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柴田勝家になってブラックな一生を送る

作者:うまひ餃子

 時代考察なんかありません。
 ですので、暇つぶしにでもどうぞ。





 ◇ 弘治二年(一五五六年) ◇


 突然であるが、俺こと柴田勝家は転生者である。
 いやあ、転生したらまさかのビッグネームだったことに驚きましたとも。
 それと同時に何とか未来を変えようと奮闘しましたさ。
 でも、悲しいかな、所詮は凡人の魂、未来の使える知識なんて片手の指の数もなかった。
 火薬を作ろうにも材料はクソが使えるってことぐらいしか知らないし、料理チートやろうにも材料ないし、更に食材名がカオスすぎて断念。傷は綺麗な水と綺麗な布で応急処置するくらいしか、改革は出来んかった。
 そしてお家の方も土豪の一子息に過ぎんのだよな。
 結局何も出来ずこの織田兄弟の元凶信秀のクソ野郎に仕えることになった訳よ。
 んでまぁ、あのクソ野郎バンバン外に仕掛けて戦すんのね、それに付き合うこっちは堪ったもんじゃないよ、全く。
 そんで戦から帰る度に生存本能昂りまくりで、まぁ、子を作る子を作る。
 もう気狂いじゃないかってぐらいの勢いだった。

 で、それだけ子が生まれりゃあ、その分問題が増える訳で、
 まぁ、俺の知っている史実通りに稲生の戦いが起こる。
 信長vs信行の傍迷惑な兄弟喧嘩だ。

 んで、やっぱり負けた。
 だから俺は戦いたくなかったのに。
 信行は決して阿呆ではない。寧ろ優秀な部類の人間だと俺なんかは思う。
 だって色んな知識に明るいし、気立ても決して悪くないし、何より顔が良い。
 ハッキリ言って現代に生まれてりゃあイケメン御曹司って題材でマスコミが放っておかなかっただろうよ。
 しかし、運が悪かった。
 だって信秀の野郎の子なんだもの。
 「尾張の虎」とかいう異名をもらうほどの傑物だ。
 そんな親父の子供らが普通である訳がない。
 ついでに親族たちも普通な訳がない。

 各々が表や裏で潰し合いするんだもの。
 一族でデスゲームとか異常すぎる。
 胃が一つじゃ足りないぐらいの緊迫した状況だった訳。

 で、林の野郎が上手いこと信行の青い部分を煽るんだ、これが。
 最初は信行も林の讒言を拒否してたんだけど、ノブの奇行も重なって、まぁ見事に陥落しちゃった訳。
 で、知らない内に俺は信行の派閥の一人という位置づけになっていて、気付いた時にはもうどうにもならん状況になっていた。
 マジで、林ファ〇キン!

 そんな落ち目な信行派ですが、信行のマッマの土田御前が執り成してくれて何とか事なきを得た。
 しかし、それが信行の最期の燃料に火を点けてしまった。
 自尊心が大きかった信行はそのことにだいぶ誇りが傷つけられたようで、それから事ある毎に信長の悪口に勤しむようになった。
 もうそこに、以前の眉目秀麗な彼の面影はなかった。
 そして、堂々と暗殺宣言なんてしだすから、これは巻き込まれたら堪らんと信長の下へ密書を送った訳。
 卑怯とは言われても仕方ないが、俺も自分の命が大事なのでね。

 それから少しして信行謀殺が行われた。
 あの最期の顔は正直見ていられなかったな。

 そんで、信長だけれどもやっぱりコイツは普通じゃなかった。
 何と言うか、目が人を見ていない、そんな感じだった。
 んで、おべっかや、嘘、誤魔化しには超鋭いったらありゃしない。
 おっかないからあまり近付かないようにしとこ。


