなりは手を付けられない。
 どういう意図でこんな不具合もしくは仕掛けを見逃したのか、せめて、そのアタリがないと無理ね」
「動機ですか」
「テロだったら、テロ対策部門がすでにマークしている。政治的な動機についても調べているけど、そういうシステムの開発の時は、開発企業ももしものことを考えて、エンジニアの素性をちゃんと調べているはず」
「でも、『事件を人が起こすんじゃない、事件が人を起こす』んじゃないんですか」
「それは例の警察ドラマの見過ぎよ。
人間っていうのは、やっぱり、命をかけてやることは選んでしまうわ。
犯罪に大きいも小さいもない。どんな犯罪にも命がかかってるの。追いつめているときは特に。
 まして、こんな開発に加わるほどの頭脳の持ち主よ。単純なテロではつまんなくて実行しないわ」
「じゃあ、プロファイリングですか」
「ほんと、今の高校生ってなんでこうなのかしらね。すぐそういう言葉使って。でもそうなんだけど」
 カオルは、考えて、そして言った。
「じゃあ、それは警部にお任せして、ぼくたちはぼくたちで、なにか調べてみます」
「危なくない?」
「いえ、素人には素人の、高校生には高校生のできることがあるはずですから」
「なるほど」
「では、ぼく、今日は帰ります」
「帰るの? もう電車ないよ」
 リーダーが言う。
「はいはい、わかりました。タクシーチケット」
「ありがとうございます」
 カオルは荷物をまとめている。
 それを見て、樋田社長と、竹警部は口を揃えた。
「これ、ほんと、教育的にいいわけ」
「ないですよねえ」



奇妙なチーム

「え、よくわかんない」
 鉄研の部室で、カオルに説明を受けたみんなの目が点になっていた。
「え、どこがわかりません?」
「もう、全部わかんない!」
「さっぱり、ぜんぜん、ひとっつもわかんない!」
「わからないところがわからないわよっ。ヒドイっ!」
「うむ」
 鉄研総裁が頷く、
「ワタクシの理解では、すなわち、現代の『こんぴうた』という『こんぴうた』がすべて、危険をはらんでおるわけだな」
「そうです。わかるじゃないですか」
「ワタクシが理解するに、まるで『パトレイバー』映画の大型ロボット『レイバー』用OS、HOSのような話だが」
「そんなの観たんですか」
「うむ、最近新シリーズ公開にあたって再上映があったので観たのだな。冒頭はHOSのプログラマー帆場暎一の投身自殺シーンからなのである」
「総裁、絶対総裁は昭和のオッサンが以下略」
「以下略言うなー!」
「つまり、その帆場暎一もどきの動機を明らかにすることが我々の課題なのだな。では御波くん、校門に覆面パトを一台回してくれたまえ」
「覆面パトカーなんか高校にあるわけないじゃないですか」
「さふである。つまり、我々にできるのは、そういった物理的な捜査ではない」
「さふである、って」
「すなわち、できるのは唯一、ウェブ上の捜索であるのだな。
 おそらく、この事件はかなり根深いであろう。それを起こすに値する、強い動機を探すことであるな。
 よくある凡庸な愉快犯、単純テロ、あるいは惚れた嫌いだの痴情のもつれ、怨恨以外の動機である」
「総裁、その動機の中に『警察の中の勢力争い』は入りますかー」
「『バナナはおやつに』みたいに言わないの!」
「でも、華子くんの観点は正しい。テレビドラマ『相棒』スペシャルの定番の動機であるが、そんなのは我々には調べようがねいのである」
「てへー、総裁に褒められたー!」
「もうっ。でも、強い動機ってなんでしょう」
「うむ、先ほどの幾つかを除外して、人生をかけて罪を犯すに足る動機であるな。
 犯罪に小さいも大きいもない。罪を犯すというのは、相当の覚悟がいる。それを踏み越える動機なのだな。
 御波君、その高校統一模試偏差値97の国語洞察力ではどのように考える?」
「ええっ、私?」
 御波はびっくりしている。
「でも、思ったんですけど、犯人、すっかりすべてが、やんなっちゃったのかなあ、って」
「えー! それってすごくバカッぽーい!」
「御波ちゃん、それ、華子みたいな答えよ、それじゃ」
「またぼくをバカにするー!」
「うぬ、しかし、それは一つのヒントなのであるな。
 普通、嫌になったら人間は何をする? キミたちがそうなった場合を考えたまえ」
「私だったら、お茶しに行くとか」
「私もお茶と甘いものだけど、もし大人だったらお酒タバコ、それとエロスかなあ」
「エロス言うなー!」
「まあ、そこらへんが愚痴の行き先であろう。人はみな、そうして愚痴って、それで次の日から気分を変えてまたそれぞれに本来の仕事で働くのである。
 ところが、犯人は、その憤りを愚痴で処理するのではなく、プログラムという生産活動に向けた。
 それには、何か、大きな得るものがあるからであろう。それもすさまじく高価値な」
「お金?」
「さふなり。でも、それは並大抵の金額であってはムリである。失敗したリスクと秤にかけても大丈夫な額であるな。しかも額が増えれば追手の次元も上がる。やり過ぎれば最近では最後には米軍の無人機が飛んできて爆撃してくるであろうからの」
「ホントかなあ」
「つまり、金銭としても、よほどの額で、なおかつ国際当局に把握されない方法で移動できなければならぬ」
「難しいわねえ」
「なるほど、カオルが我々に相談した意味がわかってきたのだな。
 この『強い動機』を考えることを、我が鉄研の冬の研究活動として実施するのである」
「研究って」
「わが鉄研はただの鉄道研究部にあらず。『鉄道研究公団』であるのだな」
「はいはい、って、えーっ! そこ!?」
「研究活動こそわが鉄研の本義なり。ここは各員研究に励まれたし、なのであるな」



 みんなで高校からの帰り道でも話し合っている。
「でも、やんなっちゃった、って、わかる気が少しする」
 ツバメがため息を付いた。
「だって、私たちに、明るい未来って、全然見えないし」
「そうですわねえ。景気も良くなってるか悪くなってるのか、はっきりしないけど、結局はずっと下方修正が続いてるし、せっかくマクロ経済対策と言っても、ちょっと紛争があればすぐに経済が不安定になってしまいますわねえ」
「国際テロはあちこちでおきるし、巨大災害もひっきりなし」
「正直、将来へ向けての不安が凄いわよね。オリンピックの話だって、あんまりにも嫌な話続くし」
「それに人口減って国の借金凄いー」
「さふなり。でも、それは、結局はそこらのおっさんが酒飲んで愚痴ってオシマイのレベルなのであるな」
「そうよねえ。一人で解決することは、絶対にムリだもんねえ」
「ちょっとまったー!」
 御波が叫んだ。
「え、どうしたの?」
「もし、逆に、もし、よ? それが全部一人で解決できるとしたら?」
「そんなわきゃないし、そんなのあるとは思えないけど……もしそんな魔法があるなら、人生かけてもいいかも」
「その魔法を見つければいいのよ」
「見つかるわけ無いじゃん! だって、日本どころか、世界中がこの問題に悩んでるのよ!」
「だから価値があるの!」
「なるほど、魔法、であるな」
 そこに車が滑り込んできた。
「ようやくみつけた。そこのあなた」
 車の中から窓を開けてカオルに声をかけてくるスーツの女性。
「竹警部!」
 カオルが気づく。
「回りはお仲間? お友達?」
「はい!」
「私達、同じ鉄研の仲間なんです!」
「いいわねえ。じゃあ、ちょっとお話でもしましょうか。あそこの珈琲店で」
 見えたのは、コメダ珈琲だった。



