挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

83/845

伝承の魔法

「船が沈んで無人島生活が始まるとかでは無かったのが幸いか」
「とんでもない事を言っているぞ」
「冗談じゃありませんよ」
「とにかく、今日は早めに宿へ行こうぜ。メンバーチェンジの日程を聞かなきゃ始まらないんだろ?」

 そういや、女王が紹介した宿へ行くのと、島の管理をしている貴族への挨拶をしなくちゃ行けなかったんだっけ。
 辺境とはいえ、人が頻繁に訪れる土地だから程々に地位のある人物だろうな。

「ようこそいらっしゃいました四聖の勇者とその一行の皆様」

 港で他の勇者たちが回復するのを待っていると、観光案内員みたいな旗を持った怪しい奴が俺達の方へ近づいてきて言う。
 見た目はメルロマルクの軍服を着ていて、渋い初老のおっさんなのだけど……旗が似合わない。

「私、このカルミラ諸島の地を任されておりますハーベンブルグ伯爵と申します」
「は、はぁ……」

 勇者の中で全快なのは俺だけなので、率先して相手をする。

「以後お見知りおきを」
「ああ……よろしく」

 各々の勇者がハーベンブルグ伯爵と名乗った案内員に挨拶をする。

「では、勇者様方にはこのカルミラ諸島の始まりから知っていただきましょう」

 えー……。
 本当に案内員だったよ。そういうのは面倒だから嫌なんだが。

「別に俺達は観光で来たわけじゃないのだが……」

 活性化していて経験値が美味しいらしいから来たと言うのに、島の伝承から教わるって……観光旅行じゃないっての。

「まあまあ、古くは伝承の四聖勇者がここで身体を鍛えたというのが始まりでして――」

 なんか広場みたいな島の市場を案内しつつ、伯爵は説明していく。
 その途中で変なオブジェを見つけた。
 サンタ帽子を付けたペンギンと、ウサギと、リスと、イヌ? がトーテムポールみたいに四匹折り重なっている銅像が飾られている。
 ペンギンが釣竿、ウサギがクワ、リスがノコギリ、イヌがロープを持って構えている。
 なんだあれ?

「お? 盾の勇者様はお目が高い。あれはこの島を開拓した伝説の先住民であるペックル、ウサウニー、リスーカ、イヌルトです」

 どれも日本語っぽい。いや、伝説の武器の力で翻訳してもらっているのだろうが……。

「ちなみに名前の由来は四聖の勇者様が付けたという伝承があります」

 四聖の勇者センスねー。
 あ、伯爵がまだ話を続けている。

「仲良くなった魔物だったそうなのですが、勇者様の世界基準で一番近い動物の名前を聞いて自ら名づけたそうです」

 どっちにしろ酷いセンスだ。
 もう少しどうにかならなかったんだろうか。

「じゃあこの島に、あんなのがいるのか?」
「いえ、開拓を終え。新たな地へ旅立ったそうです。その後、姿を見たものは居ません」

 ……要するに絶滅したんだろ、きっと。
 実在も怪しまれるな。そもそも開拓する魔物って……。

「へー……なんか美味しそうだね」

 フィーロが涎を垂らしながら言った。
 ……よく考えて見れば、馬車を引くことを至上の喜びにしている魔物がいるんだしなぁ。
 いても不思議じゃないか。
 と思っていると、そのオブジェの隣にある石碑が目に入る。

「あれはなんだ?」
「四聖勇者が残した碑文だそうです」
「ほう」

 徐に近付く。
 四聖の勇者って事は俺達と同じく日本人である可能性が高い。
 日本人でなくても地球のどこかから呼ばれた奴等なら少しは有意義な情報を得られるかも。
 日本語で何か書かれていたりしないかな?
 何々……。

「おい。日本語じゃないぞ。偽物だこれ!」

 他の勇者たちも碑文に近寄り、読めないのを確認する。

「おかしいですねぇ……新たな勇者が現れた時に備えて記すと伝承があるのですが……」
「……ふざけているのか? この世界の魔法文字だぞ」

 魔法文字……これはかなり悩まされるんだよな。人に教えてもらって覚えられるような文字じゃないんだ。
 なんていうか、人によって答えの変わる文字。それが魔法文字だ。
 例えば、ラフタリアの幻を使う魔法書を適正の無い俺が読んだ場合、解読できない。訳するとおかしな言葉になる。
 だけどラフタリアはしっかり読み解いて、魔法として発言できる。
 共通語の魔法文字もあるのだけど、その先の実践的な物となると適性がないと読めないのだ。

「お前、読めるのか?」
「水晶玉頼りのお前等じゃ読めないだろうが、俺はクズの所為で不遇だったからな。読めなきゃ覚えられなかったんだよ」
「なんて書いてあるんだ?」
「えっと……」

