挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

78/835

契約

 召還されて三日後の事を思い出す。
 確かあの頃は、冤罪を掛けられたばかりで人を信用するという事を考えていなかった時期だ。
 しかも仲間にしてくれとか言う騙そうとしてくる連中ばかりでウンザリとしていた。
 ……え?
 もしかしてあの中で、本当に俺を思って勧誘していた連中がいたのか?
 なんか凄く上手い話を持ってくる奴が居て、嘘を付いていると信じきっていたが……。

「俺に関わるな!」

 って言って、分かりましたって敬礼した奴が居た様な……。
 え?
 じゃあシルトヴェルトの連中って、俺が関わるなって言ったから接触をしてこなかったのか!?
 他にも断りまくったから……?

 くそおおおおおおおおおおお!

 俺は膝をついて頭を垂れる。

「さすがに私も困りましたよ。しかもイワタニ様は様々な所で犯罪紛いの問題を起こし続けましたから」
「う……」

 女王の奴、俺にも思う所があるのだろう。詰問の声が厳しい。

「まあ、お陰で私も嘘八百で乗り越えられた局面もありましたが」
「……なんだ?」
「勇者は我が国の膿を取り去る為に、活動中です。とね」

 結果的に見れば成功だろう。

「イワタニ様が国内で他の勇者が起こした問題を解決したのが決定的でした」

 他の勇者が問題を起こし、その火消しを俺がしたとなれば国中の信仰は揺らぐ。

「後は四聖教と協力し、三勇教の権力を失墜させる、それまでの間に盾の勇者を語る犯罪者が世界中に現れましたが、嘘だと丸わかりでした」

 三勇教も手段を選ばないな。

「他の勇者は何で知らなかったんだ?」
「槍はビッチが近くにいますし、剣、弓はギルド経由で偽情報を掴まされていたようですね」

 先に教わった事を信頼する……か。
 判断材料が少なければそうなるよな。
 知っていたら断るだろうし、俺に肩を持つだろう。
 知らないから、あんなに考えなしなんだ。

「じゃあ次、ラフタリア……じゃないな、奴隷商を紹介したのはお前か?」
「暗部に指示を出したという意味では正解ですね。その奴隷商がどのような人物かは知りかねます」

 そういえばアイツ、初めてあった時、今考えるとおかしい事を言っているな。

『勇者を奴隷として欲しいと言うお客様はおりましたし、私も可能性の一つとして勇者様にお近付きしましたが、考えを改めましたよ。はい』

 奴が初めて俺に会った時に呟いていた言葉の一つだ。
 勇者を奴隷として欲しい。そんな奴がこの国に居るのかは別としても、おかしい。

「経緯に関しては聞いていますよ。考えても見てください。奴隷が銀貨20枚前後で買えると思いますか?」
「そこは……知らないが」

 怪しまれない範囲で割引していたと考えると、あの奴隷はもう少し値段が高かったと見ていいだろう。
 狼男の値段に付いても怪しいもんだ。
 あそこを基準にすると、他の店が格段に高く見える……。
 まったく、あの奴隷商、とんでもない奴だ。
 援助を受けていて話さないとは。

「どんな経緯があっても私はナオフミ様に出会えた事を感謝しています」

 ラフタリアはそう言って微笑む。
 ……そうだな。どんな経緯があったとしても、俺がラフタリアを奴隷商から買った。
 ラフタリア自身に裏が無いのなら問題は無い。
 何より、ラフタリアは俺と出会えなかったら、おそらく死んでいるだろう。

 あの時、ラフタリアと並んで売られていた奴隷はきっと、使い潰す為に売られた。
 使い潰した頃には多少の金銭が貯まる。その時に、売るべき奴隷を売りつける。
 最初から優秀な奴隷を安く売りつけたら俺は怪しんだ可能性が高い。
 だが、予想を裏切り、ラフタリアは一級品に成長した……という所か。
 よく考えていることだ。あの奴隷商。

「じゃあ次だ。お前が国に来れなかった理由は?」
「これまでの話で分かると思います。さすがの私も我慢の限界でしたからね。オルト……クズがメルティに会いたいと駄々を捏ねた所で罠を掛けたのですよ。三勇教の包囲網も完成しつつありましたので」

 手回しの良いことで……。振り回された俺は散々だな。

「まさか四聖武器の複製品を所持しているとは思いませんでした」

 あの武器を持っているかもしれないなんて、事前に察知していたとしても……難しいだろうなぁ。

「教皇も愚かな男です……イワタニ様の攻撃を受けた時、複製品を盾に変えれば命だけは助かったかもしれないものを……」
「やはり盾にもなれるのか」
「はい。但し、本来の勇者の力の4分の1出たら良い方だという話も聞きます」
「あれで4分の1なのか?」

