そして名探偵は止めを刺す
遊森謡子様企画の春のファンタジー短編祭『武器っちょ企画』に乗っからせていただきました!
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
参加作品一覧表は遊森謡子様の活動報告↓を。
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ドラ●エっぽい王道モノです。ではどうぞー
某作品の探偵勇者さんとは関係ございません。一応。
汝に力を与えよう。
と言われた事を、彼女――家倉智慧は、確かに覚えている。
智慧は18歳の誕生日、異世界に召喚された。まあ、その事は今更蒸し返すべき事ではない。そのあたりは世間一般的と言っていいのか、いわゆるテンプレートに沿った流れである。
さて、ここで重要な事がひとつ。
召喚された人間、特に勇者には神からひとつ力が授けられる。
例えば千年ほど前の勇者は、溢れるカリスマを得て建国を成した。
例えば八百年ほど前の勇者は、漲る膂力を得て悪の根城を破壊した。
例えば五百年ほど前の勇者は、鉄の防御力を経て姫君の盾となった。
例えば三百年ほど前の勇者は、膨大な魔力を得て未だにこの国に生きている。
さて、智慧は何の力を授けられたかと言うと、ずばり推理力である。
推理力。つまりは与えられた材料から想像し、事実を言い当てる力。
細かく言えば、洞察力に理解力、思考力、様々なものを内包した力だろう。
――しかし、今までの勇者たちと違い、智慧が召喚された理由は魔王の討伐だ。
膨大な金銭と引き換えに、半ば無理矢理とはいえ正式な国からの依頼を受けているのだから仕方あるまい。だが、一体この力でどうしろというのか、と智慧は困惑した。困惑はしたが、根が猪突猛進型なので躊躇いは皆無だった。
「私が思うに、国王陛下」
元々男らしい口調が災いし、智慧を男と思う人間は多かった。
薄い胸、すらりと高い背、色素の薄いボブカットの髪。女性的というより中性的な顔立ちだが、凛とした佇まいは静かな美しさを感じさせる。
国王相手にまっすぐ目線を合わせ、膝を付くこともない――不遜ではあるが、それ故にあふれ出る自信のようなものに、その場の者たちは僅かな期待を視線に乗せる。
「この事件、真犯人が居る」
「この者を放り出せ」
「はっ」
が、残念なことに不敬罪のようであった。
◆
城を追い出され、一時は街の料理屋に就職したものの、殺人事件を解決したり盗難事件を解決したりと主に事件解決を繰り返し、気づけば恨みを買い、夜逃げする破目になっていた。
しかし、今回は1人ではない。店の常連でもあり、召喚の際にも居たという騎士(元)が何故か国を捨ててまで付いてきた。
「――ワトソン君」
「俺はジェインです」
「いいじゃないか。ジョン」
「ジェインです」
既にノリノリになっていた智慧は、相棒(本人は助手と言って憚らないものの、戦闘は任せきりである)ジェイン・ワルターと2人旅を続け、そうして砂漠の先にある国に辿り付いた。
そこにはいつかの勇者が使っていたという鎧があった。
持ち主に合わせて姿を変えるというそれは、智慧の手が触れる前、近づいた段階でぱあっと明るく光り輝いてその姿を変化させた。
「……インバネスコート?」
ふわりと風に浮かんだ天空の鎧は気づけば智慧の体にひっしと縋りつくかのように纏われていた。
「お似合いです」
ジェインの心にもなさそうな褒め言葉に、テンションの上がった智慧は「そうだろうそうだろうっ、素敵だろう!」と頬を紅潮させて喜んでいた。
鉄仮面の如く無表情のジェインが、微かに笑ったような気配がした。その後、城で聞いた情報を頼りダンジョンに挑んでまた別の伝説の鎧をさらっと手に入れていた。ちなみに「名探偵は安楽椅子でぼんやりしてていいんだ」とごねた智慧も引き摺っていかれ、死んでは蘇生されを繰り返しつつ鍛えられたという。
◆
それからまた暫くして、辿り付いたのはエルフの森王国である。公園みたいな名前だな、と思った事は胸に秘めておいた。
エルフはけして友好的ではなかったが、人間との関係悪化の原因だという10年前の事件をさらりと解決してみせると一応ガードが緩んだように思える。何せ最初は微笑みながら毒を吐いていたエルフの王子が「そのパーティでは効率が悪かろう。ぼくも付いてゆく」と最大級の愛情表現をジェインにぶった切られて大喧嘩になった末、元凶に「まあまあ、良いだろう」と仲裁されて「「誰のせいだ!」」と仲の良さを見せ付ける破目になった程だ。
「この奥に聖なる剣があるのだ、エルフの愛しき友」
「その気色の悪い呼び方をやめていただきましょうか」
「お前が口出しすることではない」
「まあまあ、仲良く仲良く」
