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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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酔い止め

 翌日からお義父さん達の育成が始まりました。

「うう……もう朝か」

 錬と樹が憂鬱そうに起き上がりましたな。

「朝だね。朝食はどうしようか? 宿屋備え付けの酒場で取る? それとも昨日食べ残した肉や山菜とかを川辺で温め直す? 昨日燻製にした奴があるんだ」

 俺が作った奴ですな。
 お義父さんの監修を受けているので、きっと美味しいですぞ。

「ああ、あの趣味の悪いファラリスの牡牛で作った燻製肉ですね……」
「人肉ではないけどね……」
「まあお金の心配は無いですから、酒場で注文すれば良いのではないですか?」

 そこでエクレアがしばし考えるように錬と樹に提案しましたぞ。

「問題はシルトヴェルトの料理は癖がある物が多い。アマキ殿やカワスミ殿の口に合うか……」
「食べて見れば良いんじゃないの? 俺達的に異世界の料理って気になるし。ね?」
「そうだな。せっかく異世界に来たんだし、食べてみたい」
「ですよね。僕も食べてみたいです」
「しかし亜人には無毒でも人間には毒になる物もある。十分注意しなければならない」

 そういえば前回や前々回のお義父さんも目利きで省いていた料理がありましたな。
 ならば、と俺は前に出ますぞ。

「でしたら俺が目利きしますぞ」
「じゃあ、元康くんに頼みながらやってみようか。一度食べればある程度なら俺も再現できるし」
「そんな器用な事、出来る物なのか?」
「出来ない物なの?」

 錬の問いにお義父さんが疑問形で返しますぞ。
 愚問ですな。
 お義父さんは料理に関して言えば、実は大体の事が出来るのですぞ。
 きっと普段食べたことの無い珍しい料理であろうとも、一度食べれば再現できるでしょう。
 無自覚な天才ですな。

「いや、俺はあんまり料理した事が無いからわからない」
「僕も……」

 錬も樹も自炊の経験は無い様ですな。
 俺はありますが、フィーロたんが俺よりもお義父さんの料理の方が美味しいと言ってましたし、お義父さんの腕前には敵いませんぞ。

「まあ、段々慣れて行けば良いよ。俺達の口に合う様にするにはどうしたら良いかも考えておくから」
「ああ……」
「そうですね」

 と言う所で、お義父さんは少し考えますぞ。

「昨日の様子を見る限り、朝食は抜いた方が良いかもしれないね」
「何故だ?」

 おや? どうしたのですかな?
 空腹を訴える錬と樹が不快そうに振り返りますぞ。

「だって、昨日ユキちゃん達に乗ってあれだけ気持ち悪そうにしてたじゃないか。朝食を食べて行ったら吐いちゃうかも」
「う……」

 心当たりがあるのか錬と樹が言葉を詰まらせて俺の方を見ますぞ。
 フィロリアル様に何か不満でもあるのですかな?

「な、何も乗らなくても良いだろ。歩いて行けば良い。最悪、経験値が共有出来る範囲で乱獲狩りをすれば問題ない」
「そ、そうですね」
「そうだけど……いずれ慣れて行かないといけない事でもあるよ?」

 フィロリアル様に乗った時の夢心地はいずれ馴れる必要がありますぞ。
 シルトヴェルトからフォーブレイに行くにしてもメルロマルクと同じくらいの距離はありますからな。

「乗り合いの馬車だって乗り心地ってあんまり良く無いんじゃない? エクレールさん」
「乗った者が気分が悪くて昏倒すると言うのはあまり聞かないが、確かに乗り物酔いを訴える者はいる」
「何だかんだで異世界なんだし、慣れておくべきじゃない?」
「そ、それは……」
「そうです! 元康さんにフォーブレイに先に行ってもらって僕達はここでLv上げをするのはどうですか? ポータルを取ってきてもらうんですよ!」

 フィロリアル様に乗るのがそんなにも嫌なのですかな?

「悪い手では無いとは思う」
「問題は無いとは思うけど、この国に長期滞在して錬と樹の正体を知られたら危険じゃないの?」
「なら別の国で待つと言うのも手じゃないか。元康、何か無いのか?」
「鳳凰が封印されている国のポータルがありますな」
「あそこか!」
「是非そうしましょう!」

 今の錬と樹ならさすがに封印を解くことは無いと思いますぞ。
 ですが、少々不安ですな。
 それに、言ってはなんですが――

「錬と樹は逃げてばかりですな」

 俺がそう呟くと錬と樹は少々不快そうに眉を上げます。

「なんですって?」
「そうだ。俺達がいつ逃げた」
「フィロリアルに乗る事が嫌だから、どうにかして回避しているように見えなくはない」

 エクレアがそう締めますぞ。

「その調子では、世界を救えるのか些か不安だ」
「僕達は効率良く行動したいだけですよ」
「そうだぞ、あの乗り心地を知らないから言えるんだ!」

 まあエクレアは俺の乗り心地で白くなっておりましたが。
 なんて考えているとお義父さんが間に入りますぞ。
 どうも錬と樹は楽をしたいと言う傾向が見受けられますな。

「まあまあ……多分、凄く悪い乗り心地なのかもしれない。だけど元康くんにポータルを取って来てもらうと言う案は反対かな」
「何故だ?」
「錬、樹……俺達は利用されようとしていた。全ては何も知らないから、だからこのまま元康くんの言うがままに向かった先で、また陰謀に巻き込まれるかもしれないんだよ?」
「元康を疑うのか?」
「違う違う、ここからフォーブレイまでの道のりで俺達は世界を改めて認識しないといけない。錬もわかってるでしょ? 信じる材料が欲しいんだ」

