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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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志願者

 日も落ちてきたのでその日は宿をとって、宿の部屋でラフタリアの治療に専念することにする。
 買った聖水を別の器に移して、包帯を浸し、ラフタリアの黒い痣の部分に巻き直す。
 ジュウ……っと音がして、黒い煙が包帯を掛けた所から立ち昇る。

「う……く……」
「大丈夫か?」
「は、はい。なんと言いますか痒い様な、凝りが取れるようなそんな感覚があります」
「そうか……」

 出来れば早く治って欲しい。俺が傷つけてしまったのだから。
 そう思いながら触れていると黒い痣がふんわりと薄くなっていくような気がした。

「ナオフミ様が巻いてくださった所は治りが早いのですよ」
「それなら良いのだけどな」

 出来ればもっと早く完治して欲しい。

「あーラフタリアお姉ちゃんがごしゅじんさまとイチャイチャしてずるーい!」

 フィーロが治療中だというのに俺にじゃれ付いてくる。

「イチャイチャしてません!」
「そうだぞ、俺はラフタリアの怪我を治療しているんだ」

 俺とラフタリアがイチャイチャ……死語か? まあ良い。どこで覚えたのかは置いて置いて、俺とラフタリアはそんな関係じゃないし。

「ラフタリアお姉ちゃん黒いもんね」
「私が腹黒みたいな言い方しないでください」

 仲が良いな。コイツ等。

「ま、近々波が来るし、それまではゆっくりするとしよう」
「はーい!」
「そうですね。最近は色々忙しかったですし、たまには悪くありませんよね」
「ああ」
「ごしゅじんさまのごはんは何時作ってくれるの?」
「そうだなぁ……明日かな」
「わかったー!」

 こうしてラフタリアの治療をしつつ、宿でその日は眠った。


 翌日。
 まだ親父に依頼した装備の類は完成していないだろう。
 となるとすることは特に無いし、薬屋とか魔法屋に顔を出すのも良いかもしれない。
 洋裁屋に行って見るのも手か?

「さて、今日は何をするかな」
「そうですねぇ……」
「ごっはん!」
「はいはい。分かっている」

 波までの間に出来ることを考えると回復薬の調合とかが妥当だけど……既に準備は出来ているんだよなぁ。
 かといってLv上げはラフタリアたちが成長限界だから俺だけになる。
 もったいないがしばらくは休むのが妥当だろう。
 ラフタリアの傷も完全に癒えてはいないし。

「また聖水でも買いに行くか」
「え? まだ残ってますよ」
「完全に治るにはしばらく必要だろ?」

 昨日よりは薄くなっているが、まだ完治には遠い。量も不安なくらいしかない。
 この調子なら波までには相当薄くなるだろうけど、毎日聖水を取り替えないと効果の低下が懸念される。

「重ね重ね申し訳ございません」
「俺が付けてしまった傷だ。気にするな」
「はい」
「じゃあ、今日は薬屋に顔を出して飯でも食うか」
「うん!」

 ラフタリアとフィーロは頷き、俺達は宿に荷物を預けて出かけた。


 薬屋に顔を出すと合いも変わらず、薬屋の店主が俺達を出迎えた。

「久しぶりだな」

 店主の第一声に俺も答える。

「ああ、貰った中級レシピは使わせてもらったよ」
「そうか……」

 取り扱っている薬を見て、やはりまだ本職には敵わない。

「そういやお前の事で、旧知のアクセサリー商が顔を出した」
「は?」

 意外な人物とのつながりで俺は驚いた。

「お前、どうやってあの守銭奴に取り入ったんだ? 絶賛して行ったぞ」
「というか知り合いなのか」
「昔な、それより答えろ。アイツ、治療薬から僅かに香る薬草の使い方でコツを教えたのが俺だって見抜きやがった」

 あの時、俺の治療薬の匂いを嗅いだだけでここの薬屋から貰った中級レシピにあるコツを見抜いたってのか!?
 アクセサリー商。アイツは何者なんだ? 全然分からないフリして……底が知れない。

