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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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三勇教会

「よし、コイツをここに捨て置いて国を出るぞ」

 クソガキが第二王女メルティ=メルロマルクと判明した直後、俺はそう宣言した。

「待ってください。命が狙われている子を見捨てるんですか?」
「クズの娘だぞ。どうせ俺を嵌めるつもりだろ」
「ですが様子がおかしいと私は思います」

 む、確かにラフタリアの意見は頷ける。
 殺されそうになった第二王女は青い顔で震えていて、フィーロが子守をしている形だ。
 こいつが本当に第二王女ならば、国の騎士が殺す理由がない。
 仮に何か殺す理由があったとすれば大きな陰謀か、派閥争いか。
 その辺の事情に俺は疎い。なんせ俺はこの国の内情などどうでも良いからだ。

「メルちゃん。どうして殺されそうになったの?」
「……わからないの。父上が愚痴をなさっていたから父上を傷つけた盾の勇者を許せなくて」
「お前一人で?」
「ううん。わたしが許せないって言ったら近衛騎士達が是非行きましょうって」

 この調子では第二王女は傀儡だ。
 情報を聞き出すにしても直接的な方法では無理だろう。

「フィーロが絶対に助けるからね」
「コラ、勝手に約束するな!」
「ごしゅじんさま。フィーロ、メルちゃんを助けたい」
「ダメだ」
「助けたい助けたい助けたい!」
「ああもう、うるさい!」

 くそ、とても嫌な予感がするぞ。どうなっているんだ。
 問答を繰り返していると騎士共が笑い出した。

「ようやく自らの立場を理解したか悪魔め」
「うるせえなぁ。お前等の事なんてもうどうでも良いんだよ」
「そうは行かないぞ。これで我等の大儀が成就したのだからな」
「……どういう意味だ?」
「第二王女の死を持って悪魔を断罪する大儀を得るはずであったのだが、それが叶わなくても問題は無い。今頃、お前の首に賞金が掛かる頃だ」

 あのクズ、等々やらかしやがった。
 俺を殺す為の大義名分として自分の娘を犠牲にするのか!?

「王族の暗殺は国外逃亡しても追っ手は付きまとうからな!」
「……待て、どうして第二王女を態々俺の目の前で殺害する必要がある」

 俺に冤罪を掛けるならビッチと同じく証言だけで良いはずだ。
 全く無関係の場所で第二王女を殺害し、罪だけを着せる。
 それをしなかったのは何故だ?
 ふと、水晶玉を持っていた騎士達を思い出す。
 一番後ろに何人かいたのでほとんどが逃げられた。
 仮にあれが写真の様な物だったとすればどうだろう。

「盾の悪魔、貴様がメルティ王女殺害に関与した事は諸外国にも知らされる。もう逃げ場は無いぞ」

 なるほど。前回は国内で、しかもかなり強引だったから追求できなかった。
 仮に俺が国外に逃亡した場合に提示できる大義名分が弱い。
 他の国は盾の勇者を亡命させ、厚待遇を与えて味方に引き込む事もできた。
 しかし今回は違う。
 盾の勇者が第二王女を殺害したかもしれない瞬間を撮った水晶玉がある。
 それだけの証拠があれば十分だ。
 外国に提示できるし、国内の反対派も黙殺できる。

 すげー……ある意味尊敬するわ。
 という事はアレだよな。

 選択肢1
 ここで第二王女を見捨てる。
 追撃に来たクズの騎士は第二王女を殺し、大義名分を確実の物にする。
 そして俺は賞金首として追われる。
 それは別の国にも伝わって、ずっとお尋ね者。
 波が来るのが一番危ない。呼び出されて捕まってしまう。

 選択肢2
 クズの前まで第二王女を連れて行って事情を説明する。
 第二王女の命は守れるが、あのクズの事だ。誘拐の罪とか言って俺の容疑を取り下げたりしないだろう。
 つまり、第二王女の命を救えるかもしれないが、俺の無実を証明できない。

 選択肢3
 暴挙に走ったクズを殺しに行く。
 俺への罪は完全な物となり、三勇者及び教会、騎士団が俺を殺しに来る。
 失敗の可能性、リスクが高すぎる。

「どっちにしろ俺の無実が証明できねー! あのクズ王、自分の娘を殺してでも俺を殺す気か!」

 すっごく不愉快だ!
 まったく、どうしてクズとその血族は俺をこうも不愉快にさせやがる。

「ハハハッ! これで盾の悪魔は滅ぶ。我等が三勇教を脅かした罪を知るが良い!」
「うるせぇ!」

 腹いせにフィーロに命令して騎士共を黙らせる。
 殺しても良かったが、何人か逃げられているので無意味だ。
 冤罪を実証した時に殺人罪に問われる。

 それにしても三勇教会か……。

 三勇教会。
 三つ、勇者、教会。
 これを合わせて三勇教と考えるのが妥当か。
 こいつ等が後生大事にしていたシンボルも三つの武器だった。
 だが、それはおかしい。
 剣、槍、弓、盾。
 伝説の武器はこの四つだ。
 騎士達が俺を悪魔と罵っている以上、三勇教は盾を敵視している。