 ◇ 永禄一〇年(一五六七年) ◇


 どうやら市姫が浅井長政に嫁ぐらしい。
 俺としては清々した。あのマセガキ、俺が元は信長の敵だったのを知ってか、俺を馬にして笑ったり、信長に嘘チクって、兄に詰問させたりとマジで碌なガキじゃなかった。
 お馬さんごっこの時は信長の野郎も笑ってやがったし、性悪兄妹め!
 仕える主の子だ、怒鳴る訳にもましてや泣かせる訳にもいかない。
 俺は耐えた。ひたすら耐えた。家臣に泣かれようと、他の奴らに笑われ蔑まれようと。

 で、今回の縁談でこの七面倒臭いお役目からも解放されると思うと嬉しくて涙が止まらなかった。
 思いっ切り手も振ってやった。もう帰って来るなよ、と。
 そしたら、織田家内で俺が市姫に懸想していたなどというあらぬ噂がたてられていた。
 この時俺は確かに見た。
 下卑た笑みでこちらを嘲笑う輩を。
 この不名誉な噂の根源こと木下藤吉郎秀吉を。
 俺は誓った、ゼッテーコイツはギャフンと言わせたる、と。

 しかし、俺は気付かなかった。
 この時間が俺の人生において最も緩やかなものであったことに。



 ◇ 元亀元年(一五七〇年) ◇

 浅井君が縁切りしてきた。
 まぁ、妥当だわな。信長おっかねえし。
 後世では信長はお市のことを嫁がせるくらい長政のことを気に入っていた、って意見があるがそれは半分正しい。
 信長は有能な奴には大量の仕事という名の信頼や無理難題を押し付ける。
 無能な奴には何も期待しない。その代わり何かやらかしたら即首チョンパか腹切り~だ。
 前者が長秀、光秀、秀吉、一益などのビッグネームたち。
 奴らは常日頃胃の痛みと戦っているだろう、南無三。
 因みに俺はその中間くらいだろうか。
 戦はそこそこ出来るが、信行の元側近という前科がある。
 信用し切れないのかもしれないし、単に気に食わないのかもしれない。
 けど、俺からすればラッキー以外の何物でもない。
 色々仕事はあるけれど上に挙げた奴らほどの量はない。

 エロ猿めザマーミロや!



 ◇ 元亀四年(一五七三年) ◇

 将軍様がやらかしおった。
 あぽーんなアイツは大声で「ノブをヤロウぜ?」的な事を触れ回っていたらしい。
 つか、俺の所にも手紙きたし。

 「お主、あやつと仲が悪いのであろう?ならば我に味方せよ。褒美は・・・」

 な内容。
 こんなものを書いて寄越すような輩の策があの鬼畜ノブに通じる訳がない。
 ということで、俺はそれをノブに見せた。ノブの野郎、殊もあろうに舌打ちしやがった。
 多分俺が乗らなかったのが悔しいらしい。
 隙を見せたらマジで処す気満々だなと俺は再認識した。やはりノブは鬼畜であると。

 そんで、俺は二条城に引きこもってニート始めた三淵藤英さんを調略しに行った。
 この人細川藤孝の異母兄というのだから吃驚だ。
 そんで、散々俺たちは主君の愚痴を言い合った。
 やれ信長は鬼だとか公方は阿保だとか、まぁ酒が進んだ。
 それが功を奏したのか、みぶっちーは開城してくれた。
 なので、彼にはこっそり酒を贈った。これは忖度ではないです。

 □■

 そして全くエロ猿の奴は気に入らん。
 何か家名を変えるとか言って羽柴を名乗りだした。
 何とも丹羽の「羽」と柴田の「柴」から付けたというじゃマイカ!
 長秀の元にはしっかりと土産を持って挨拶に出向いたらしい。
 因みに俺には朝の挨拶みたく、軽く言ってきただけだ。
 信長のお気に入りだからと少々頭に乗っているようだ。
 よかろう、ならばこちらも徹底抗戦だ。

 ・・・・・・・

 「この度は挨拶が遅れまして大変申し訳ないでさぁ」

 俺の前で猿が頭を下げている。
 クククク、今日の酒は美味しく飲めそうだ。
 ちょっと、「俺ちゃんとした挨拶してもらってないんだよなぁ?」と一人に伝えたところ、どうやらそこから十人、百人と話が広まっていってしまったらしい。
 人の口に戸は立てられぬと言うが恐ろしいのう、なぁ、秀吉ぃぃ?

