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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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女王

「ごしゅじんさま!?」

 俺の血に塗れたフィーロが心配そうに俺を抱える。
 盾は何時の間にかキメラヴァイパーシールドに変わっていた。

「ひどい傷! 誰か! ごしゅじんさまを助けて!」

 フィーロの叫びに討伐軍の司令官をしていたらしい女性が駆けつけてくる。

「母上!?」

 メルティが司令官に向けて驚愕の声を上げる。
 そう言えば、討伐軍の先頭にいて……あのごじゃるがメルティを連れていた時と同じ姿の人物だ。

 扇で隠していて顔は良く見えないけど間違いない。

「此度の活躍、目を見張るものでした。盾の勇者様」

 教皇の足止めをしてくれたのはコイツだろう。

「皆の者! 盾の勇者様の治療を最優先にするのです! これは王命である。必ず盾の勇者様の命を生かしなさい!」
「「「ハッ!!」」」

 討伐軍にいた治療班が俺の元に来て、それぞれ魔法の詠唱を始める。

「ドライファ・ヒール」

 光が俺を包み込む。
 しかし……一向に痛みは取れる気配が無い。

「こ、これは呪いですか……しかしこれ程まで強い物は……」

 治療班が驚愕の表情を浮かべながら解呪の魔法を唱えた。
 だけど……効果は無いようだ。

「精密検査をします! 皆さん急いでください!」

 治療班と女王がフィーロに指示を出し、急いで連れて行く。

「う……」

 体中が軋んで悲鳴を上げている。だけど、ここで意識を失うわけには行かない。
 まだ女王が敵か味方かわかっていないのだから。

「お、まえが、女王か」
「ええ、私はメルロマルク国女王、ミレリア=Q=メルロマルクです。助けに来るのが遅れて申し訳ありません」
「……おそ、すぎるだろ」

 何にしてもだ。
 権力があるのだろう? 国の本当の支配者なのだろう?
 今回の事件の全貌を知っているのだろう?
 出てくる言葉は山ほどある。
 お前の夫と娘はとんでもないクズだとか怨嗟の感情が幾らでも出てくる。

「本当に……この度は、全て私の落ち度です」
「母上……」
「ママ、なんでそんな奴に謝っているのよ!」

 女王はビッチが指差して弾劾するのに青筋を浮かべて笑みを浮かべる。

「マルティ……アナタには城に戻ってからたーくさん、言う事があるので覚悟していなさい」

 ゴゴゴ……と、辺りの空気が震えている。
 俺が怒られているわけでもないのに、何か背筋が凍りつくような感覚が走る。
 パチンと指を鳴らすとビッチの背後に影が現れて捕縛する。

「ちょっとママ!」
「その愚か者を黙らせなさい」
「ハッ!」

 ビッチの口に布を当てて連行していく。

「マ、マインに何をするんだ!」
「私はそのマイン……マルティの母です。私の権限で城へと同行を指示したまでの事、さあ勇者様方、此度の戦いは終わったのです。休みながらメルロマルクの城へ帰りましょう」

 オーラを発する女王に元康を始め他の勇者たちも黙り込む。

「さて、盾の勇者様……いえ、ナオフミ・イワタニ様。アナタの治療を最優先で行わせていただきますので、どうか安静にしていてください。すぐに準備を致しますので」

 治療員が俺に様々な魔法や薬、聖水の等の道具を持ち寄ってくる。
 元の世界で言う所の救急車で緊急搬送をされているような気分だ。

「しか、し……」

 どうして女王、お前がここに来ているのか。南西の国に居るのではないかと様々な疑問が出てくる。

「何を言いたいのかは分かります。何故、私がずっと国外に居て、アナタを擁護できなかったか、さらに南西の国に居るはずなのに討伐軍を指揮していたのか……色々と話す事は山ほどあります。ですが、今は傷を癒す事が先決です」
「ナオフミ様!」

 ラフタリアが心配そうに俺に泣きながら駆け寄り、擦り寄る。

「心臓が止まるかと思いました! 大丈夫なんですよね!?」
「さあ……な……」

 かなりの深手を負ってしまったような気がする。
 立つことも億劫で痛みが全身を襲っているし、倦怠感が凄い。
 安全なのを理解したらしいフィーロが人型になってメルティと一緒に、馬車に搬送されようとしている俺に着いて来る。

「酷い傷……早くこちらへ」

 フィーロも相当の重傷で四肢が黒い火傷の跡が出来ていて治療員は治そうと声を掛けた。
 しかし俺の傷の方が気になるのか、フィーロは彼等の治療を受けるのを躊躇っている。

「でも、ごしゅじんさまが……」
「大丈夫よフィーロ、ナオフミ様はこの人達が治そうとしてくれているの。アナタも傷を治してもらいなさい」

 ラフタリアが心配そうに声を漏らすフィーロの頭を優しく撫でて囁く。

「だけど……」
「ナオフミ様だって、フィーロがそんな傷でずっと居られることの方が嫌だと思うわよ?」

 フィーロは、そうなの? って首を傾げて俺を見つめる。
 しょうがないな。普段は我がまま放題の癖にこんな時だけ心配性とは。

「良いから治してこい」

 俺は搾り出すようにフィーロへ指示を出す。するとフィーロは頷いて治療員の言うとおりに治療を受け始めた。
 回復魔法とは違う、呪いに効果のある魔法を治療員達は唱える。