そんな2人に囲まれながらも彼女は探偵道をゆく。彼女の脳内にある恋愛は犯行の原因であって自分に降りかかる物ではなく、綺麗にスルーしていた。
そうして森の奥深く、台座に突き刺さる聖なる剣は至極あっさりと抜け――た瞬間に、これまた彼女に合わせてなのか、パイプの形になった。
が、智慧は未成年であるため使いようがない。新しいアイテムに喜びながらも僅かに消沈し、むう、と唸りつつパイプに口をつけ、使い方もよく分からないのでふっと吹いてみた。
「うわっ!?」
するとパイプが巨大化した。身の丈よりは小さいが、バットくらいの大きさはある。何のための機能なのか良く分からないが――思い出したように、王子が「かつて女の勇者が召喚された時、持ち運び易いように姿を変えた事があるそうだ」と説明した。
ぽん、と智慧の肩にジェインの手が置かれる。
「それで殴ればいいのでは」
「い、いや……その……なあ」
「殴りましょう。ええ、まずそこの不届きものを」
「不届きもの? ふん、誰の事か」
「おや、自覚がおありでない」
「まあまあまあ」
かくしてエルフの王子クロフ・エルファードを加えた3人は、意外にも良いコンビネーションを見せつつ、気づけば勇者の如き旅を続けるのであった。
◆
なんだかんだで、喧嘩は幾度も重ねながらも様々な場所を旅し、智慧はパイプで殴ったり事件を解決したりパイプで殴打したり事件を解決したりと繰り返し、助手2人をなだめすかしながら一度かの王都へ帰る事にした。
追い出されたことは兎も角、帰れるのかどうかを聞きたいし、どうやらジェインの父が危篤らしいと判明したので本人が苦々しい顔をしているにも関わらず帰ってみる事にしたのだ。
ところが、王都はかつての様子とは掛け離れた陰鬱さで、聞けば国王が暴虐の限りを尽くしているらしい。
「あの野郎」
ぼそりと吐き出された言葉は聴かぬふりをし、3人は王城へと向かった。もちろん帰れと言われたが、そのあたりは王子であるクロフが何やら囁き、ついでにジェインも何事か言って通してもらった。コネと権力とは時に誠意より尊い。
そして王に謁見し、目の前でまた喧嘩を繰り広げた2人を諫めた後、ずばりと「そう、つまり彼は偽物だ」と智慧が歯に衣着せぬ発言をして投獄され、ジェインとクロフが慌ててその証拠を手に入れるため奔走し、真実を見ぬく道具を探し出している間に、牢獄では智慧と国王の間で謎の友情が成立していた。
「哀れだ。王だからといって、何故息子を愛してはならないのかね」
「……いや、しかし……王たるもの、情などもってはならないと」
「ばかばかしい。それだから逃げられるのだよ」
「……謝れるものなら、謝りたい。継承位は低いが、あれは唯一、亡くした前王妃に似ている」
「謝るがいいさ。――さて、種明かしの時間だ」
その時ちょうど、仲間が2人助けにやって来た。智慧は堂々と歩く。幽閉されて足の弱った国王は後ろからふらふら付いてきた。呆れたようにジェインが手を貸し、国王が気まずげに一言謝る。
そして智慧の推理劇が始まり、情け容赦なしに論破され、真実を見抜く見抜かないどうこうの
前に勝手にぶち切れて変化を解いた偽国王を迅速に討伐した。有能な助手が城にばら撒かれたモンスターを討伐しているのを尻目に、名探偵はパイプを振り上げる。
「ていっ」
ぐしゃ、と脳天をかち割る巨大パイプを見て、国王は都合よく認識を改めて「やっぱり勇者でいいや」と一度否定した事実を引っ繰り返し、戦闘後に勇者の装備である大地の兜を授けた。
「やっぱり鳥撃ち帽か……いや、これでアイテムが揃ったな」
「お似合いです」
「ふふ、だろう。これで私も晴れて名探偵らしくなれたよ」
「エルフの愛しき友よ。ぜひともその装備に、これを加えて欲しい」
「何を勝手に求婚してらっしゃいますかこの耳長が。知らないと思って……」
「なっ」
さりげなくエルフの婚姻の証である装飾品を渡そうとしたクロフはしっかり阻止されていた。
王都を出立する間際、ジェインは悩んでいた。ここを出る前、密かに国王――父と会話した。謝罪されたのだが、いまいち納得し難い。――そう、彼はこの国の第三王子だった。
認める訳にはいかないのだ。自分が第三王子である事が分かれば、勇者とはいえお披露目もしていない、事実上のただの平民に傅くなど許されない。
晩年の母を不遇なまま捨て置いた父。その後も、幼い自分に対して冷酷だったし、魔王が現れたと聞けば騎士団を派遣する前に異界の勇者に頼る。そんな父が、国が嫌で、勇者について来たのだ。――しかし、智慧の事だからとうに気づいているのだろう、そう思って口を開こうとする。
ふに、とその唇に智慧の指が押し当てられた。心臓が飛び跳ねる。
「言わないでくれ。私にはまだまだ君が必要だ、ワトソン君」
だからワトソンじゃないしもうむしろ一生必要にしてくれとぶっちゃけたくなったが、旅は続く。