 「いやいや、さr、ウォッホン、秀吉殿、気を遣わせたようで済まぬな。我らが柴田家の”柴”の一字、どうぞ大事に頼みますぞ?」

 「はっ、はい、そりゃあもちろん」

 笑った顔は作れても、心の内は隠せないようだな。
 こめかみが痙攣しているぞ?

 その日はすごく気分が良かった。
 時は掛かったが、俺のロリコン疑惑を生んだ借り、確かに返させてもらったぞ?



 ◇ 天正二年(一五七四年) ◇

 やられた。
 何がというとみぶっちーに切腹の命が出されたのである。
 その命を出したのは光秀。
 だが、それを指示したのは信長。
 そして、それを画策したのはエロ猿だ。
 足利義昭公の側近として働いていたみぶっちーを信長はあまり好んではいなかった。
 そこにクソ猿が俺と彼が仲が良いことや彼のある事ない事を大袈裟に吹き込んで、信長もこれ幸いとそれをわざと利用したのだ。
 どうやら俺は主君とその信頼厚い同僚から嫌われているようだ。
 まぁ、分かってはいたが、腹が立つな。

 なので、俺は彼を助けることにした。
 みぶっちーの替え玉に切腹させ、彼は名前を変え、俺の元に控えさせた。
 彼の知識を惜しんだ光秀や彼の異母弟である藤孝からの密な願いもあったので俺もこれ幸いとやらせてもらった。
 三淵藤英は死んだんだ、文句ないよな?



 ◇ 天正三年(一五七五年) ◇

 信長さんがまたやらかしやがった。
 越前の守護に前波吉継を置いたが、それに富田長繁が反発し、前波氏を討ち取ってしまう。
 が、その後富田氏が一揆勢と対立し、なんと長繁以下富田家の者たちがほぼほぼ全殺しに遭い、越前は一揆の国となってしまった。正に戦国である。
 で、なんとかその一揆を抑え込むが、俺に越前国八郡をポンと渡し、簗田とかいう影の薄い奴に切り取りを任せて自分はさっさと帰陣しやがったのだ。
 しかし、簗田には荷が重かったらしく、蜂起が起き、信長の機嫌が悪くなるだけだった。
 簗田どんまい。



 ◇ 天正四年(一五七六年) ◇

 なんか北陸方面の一番偉い人に任命されたっぽい。
 槍の又左やら、佐々やら、ふわぁやら、有能な奴らが補佐に入ってくれた。
 助かります。



 ◇ 天正五年(一五七七年) ◇

 猿ホント〇ね。
 義の武将上杉さんが加賀にやって来た。
 もちろん「しーばたくん、あーそーぼー」などという牧歌的な要素は皆無である。
 どちらかというと「こらぁぁ、柴田出て来んかいぃぃ!」って感じだ。

 相手は軍神。戦に関しては日ノ本有数の化け物。
 だから俺は対話での道を模索しようとした。
 それなのにあの猿が何を思ったか、戻ってしまったのである。
 援軍に来たはずなのに。
 援軍を入れても互角に戦えるかどうか、という状況だった。
 そんな中でのこの行動。これにより、趨勢は明らかとなった。

 これにより軍には混乱が生じ、結局対話は行われず、戦いが起こり、こちらにかなりの被害が出た。
 この時ばかりは奴をぶった切ろうとしたが周りに止められた。
 しかし、この戦いで死んだ奴らはもしかしたら死ななくても良かったかもしれないのだ。到底怒りは収まらない。信長にも詰め寄った。多分これまでで初めてのことだろう。

 しかし、猿に罰と言えるほどのものは下されなかった。
 この時からだろう。信長・秀吉と俺の間に決定的な溝が出来たのは。



 ◇ 天正八年(一五八〇年) ◇

 ついに加賀国を平定した。
 長かった。

 と、思っていたら佐久間信盛さんが首になった。
 物理的にではなく、強制辞職からの隠居といった感じか。
 確かに戦績はあまりパッとしなかったから筆頭家老には置いておけなかったのだろう。
 対外的にもあまり好ましくないとの判断があったに違いない。