「うぬ、これは警視庁竹警部殿のおごりということで了解し、ワタクシは小腹がすいたので、味噌カツサンドを注文するのであるな!」
「総裁ほんと、食はハズさないですよね。じゃ、いっしょにみんなでシロノワール4つ」
「みんなのぶん、たっぷりアイスコーヒとりあえず頼みますよー」
「あとフィッシュフライバーガー」
「私はミックストースト」「私も!」
「ちょっと、ちょっと! あなたたち、なに勝手に注文してるの!?」
 慌てた竹警部に、みんなが一斉に冷ややかな視線を向ける。
「……はい、大人の私がおごります」
「やったー!」
「ほんと、あなたたち、現役の刑事をなんだと思ってるの?」
「今時お金に余裕がある地方公務員」
「ヒドイっ」
「ヒドイっていいたいのは私の方よ!」
 竹警部は少しキレた。

 注文の品が届く前に、みんなは竹警部に部室での検討の話をした。
「なるほど、それはすこしいいセンかもしれないわね」
「褒められたー!」
「でも、その魔法、本当に見つかるかしら」
 カオルが目を輝かせる。
「竹警部、警部は『ユナボマー事件』を覚えています?」
「覚えてるけど、あなた、本当に平成生まれ?」
「いえ、犯罪史に興味があって、調べていたんです。
 ユナボマー、本名はセオドア・カジンスキー。1978年から1995年にかけて、3名の死者、29名以上の重軽傷者という被害を出す爆弾事件の犯人で、FBIの捜査史上、最も時間がかかった事件、それが『ユナボマー事件』。
 生まれた時から天才と呼ばれていた彼はハーバードに入り、数学の学位を取り、カリフォルニア大学バークレー校の助教までしたのに、大学をやめて爆弾事件を長期にわたって起こした。
しかも、その捜査の手がかりは殆ど無く、唯一は犯行声明、『ユナボマー・マニュフェスト』の語句がハーバード卒業時の論文と似ていることだけだった。
でもそのわずかな手がかりをもとに、最後彼は100人の捜査員と米軍兵士に包囲され逮捕。しかしカジンスキーは弁護団を解任し自己弁護をしようとして検察官を困らせ、結局司法取引で仮釈放なしの終身刑に同意、公判は一度も行われずにその刑が確定し、彼は現在、コロラド州の刑務所に服役中」
「悪趣味なことに興味持つわね。でも高校生ってそういうものかしら。でもそうね。
 もし相手がそのユナボマーのようなものだったら、その犯行声明から人物を割り出すというのは、普通に有効ね。でもテロは防げないじゃない」
「今、開発ソフトのアスタリスクESを解析していますので、そこに手がかりが」
「うぬ、それは押井守監督が大好きなパターンであるな。犯行声明はプログラムの本体のなかに混ぜ込んであるという。とくに聖書の一節を交えつつ。『パトレイバー』の帆場暎一もそうであった」
「あなたも妙なこと覚えてるわね。本当に高校生なの? まあいいけど。
 まず、あなたたちはあんまり危ないことはしないでね」
「はい! じゃあ、ごちそうさまでした!」
「……はやっ! あなたたち食べるの早過ぎるわよっ!」
 竹警部はまたキレた。

「ともかく、私との連絡はこの番号で。この名刺、悪用しないでね」
「しませんよ、もー」
「警官の名刺は悪用されやすいのよ」
「そりゃそうですよねえ」
「で、なにかわかったらメール送って。ちゃんと読むから」
「はい!」
 そして、みんなは一礼した。
「ありがとうございました!」
「……まったく、仲がいいのはいいんだけどねえ」


遭遇

 翌日。
「で、なにか見つかった?」
「見つかるわけ、ないじゃない」
「そりゃそうだ」
「ところがー!」
 御波はiPadをみせた。
「これ、すごく気になった書き込み」

>>
情報の消費、亡者の帝国
 私は物語を消費する人たちを見てきた。
 人間ってのは恐ろしいもので、消費を始めて、消費に慣れちゃうと、どんどんいっちゃって、他人の人生とか命すら消費したくなるのね。もう刺激に麻痺しちゃって、他人が破滅したり、死んだりする瞬間まで消費すんの。どこまでも消費するの。
 で、その消費の需要があるから、それに供給するの。人間の脳ってのは無意識にそういう情報経済に対応しちゃうようになってるからね。
 だから、異教徒の首切ったり、残虐行為してそれを動画配信したり、でかいテロやる奴がどうやっても出てくる。
 事件を人が起こすんじゃない、事件が人を起こすんだ、みたいに。
 それが生じるのも、そういうものを消費しちゃう世の中であり、我々も無意識に脳の作用として消費してるからなのね。これはもう、止めようがない。
 そういう意味で、この世はいつも、亡者の地獄なんだよね。

 で、物語を書く意味ってのは、その消費に供給するだけなんだよね。もっと欲しがれ、もっと求めろ、って煽りながら、自分のいろんな大事なものを消費のネタにつぎ込んでいく。それが自分の労力だけだったらまだいいけど、やってくと労力を超え始めるのね。時間とかそういう当たり前のものじゃなくて、もっともってる大事なものも、消費に供給せざるを得なくなる。

 そのことに気付いたのも、物語を書くのをやめた理由の一つなんだよね。

 ただ、物語書くのやめたところで、この消費の世界ってのはそれ以外のものにまで及んでるから、絶対に逃げようがないんだよね。普通のお勤めでプログラムの仕事しててもそうだから。
 この世の中では、他人をどんどん消費しながら、自分もどんどん消費にくべて行ってるのが常なのね。

 そりゃ自分も見失うし、虚しくなるし、不安になるのも当然だよね。何一つ自分のものにできないんだから。
 実のところ、情報や物語の経済ってのは、そういう意味で、一つも『私有』を許さない世界なんだよね。プライバシーとかそういう概念とは違う概念で。
 情報の共有化が急がれているけど、実はその中で情報の私有が認められないような『圧力』がいつの間にか出来ている。それは均質化の圧力もそうだし、その逆の極端化の圧力も起きている。