◆
紆余曲折あって漸く魔王城に辿り付いた一行。やっぱり安楽椅子でとごねる智慧を引き摺るように進んで行き、順調に剣で、魔法で、そして鈍器で四天王だ何だという敵を撃破していき、辿り付いた魔王の間。
「さあ、クロフ、ワトソン君」
「こんな時くらい名前で呼んでください」
「ジェイン」
「な、……不意打ちは勘弁してください」
「我侭だな」
「血筋です」
「納得した」
「するな。男の我侭など気持ち悪かろうがこの能面変態男」
「うるさいですよエセ王子」
「なんだと!」
「まあまあまあまあ」
王の御前ですら喧嘩できる連中なので、魔王の前でも当然こうなった。
わあわあと騒ぐ3人に、痺れを切らしたように魔王が怒鳴る。
「うるさいぞ羽虫ども! 私のタリアーナの苦しみを知るがいい!」
「――待ちたまえ。タリアーナと言ったか?」
きらりと智慧の瞳が光る。パイプを咥え、どこからともなく椅子が現れた。これは勇者の乗り物である聖獣(※不定形)が勇者の希望により変化したもので、普段は靴の飾りとしてくっ付いているのだ。智慧曰く、どこでも安楽椅子探偵。
そうして魔王の前でも推理劇が繰り広げられた。
ちなみにタリアーナというのは件のエルフの姫、つまりはクロフの妹の名である。彼女は里を逃げ出したのではなくダークエルフだった魔王と愛の逃避行を試みたのだが、そこに悲しい行き違いがあり、魔王も里も彼女を失う事になった。おおよそ以前の推理と同じ内容になったが、別の視点から見るとこれまた悲劇だった。
そして泣き崩れ、何のために世界征服を、と嘆く魔王の脳天にパイプが直撃した。
歴代勇者の中でも風変わりな勇者チエ・イエクラ。
彼女はケープのついたコートと風変わりな帽子を纏い、世界各地で鮮やかな推理を繰り広げ、時にその聖なる剣で魔物も人も殴り倒し、時に人の王子とエルフの王子の間で揺れ動き、時に安楽椅子で舟を漕ぎ、そうして3人賑やかに旅した末に世界を救った。
晩年は北の地で探偵事務所を開き、毎日のように街の大小様々な事件を解決しつつ、そのパイプでやはり犯人を殴り倒したという。
ちなみに、彼女がどちらの従者を選んだのか、それは伝説にも残っていない。
ネタがぽろっと出てきたので、これはもう書くしかない! と思って、ついでに企画に参加させていただきました。
若干この前の掲示板ものの使いまわしもありますが。
パイプで戦うひとは某漫画に居ますね。よく考えたらそんなにマイナーじゃないのかもしれない。
ノリで書いた割になんだかキャラを気に入ってしまったのでそのうち続編が出たら笑ってやってください。
ついでにいつものキャラクター紹介
●家倉智慧
・元普通の女の子。容姿と口調はさておき、本は人並みに読むくらい。元バレー部。探偵は嗜む程度?
・だんだん役割に引き摺られている気がしてならない。たぶん全部神様のせい!
・勇者として伝説になるものの、英雄譚というより推理小説
・魔王はふんじばってエルフに返還。後はしーらない
・地味に恋愛譚も後世のご夫人に楽しまれている。
●ジェイン・ワルター
・無愛想堅物系王子。騎士。第三王子だけど脳筋寄り。性格がすごく悪い。多分マザコン。
・父親が嫌いに見えるが、実際嫌い。でも死ねと思う程ではない。クロフは死ねと思う。
・普段がちがちに鎧で固めているからか、鎧を脱ぐとなんとなくエロいと王都の娘さん方に人気。下手な神官より禁欲的なオーラが漂っている。が、その実はわりと煩悩まみれ。
・あまりにアプローチが通じないのでそろそろ押し倒そうかなと思っている。
・名前の由来はジョン・H・ワトソン
●クロフ・エルファード
・エルフの王子。性格悪。でもジェインに比べてみれば綺麗な心だと思う。結構一途。シスコンだと思う。
・人望もあるしカリスマもあるし頭もいいし魔法も仕えるのにいきなり出奔。愛に生きるのは妹と同じ?
・愛しき愛しき連呼してることをスルーされ続けているが、めげない。むしろ罠に掛けてでも手に入れようとするが、いつもジェインに阻止されている。
・名前の由来はマイクロフト・ホームズ。ホームズの兄。
●王様
・王妃に「死に顔見たら末代まで祟ります」と言われ、看取ることができず。ヘタレ。
・その結果、息子(特に3番目)には死にそうな母親を放置した父親として最悪の印象を持たれる。上2人はまだいいが、3番目の息子からの心証は最悪。
・新しい王妃と前の王妃をついつい比べては泣かせている。ヘタレ。
・それ以外は普通に威厳のある王様。
●タリアーナ
・ロミジュリ的事情でエルフと魔王に最悪の禍根を残して死亡。その点で言うときっと悪女。
・性格は天然ボケ。よく転び、能天気、ドジ。当然のように予想外の死に方。エルフ「人間め!」魔王「人間め!」……とばっちりである。