 そして、何故か俺が筆頭家老になってしまった。
 ふざけんな、俺はそんな柄じゃねぇ。
 佐久間のおっさんの視線が痛い。
 俺悪くないのに。

 あ、これはもしや柴田と佐久間の仲を裂こうとしているのか?
 性格極悪な信長なら有り得る。でも、アイツは合理的だからそれだけではない筈。
 う~む、悩ましい。



 ◇ 天正一〇年(一五八二年) ◇

 信長が死んだ。
 あれだ、本能寺の変ってやつだ。
 ヤったのは光秀ということになっている。
 だけれども、俺は違うと考えている。
 光秀は感情論では動かない奴だ。
 必ず策と、その次、そのまた次の策を用意するような男だ。
 突然引き返して下剋上とは彼が考えるにしては些か杜撰ではなかろうか。

 それに俺は光秀には何度か釘を刺していた。
 アイツも信長に思う所があったのは確かだった。
 仕事が出来なければ怒鳴り散らすし、気に入らないと癇癪を起す。
 そんなブラック上司の直属の部下だ、精神が削られない方が可笑しいのだ。
 そんな光秀に俺は手紙も書いたし贈り物もしてた。
 アイツの返事は機知に富んでいて、尚且つ無学な俺でも分かるくらいに噛み砕いた言葉でそれを伝えてくれた。
 気遣いも十二分に出来る男だったのだ。
 だからこそ、俺はこの悲劇を止められなかったことが悔しかった。

 そして、俺が疑っているのが、中国から引き返しその勢いで光秀を討った秀吉。
 嘘くさいにも程があるが、もうこの事は機内に広まってしまっている。
 今更、異を唱えた所で、こちらの評判に傷が付くのみ。
 だったら、それは黙って受け入れるしかない。

 そして、呆気なく逝った信長に一言。

 「ざまぁねぇな、おい」

 まぁ、墓に甘味と花ぐらいは添えてやるさ。



 ◇ 清須会議 ◇

 で、織田家の今後を決めようってことで開かれたこの会議。
 酷く空気がピりついている。

 「秀吉、そちは我よりも三法師が織田の当主に相応しいと言うのか!」

 信孝うっさい。
 まぁ、普通に考えれば信長の嫡男信忠の子である三法師が妥当だろう。
 その後見につくに相応しい人物がいればの話だが。

 「柴田殿!」

 うるへー。
 こいつ光秀の娘をもらってるって理由で津田信澄ヌッコロそうとした。
 信澄は信行の子である。俺としても謀殺してしまった引け目があったので、これまた三淵方式で替え玉作って死んだことにした。
 信澄は賢い奴で

 「ありがとうございまする」

 とだけお礼を言ってきた。
 複雑な思いも全て呑み込んだ重たい言葉だった。
 彼のことはやり取りを交わしていた伊達家の遠藤基信に任せた。
 ついでに、「対の松には十分にご注意を」と言っておいた。


 話を戻す。
 この信孝だが、どうにも気性が荒い。
 で、放っておくと何しだすか分からんので俺が首根っこを押さえている訳。
 これから世を安寧にしていくにはこの男は相応しくない。
 だから、俺はこいつを抑え込む檻になるのだ。

 が、エロ猿の態度が気に食わない。
 三法師の後ろに控え、我が物顔で威張っている。
 少なくとも俺はそう感じた。
 そして意外なことに信長の忠臣、丹羽長秀、池田恒興の両名が秀吉に何も言わないのである。
 この時点で俺は賤ケ岳ルートの確定を確信した。