「なんて強力な呪いなんだ……」

 治療員がボソリと呟く。
 ああ、確かに強力な呪いなのだろうなぁ。
 カースシリーズなんていう代物だ。
 性能は高いから重要な局面で繋ぎ繋ぎ使って来たが、アレは呪いを直に受ける様な物だ。
 唯の呪いとは大違いだろう。

「集団合成魔法『聖域』の準備を!」

 セルフカースバーニングを消し去ったアレを使うのか?
 ここにいるのは三勇教の教徒だけではない訳か……何の宗教なのだろう?
 盾教とかだったら威力が高そうだなぁ。
 ぼんやりと考えていると、徐々に目蓋が重くなって来た。

「ナオフミ様!」
「ナオフミ!」

 ラフタリアとメルティが俺を揺り起こす。

「ああ。どうした?」
「意識をちゃんと持ってください」
「何だよソレ、まるで俺が死ぬみたいな言い方」

 まあ、確かに死にそうな状況だよな。
 こんな所で死ぬつもりなんて毛頭無いけど、色々と疲れた。
 少しだけ……眠らせてもらいたい。
 だが、まだダメだ。確実な安全圏には程遠い。
 しかし今の状態では動くのもままならない。
 ならば……。

「ラフタリア、もしも何かあったらフィーロを使って、メルティと逃げるんだぞ」
「わかりました。ですが、その時はナオフミ様も一緒です。だから必ず、目を覚ましてくださいね」
「ああ。少し寝るから……何かあったら起こせ」

 このやり取り、覚えがある。
 ……思い出した。
 ラフタリアがまだ子供の姿だった、夜泣き癖があった頃の話だ。
 あの頃はラフタリアになんでもかんでも命令していたな。

「悪いな。今回は朝飯が無さそうだ」
「……はい。今度は私がナオフミ様の眠りを守りますから」

 そんな会話をしていると、視界がスーッと遠くなり、俺の意識は夢の中へと落ちて行った。



 あれから二日。

「うう……重い」
「すー……すー……」
「むにゃ……ごしゅじんさまー」
「おっきー……い……ふぃーろちゃん……」

 目が覚めると俺に圧し掛かるようにラフタリアとフィーロ、そしてメルティが一緒のベッドに寝ていた。

「何なんだこれは! 起きろ!」

 起き抜けに三人を起こして叱りつける。
 三人ともショボンとしつつ、何か笑っている。
 俺は緊急搬送され、メルロマルク城近隣の大きな町で治療を受けていた。
 ブルートオプファーによって生じた呪いの根は深く、治療に特化した治療院ですらも完全に取り去ることは出来ないとの事。
 どうしたら治せるのかと聞くと、この呪いは魔法や薬では払えない呪いで、傷を治すように時間で解けるものらしい。
 火傷や傷、体力自体は回復したのだけど、倦怠感というかそんな症状が続いている。

 ステータスを確認すると、防御以外のステータスが三割程度低下していた。
 完治するまでの間は能力低下するのがブルートオプファーの呪いらしい。
 払った代価に応える働きだが、実に困った代償だ。

「どれくらいで治るんだ?」
「見積もりでは全治一ヶ月という所でしょうかね」

 一ヶ月……長いなぁ。
 波の到来前じゃないか。
 そういえば、結局シルドヴェルトには行けなかった。
 ラフタリアとフィーロのクラスアップが目的だったというのに、変な所に来てしまった。

「容態はどうですか?」

 そんな風に世の中の不条理を嘆いていると女王が診察を受ける俺に会いに来た。
 一応は俺の身体を心配する素振りを見せている。

「……」

 いまいち信用できないが……俺が意識を失っている間に治療の指示を出していたのもコイツなんだよな。
 女王は治療院の治療師に俺の経過を尋ねている。

「なるほど。では一緒に来ることは出来ますね」
「何処へ行くつもりだ?」
「城に決まっているではありませんか」

 扇で顔を隠しつつ、何か額に青筋を浮かべ、変な重圧を発生させる女王。

「母上凄く怒ってる……」

 メルティが震えながら俺の背後に隠れて様子を見ている。
 嫌な雰囲気を感じるが、あれは怒っているのか。

「俺を処刑するとかじゃないよな?」
「そんな真似する訳ないじゃないですか。イワタニ様」

 微笑んでいるけど、雰囲気が肯定しているように感じる。
 呪いの所為で寝ていた俺に攻撃をしなかった事から、その線は薄いか。

「是非、イワタニ様にその瞬間に立ち会ってもらいたいと私は思っていますのよ。ホホホ」
「何をするつもりだ」
「それは城に着いてからの楽しみとしていてください。色々と積もる話もありますし、全ては私が行った後にイワタニ様に答えてもらいましょうか」

 女王の奴、断れない状況を作って、俺を城へと行かせたいようだ。
 そうはいかないと言いたい所だけど、俺の目的である身の潔白を証明するには、コイツが必要になる。
 断る道理も今のところは無い。