 書いてて楽しい、ってだけで書いてきた。そして消費って怖いから、それ以上はいいんだと。
 でも、思いながら、書いて消費にくべてるの見て、それについて、なるほどなあと思ってしまう私でもあるの。
 まだ欲があるから。つい自分の技量とか試したくなってしまうのね。

 だけど、その技量を試すことと、消費にくべることってのは、すごく近いことなのね。人によってはこのふたつの区別がつかないと思う。
 で、世の中的には全くその区別つけないのね。文芸と下世話な暴露を区別しないって次元が、結局売上とかPVとかコンバージョン率、つまりお金って世界だし、それでないと生きていけないのがこの世の中だから。

 だから、私は生きることを賭けて、ものを作るのはやめようと思った。でも、結局はそうしなくちゃいけないんだよね。みんなそれで生きてるわけだから。
 どこまでも消費していくのが人間だから、仕方ないんだけどね。ただ、その消費を良いことのように思ってる人って、いる。好奇心ってものの怖さを自覚してるんだろうか、と思っちゃうような。
 まあ、この怖さを感じるのは私だけかもしれない。だから今私はすごく恐怖してるんだけどね。
 病んでると思うかもしれないけど、病んでるのはどっちなんだろうか、と思う。
 この消費の怖さを、ただの考え過ぎとして、さあみんなでどんどん消費しよう、ってのが健康なんだろうか。

 とはいえ、社会ってのはもともと狂ったものだから、正気に戻るとそれを異物として狂人扱いするのが常なんだけどね。

>>
「こんなのよく見つけたわね」
「たまたま好きなSF作家のフォロワーにこんな人がいたの」
「でも、これだけでは、つまるところ匿名の人のたんなる愚痴だよね。しかも社会分析しちゃう精神科医のよく言う『ロマンティックな狂気』みたいな、雑な議論だし」
「そこがね。その人の過去ログを探っていったら次から次へと」

>>
情報を消費する動物
 今、YouTubeには戦闘ヘリのガンカメラ映像がいくつもアップされている。
人を狙い撃つFLIR、暗視装置の映像はまるでゲームの画面だが、その撃ちぬいた人はゲームのCGではなく、生身の人間なのだ。
 そして震災を忘れないと言って何度もテレビで流される津波の映像。そこで津波から逃げつつ、飲まれてしまう軽自動車の空撮映像。しかし、それで飲まれているのもまた生身の人間だ。
 我々は、近代化によって死を遠ざけるといわれた。家で寿命をまっとうすることを考慮していないマンションがその証拠といわれていた。たしかにかつての多くの日本のマンションは、寸法的に棺を出すことができない構造になっていた。
 しかし実際に今あるのは、死を遠ざけるより、死すらも情報として生産し、消費する世界だ。
 それに人間の神経が耐えられるだろうか。
身近な死でも人間は強いダメージを受けるが、実はそれは身近に限らない。
死というものは他人のものであっても人間にダメージを与える。それは人間もまた、動物だからだ。
 かつて米軍は遠くの戦場で凄惨な死を見た兵士が、米本土に戻っても社会復帰するのが困難なほど精神を病む現象に悩んでいた。
 最近では、無人攻撃機任務でそれが更にひどくなった。
無人機の操作は市街の基地、あるいは米本土で行われる。そこに距離の障壁はもうない。ドアを開ければ戦場、ドアを閉じれば平和な日常。そんな状態で正気を保つのは困難だろう。まして、その攻撃機の操作にゲームパッドが使われさえする!
 しかし、人間はその方向に進化していくのだろう。ゲームでNPCノンプレイヤーキャラクターを殺すのと同じく、LCDパネルの向こうの人間に、躊躇なくゲームパッドの操作で35ミリ機銃弾を叩き込めるように。
 そして、その準備体操のように、虐殺シーンが競うようにメディアによって供給され、麻痺を創りだそうとしている。『風化させないように』と、さらに忘れるべき傷すらもほじくり返すように。
 本来の幸せは無制限な比較にかき消され、痛みや傷は繰り返し繰り返しほじくられる。
 それも、人間の進化の一つなのだ。
 故に、今更人間性こそ善などと、私にはとても思えない。
 我々はどう考えても未だにただの情報を摂取し、排泄する情報のチューブワームでしかない。
 そして、摂取する情報が足りなければ、その分情報を過剰に排泄するようにできている。
 しなくてもいい犯罪自慢、しなくてもいい嘘ツイートまでしてしまうように。
 そこで、人間なんて概念もまたイデオロギーであり、人間は、人間ではない。
人間は、それ以前に、モンスターなのだ。
 だからこそ、人間はそのモンスターを飼い慣らす必要があるはずなのだが、そうは思わない反知性主義もまた多くはびこっている。
 それに知性を説いたところで、その端から下卑た嘲笑に消費され、何も残らないのも、またそうだ。
 所詮動物の生態にすぎないのだから、もはや人間性への期待など、意味のあるものとは思えない。
 何度でもバカな殺戮とバカな滅亡を、バカバカしく繰り返す。
そんなことに、もう何の感興も持てなくなってきた。
 もう知ったことか。
くそったれ。
>>

「たしかに心が痛むことは多いわ。正直、もういい加減、やめて欲しいと思うことも。
 私もテレビを消し、ケータイを机の引き出しにしまって、静かに夜を過ごしたい日が時々ある。
 それでも、ケータイのプッシュ通知が追い打ちのように鳴ったりして、泣きたくなるけど……」