 それでも、むざむざやられっぱなしというのも癪に障ったので、信孝を三法師の後見にねじ込んだ。

 「秀吉殿、まさか、信長様のご子息である信孝様を退けて三法師様の後見に、などと宣わることはありませんよなぁ!」

 俺は体がデカい。
 ついでに声もデカい。
 俺のデカい声は部屋の壁をすり抜け外に筒抜けである。
 つまり、運悪く外の誰かに聞かれようものなら、それが公然の秘として知れ渡る訳で

 「も、もちろんですとも。そのようなこと考えもつきませんでしたなぁ」

 と顔をヒクつかせながら笑顔で返して来たのであった。
 あー、今日は美味い酒が飲めそうだ、と思っていたがそうは問屋が卸さなかった。

 難題が俺に襲い掛かって来たのだ。
 市姫の処遇という超難題が。

 皆が彼女を押し付け合った。
 亡き信長公の妹御で、絶世の美女、しかし、性格最悪。更には滅んだ浅井家の血を引く娘ら。
 こんな不良物件誰も欲しがる筈もない。
 ここで下手に手を上げれば天下を狙っているのではと疑られるし、何より既に正室を持っている男たちからすれば奥に爆弾を放り込むようなものなのだ。
 安心して女を抱けやしなくなってしまう。
 そして、奴らは何を思ったか俺に全部押し付けて気やがった。

 「柴田殿は伴侶がいないですし、いかがでしょう?」
 「おお、それはいい!鬼柴田ならば、お市様とも釣り合いが取れましょう!」

 何とも勝手な奴らである。
 しかし、俺はあんな疫病神欲しくない。
 元々は、アイツのせいで女性不信が強まってこれまで縁がなかったのだ。
 あの地獄を俺は二度と味わいたくない。
 しかし、そんな必死に抗う俺に悪魔が爆弾を落っことして行きやがった。

 「そう言えば、柴田様は昔、市様を大変お慕いしていらしましたな。それながら、その謙遜、いやはや、美しい愛ですなぁ」

 俺は怒りに任せてこのエロ猿をヌッコロしたくなった。
 そして、その猿の言に皆が肩をがっちり組んでしまい、俺は過酷な未来を受け入れざるを得なくなってしまった。

 俺は誓った。
 猿に一泡吹かせることを。



 ◇ 清須会議後 ◇

 清須会議の後、俺とエロ猿の対立はより明確に表れ始めた。
 猿は独自に織田家の諸大名にロビー活動ならぬ挨拶運動を実行。
 着々と味方を増やしていった。
 で、逆にエロ猿のことを気に食わない奴らがこれまた何を思ったか俺の元に集まり始めたのだ。
 で、よくよく聞くと理介(佐久間盛政)や他の重臣たちが動いているらしい。

 ちょっとお前ら何勝手に戦争準備してんの?
 主に報告せずにやるとか君たち下剋上かい?
 俺をヌッコロしたいのかい?
 え?殿は何もしないから代わりにって。おどれらちょいと俺のこと舐めすぎじゃろうが!
 こうなったら相撲じゃ、誰が一番強いかはっきりさせたろうやないかボケェ!

 拙者は準決勝敗退でした。
 ぐぬぬ勝介(毛受勝照)めぇ。
 主君を思い切り放りよってからに、減給じゃ!

 などとはっちゃけていたら、エロ猿の奴にやられた。
 こっちが雪で動けない中、長浜城を攻略し、岐阜城まで軍を進め、信孝を降伏させたのである。
 ま、言いたくないけど、有能な将が向こうにはわんさかいるし、アイツはそう言う輩を懐に入れる技術がとんでもないのだ。
 未来で営業マンになったら多分情〇大陸やプ〇フェッショナルに出演できるだろう。
 俺は死んでも見ないけどな。

 そんで、どうにもうちの与力にもエロ猿の魔のゴッドフィンガーが届いている者がいるっぽい。
 そういう奴らはもう先に言っておこう。もし、向こうに行きたいのなら戦が始まる前に移れと。
 まぁ、素直にはーいなどと言う輩はいないだろうけど。