 ……そういう事か。

 この世界に来て直ぐの事、国が用意した冒険者が俺の仲間にならなかった事に繋がるんじゃないか?
 国の用意した冒険者という事は、当然国から信頼を得ている奴等だ。
 教会の奴等や騎士達を見るに、三勇教会という宗教はこの国に根強いと見て良いだろう。
 三勇教が敵として掲げている以上、盾の悪魔は国内で絶対の悪という事になる。
 誰が好き好んで盾の悪魔なんかの仲間になるんだ。情報に疎いとか関係無いじゃないか。適当な理由をでっちあげやがって。
 ……これが真実なら、国内で盾の勇者というだけで嫌な顔をされるのにも説明ができる。

 騎士団が妄信的信者という事は、王家もこの派閥に属していると考えるべきだ。
 思えば、俺が強姦未遂の冤罪を掛けられる前から、俺に対してのみ反応がおかしかった。
 意図的に無視してきたのも、証拠も無しに一方的に犯罪者扱いしたのも宗教的な敵だから。
 国民は俺が悪い事をすれば『盾の悪魔だから』と考える。
 龍刻の砂時計の時も、教会のシスターも、俺に敵意を持っていたし、状況証拠は十分だ。

 クズ王の考えが見えてきたぞ。
 王という立場を維持するのなら、盾の悪魔と三勇者を同列に扱う訳にはいかない。

 そして現在、国内では盾の勇者の評判は良くなってきている。
 神鳥の聖人として各地を回り、人々を救っている。
 最近では城下町を除けば盾の勇者でも、扱いがそこまで敵意ある物では無くなってきている。
 これは教会の威信にも関わる問題だ。
 こいつ等も三勇教を脅かす、とかなんとか言っていたから、まず間違いないだろう。

 だから、第二王女という切り札を切ってきた訳か。

 しかしこれはあくまで憶測だ。
 これを元に冤罪を払拭する手かがりにはできない。

「ち、父上がそんな事するはずない!」

 第二王女が俺に言い放つ。

「たぶん……」
「そこは言い切れよ」
「父上、ちょっと短絡的で戦争が得意だって母上が言ってた」
「母上ね」

 娘がいるって事は、あのクズにも妻が居るんだよな。会った事無いけど。
 戦争が得意って……確かに敵を作るのが上手そうな奴だよな。今まで俺にろくな事言わなかったし。

「知的遊戯では母上も勝てないほど知恵が回るって」
「悪知恵が回るの間違いだろ」

 俺からしたら馬鹿としか言い様が無いけど。母親もたかが知れてるな。

「でも絶対父上はそんな事をしない。だって父上はわたしを大切にしているもの」
「ならなんでこんな事になっているんだよ」
「う……」

 第二王女の奴、今にも泣きそうに涙ぐんでる。

「ごしゅじんさまひどーい」
「そうですよ。こんな小さな子を泣かして」
「年齢はお前と同じくらいだぞ」

 ラフタリアは二ヶ月くらい前は同じくらいだったのを忘れているんじゃないのか?
 フィーロとの関係か、お姉ちゃん気取りか。
 そうだな、あのクズ王が犯人じゃなかったと特別に善意的解釈してやる。
 考えてみれば身内贔屓のあるクズだからな。
 その場合、例えば狂信的な信者が悪魔である俺を裁く為に独断で行動したという可能性もある。
 他にも権力争いという線も無難か。
 少々強引だが、あのビッチと第二王女の二つの派閥があるとすればどうだ。

「じゃあ姉じゃねえの?」

 後継者は自分だけ、悪い芽は早い内に刈り取っておこう。
 あのビッチならこんな考えもありうる。

「次期女王は私の物。妹なんかに取らせるものですか、とか」
「姉上なら……あるかも」
「そこは否定しないのな」
「姉上は昔から人を陥れるような真似をするのが好きで、欲しいものを手に入れるのならなんでもするって母上が」

 あのビッチならやりかねないか。
 というか身内の女性陣には隠しきれてないとか。

「父上はそれがわかってないって母上が言ってた」
「そういえばさっきから母上、母上って言ってるが、ソイツは何なんだ?」
「母上はこの国の女王。外交で年中飛び回っているの。わたしは母上と一緒に回ってた」
「それがなんで、俺達の所へ?」
「母上が、たまには父上の顔を見てきなさいって」
「へー……外交ね」
「戦争を起こさない為に毎日必死に頑張ってるの。波の所為で世界が大変だからって、女王である私が国を守るんだって」