 魔力をかざしながら碑文を読み解いていく。
 案外簡単な言葉で書かれているなぁ。

『力の根源たる……盾の勇者が命ずる。伝承を今一度読み解き、彼の者の全てを支えよ』
「ツヴァイト・オーラ……」

 対象が指名できる。そうだな……とりあえずフィーロに掛けてみるか。
 フィーロに向けて手をかざすと、ぼんやりとフィーロの周りに透明な魔法の膜が出現した。

「わ! なんか力がみなぎる!」

 ピョンピョンとフィーロが跳ね回る。
 人型なのに、高く跳ねているな。
 ステータスを見ると全ステータスが向上している。

「オーラ……伝説の勇者が使用する。全能力値上昇魔法の系譜です」

 樹の仲間がボソッと呟く。
 そんな伝承があるのか。

「すげぇ! 俺達も覚えようぜ!」

 魔法を習得とかゲーム感覚のコイツ等がこぞって碑文を読もうとする。
 しかし。

「あれ……読めない」
「そりゃあお前等、魔法言語理解して無いだろ?」

 水晶玉で楽々習得しているコイツ等が簡単に覚えたらそれはそれで悔しい。

「尚文さん」

 樹が俺に顔を向けて名前を呼ぶ。

「なんだ?」
「魔法言語理解の効果のある盾は何処で手に入るのですか?」
「自力で覚えたんだよ! 何でも武器に頼るな!」
「出し惜しみですね!」
「そうだそうだ! 教えろ!」

 まったく、コイツ等は……。
 異界言語理解とかも聞いてきそうだ。
 人の努力を武器の力で解決したとか思っているんだろうな。

「俺はオーラって魔法を覚えたが、お前等が同じ魔法を使えるとは限らないぞ」
「それもそうですね。僕達の場合はもっと良い魔法かもしれません」

 むかつく言い回しだ。
 俺を格下だと思っているのがバレバレだ。ほんと上からの物言いがウザイな。教皇相手に碌に戦えなかった癖に。
 ムキになったら負けだ。

「次に行くか、他に何があるんだ?」
「では宿に行くまでのカルミラ諸島での注意事項についてと移動手段を――」

 伯爵の話を掻い摘んで説明する。
 カルミラ島の魔物の生息地は今、活発化していて、魔物の生活サイクルが加速しているそうだ。
 鼠算式に魔物が増殖を繰り返している為、冒険者や勇者に討伐してもらわなければ非常に困るという状況だ。
 俺達はその状況に便乗してLvを上げるのが今回の目的だそうだ。
 だから、できれば魔物を見たら全てを倒して頂けるとありがたい。

 他の冒険者に道を譲るような真似はしなくても良いが、他の冒険者が戦っている所に乱入すると要らぬ騒ぎが起こるので控えて欲しいとの事。
 ……ネットゲームのマナーみたいな講習だったな。
 移動手段は島内の場合は小型の小船が常にあり、運んでもらえるらしい。最悪、泳いでも渡れるそうだ。


 女王の用意した宿は今でも最上級クラスの建物だった。
 俺が今まで寝泊りしていた宿とは比べるまでも無く……俺の世界でいう所のホテルに匹敵する建物だ。
 ……元々は城か何かなのだろうか?
 とにかく豪華な作りに清潔な雰囲気。壁は大理石のような石材で作られていて、光沢がある。
 何かの石像が噴水の役目を果たしていて、どうにも異世界にいるという感覚を薄ませる。

 俺はハワイに来たのか?
 そんな錯覚を覚えるかのような豪華な絨毯が敷かれている道を歩いて、部屋に案内された。
 荷物はこの宿が責任を持って預かるとかで、フィーロの馬車も預かってもらった。

「ではこれからの日程を説明するでごじゃる」

 しばらくすると聞き覚えのある喋り方をする影がメルティに変装してやってきた。

「メルティ?」
「ごしゅじんさま、メルちゃんじゃないよ?」
「そうでごじゃる」
「……お前か」

 紛らわしい格好だ。一瞬、隠れて付いてきたのかと本気で思った。
 身長までも偽れるとかどんな変装だとツッコミを入れるべきか迷う。

「そうでごじゃる。拙者、盾の勇者殿の専属の影に任命されたでごじゃる」
「よりによってお前か……というかなんでメルティに変装している」
「そこは盾の勇者殿が親しみを覚えやすいようにでごじゃる」
「むしろ気持ち悪いからやめろ」
「分かったでごじゃる」

 影は服を脱ぐようにメルティの変装をやめて、忍者みたいな服装に戻る。
 知り合いの顔が皮の様に剥がれるって気持ち悪いな。

「というか……お前の語尾なんなんだ?」
「ごじゃる?」
「それだ」
「口癖でごじゃる。必要になったらやめれるでごじゃるよ」

 そういえば、俺に賞金が掛かった時、村人に変装して協力してくれていたんだったな。
 あの時はまったく気付かなかった。

「どうもこの口癖の所為でメルティ王女に気に入られて王女の専属を任命されていたのでごじゃるが」
「ああ、他の影に比べて分かりやすいものな」
「……個人を特定できると思わない方が良いでごじゃるよ」

 なんだ? 妙に怪しげな発言だな。まるであの時の影とは別人みたいな表現だ。
 まあ普通に考えれば不特定多数である影に特徴があるのは不味いよな。

「あの時の影とは違うのか?」
「間違ってないでごじゃる」
「……」

 めんどくせー!