 ◇ 天正十一年(一五八三年) ◇

 そしたらなんと、滝川マンが秀吉に対して挙兵した。
 どうやら陰で、「地味」だの、「薄い」だの言われてたのが気に入らなかったらしい。
 沸点低すぎだろ、と思わなくもなかったが、秀吉のことは気に食わなかったので「サンキュー」と手紙を出した。
 そしたら、「テメーも早く参戦しろや」と帰って来たので仕方なく俺は腰を上げた。
 最近本気で腰が痛い。

 俺は理介(佐久間盛政)に任せたが、アイツ血の海を見てヒャッハーしてしまったらしく、引き際を違えたという。若いな、やはり、あいつはまだまだこれからだと思った。
 で、更に前田利家、金森長近、不破金近、らが次々と戦線を離脱するというまさかの吃驚仰天。
 まぁ、よくよく考えると利家って豊臣政権で五大老だったな、と今頃思い出す罠。
 そして、秀吉とは家族で付き合いがあったことも今更記憶がフラッシュバック。
 草によると、撤退の際、泣いていたと聞きアイツもアイツで苦しかったんだなぁ、と納得してしまった。

 草には呆れられたので一発殴ろうとしたが、避けられた。
 腹が立ったので、そいつの嫁さんにこっそりちくってやった。



 ◇ 最期の時 ◇


 「市、悪く思うな」

 「か、かついえどの、な、なぜ」

 女の声は途切れ二つの影の内の一つが崩れ去る。
 火は轟々と燃え盛り、勢いは未だ衰えず。
 ルイスフロイスも褒め称えた越前北ノ庄城内には火が放たれ最早どうやった所で取り返しはつかないものとなっていた。

 「誰かおるか」

 「ここに」

 声の主は中村聞荷斎という男であった。
 後世では柴田勝家の介錯をしたと言われる人物である。

 「お主か、他には」

 「毛受勝照殿が」

 「なに?」

 「・・・」

 そこには無言の毛受勝照がいた。
 しかし、おかしい。彼は賤ケ岳の戦いで敗れた勝家が逃げる時間を稼ぐため殿についていた筈だった。
 もし、彼が役目を果たしていれば、彼はこの世にいない筈であった。しかし、自ら買って出た役をこの若武者がほっぽりだして逃げるとは到底思えない。
 そして僅か数百の殿で彼が生き残れる筈もない。つまり、

 「主も生かされたか」

 「・・・はい、お恥ずかしながら兄に不意を突かれまして」

 そう喋る若者の固く握った手からは赤黒い涙が零れていた。
 彼の兄、茂左衛門も彼に負けず劣らずの好漢であった。

 「そうか、ならばそんなお主に最期の役目を申す。必ずややり遂げてみせよ」

 「ハハッ!」

 「市と子らを連れて猿に降れ」

 「ハッ・・・何を!」

 「一度恥を掻いたのだ二度も三度も大して変わるまいよ」

 勝家は意地悪く笑う。
 その顔つきは童のようなあどけなさが残っていた。

 「しかし!」

 「しかしも案山子もあるか。お主はこの掛かれ柴田の望みを叶えられんと、そう言うのか?」

 「殿ッ、それとこれとは話が」

 「何も違うまいよ。老兵は死してただ去るのみよ。それとまだ残っている者らにも伝えておけ。儂の後を追うような真似をした者はあの世で絶対に仲間に入れてやらんとな。地に伏せ、泥に塗れようと生きろと、決して折れるなと、それこそがこの勝家が唯一日ノ本の誰にも傷つけられぬ誇りとなるのだとな」

 勝家の顔はそんな未来を思ってか大変綻んでいた。

 「はっ、ははぁ!」

 「特に理介辺りには徹底しておけ、アイツは天下無敵の頑固者だからな!ガハハハ」

 理介とは佐久間盛政の幼名で、勝家は日頃よりそう呼んでいる。
 しかし、当の本人は子ども扱いされているようであまり好んではいない。

 ガタガタガタァーッ!

