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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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アホ毛

「やっ!」

 最初に攻撃を開始したのはフィーロだった。
 高々と跳躍して巨体のフィトリアの腹に向けて強靭な足で蹴り上げようとする。

「クエ」

 それを手のような翼でいなして逸らすフィトリア。

「わ!」

 いなされて、地に着地するフィーロにフィトリアは追撃とばかりに大きな翼で叩きつける。

「おっと!」

 フィーロは体を逸らして避ける。

「フィーロちゃん頑張れー!」

 我がことのようにメルティが大きな声で応援する。

「「「グアアアアアアアーーー!」」」

 同様にフィロリアル達も応援していると思わしき声を上げた。

「負けないよー!」

 フィーロはフィトリアの体を駆け上がって行く。

「クエ!」

 払い落とそうと翼を振るうフィトリアだけど、フィーロは器用に跳躍してその翼を足場に顔面にまで跳躍した

「わ! すごーい」

 失敗に終わった攻撃だったがフィーロは感嘆の声を上げる。

「すごく早い。でも負けない」

 フィーロは見覚えのある翼を上下に構えて駆け出す。
 いきなり特技のあれをやるのか?

「はいくいっくー」

 フィーロの体がぶれる。
 次の瞬間、バシンバシンと音が響くが……。

「クエ」

 フィトリアが一見、ゆっくりと翼を上下させたように動き。

「わああああああ!」

 くるくるとフィーロが空中に跳ね飛ばされていた。
 バサッと翼を広げて空気を掴んで着地したフィーロ。

「フィーロの切り札が簡単にいなされたー」
「クエ」

 腰に片方の翼の甲を当てて、フィトリアはフィーロに挑発する。
 まるで、その程度かと呆れるような態度だ。
 すごいな。
 あのフィーロの必殺攻撃を軽く弾くとは……。

「さすが伝説のフィロリアル」

 メルティが感服して言う。
 同意だ。
 なんていうのだろう。俺達の中でも戦闘面では飛びぬけて優秀なフィーロが遊ばれている。

「じゃあ、今度はこっち!」

 フィーロは再度、翼を上下させる。

『力の根源たるフィーロが命ずる。ことわりを今一度読み解き、かの者に激しき真空の竜巻で吹き飛ばせ』
「ツヴァイト・トルネイド!」
「な!?」

 フィーロの奴、中級魔法まで使えるのか! 教えても居ないと言うのに……。
 というか使えるなら普段から使えよ。
 この前の勇者戦とかアレを使えば、もっと楽に逃げられただろうに。
 フィーロの手から竜巻が生み出され、フィトリアに向けて――。

『クエクエクエクエエエエエエエエエエ』
「クエエエエエエエエエエ!」

 バシンと魔法で作られた何かがフィーロを囲むように現れ、フィーロの唱えた魔法がまるで何事も無かったかのように消失した。

「相殺!?」

 えっと、確か初級魔法書に乗っていた現象だったなぁ。
 魔法の行使妨害。但し、論理上では可能だけど実効に移すには相手の力の本質を解析するだけの力が必要だとか。
 魔法は唱えるごとにパターンが変動するシステムらしい。そのシステムを発生し、命中する前に相殺するだけの魔法を生み出さねば行けないというのだから相当難しいらしいのだ。
 上位魔法クラスとなると出来る詠唱に時間がかかって相殺も起こりやすいけど、中級では難しいらしい。

「わー……フィーロの魔法が効かなかったーでも負けないよー」

 果敢にもフィーロはフィトリアに向けて走り出す。
 フィトリアは大きな翼でフィーロを叩きつける。

「ハッ!」

 地響きが立つほどの強靭な攻撃をフィーロは両方の翼で受け止めた。

「ぐ……重い……でも」

 重みを堪えたフィーロはフィトリアの片方の翼を蹴り上げ、跳躍する。
 さすがに跳ね上がった翼を回す余裕の無いこの瞬間、フィーロはフィトリアの顔面にまで一気に飛んだ。
 微かに風を纏っている。跳躍力が向上しているのだろう。

「てい!」

 全身を使った回転蹴りがフィトリアの顔面に決まった――。

 かと思えた。
 しかし、

「クエ!」

 フィトリアの纏う風の衣がフィーロを吹き飛ばして蹴りは空を切った。
 バサァ!
 それでもフィトリアの羽毛に僅かに掠り、飛んだ。

「クエェ」

 フィーロの攻撃で飛んだ羽毛をフィトリアは笑みを浮かべながら見る。
 ここで俺は気付いた。
 フィトリアの奴、手と魔法以外。まったく使っていないと言う事だ。
 その場から一歩も動いてない。
 どれだけの強さを持っているのか分からない。
 伝説のフィロリアル。確かに言葉通りの存在なのだろう。フィーロが軽くあしらわれている。
 勝ち目のある相手じゃない。