 錬は武器強化を出すのに苦労していましたからな。
 お義父さんの提示する話も理解を示しているのでしょう。

「その為にはシルトヴェルトだけじゃなくて途中で立ち寄るいろんな国での情報を見聞きするのは良い事だと思うんだよ」
「西遊記みたいなものですな」
「まあね。確かにあれって孫悟空が金斗雲で天竺まで行けば良いじゃないかって思うけど、途中の過程が必要とかの設定があったんじゃなかったかな? それに倣う訳じゃないけど、権力者に上手く利用されない為にもさ」
「その時は元康にループしてもらって事情を説明してもらえば良いじゃないか」

 HAHAHA。
 俺としてはそれでも問題ないですが、本当にそれで良いのですかな?
 お義父さんはちょっと呆れ気味で錬に答えますぞ。

「ねえ……それって今の錬じゃなくて次の錬なんだけど、それで良いの?」
「う……」
「もしかしたらループしてしまうかもしれないけど、それまでの経験を無駄にしたくないんだ」

 お義父さんの言葉にも説得力がありますな。
 こう、お義父さんはとても努力家でがんばる方ですぞ。
 過去のループのお義父さん達がいなければ、俺はもっと苦労していたでしょう。

「もちろん、この世界を見て回りたいという気持ちがあるのは嘘じゃない。乗り物酔いをしないから言う気楽なのも自覚はしてるよ。だけどこの世界の為に戦う俺達が他力本願で良いはずは無い。困難は越えて行くべきだ」

 と、言った所でエクレアが拍手をしましたぞ。

「立派な心がけだな。今日は私も同行しよう。一歩ずつ先へ行く事に意義があると私も思うのでな」
「元康くん、サクラちゃんの乗り心地ってどれくらいで慣れるもの?」
「今までのお義父さんの配下の傾向から遅くても三日あれば十分ですな」

 三日目辺りにはキールも平然とサクラちゃんの背で酔わずにいました。
 お義父さんはそんな状況で本を読むという高度な事をやっていましたが。
 最終的には細かい作業までお義父さんはやっていましたな。
 あの激しくも熱い揺れの中で!
 素晴らしいですな。

「ね? それくらいがんばれば気にならなくなるから、やって行かない?」
「無駄な事は嫌いだ。だが……」
「ほら、馬とかフィロリアルに乗って戦うのはカッコいいと思うよ?」

 お義父さんの言葉に錬は考え込みました。
 樹も同様ですな。

「だがなぁ……」
「後ね、錬、樹。元康くんに先にフォーブレイに行かせたら、どうなると思う?」
「あ……」
「そ、そうだった! 元康に任せたらまた何を仕出かすかわからん!」

 何故か錬と樹が俺を見て大きく頷きましたな。
 それはどういう意味ですかな?
 まあ、余計な奴等はこの世から消えてもらうでしょうなぁ!
 赤豚と同じ様にタクトを消すのが楽しみですぞ。
 今度は奴の竜帝から殺りますぞ。

 そう考えながら、笑みを浮かべます。
 すると錬と樹は嫌そうな顔になりました。

「僕達を連れてきた時にはフォーブレイという国が消えているかもしれません」
「そういう事、仮に俺も一緒に行ったとして、俺だけで止められる自信は無いよ」

 お義父さんの言葉に錬と樹は深く溜息を吐きましたぞ。

「はぁ……わかった。確かにあの敏捷性を無駄にするのは惜しいな」
「最終的には魔物を探すのに大いに役に立ちますぞ」
「歩きじゃどうしたって追いつけないしね。損は無いよ」
「……じゃあどうするんですか?」
「お弁当とかかな? 俺が酒場の厨房を借りて作るから、ある程度Lvが上がったら休憩のついでに食べて、歩いて帰る感じでどう?」

 名案ですな。
 最初の世界のお義父さんも似た様な事をしていた気がしますぞ。

「素晴らしいですな。後、そんなに酔うのが嫌でしたら俺が槍で強力な酔い止めを作りますぞ」
「「それを早く言え!」」

 おや? 錬と樹に怒鳴られてしまいましたぞ。
 結局、錬と樹はフォーブレイまでの道中で手に入る素材や魔物との戦闘経験を考えてお義父さんの提案を受け入れたようでした。
 さすがお義父さんですな。
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