 聞く限りだとクズより優秀で話は出来そうだなぁ。
 身内贔屓がないとは限らないけど。
 クズを庇って俺に喧嘩売ってくるような奴の言葉だしなぁ。
 ん?
 よくよく思い出してみると、コイツ、クズと決別した日に城ですれ違った奴じゃないか。

「母上って、一昨日、お前と一緒に居た紫髪の奴か? ごじゃるとか語尾についてたけど」
「あれは影武者、母上に化けてたの」
「影武者……じゃあ見た目はあんな感じか」

 目立つ紫髪が印象に残っている。

「うん。見た目はそっくりに化けるのだけど、言葉がおかしいの」
「へー」

 どうでも良い。

「父上よりも偉い」

 さらりと第二王女がとんでもない事を呟いた。

「……なんだって?」
「父上よりも偉い」
「は?」
「ナオフミ様、メルロマルク国は女王政です。女系王族の国なんですよ?」

 ラフタリアが当たり前のように補足した。
 じゃああれか?
 あのクズ、婿養子か!

「なんで笑っているんですか、ナオフミ様」
「これが笑わずに居られるか、あのクズ、婿養子なのかよ! アッハッハ!」
「ごしゅじんさま楽しそう」
「父上の悪口を言うな!」
「良いじゃないか。お前を捨てた親なんか」
「捨ててないもん! うわああああん」

 お、第二王女の奴、涙目で俺をポカポカ叩き始めた。
 なんか微笑ましいぞ。嫌いな奴を泣かせるって。

「子供を泣かせて笑うなんて最低ですよ」
「分かってるって」

 さすがにラフタリアが怒り出したので、俺も考える。

「俺達の嫌疑が晴れて、コイツの命も救える方法か……何があるだろうか」

 そもそも何で俺がクズとビッチの身内を守らなくてはならない。
 下手に置いてもいけないし、殺す訳にもいかない。
 アイツと血が繋がっているってだけで気に食わないのに、だ。

 はぁ……。

 しかし立場的に少し同情もしている。
 信じていた肉親に裏切られて、絶望の底を味わっている第二王女の気持ちがわからなくもない。
 うーん。何か方法があるはずだ。

「女王、お前の母親がどこにいるか分からないか?」

 これは一つ目の方法。クズがダメなら見知らぬ女王に会って話をする。
 クズより権力があるのだから、話が通じる奴なら問題解決。
 この場合、第二王女生存は必須条件となる。
 第二王女が生きてさえいれば、やり方しだいでどうとでもなる。
 まだ話が通じそうなくらいの知能は有りそうだし。
 難点はクズと同様の馬鹿だった場合は俺の疑いが晴れない。

「……わかんない」

 第二王女の奴、首を横に振った。

「そうか」

 となると当ても無く別の国へ逃げると言うのもなぁ。
 そこでふと武器屋の親父との出来事を思い出す。
 確か、シルトヴェルトって国は亜人絶対主義の国だったはず。ともすればメルロマルクの支配力は限りなく低いんじゃないか?
 メルロマルク国の第二王女を手土産に交渉の場へ出せば女王も嗅ぎつけてくる可能性が高い。
 もちろん、人間である俺には非常に不利な場所だが、こっちには亜人のラフタリアがいる。
 潜伏するなら良い場所かもしれない。

「よし、とりあえずシルトヴェルトへ逃げよう。あそこならもしかしたら状況を打破できるかもしれない」
「亜人の国ですね。確かに」

 ラフタリアも納得する。

「国に入ったら交渉とかは亜人のお前に任せるぞ」
「はい!」
「じゃあ第二王女、お前の命の為にも同行してもらおう。安心しろ、必ず守ってやる。死にたくなければついてこい」
「……うん」

 第二王女は渋々、俺達の馬車に同行することになった。

 物分りの良い子供は嫌いじゃない。
 この際だ。クズ王とビッチ王女がいかに下劣で汚い、この世の汚物であるという真実を教えてやるのも良い。
 俺達は生きるも死ぬも一緒な運命共同体になったんだからな。
 まだ第二王女は子供だ。
 どちらが正しいのか一から順に教えていけば、理解を示すかもしれない。

「これからメルちゃんと一緒だね」
「うん……よろしくね、フィーロちゃん」

 フィーロの奴、仲良しの友達と一緒に旅ができるとご機嫌だ。

 第二王女は俺達を勝利に導く最後の鍵だ。
 失ったり、使い所さえ間違えなければ必ず突破口を作り出せる。
 気絶している騎士達を林の中に隠し、俺達は警戒しながらシルトヴェルトへの方向に道を変えたのだった。
+注意+
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