>>
情報モラトリアム(Information moratorium)
この現代では、常に緩やかな情報パニックが起きていて、それが社会不安を作っている。
 今の日本は、いつのまにか、左翼も右翼も、それぞれの方向から、共産主義へ突っ走っている。
 そして高度情報化のはずが、高度共産主義化になっている。
 高福祉を望む結果、高負担となり、その上国債依存度の上昇で経済が硬直化。
 そこで、みな人を妬み、引きずり下ろし、そこで報われない努力を強いられ、沼のような最低の労働環境でお互いを貶めあっている。
 少なくとも、その『勝者』があんな『悪趣味な美食』をひけらかして、それをなんとも思わない時点で、この世の中はドブ沼というものだ。
 高度共産主義といっても、所詮は高度な共産主義にすぎない。
 そんな傲慢なものが、この世に成立するはずがない。歴史上も成立したことはない。
 犯罪報道もおかしい話だ。
 少年犯罪の増加というが、そもそも本当に少年犯罪は増えているのか。実際は事件件数も戦後から比べれば、目立った増加でもない。
 殺人事件も強盗事件も、戦後の大きな増減を見ていると、特に増えているわけでもない。
 むしろ、逆に少年犯罪からの更生が成功していると見える統計もある。
しかし、それが今、メディアでは少年犯罪の凶悪化が常識化されてしまっている。
 高齢者の報道もおかしな話が続いている。
 犯罪だけに限っても、少年の起こす殺人事件は昭和35年をピークに、昭和40年代から急激に減少している。
 当時、ヘアヌードもアダルトビデオも、さらにはテレビゲームもなかった。その時代のほうがずっと少年の凶悪犯罪の件数は多い。
 一方、その昭和40年代に少年だった現在の50代の人間が、今、駅員に対する暴力の犯人となることが多い。
 事実高齢者犯罪は増加している。サービス業界での執拗で悪質なクレーマー、自動車事故においてはムリな運転と、事故後もムリな主張はもはや老人のほうが多い。粗暴な老人、万引きや窃盗をする老人も統計上増えている。
 そこで気づく。少子高齢化も考えれば、それほど質の変わっていない人間と、その社会を変え、歪めているのは、過剰に肥大した情報産業ではないか、と。
 そしてそれ以上に、少年犯罪も、高齢者の異常行動も、情報共有されることで解決するはずが、逆にリスク認識ばかりが先に立っていく。
 幾つもの機器がこの社会に訪れ、そのリスクばかりが強調されるが、それはもはやリスクへの現実的な対応を導かない。持続的な弱いパニックのような、感情的に非現実的な対応を安易に訴えるだけだ。
 そして情報産業の示す未来図は呆れるほど貧相だ。彼らの見せる未来は単なる共産主義でしかない。
 そこに人間らしさはない。人間としてのドラマを感じる心もない。
 ただあるのは雑いドラマもどき、フェイクな『感動』。
 社会自身も、雑いドラマを消費し、雑い物語で雑い感動と雑い涙を流通させる悪循環。
 その雑さを彼らは言う。『食っていくためには(食わせていくためには)しかたがないんだ』と。
 自分が食うためなら雑でいいという、
 しかし、そういう雑な仕事で社会を満たして、果たして最後に自分が食っていけるのか。
 本来、なにかやりたいことがあるはずだったのに、それが自己目的化していき、最終的にそれを経済のせいにする。
 そんなものに首まで浸かって、神経がまともに持つわけがない。
 どう考えても、世の中の殆どの問題は実は個人の問題。
 個人が感性を豊かにし、感じていくものでしかない。それが前提のはずだ。
 社会が悪いんじゃない。それを先に言ってもナンセンスだ。
 どんな悪い社会であろうとも、自分で適応していくしかない。
 社会が幸せをくれるんじゃない。自分で幸せを見出していくべきもの。
 社会的対応というけど、そんな雑で社会主義的なもので解決できるわけがない。
 結局はその個人で受け止めるべきものを、社会のリソースを無制限に注入してごまかそうとしているのが現状じゃないか。
 社会的対応も、本来は自主的な個人が社会を形成して、そして個人に対応するはずだった。
 しかし今、そんな理想郷はどこにも存在しない。
 あるのは、個人の肥大しきったエゴと、それとの対決を避ける言い訳としての『社会的取り組み』だ。
 それを見抜く感性を、決定的にこの情報社会というドブ沼は麻痺させ、人々を麻痺させながら常に続く緩やかなパニックに陥れ続ける。
 その絶望的なドブ沼の状態をぬけ出すには、もう情報モラトリアムの実行しかない。
 この弱く延々と続いているパニックが収まるまで、この情報社会を一時停止させる、猶予、モラトリアムを。

>>

「これも愚痴だけど、情報モラトリアムっていうのは、ちょっと気になるわね」
「いや、それどころか」
 カオルは顔を青ざめさせている。
「アスタリスクが本当にヤバイものだったら、この情報モラトリアム、情報社会の強制猶予は本当に発生してしまう」
「本当?」
「ぼくは、本気でこの考えとそのアスタリスクに仕掛けた人間が、遭遇しないことを願ってる。
 だって、強制猶予ってことは、中途半端なシステム停止の状態が続くことになるんだもの」
「それって」
「どれぐらいの規模か、ってことになるけど、すごく厄介」
「そうね」
「うむ、そういいつつ、諸君、我々はすっかり忘れておったが、明日は北急工場見学の日であるのだな」
「あ、そういやそうだ!」
「うぬ、その『なんとかボマー』の模倣犯、コピーキャットがなんであるか、考えておるうちに期日が来てしまう。
 どちらにせよ、カオルくんとともにいたほうが良さそうなのであるから、今日はすみやかに準備をし、カオルくんとともに北急工場へ移動するのであるな」
「ええー!」
「いやなのか?」
「ええよ!」
 みんなずるっとコケた。



冬の稲妻・アスタリスクの牙

「おおー、とうとう禁断の未知の世界の扉、ヘブンズドアが開くのであるな!」
 総裁は喜んでいる。
「いや、ただの北急相模大野基地と北急車両製作所のゲートだから」
「そうともいう」
 開いたのは工場の錆びかけのゲートの通用門である。
 守衛さんが敬礼し、みんなにゲストIDパスが渡される。
「あ、工場内はヘルメットかぶってね。危ないから」
「はいー」
「じゃあ、見学の前に、事務所に荷物置きましょう。竹警部もきているみたいだし」



「で、警察では、これに気付いたの」
 竹警部が教えてくれた。
「連鎖不正再起動? なんですそれ」
「CIR:Chaining injustice rebootってものらしいわ。
 脆弱性に脆弱性が、さらにその先に脆弱性を組み合わされたら?
 途中で不正終了するはずのシステムが、終了する前に他のシステムを再起動させる。
 再起動したシステムが、不正終了する寸前に、さらに他のすでに不正終了したシステムを再起動し……。
 そして、一つもシステムがまともに動作しないのに、不正終了と再起動が連鎖し続ける。
 それはまさに悪夢ね」
「そんなタチの悪い『ピタゴラ装置』のようなことがありえるのかなあ」
「それはわからないけれど、最悪は覚悟するしかないわね。
 まず、アスタリスクを開発していた人間のなかで、こう考えそうな人間を捜せばいいわね。
 このレベルでコードレビューもかいくぐれるエンジニアは多くない。
 捜査の上で、訪ねあたる確率は高いかも。
 それにエンジニアの中で、何人かに仕事が集中しすぎて、業界が完全に依存しているって話もあったわ」
「集中? だって、グループで作業してるんじゃ。グループウェアっていうぐらいだから」
「そうもいかないのよ。デキる人に仕事が集中しすぎちゃって、うまくサボれる人が生き残る。デキる人は結果、サボる人のぶんまで非人間的に倒れるまで仕事することになってしまう」
「でも、それはマネージャーとか上司さんが見て解決すべきことじゃないですか」
「その上司が自分の仕事と称してマネジメントの仕事をしないとか、人事評価もチャレンジシートで楽をするとか」
「上司たる意味が無いのである」
「ちょうどバブル期採用だもの。まじめに仕事する気なんかないんでしょう。日本中で労務管理の問題がそれで起きている。しかも彼らをクビにする有効な手段がない」
「そこは人事部がクビにするとか左遷するとかすべきなり」
「人事は人事で、それで過労で倒れた人たちの対応で手一杯」
「そんな。冗談でしょう?」
「冗談だったらほんと、いいんだけど。おかげで人事は採用に手が回らなくて、ろくでもない学生を採用して、さらにデキる人の負担を増やす」
「だって、学生は採用時に『あれもできますこれもできます』って言って面接通ったはずでは」
「嘘八百なのよそれが。いろんなプログラム言語が使えます、って言うから採用したら、使えるのはそれぞれの言語での『Hello World』だけだったとか」
「冗談にもほどがあります」
「でも、実際はそうだから。しかもそれでその人が呆れて退職しても、会社は退職後のリカバリが出来ない。だから辞めたあとも『あれがわからない、これがわからない』とその人に聞く。完全にその個人に依存してるという」
「もうその人だけで会社作ったらいいじゃないですか。他の人は何のために会社に来てるんですか?」
「お給料もらうためって」
「悪夢です」
「そんな状況が元請けのプログラムベンダーであるんだもの。IT業界ってのは元請けから下請けまで、まったくどうかしているわ。そりゃ、憤るのも当たり前ね。
 でも、それでこんなことを仕掛けていいわけがない。だから、そういう憤りを持っている何人かを調べているわ。正直、嫌な捜査だけどね。こんな捜査するぐらいだったらなんとかしたいわ。
 優秀な人をこんなに使い潰して、この国はいったいどうするのかと思うけど」
「お願いします」