「むー……」

 フィーロも不愉快に思ったのか不機嫌そうな声を出す。

「負けないもん!」

 ぶわっと全身の羽毛を逆立たせた。

「すぅううう……」

 そうして一度深呼吸する。周りに飛んでいる何か……なんとなくだけど魔力要素をフィーロは集めていると俺は理解する。
 あんな事も出来るのか。
 問題は下手に動けないのか、30秒近く立ち止まっている。

「はい――」

 翼を上下に構えるフィーロ。
 後方に風の流れができているのが誰の目にも見えるほど、魔力が凝縮されている。
 おそらく、フィーロが放てる一番の必殺技だ。
 前提が厳しすぎる。あれは実戦で使えるものじゃないな。

「くいっく!」

 弾丸のように飛び出したフィーロがフィトリアに向って一直線に向ってく。
 くちばしを前に、低空飛行で、回転をしながらの突進だ。今までで一番早い。
 蹴りが基本攻撃のフィーロにしては珍しいくちばしによる突きの一撃。
 なんて言うのだろう。戦略ゲームとかで飛行機型のロボットの必殺技みたいな攻撃とでも表現すればよいのだろうか。

「クエ!?」

 さすがのフィトリアも驚きに目を大きく広げた。
 バッと大きく、一歩だけ下がり、そして……。
 決着が付いた。


 フィトリアが大きく広げた翼を一箇所に……まるで両手で叩く様に、言い方を変えれば素手で蚊を潰すようにフィーロはフィトリアの翼に押さえられてしまった。

「きゅう……」

 目を回しながら、フィトリアが翼を開けるとボトリと零れ落ちる。

「フィーロちゃん!」
「「「グアアアアアア!」」」

 フィロリアル達が歓声を上げる。
 騒がしいと思いつつ一番に駆け出したメルティの後に俺達は続く。

「大丈夫?」
「うーん……あ……」

 メルティが駆け寄って揺すると目を回していたフィーロは我に返る。
 そしてキョロキョロと辺りを見渡して項垂れた。

「フィーロ負けちゃった」
「でもすごかったよ。フィロリアルの女王様に善戦したじゃない」
「すっごく手を抜かれてて、手も足も出なかった」

 むくれるフィーロにフィトリアはクエクエと鳴いた。

「何をくれるの?」

 ああ、結局何かをくれるのか。

「クエクエ」
「ごうかく? 何が?」

 フィトリアはプチンと冠のような頭の羽を一枚抜いてフィーロに放る。
 すると羽根は淡い輝きを宿してフィーロの頭に乗っかる。
 まるではじけるように羽根は四散し……。
 フィーロの頭にアホ毛がぴょこんと立ち上がった。

「……」

 俺とラフタリアは沈黙する。
 何だろう。あれが褒美のプレゼント?

「え?」
「フィーロちゃん可愛い!」

 メルティは何か興奮気味にフィーロを褒め称えているけど……当人は何が起こったのか分かってない感じだ。

「何があったの?」
「えっと……」

 俺が頭を指し示すとフィーロは恐る恐る自身の頭の輪郭に触れる。

「なんか変なの生えた! やー!」

 ブチン!
 い!?
 思いっきり引き抜きやがった。

「いたーい!」

 痛がりながらもアホ毛を抜いてご満悦のフィーロ。
 ピョコン。
 しかし、抜いたその場からアホ毛が新たに立ち上がった。

「また生えた!」
「ええ!?」

 フィーロの奴、なんか涙目で数回、自分のアホ毛を抜いたけど、幾ら抜いても立ち上がるので諦めたように項垂れる。
 気持ち悪いな、あのアホ毛。

「クエクエ」
「ひどーい!」
「何を言ったんだ?」
「幾ら抜いても生えてくるから諦めなさいって」
「クエクエ」
「えー……そんな風になるのー……」

 フィトリアの頭に生えている王冠みたいな羽を見る。
 一体何の意図で伝説のフィロリアルがフィーロにこんな物を渡したのか……。
 ふとフィーロのステータス画面を確認してみた。