「拙者の口癖だけを頼りにしていると入れ替わっても気付かないでごじゃると注意しただけでごじゃる」
「はいはい」

 別に覚えようとも思わない。
 何よりも覚えたからといって何が変わる訳でもない。

「話は戻るでごじゃるが、これからの日程を説明するでごじゃる」
「ああ……所で人員交換ってさ、それぞれの勇者の同意が必要なんだろ?」
「盾の勇者殿は同意しないでごじゃる?」
「いや……だが」

 他の勇者が嫌がるだろ。
 元康は分からないが、錬や樹は秘匿癖があるように思える。
 実際、何をしているのか今一分からない奴等だし。
 こういう情報が漏れるような出来事は好まない可能性が高い。

「他の勇者殿達の了承は受けているでごじゃる」
「何?」
「だから既に了承しているでごじゃるよ」
「ふむ……」

 思いのほか呆気ないほどあいつ等が協力的だ。
 俺の思い違いか?
 冷静を気取って、碌に教えないタイプだと思っていたのだが……。

「拙者や影、女王は他の勇者殿達は盾の勇者殿の仲間や強さに関心を示していると推理しているでごじゃる」
「まあ……」

 考えてみれば、奴等の基準では俺は弱職な訳だし、それが大活躍をしていたら知りたくもなるか。
 大活躍と言ってもカースシリーズは代償も大きいから微妙な線だが。

「特に勇者殿はみんなフィーロ殿に関心を集めております」
「なるほどね」

 確かにフィーロは規格外に強く見えるのだろう。
 戦闘力はグラスの分析だと錬に匹敵するとか言っていたし、魔法も使えて動きも早いとなると強さの秘密も知りたくなるか……。

「ふえ?」

 眠いのかうつらうつらしていたフィーロが俺の方を見る。
 というか……あいつ等の関心って実はフィーロに集約していたりして……。
 何かイラついてきた。
 さすがに思い違いだと思いたい。

「で? 人員交換と情報交換は何時やるんだ?」
「それぞれの勇者殿にアンケートをしたでごじゃるが、どうも盾の勇者殿以外の勇者殿は人員交換を先にして欲しいそうでごじゃる」
「……情報交換は不要か」

 カルミラ島の効率的な周り方とかを聞きたかったが……あいつらに尋ねると言うのもシャクだ。

「嫌がらせに情報交換を先にしても良いが、こじれると厄介だ。望み通りにするか」
「一応、人員交換終了の日に情報交換はする手はずでごじゃる」
「分かった。で、どういう順番で何日ここに滞在するんだ?」
「全体行程で12日。始めの6日が人員交換を行うでごじゃる。盾の勇者殿が望めば直ぐにでも人員交換は出来るでごじゃる」
「そうか……今からとは早いな」
「時間がもったいないでごじゃるからな」
「……さっき、観光旅行みたいな案内を受けたのだが」
「それはしょうがないでごじゃる。盾の勇者殿はおそらく知らないと分析したので案内を依頼したでごじゃる。では交換の順番を説明するでごじゃる」

 影の話ではこうだ。人員を丸ごと交換するらしく、移動はそれぞれの勇者がするらしい。
 俺が行く先は元康→錬→樹の順番だそうだ。ラフタリア達も同じらしい。

「いきなりビッチと同じとはどんな罰ゲームだ?」
「既に到着から半日が経過しているでごじゃる。よく考えるでごじゃるよ」

 なるほど、ビッチとパーティーを組むのは他の奴等にくらべて短い。
 ちゃんと考えてはいるんだな。

「じゃあ行って来る。お前らも頑張れよ」

 部屋の戸に手を掛けてラフタリアとフィーロに注意する。
 パーティーは一時解散状態にする。まあ、奴隷用の項目があるわけだけど。

「はい……」

 不安そうにラフタリアは頷き、フィーロは何が起こるのかあんまり理解していないようだ。

「来るのは元康だ。注意しろよ。奴は下半身でしか生きていない。絶対に許しちゃいけないぞ。フィーロ、奴が問題を起こしたら蹴り飛ばせ」
「はーい」
「ナオフミ様……さすがにそれは……」

 とは言いつつ、ラフタリアも落ち着きが無い様子だ。
 今までも、そしてこれからも槍の勇者といえば俺達の敵だからな。武者震いって奴だろう。
 これまでアイツ等に受けて来た事を考えれば和解なんてありえない。
 今回は敵情視察と思って我慢しながら元康の仲間を分析するとしよう。

「では案内するでごじゃる」

 不安が拭えないが……行くしかあるまい。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