 工場をあとにする竹警部に従っている巡査部長が口にした。
「しかし、あの子たち、よくこんなこと考えますよね。推理するとはいえ」
「ええ。だから、彼女たちは、本当に『超高校級』なのよ」
「でも、対応どうします?」
「お手上げね。一応脆弱性報告はあげるけど、政府としても、それ以上のレベルでも対応不能でしょう。ただ、この破綻の規模がどれほどのものか」


北急相模大野工場

「おお! EFY500! 純白に交直ローズのボディの北急初の旅客専用機関車!
 まさに北急電鉄の周遊列車の魂にして始源!」
「これ、長い間、静態保存車だったんじゃないの?」
「いえ、最近、提携の奇車会社から提供を受けたパーツで、動力系を大幅に更新したんですよ」
「じゃあ、まさか」
「ええ。EFY500は旅客仕業に戻るんです。今年のクリスマスクルーズトレインから」
「うむ、北急電鉄のセントラルドグマでのEFY500とワタクシの出会いにより『さあどいんぱくと』が」
「そんな古いエヴァネタ、もうやめましょうよ……。それにこんなとき、洒落ならなくなったらヤダし」
「あ、あの」
 詩音が困り顔で言う。
「ずっと言い難かったんだけど、ここ、小田急電鉄さんじゃないんですの? 北急電鉄って何です?」
「うむ、ここは小田急クローンの架空鉄道で北急電鉄なのだ。要するに著者の鉄道模型の世界に我々は引きずり込まれておるのだな。
 小田急クローンと言いつつ、周遊列車を『ななつ星』登場のはるか以前から全国周遊させておったり、周遊新幹線Y6系も保有しておるのだ。
 これはつまり、小田急の工場見学とすると、本物の小田急さんに迷惑がかかるでの。
 そこはわれわれも読者も、大人の配慮として、先駆的了解が必要であるのだな」
「そこ! 著者、ちゃんとなんとか都合つけようよ……」
「やだなあ、無名作家のうちの著者にそんなの、できるわけないじゃない」
「ヒ ヒ ヒ! ヒ  ド  ス  ギ  ル  ー  !!」
 ツバメはのけぞっても足りず、華子に危ないところを支えられている。
「そもそも小田急のことでメーワク掛かりそうなところは北急電鉄に読み替えるのは前からであるのだな。
 つまり、この『鉄研でいず』という物語世界では、小田急と北急は『量子的重ね合わせ』の関係にあるのだ」
「いや、その難しい用語いらないから。
つまり、いろいろと都合よくフィクション世界を構築してるわけでしょ」
「そうともいう」
「ヒヒヒ! ヒーーーーッ!」
 とうとうツバメは泡を吹いて倒れ、横たわってしまった。
「大丈夫じゃなさそうね」
「まあ、事実ヒドイことではあるからねえ」
「おおっ、ここでATフィールド展開!」
「って、総裁! 突然雨傘開かないでください! 第一、今日、雨降るんですか?」
「降水確率60%」
「ほんとかな」
「ともあれ、半分模型とはいえ、工場は見学すると楽しいものであるの。車輪旋盤とか車体吊りクレーンなど、機能美は見ていて見飽きない」
「ところで、あれで犯人に訪ね当たるのに間に合うのかな。
 ほんとうにモラトリアムが発動したら、その間の文明活動は不可能になるんじゃないかな」
 そこに、北急情報システムズのリーダーが来た。
「でも、今から回避する方法はないだろう。
 すでに多くのインフラ用システム開発でアスタリスクESは使われている。
 クロスプラットフォームで脆弱性が作りこまれているから、影響範囲はどこまで行くか。
 犯人を見つけたところで解決するかどうか。
 あ、そういや君たちが鉄研のみんなだね」
「お世話になります!」
「ああ、いいよ。案内するよ」



「結構奥まで行くんですね」
「うん。この北急全線の運行を管理する中央指令所を見せてあげるよ」
「ええっ、セキュリティは大丈夫なんですか」
「まあ、君たちに簡単に破れるもんでもないし」
 複雑な経路を通っていく。
「こんなところ通るんですね」
「そう。で、ここ」
 みんなが建物に入るとき、ポツポツと雨が降ってきた。
「なんだ、冬の雨か。やだなあ」

 中央指令室のモニターには、雨の様子が写っている。
「落雷警報発令中だ、電力区、落雷対策を」
「はい!」
 キビキビとみんなが働いている。
「そういや」
 カオルが口にした。
「今、アスタリスクで開発されたプログラムは、膨大な数の様々な機械で働いている。
 でも、それらは今のところ、何の問題も起こしていない。せいぜい、ケータイアプリの不正終了ぐらい。
 それが、もし犯人が情報モラトリアムを起こすとして、その引き金を何にするだろうと。
 自分で引いたら、あっという間に捕まってしまう。
 だから」
「自然災害?」
「そう。たとえば」
 次の瞬間、警報がなった。
「多摩川橋梁上の2811Mに落雷!」
「自動停車したか!」
「主回路を遮断、停車してます!」
 直後、警報がとまった。
「誰だ、警報とめたの!?」
 奇妙な静寂のなか、指令員が口にする。
「私達じゃないですけど……」
 みんなが小さく言ったそのとき、突然カオルがばっと走りだした、
「何だキミは!」
 カオルは、指令室の制御システムのモニタを見た。
「だから、言わんこっちゃない」
 寒々しい静寂の訪れる中、カオルは言った。
「連鎖不正再起動(CIR:Chaining injustice reboot)が、始まった……」