 ……前見た時より能力が向上している。

 おそらく、あれは補正能力を付与する加護か何かだったのだろう。
 Lvの上がらない状態のフィーロには良い褒美だ。

「クエクエ」

 フィトリアは俺を指差してクイクイと手招きする。

「ごしゅじんさまにもプレゼントだって」
「アホ毛はいらないぞ」
「アホ毛?」

 説明はしない。教えたら五月蝿そうだし。

「クエクエ」
「もっと良い物だって」
「うーむ……」

 何を寄越すかしらないが、へんな物だったら嫌だなぁ。
 とりあえず拒めそうも無いので、近づく。

「クエクエ」

 フィトリアは俺の盾を指差して上にするようにジェスチャーを取る。

「こうか?」

 盾を上に構える。するとフィトリアは冠羽を抜いて盾に乗せた。
 盾が大きく反応をして吸い込む。

 フィロリアルシリーズが全て解放されました!

「は?」

 ツリーを確認するとフィロリアルと名の付いた盾が明るくなっている。
 大抵の装備ボーナスが基礎能力、すばやさ向上が付いていて、フィロリアルの能力補正、成長補正(大中小)、成長○○補正(大中小)と被らない項目が開いている。
 後、目立つのは、騎乗時能力向上(大中小)系統か。
 ただ、俺自身のLvが足りなくて変える事の出来ない盾も多数存在する。
 フィロリアルと付いた盾は全部、条件を満たしたという事と思って良さそうだ。

「一応、礼を言う」
「クエクエ」

 微笑みながらフィトリアは頷いた。
 何とも変わった褒美をくれたものだ。
 というかあの羽根はフィロリアルの力が凝縮されているのか?
 今はフィーロのLvがあげられないから良い事だと思っておこう。

 そういえば以前メルティがフィロリアル・クイーンは勇者と共に戦った、という伝承を話していた。
 あれが伝承では無く事実であるなら、フィトリアがその神鳥って事になるのか。
 つまりフィトリアは勇者の武器の仕組みを多少なりとも知っていたから分け与えた、という事か。

「クエ」
「用も済んだし、そろそろ立ち去るって」
「あ、あの……」

 メルティがフィトリアにおずおずと恥ずかしそうに声を掛ける。

「クエ?」
「握手してください!」

 念願の伝説のフィロリアルだからか、若干興奮気味にメルティは頼み込む。
 握手とか……スポーツ選手とかアイドルに向ける感じか?

「クエクエ」

 呆気に取られていたフィトリアだったが気兼ね良くメルティの頭をポンポンと撫でると、手に大きな翼を添える。
 そして優しく抱擁して微笑んだ。
 何とも懐の深いことで。

「わぁ……」

 大サービスとでも言うかのようにメルティを頭に載せる。

「高い高い!」

 大興奮のメルティ。
 フィトリアは俺達に下がるように命ずる。言うとおりに下がる。
 すると……先ほどの倍、18メートルくらいまで大きくなった。
 もはやビルだ。

「すごいすごい!」

 メルティの声が遠くで聞こえる。あんなに高くても良いのか。
 というか、このフィロリアル。どれだけ大きくなれるんだ?
 いや、元々、あの大きさで、変身して9メートルだったのかもしれない。
 ……フィーロもあんなに大きくなるのか?
 いぶかしげな目でフィーロを見る。

「なあに?」
「なんでもない」

 本格的に大きくなったらどうするか……それが問題だ。
 全長に関しては変身してごまかせるだろうが、アレだけ大きいと食費がな。
 相手は野生に生きている。しかも群を持っている本物の女王だ。餌に関しては雑食という面を含めると大丈夫だろう。
 だがフィーロは飼いフィロリアル。どうしても俺が面倒を見なくちゃいけない。
 以前手に入れたバイオプラントの種の再利用を考えておくか。


 一頻りメルティを相手に遊んであげたフィトリアは普通のフィロリアルの姿になり、豪華な馬車を引いて手を振る。

「えっとね。古の誓約だけど、一言だけ人の言葉で別れを告げるって」
「そうか」

 一応、礼儀とかそんな感じなのかな?

「じゃあねー」
「い!?」

 フィーロと殆ど同じ声音だったぞ! あの鳥!
 というか普通のフィロリアルの姿でも喋れるのか!
 フィトリアが立ち去ると周りにいたフィロリアル達も散るようにいなくなった。

「はぁ……」

 ウットリとしたメルティが声を漏らした。

「夢みたい……」
「夢だったら良かったな」

 怪獣大決戦っていう感じだった。
 ドラゴンでさえ倒せそうなフィーロを玩具の様に扱うあの強さ……果てしないな。
 とにかく、フィーロのパワーアップが大きく見込める夜だった。
 南西への旅はもう少し続きそうだ。
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