「んー……行商しているのは知っているだろ?」

 店主は頷く、リユート村に知り合いがいるのだから行商を始めた事くらいは聞いているはずだ。

「で、行商の縄張り争いの刺客としてアイツが俺の馬車に乗った時、アイツ目当ての盗賊を返り討ちにしたんだ」
「その程度でアイツが気に入るとは思えん」

 良く分かってるな。というか有名人なのか、あのアクセサリー商。

「ああ、どこが気に入ったのかは……おそらく、盗賊の身ぐるみを剥いで、アジトにまで乗り込んで財産没収したからかな」

 店主の奴、黙って眉間に手を当てて頷いた。

「アンタならやりそうだな。なるほど、それだけやってのけるならアイツが気に入るのも頷ける」
「その後みっちり細工技術を叩き込まれたよ」
「ああ、珍しく褒めてたぞ、覚えが早くて、あの商魂、後継者にしたいくらいだって」
「勘弁してくれ」

 俺が金を欲して行商しているのは装備代が欲しいからだ。本当の目的は金じゃない。

「で、今日は何のようなんだ?」
「ああ、上級レシピとか売ってないかと思って聞きに来た」

 調合中だった店主の手が止まる。

「……早いな、まだ全部作るには技術が足りないと思っていたが」
「ああ、まだ教えてもらったレシピの中には作れない薬もある」

 強酸水、魔力水、魂癒薬は未だに作ることが出来ていない。
 材料に関しての当てはアクセサリー商から教わった流通ルートから特定できなくは無いのだけど、必要性がまだ無い。

「だけど……俺の作った薬じゃ救えなかった時があったんだ。幸い、治療師が上位の薬を作ってくれたお陰で事なきを得た。俺の力不足を感じた」

 俺の返事に店主は納得したのか頷く。

「そうか……だが、上級レシピはまだ早いだろうな」
「そんなに難しいのか……」
「中級レシピに書いてある薬を使う物が多いんだ。他に、別のレシピで作らないといけない物もな」

 複合で材料が必要か……確かにそれは厳しいな。

「次のレシピ書を売ることは出来るが高いぞ」
「くれ」
「じゃあ銀貨500枚だ。これは下げられないぞ」

 相当、オマケしてくれているのは分かる。
 薬でも、教える機関や会社、ギルドみたいのがあるのは容易く想像できる。そこからの圧力とかを跳ね除けて教えてくれているのだろうし、レシピも売ってくれているのだ。

「分かった」

 俺は素直に銀貨500枚渡す。

「ふむ……じゃあ次はこれだ」

 そう渡されたのは「毒草と毒薬レシピ」という物だった。
 この世界の文字も遅いがある程度は読めるようになっている。

「毒のレシピか?」
「薬に精通するには避けて通れない。いわば裏、中級レシピだ」
「ふむ……」

 軽く読んで見る。簡単な毒から麻酔、麻薬の類まで書き込まれているようだった。
 確かにこれは難しそうだ。だけどこれを読み解かないと上級は無理なのなら覚えておいて損は無いだろう。

「礼を言う。所で初級レシピはヒール丸薬と常備薬さえ覚えておけば良いのか?」

 格好を付けていた薬屋の店主が見事に転びそうになった。

「……基礎も知らずに中級を挑戦しておったのか」
「アンタが作ってるのを見て覚えた」
「門前の小僧、習わぬ経を読むか……」

 このことわざ日本の言葉だぞ。おそらく、盾がこの世界で該当する言葉に訳しているのだろう。
 店主の奴、凄いため息を吐いた。そしてスラスラと羊皮紙に何やら書き込んでいく。