 城内もそろそろ限界だと悲鳴を上げている。

 「行けっ、最早一刻の猶予もあるまいてからに」

 勝家は急かす。
 早く行けと部下の尻を叩くのである。

 「殿ッ!これにて失礼致します。そちらに行くまで今しばらくお待ち下され」

 「おうよ。さっさと来るなよ?お前はまだ若い、星の数いる女の一分でも抱けたらあの世で褒美をくれてやるからな。期待してろ?」

 主の悪童のような笑みに勝介は涙を必死に堪えながら市を担いでその場を退いた。
 残ったのは城の主と腹心が一人。
 ふと男は呟いた。

 「あー、やっぱり歴史を変えるってのはムズイわ」

 頭を掻きながら更に男は呟く。
 臣は黙ったままであった。

 「まぁ、でもお市がついてりゃ淀殿誕生は防げんだろ、勝介や理介もいるし。ああ、それなら丹羽とか池田にでも根回ししとけば良かったか。か~っ、もう後の祭りだっつの!」

 「殿、殿はご立派であられましたぞ」

 その声は優しくまるで親が子を褒める様な響きを持っていた。

 「やめてくれ、恥ずかしい。それより、お主の意は変わらぬのだな?」

 勝家の瞳には親に無理を縋る子のような色があった。

 「何を仰りますか。この三淵藤英、いえ、中村聞荷斎、いつまでも権六様のお傍におります。これは権六様のお言葉を借りれば運命でございます。例え仏が某を罰しようと、鬼が某の肉に噛み付こうと、この決意、決して変えられるものでは御座いません」

 相変わらずの舌のキレだな、と勝家は苦笑する。

 メキメキと音を立て城が崩れていく。
 そんな様を何処か他人事のように勝家は眺めていた。

 「にしてもあのエロ猿め、こうなったら呪ってやろう。そうだな不勃の呪いなんて良さそうだ」

 嬉々として勝家は笑う。
 その顔が暗くなることはない。
 それにつられて聞荷斎も笑う。

 「俺は最後まで笑ってやるぞ。エロ猿、残念だったな」

 「全く、豊臣殿にも同情致しましょう」

 二人の男たちは声を揃えて笑った。
 男たちの上に燃え上がる丸太が降り注ぐ。

 「あばよ、テメェら、楽しかったぜ」

 その声が途切れると同時に大きな音をたてて城は崩れていった。


 天正十一年六月十四日、柴田修理進勝家という一人の侍がこの世を去った。
 それに多くの者達が涙を流し、その死を惜しんだという。



 ◇ エロ猿 ◇

 「のうのう、茶々よ、儂の側室にならんか?」

 「お断りいたします。秀吉様は義父上の仇でありますし、大変女子がお好きと聞いております。私そのような御方は遠慮したく」
 「帰れ性獣!」
 「女子の敵!」

 浅井三姉妹、茶々、初、江は短い間ながらも勝家より、秀吉の悪口をこれでもかと聞き続け、すっかりこの天下人を警戒してしまっていた。
 しかも、それが虚々実々なので余計質が悪く、完全に否定できない秀吉である。
 因みに上の言は茶々、初、江の順である。

 ここに勝家の目論見は上手くいったと言って良い。
 秀吉は臣からも茶々の室入りは危険視されており、現状では秀吉が我儘を言っている形となっている。
 それに彼女たちには多くの柴田家元家臣が付いており、そうそうおイタも出来ない。
 正にどうしようもない状況であった。

 「くそぉ~、あの突撃馬鹿めぇ~、死んでも祟りおって~」

 もし、この様子を勝家が見ていたならば、手を叩いて大笑いしたに違いない。
 「ザマーミロ」とでも言っただろうか。
 最後の最後で彼の執念の嫌がらせは華を開いたのである。


 柴田勝家はブラックな上司、ダークな同僚に嫌がらせとも言うべき仕打ちを受けながらも見事にその爪痕を残したのであった。

 

 タグにもある通り参考資料は全てウィキです。
 所々に作者の妄想などが入り、史実と大筋は一緒でも幾つか異なる点があります。
 もしも、そこら辺を楽しんでいただけたのならば、幸いです。
 御拝読いただきありがとうございました。

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