 俺達が成長するとあれの4倍になる……盛りすぎだろう。
 どうせ、失われた伝承が一人歩きしているとか、そんな所だ。

「そして私の夫……我が国が宿敵、シルトヴェルトと争ったのはずいぶん昔、クズも長い平和で腑抜けてしまいましてね。有能でしたが、今は人が嫌がる事だけに知恵が回るのですよ」

 ああ……やっぱり俺にシルトヴェルトに行って欲しくないからあんな警備網を張っていたのか。
 もしかするとクズではなく、こいつが国境に騎士団を集結させていたんじゃないのか?
 まあ良い。今話さなければいけないのは別にある。

「後は……そうですね。私が出来る限りの範囲でイワタニ様に援助していきたいと思っております。それでもシルトヴェルトへ行って真実を話、戦争を起こしたいですか?」
「むー……」

 女王が俺を何と思っていても、擁護しなくてはいけないという事か。
 だがな……。

「ちなみにシルトヴェルトにしろシルドフリーデンにしろ、イワタニ様が行った場合はどうなるか、一応お教えしましょう」
「ん?」

 女王の奴、何を話すつもりだ。

「まず、イワタニ様に姫、貴族の令嬢、様々な種族の亜人女性が関係を迫り、ハーレムが形成されるでしょう」
「気色悪い!」

 ビッチの所為でそういうのは吐き気がする。
 下心満載の女なんて近寄りたくも無い。

「望むものなら何でも手に入るでしょう。わが国を攻め落とせと指示すれば国民は喜んで死地へと赴くでしょうね」

 うむ……それは良いかもしれない。だけどハーレムはなぁ……。
 我慢すれば……。

「ここまでは良いでしょう。ですが、どの国も権力者と信仰は黒く染まるものです」
「は?」
「原因不明の病に冒され……哀れにもイワタニ様は」
「……良く分かるな」
「過去に四聖の伝説外で呼び出された盾の勇者の末路ですよ」

 これは聞きたくなかった。

「ちなみに、イワタニ様に嘘の勧誘を迫った冒険者がいましたよね」
「……ああ」

 この世界に来て数日の事だったな。

「その冒険者は数日後に無残な死体で発見されていますよ」
「ゲ!?」
「後、サインを迫った我が国の兵士が居たと思います」
「ああ」

 何か欲しがったからしてやったけど……まさか。

「死んだのか!?」

 アイツ等はちゃんと仕事をしてくれた。なのにそんな結末だったら嫌だぞ。

「いえ……ですが、イワタニ様のサインが書き込まれた服を紛失したそうです。連日ストーカー紛いの連中に付きまとわれたそうですよ」

 うわぁ……すっげー迷惑掛けちゃってる。

「見つかったのは闇のオークションで高額で落札された後ですけどね」

 後で会ったら謝るとしよう。

「イワタニ様に協力した兵士の擁護も私がしました」
「ああ、だからお咎めなかったのか」
「そして、騎士団長は何者かに襲われ、死にました。犯人はまだ捕まっていません。おそらくは……」

 シルトヴェルトって過激な国だと断定する。
 なんていうか……シルトヴェルトに行ったら天国と地獄が同時にやってくるわけか。
 無論、女王の話が全て正しいとも限らないが。

「それよりも、自身で信頼を築いたこの国に留まる事の方が安全な策だと思いますが」
「…………」

 だが、協力する理由は何も無い。
 今まで受けてきた苦痛はこの程度で消える物ではないし、いくら女王が権力を使って言い繕った所で、納得もできない。
 女王が先程までしていた懲罰と説明は間接的に関わっているとはいえ、国の権力者として当たり前の事をしただけだ。
 それなのにまるで恩情を与えた、手伝え、というのは虫が良すぎる。
 何より俺はコイツの能力は認めているが信用はしていない。
 言葉では何とでも言える。
 俺が別の国に行かれるのが困るから、ここまでしたに過ぎない。
 それにコイツの理屈が正しいのなら、シルトヴェルトやシルドフリーデンに関わらず、どの国でも厚待遇は受けられる。
 メルロマルクだけ特別な訳じゃない。

「…………」

 これからの事を考え込んでいると女王は俺の目の前で正座した。

「これまでイワタニ様が受けた被害の責任は全て私にあります。虫の良い話だとは重々承知しております。ですが、私には……いえ、この国には貴方に頼る以外の道がもう何も残っていないのです。私の首を差し出せば怒りを納めてくれると仰るのなら、喜んで差し出しましょう。名を改めよと言うのなら改めましょう。ですから、どうか猶予をお与えください。これまでの様な不遇な扱いはミレリア=Q=メルロマルクの名に掛けて必ず阻止し、魔法契約を致した上で更に優遇すると誓います」

 そして女王は深く頭を下げた。
 この光景にメルティは完全に絶句し、それに続いてラフタリアも目を丸くしている。
 フィーロも、さすがに周りの空気から何か凄い事が起こったのを察知したみたいだ。