「一つ聞かせて欲しい」
「城に着いてからがよいのですが、何でしょうか?」
「お前は……メルティが今回の事件に巻き込まれるのを承知で送ったのか?」

 これは一番、気になった問題だ。
 見方によっては、全てが女王の手の上で転がされていたともすれば、城に到着した途端、勇者全員が一網打尽で殺されるという結末さえ予想できる。

「……あくまで可能性として懸念していたと答えるのが正解でしょうかね」
「え!?」

 メルティが震えながら母親を見つめる。

「メルティには黙っていましたが、父親の顔を見に行け、では無く、父親が会いたいと駄々を捏ねたのですよ。色々と我がままを言いましてね」

 あの……クズが会いたがった。非常に不安だったが女王はメルティを会いに行かせたと。

「何事も無ければ、そのまま。事が起こった場合は影に私の考えを伝えておきました」
「考え?」
「ええ、もしも盾の勇者に大義名分としてメルティ殺しを背負わせようとしているのなら、その盾の勇者に預けようとね」

 パチンと女王は指を鳴らす。
 すると暗殺者の集団が、突然現れた。

「迷惑な話だ」
「……ご迷惑は掛けました。ですが、色々と問題は大きく解決したと私は思っていますよ」
「そうじゃない。メルティが死んだらどうするつもりだったんだ!」

 俯くメルティに同情を隠し切れない。

「護衛は常に二人付けておりましたし、イワタニ様方を援護する為にといろいろと手を回していました」
「ほう……」
「例えば暗殺しようとしていた騎士の一人」

 影が、俺の知るアニメの怪盗の様に服を脱ぐモーションで見覚えのある騎士に化ける!?

「村人」

 東の村で俺達を助けてくれた村人の一人。

「隣国の商売人」

 挙句の果てに俺に感謝の言葉を投げかけた隣国の連中にまで……。
 確かに、隣国の奴は居た場所が少しおかしかったな。

「後で本人たちには事情を説明しております。これでもメルティの身に危険が迫るようでしたら影が直接出現したと思いますが?」

 そういえば……教会派の影が奇襲を仕掛けてきた時には出てきたなぁ……。
 だが、あれは今にしても思えば本当に危機的状況だった。
 俺とフィーロは三勇教派の影の攻撃……おそらく毒が塗ってあった針を完全に無効化していたが。

「母上は……私が殺されるかもしれないって分かってたの?」
「もしかしたらですが」

 きっぱりと答える女王にメルティは俯く。
 まあ、クズの妻にしてビッチの親か。相当の外道なのは頷ける。

「お前は本当に人の親か」
「そう言われても反論する材料を私は持っておりません。虚言は山ほど言う事が出来ますが……そうですね。私もこんな国で何年も女王をしていると口にすれば理解してもらえるでしょうか」

 む……弾劾されてもまったく堪えない。
 何て奴だ。クズの妻なのも頷ける。

「ですが……イワタニ様を信じておりました。では答えになりませんか?」
「……卑怯者」
「そうでなければ国は守れませんよ」
「はぁ……着いて行けば良いんだな?」
「ナオフミ様!?」

 ラフタリアが心配そうに声を出す。

「断る事も出来なさそうだ。行くしかあるまい。こうして治療してもらった訳だし、敵では無いだろう」
「ええ、是非、立ち会ってもらいたいと思っておりますよ」

 この手のタイプは利害が一致すれば力を貸してくれる。
 何が目的かは知らないが、敵に回るのならばラースシールドをもう一度使うだけだ。

「神鳥の馬車もこちらで預かっております。荷物と一緒に返還しましょう」
「ほんとう!?」

 女王の言葉にフィーロが前に出る。

「そうですよ。治療院の前に停めてあるので確認してください」
「はーい! メルちゃん! 行こう!」
「うん!」

 フィーロとメルティが病室を出て走り去っていく。
 あいつは本当、馬車が好きだよな。
 二人を見送った後、俺は女王を見る。

「なんか気持ち悪いな」

 真意の見えない善意って何か裏があるような気がして仕方が無い。
 女王が三勇教会を敵に回して、更には盾の悪魔を優遇するに至る、誰もが納得できる理由がほしい。
 考えても浮かんでこない。
 少なくとも波と戦わなければいけないなどという、酷く崇高な理由など信じられない。
 それとも俺の知らない情報がまだあるのか。

「私にも目的があります。それを果たす為にはどんな手でも使いますよ。過程は違いますが、私もイワタニ様と同じ様な感情をあの二人に抱いています」

 俺と同じ様な感情……。
 誰の事を言っているかは知らないが、何故かその人物が解る様な気がした。
 この世界に来てから色々と知った事がある。
 少なくとも、今俺の前にいる人物は、俺同等の事を考えている顔をしていた。

「お前の指示に従うとしよう」
「感謝します。イワタニ様」

 俺の同意を得て、女王は微笑む。
 その笑みは思念の様な、強い意志の混じった物だった。

「オルトクレイ……マルティ……これで終わりではありませんよ……」
+注意+
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