 それは、落雷を伴うドシャブリなのに、静かすぎた。
「モニタが!」
 つぎつぎとモニタ画面が消えていく。
「電話は!」
「つながりません! 発信音もしません!」
 そして、フッと灯りが消えた。
「停電? 予備電源は」
「起動しません! 予備電源起動システムが動作しません!」
「だめだ、ここにいてもだめだ」
 指令所のみんなが、一瞬、呆然とした。
「しっかりしろ! 伝令を出す! ほかは機能回復を急げ!」
 指令所長がさけんだ。
「はい!」

 鉄研のみんなも、外に出た。
「あっ!」
 薄暗いドシャブリの雨なのだが、工場も、外の町並みも、灯りが一つもついていない。
「ケータイ!」
 みんな、それぞれのケータイを見る。
 iPhoneがヒビの入ったリンゴマークを表示している。
「ほんとに……」
「ガラケーは!?」
「圏外です!」
「基地局もだめになった?」
「それに、あれ!」
 停電で信号機が消灯してしまい、車が大渋滞しているのだが、その車が次々とエンストしていく。
「自動車の点火系までやられてたの?」
「駅も!」
 駅でも灯りが完全に消えているし、列車も全て停止している。
 何人かが懐中電灯をつけているが、他のみんな、駅員もお客も、なすすべなく立ち尽くし、声も上げない。
 それは、ひどい静寂だった。
「これが、情報モラトリアム……」
 みんな、言葉についに詰まった。
「やっぱり、産業革命以前に逆戻りしてる」
 カオルが、膝をついて崩れた。
「防げなかった」
 それを、みんながなだめる。
「でも、私達、どうなっちゃうんだろう」
「知るもんか」
 みんな、無力感の底だった。



沈黙の冬

 気が付くと、樋田社長がそこにいた。
「社長」
「だめだ、ケータイも、衛星電話もつながらないし、動かない。
 およそプログラムされたものはすべて使えない。
 最後の電話では、この事態は世界的に起きているらしい。
 結局、その後どうなったか知るすべは全てなくなったが」
 樋田社長は、傍らのH-ATACSのマニュアルの文字を見た。
「アスタリスクには『リスク』の文字が入ってたんだな」
 みんな、意気消沈している。
「これじゃ、人類は産業革命からやり直さなくてはならないかも」
 弱々しい声がもれる。
「そのとおりではないか」
 そこに、力強い声が聞こえた。
「総裁!」
 声の主は、総裁だった。
「そのとおり、やり直せばよいではないか。
 たとえまた第2、第3のアスタリスクが生まれようとも、何度でもやり直せる。
 文明がどうなろうとも、人間そのものは、どうあっても決して変わらない。
 遺伝子的アルゴリズムによって生き延びた我々は、たとえ自分が滅びても、種そのものは残すようにできておるのだ。
 人間は、生命は、絶望しないかぎり、もともとそれだけの抗堪性を全体で持っておる。
 だから我々は今ここに居るのだ。
 そして、種、そして魂が残せるのなら、何を惜しむことがある!

 これから再び、この世を、幸せな言葉で満たそうではないか。
 本当に好きなことをしていこうではないか。
 食っていくためのことも、好きになっていこうではないか。
 好きになって、それを楽しんで、やりこんでいこうではないか。
 食えなくなったら、その時点でまた考えていこうではないか。

 何のためにこの頭がある? 何のためにこの身体がある?
 適応するためにこの頭と身体がある。
 またやり直せばいい。
 何度でも、また何度でも」
 総裁は言い切った。
「そうだな」
 樋田社長もうなずいた。
「プログラムされた回路でない機器は使えるはずだ。
 それで現実的な対策をするしかない」
「……はい!」
 みな、相談を始めている。
 それを見た樋田は、総裁と眼を合わせた。
「キミが、鉄研の総裁か」
「はい」
 樋田は、言葉を探した。
「とくに仰らなくて結構なり。
 しかし、我々も、ただ絶滅と屈服はせぬのであるな」
「そうだよ、な」
「社長は社長の仕事がおありじゃないんですか」
 御波が手にしていたペットボトルのお茶を、社長に渡した。
「あったかいお茶です。飲んで、がんばってください」
 樋田は、うなずいて、それを口に含んだ。
 そして、飲んで、言った。
「ありがとう。これが終わったら、10倍にして返すよ」
 みんな、笑った。
「お願いします」
 樋田は、闘志をみなぎらせた。
「電力区! 電力の回復が最優先だ! 一緒に行こう!」



希望を継ぐもの

 陣頭指揮に出て行った社長がさったこの工場では、見送った鉄研のみんなと、北急の職員が総裁のもとに集まっている。
「竹警部とも連絡がつかないのに、どうする?」
「なんか、方法があるはず。必ず何かがある」
「あるのかなあ」
「せめて、トランシーバーが使えればなあ」
「でも、トランシーバー、最近総務省の方針で全部デジタル・トランシーバーに更新したから使えないんだ」
「アナログのトランシーバーは?」
「全部回収しちゃったよ」
「いや、それを保管しているところがすぐ近くにある!」
「本当ですか!」
「ただ、そこに入って再利用するのはかなり困難だ。セキュリティがかかって、その上停電で封鎖されてる」
「ダメか……」
「さにあらず! さにあらずなり!」
 総裁が声を上げた。
「わが鉄研は屈服はせぬのだ!
 そうであろう?
 豊かな感性の御波。 
 確かな技量のツバメと詩音。
 ツインタワーのカオルと華子。
 そして超高校級の体育会系臨時レギュラーのワタクシ。
 事態を切り開くのは、我々鉄研水雷戦隊なのだ!」
「そうね、と言っても…」
「うぬ、そこは役割を割り振ろう。
 推理などはツバメ君と御波くん。
 復旧作業はカオルくんと詩音くん。
 そして、そのトランシーバーの入手に華子とワタクシが当たるのだ」
「あいあいさー!」
「そこで、まず反撃発起にあたって、あれをやるのだ」
「あれ? って何?」
 総裁が、手を上げた。
 みんなが、それに気づき、円陣を組み、高く手を合わせる。
「ゼロ災で行こう、ヨシ!」
 声が揃った。
「うぬ、職員さん、その倉庫へとりあえず偵察に行くのだ」
「わかった!」



「しかし、人間にこんなことができるのかなあ」
 御波が言う。
「相手が機械だからしかたがないよ」
 ツバメがため息混じりに言う。
「機械じゃないよ」
 御波はそれを否定する。
「え?」
「その機械を作ったのは人間よ。アスタリスクも、人間が作ったものだもの。
 そして、確信犯でこれを作ったとしたら。
 ここまでの破綻を引き起こすことは、通常の人間では恐怖を伴うはず。
 なんのためらいもなくこんな完全な破綻を引き起こせる人間はいない。
 まして、この世界の狂気に気づく冷静さと、計画の緻密さを持つ人。
 それだけの人間としての知性を持っていれば、
 どこかで引き返せる方法を、一つだけ、残してしまうんじゃないだろうか。
 きっと、その引き返す方法は、見つかるはず」
「でも、ミスをしていたら?」
「そういうミスする人に、こんな巧妙な仕掛けはできないと思う。
 そういう人だからこそ、最後にためらいを残してしまうのよ」