 コイツは……本当に国の事しか考えていない。
 クズとビッチは強権を使ってでも生かしておきながら、自分は死んでも良いとほざく。
 それだけメルロマルクは世界的に危うい状況にいるという事か。

 つまりこの国の命運は俺の手に委ねられている。
 やろうと思えば世界中を嗾けて、メルロマルクを滅ぼす事も可能だろう。
 しかし――

「一度だけだ」
「と仰いますと?」
「前にお前の所の影が俺の配下の命を救っている」
「という事は」
「お前を一度だけ信じる。どんな理由があろうとも、次は無いからな」
「ありがとうございます」

 俺の言葉にもう一度深く頭を下げた女王は感謝の言葉を紡いだ。

 この対応は甘いのかもしれない。
 それでも全てを疑っているだけでは前に進めない。
 俺……では無いな。
 勇者の敵は国では無く、波なんだ。
 国同士が争っている間に横から攻撃を受けて、グラス達にやられたでは話にならない。
 何より前回の波で、勇者三人が事実上敗北したという事を忘れてはいけない。
 無理に敵を増やす必要は無いだろう。

 今までは、前からも後ろからも攻撃を受けていた状況が変わるんだ。
 この世界がどうなろうと知った事ではないが、波を倒せれば俺は元の世界に帰れる。
 これからは集中して波……グラスとの戦いに備えられる。
 それだけでも大きく前進したと考えれば、上出来だろう。

「外交は大丈夫なのか?」
「イワタニ様さえそう仰ってもらえるのなら、大半は片付けましたので……当面は問題ないでしょう。問題があった時こそ、頼りの勇者様です。イワタニ様には誓い通りの事をしますので、協力をお願いすることになります」
「何とも頼りにされていることで、他の勇者共には罰は与えられないのか?」
「はい。何分、四聖勇者への罰則となると各国の非難が増しますので……そもそも、勇者様達が今回協力して三勇教会を討伐した、という体裁でどうにかした手前、罰則するのは難しいでしょうね」
「そうか……残念だ」

 まあ、あいつ等にはいつか俺が地獄を見せてやれば良い。チャンスを窺っていればいずれやってくるだろう。
 まだまだ聞きたいことが山ほどあるが、今はこの位にしておくとしよう。

「今までの話は三方には秘密にしてもらえますか? 勇者も人の子です。弱みを見せれば何をするのか解らないので……」

 確かにこれまでの話で勇者三人には話せない内容が多く含まれていた。
 錬と元康はわからないが、樹辺りが知ったら暴走しそうな事もある。
 何より、少なくとも大きく状況が変わらない限り、俺を取り巻く環境は良くなるだろう。

「わかった。あいつ等の方は……」
「はい。以降、私が責任を持って監視させていただきます」
「そうか、これでやっと敵が一人消えたな……」
「本当にすみません……無関係の方を勝手に呼び出し、戦いを強要しておきながら、この程度の事しかできない私をお許しください」
「それはもう良い。これからどうするか、だ。あの三人にも何か話すと言っていただろう?」
「ええ、その件はイワタニ様も参加していただく晩餐の際にお話します」
「わかった」

 女王は部下に指示を出し、玉座の間の裏にある階段を上っていく。

「メルティ……行きますよ」
「あ……はい」
「イワタニ様、メルティの命を守ってくださり、ありがとうございます」

 女王は深く頭を下げて俺に礼を言う。

「メルちゃんどっか行くの?」

 さすがに空気を読んだのか、フィーロが困った顔で聞いてくる。

「メルティはな、俺達と住む世界が違うんだ。前のように一緒に旅はもうしないだろうな」

 次期女王を連れまわすと言うのはさすがに難しいだろう。

「そうなの?」

 泣きそうな顔でフィーロはメルティに顔を向ける。

「……うん」
「もう会えないの?」
「……ううん。また会えるよ。何度だって。でも一緒に旅はきっと出来ない」

 メルティが女王に顔を向ける。
 女王も肯定と言うかのように頷いた。

「でも……お別れしちゃうんだよね」
「うん。だけど、フィーロちゃんが来れば何時だって会えるから」

 メルティの奴、涙声でフィーロに話をしている。
 俺達の旅路がメルティに大きな影響を与えたのも事実だ。
 波が終結したその時、俺はメルティにフィーロを預けようと心に決めた。

「お別れしても、メルちゃんはずっとフィーロの友達だよね!?」
「うん! 私は何処にいてもフィーロちゃんの友達!」

 感動的な場面だけど、今日は城で泊まるだろうから別れはまだ先なんじゃ……。
 これからの予定はまだ無いし、女王と相談しなくちゃいけない事もある。
 というのは黙っておこう。
 二人の友情が深まる時なのだから。
 良い友人を持ったな、二人とも。
 その会話を見ているとラフタリアが俺の手を握る。
 黙って俺はその手を握りなおし、俺を取り巻く全てを覆したのを理解した。
ここまでが二章です。
次から三章が始まります。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