 そこに、竹警部が来た。
「ここまで歩いてきたわ。あなた達が心配で」
「おつかれさまです」
 御波は竹警部にもその話をした。
「で、その人は、絶対に自決しないはずです。
 その引き返す方法を残す人です。自ら死にはしません。きっと」
「だといいんだけど。犯人の自決は警察の完全な敗北だから」



「そういえば」
 御波は鞄の中を探っている。
「あった! プリントアウト!」
「えっ」
「あの人の書いた書き込み、ノート、少しプリントアウトしてたの。
 読む時間なくて、バッグにつっこんでたの。
 ちょっと読んでみるわ。

>>
情報のS/P曲線
 もともと人間の根源がチューブワームみたいな摂取して消化して消費する装置であったわけで、脳もそれを補助する機関だから、当然情報を消費するのは自明なんだよね。
 そして、消費してもらわないと存在してないのと同じように思っちゃうように出来てる。自己承認の欲求ってのはそれだよね。
 互いに承認をしあって、それで社会ってのはできてる。それは蟻とかの社会でも同じ。その承認のやり取りという情報システムで、群れとして、種としての生存を実現するようになったのが進化の歴史なんだよね。個体が餌食うだけだと大きな敵には捕食されるだけになる。でも、個体がチームプレイできるようになれば、大きな敵にも対抗して、それすらも餌にしてしまえる。そりゃ遺伝子的アルゴリズムの帰結としてはすごく正しい。
 ただね、遺伝子的アルゴリズムってのは、そうやってどんどん膨らませた可能性を、一気に淘汰するフェーズを受けるのね。バージェスモンスターの時みたいなもんで、どんどん可能性を増やすけど、すべての可能性が生存できるわけがない。環境のリソースってのは有限だから。だから破滅的なウイルスとか、自然災害とかがあって、膨らんだ多様性を一気に絞っちゃうのね。

 で。情報を消費する動物として、今我々は消費とそれにくべる情報の生産をせっせとやっている。なかにはその生産が足りなくて、しなくてもいい犯罪自慢して炎上騒ぎ起こして自分の人生すら消費に回しちゃう奴もいる。でも、そこにはそれをせっせと拡散して消費してる連中もいる。しかもそれをいいことみたいにしちゃってるのが現代のSNSとかに限らない世界。活字ができて新聞ができた時にすでにそれは用意されていたけど、情報化ってのはそれをどんどん進めて、猛烈な消費の勢いを作っている。で、それに脳は応えるべく、せっせと供給してしまう。
 それが破綻する? そりゃ何度かは破綻するでしょう。個体の破綻だけでなく、群れ、たとえば企業とか国家の破綻は容易にありえるし、事実何度か起きている。それでも人間の情報消費の勢いが凄いから、分析が全然追いつかない。

 私が言いたいのは、その破綻じゃないのね。破綻なんざなんとも起きるし、個体なんざ遺伝子の一時的な乗り物にすぎないから、優先順位があるし、私自身というものはその優先順位が一番低いと思ってる。私が思ってるわけじゃなくて、利己的遺伝子の考えで計算すればそうなる。
 それはそれとして、破綻は仕方がない。破綻すれば、そこから再生することができる。陳腐化したシステムを破綻によって速やかに除去し、最適なシステムを構築できるだけのリソースを解放させ、システムを構築し直すために、実は破綻というものは必須のプロセスなのね。生命が有限なのもそうなの。劣化したシステムを永遠に残してると、バッチあてしかできなくて、リプレースができない。
 それはもっと大きな、環境リソースを無駄遣いし続けた挙句にその陳腐化したシステムとともに環境そのものを破綻させかねない。

 だから、怖いのは、一見合理的で、すごく人間らしくて、すごく優しいように見える「ソフトランディング」のほうが怖いと思うのね。
 そりゃ、みんなそれを選ぼうとするよね。誰だって破綻が怖い。日本経済の破綻ぐらいだったら覚悟してる人がいるだろうけど、もっと大きなレベルの破綻については、想像すらしないのが普通だし、想像しても否定するよね。すぐには起きない、現実的ではない、って。
 でも、現実的ですぐにそれが起きるとしたら? それで個体がドバっと破綻するとしたら?

 もちろんそれでも種は残る。というか、種の存続のためのシステムリプレースに伴うリソース解放なんだから、それを回避できるわけないし、むしろそれを受け入れちゃったほうがよりあとが楽なのね。システムは新しい方がやっぱり合理的で優れたものになるから。

 でも、今の世の中でこんなこと言ったら、そりゃもう非難ゴーゴーだよね。
「命をなんだと思ってるんだ!」って。
 だから、今せっせとソフトランディングしようと、いろいろ手を打って、信じられない規模の投資してる。
 でもそれすらも実は情報消費のもたらす作用でね。みんな、すでにそこで常に合理的な判断できない「弱いパニック状態」になってるのね。
破綻がくるのはわかってるけど、破綻が怖くてしかたがないまま、破綻を先延ばししてる。そりゃ不安はどんどん増大する。
 破綻が実際来てしまうまで、破綻のその寸前まで不安は増える。
 しかも、その破綻までの時間がながければ長いほど、恐怖と不安は大きくなる。
 ソフトランディングってのは、本当に『いいこと』なんだろうか。

>>


差し込んだ光明

「犯人はモラトリアムを起こすのではなく、むしろ一気に現代社会を破綻させることが目的だった!?」
「ええ、読み違えたかもしれないわね」
「でも、だったら方法はある。
 破綻の恐怖はすでにこうやって、現実になったんだから」
 二人は声を揃えた。
「あとは、はじめからやり直せばいいだけ!」

 そのとき、室内に明かりがついた。
「電源が!」
「ええ。自家発電機を少し復旧させました。
 あと、PCをスタンドアローンで動作させられるように」
「それだったら使えるわね」
「でも……そこまでをやったボク本体が、電池切れ……」
「カオルちゃん!」
「内臓電源、終了です……」
 カオルはそういうと、ボロボロに疲れきった様子で、がっくりと崩れた。
 その時突然、詩音がカオルを、その豊かな胸で抱いた。
「カオルちゃん、充電!」
 詩音の胸の谷間に、カオルはすっかり顔を埋めている。
「そんなの、御波ちゃんのように、うまくいくわけが……

 ……ありそう」
 カオルの目が、ふたたび力強く開いた。
「充電完了! もう一度行く!」
「すごい!」
「うむ、おっぱいは正義なのである」
「おっぱい言うなー!」



反撃

 カオルは、ふたたび腕時計を外し、PCと向き合った。
「何かに似てると思ったら、将棋の対局の様子にそっくり」
 リーダーが言う。
「そうですよね」
「あれって、すごく体力使うらしい。脳はすごくエネルギー消費するからね」
 そこに、また人が来た。
「お父様!」
「武者小路教授!」
「ああ、歩いてきたよ。
 やっぱり、早速やってるね。うまくいったら、ぼくが対策本部に運んでいく」
「対策本部はどこに?」
「普通だったら首相官邸だと思う。あそこにはそういう施設がある」
「でも、トランシーバーは」
「今、総裁と華子が取りに行ってる」
「ええっ、大丈夫なの!?」



「大丈夫なわけないですー!」
 保管倉庫を見て、華子が泣きそうになっている。
「物理的に入れないよなあ。 
 セキュリティが掛かって閉鎖されちゃって、今唯一の入り口、あそこのダクトだけだもの。
脚立やハシゴじゃ、絶対届かないなあ」
「職員のおじさん、そこは、こうやって、こうすればよいのではないか?」
 総裁が口に薄く笑みを浮かべながら、話す。
「ええっ!」



「で、そこに入って、この大量のアナログ・トランシーバーを持って来ちゃったわけなのね。
何の説明も描写もなしに」
「読者、これ本当に本気で大激怒ですよ」
「うむ。あそこでワタクシが思い出したのが、NHKの『ピタゴラスイッチ』なのであるな。
 あの方法は背の高い華子と、小柄で体の軽いワタクシにしかできない。
 やったのはまさに『人間ピタゴラ装置』だったのだな。
ここはもしこの話がアニメになったら、絵的に良いように演出さんがいろいろ考えてくれるのであろうから、ここでは詳細は割愛なのである」
「ヒ  、  ヒ  、  ヒ   ド   ス   ギ   ル   ー!!!」
 ツバメはのけぞって、とうとうひっくり返ってしまった。
「まあ、ともあれ、大量のアナログ・トランシーバーが確保できた。
 これでインフラの回復が進むし、カオルと武者小路教授によってアスタリスクの罠の解法も連絡されるであろう」
「カオルちゃん!」
「終わりました」
「うむ、ジャストタイミングなのであるな」
「じゃあ、行くか」
 教授と樋田社長がうなずいた。
「首相官邸まで、歩いて持って行くよ。他に方法がない。でもうまく行けば途中で警察とも合流できるかもだし」
「大丈夫ですか」
「なあに、みんな大昔は歩いて旅したんだ。なんてことはないさ」

 そして、社長を含めた一行が、雨の夕暮れの中、懐中電灯を持って出発していった。
「いっちゃった」


聖浄の夜

「あれ、夜の虹!」
「月の灯で虹がさしてる!」
「急激に晴れてきた!」
 北急の工場の屋上に出て、みんなでそれを見上げている。
「街の灯りがないと、こんなに夜空がすごく綺麗に見えるのね」
「星の数がすごく多い」
「だけど、怖い」
「怖くはないわ」
 御波が言った。
「だって、これから、すべてをやりなおしていけるんだもの。
 恐れていたものは、もう来ちゃったから、これ以上怖いことは、もうないもの」

 そのとき、市街にぱっと明かりがつきはじめた。
「電気が回復した!」
「えばんげりおんにも、こんなシーンがあったのだな。
やはり、闇の中では人は生きられないのであるな。
 そして、その闇を払おうと、人はみな、いつか力尽きるとしても、不条理の中を、抗い続ける。
 個体が滅びても、種が残ると信じているかのように。
 種を残そうと思わずとも、我々はどうしようもなく、放っておけなくなってしまうのだ。
 ただ」
「ただ?」
「ある意味、やはりまた忌むべきソフトランディングをさせてしまったのかもしれぬ、とも思う」
「そうかもしれない。そうかもしれないけど」
 御波は言った。
「虚しくても、生きていくしかないから。
そしてその中に、楽しみを見出していくしかないから」
「うむ、さふであるな」
 総裁はうなずいた。
「それこそが、ワタクシのテツ道の精神であるのだな」



夜明け・始発電車

 そして、朝が訪れた。
「電車の運行が昼から回復する!」
「ほんと!?」
「ええ。そのための試運転列車は、もう出るそうです。
 みんなで、それを見た。
北急大野基地から、朝もやの中、ホイッスルを鳴らして、試運転電車が出発していく。
 そこに、竹警部がやってきた。
「ほら」
「あっ」
 その手には、動作するケータイがあった。
「みんなのスマホもまもなく復旧するみたいよ」
「助かります」
「犯人の特定も進んでいるわ。逮捕はまもなく、って福島県警から連絡があった。
 あと、樋田社長が、あとで君たちにお礼の『10倍返し』をするって」
「なんだろう」
「うぬ!」
 総裁は、その時声を上げた。
「にもかかわらず! 我々はまた、旅に出るのであるな!」
 それにみんな、声を上げた。
「えー」
 総裁が聞く。
「いやなのか?」
 みんな、言った。
「ええよ!」
<了>
「うむ、これで特別編終わりなのである」
「おわったねー」
「びっくりしたなー」
「たしかに大きな事件であるのだが、この件の今後の扱いについては、まさに著者のSFヂカラが試されるといえよう」
「そうですわねえ。でも、一つ心配が」
「どうしたの詩音ちゃん」
「これで、読者のみなさまに、お楽しみいただけたのかな、って」
「うむ、それは著者が全責任を負うとのことであるのだから、我々は全く心配いらないのである」
「とはいえ……」
「まず、我々は著者をして我がテツ道の道を記させしむだけであるのだから、著者が後で困るのを高みの見物であるのだな」
「ヒドイっ! のは著者の方だもんね」
「でも、竹カナコ警部って、あの人、どっかで見た気が」
「うむ、覚えている方は少ないと思われなのだが、著者が2000年3月に発表した唯一の推理小説に登場しておったのだな。当時は竹警部は巡査長であったのだ」
「げっ、15年前よ! 誰も覚えてないわよっ! ヒドイッ!」
「うむ。著者の中では世界は全てつながっておるのだよ、榎木津くん」
「なぜに京極堂、って、たしかにあの頃そういうの流行りましたよね」
「さふなり。はるか昔ではあるが、今に繋がるものであるのだな」
「そうですわねえ」
「まず、著者としてはこれが力いっぱいであったらしいからの。我々としてもこれで申し分なしとしよう」
「うーん、そうしかないよねえ」
「次の話はちゃんと第10話になるかどうかいささか心配であるのだが、我々のテツ道にいささかの狂いもないので、まずご安心いただきたく思うのである」
「そうですそうです」
「あと、この特別編に出番のなかった1年生諸君もまた復帰するのだ。というわけで、次回更新まで、あでゅー、なのである」
「では、また次回!」
「じゃあねー!」
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