「初級の基礎はそれに書いておいた。覚えておけ」
「ああ」

 振り返るとフィーロが薬棚に近づき匂いを嗅いで嫌がっていて、ラフタリアは薬草を見て覚えようとしているのか、凝視していた。


「盾の勇者様!」

 薬屋を出た所で聞きなれぬ声に振り返る。
 見ると息を切らした14、5歳くらいの兵士の格好をした少年がこちらに駆けて来る瞬間だった。
 咄嗟に逃げようと走り出す。ラフタリアとフィーロも俺に続く。心当たりが多すぎる。

「待ってください! 別に捕まえようとかじゃありませんから!」
「じゃあ何のようだ!」
「ちょっと話がしたいだけです!」

 ……怪しいが……とりあえず、止まる。
 嘘だったらフィーロを嗾ければ良いか。

「はぁ……はぁ……やっと逢えました」

 肩で息を切らしている少年は俺の前で呼吸を整えて、顔を上げる。

「俺に何のようだ」
「えっとですね。波の……間、だけですが、ご一緒、させてください」
「はあ?」

 何を言っているんだ? 俺は素っ頓狂な声を出しながら少年を見る。

「前の波の時に僕達、下級兵士達は盾の勇者様の戦い方に感銘を受けまして」

 少年の話はこうだ。
 前回の波の時、リユート村を守っていた俺とラフタリアの姿に階級の低い兵士が感銘を受けていた者が何人も居たらしいのだ。
 騎士団の風潮から声を大きくして俺を褒めることは出来なかったが、波が終わってからしばらくして、水面下での輪が広がったそうだ。

「町の見回りの時に、盾の勇者様を見つけたものはこの話をしようとみんなで決めていたんですよ」
「へえ……」
「僕達の役目は波と戦うことではありますが、それよりも国民への被害を抑えるのが最優先にすることにあります」

 高尚な考えだ。あの勇者共に聞かせてやりたい言葉だな。

「ですので、その……盾の勇者様、どうか波の時にご一緒させてください」
「別に波で戦いたいだけなら俺じゃなくても良いんじゃないか?」

 この提案には裏がある。
 おそらく、波との戦いによって、より活躍した兵士や騎士は出世ができるという保障のような物だ。
 そうなると、勇者と同行する仲間として波で活躍すればそれだけで自身の立場が向上する。
 しかし、さすがにあの勇者共も、波での戦い方を理解するだろう。あれだけ俺が嫌味を言ったのだから。
 ステータス魔法、仲間の項目には編隊という項目が存在する。おそらく、波に備えた物だろう。
 これを使用して隊を作り、波で戦うというのが俺が思う波との正しい戦い方だ。

 どちらかと言うと、ネットゲームのギルドとかチームで競う攻防戦のようなものではないだろうか。敵が人間では無いが、感覚に間違いは無いと思う。
 じゃないとあんなに大量の魔物を相手にして一人で戦うなんて無謀極まりない。
 確かにボス級の魔物を倒すのはLvの高いエースプレイヤー……ゲームじゃないから勇者が役目を背負うのだろうが、他の雑魚はこの世界の住人でも対処できるはずだ。

 前回の波がそれに該当する。
 リユート村という城下町から近い場所に波が起こったから、城下町から騎士団が駆けつける事が出来たが次はわからない。
 この国も広い。もしも遠い場所に出たら大惨事だ。
 そうなったら、少人数で被害を抑えなくてはならなくなる。
 まあ、波での戦いにおける定石は置いて、目の前の少年がどうしてこんな提案をしてきたのか、返事を聞きたい。
 競争が厳しいから一番競争率の低そうな俺に頭を下げに来た、というのが妥当だろうか。

「いえ、僕達は盾の勇者様と一緒に国民を守りたいのです」

 表面上は何とでも言える。

「目的は出世か?」
「違います」

 即答と呼べるほどの速さで少年は首を振る。そして俺の後ろの方にいた魔法使いっぽい衣装の少年に手招きする。
 魔法使いっぽいと言っても魔法屋みたいな紫色ではなく、なんか安っぽい黄色だ。
 そして二人で並んで俺に頭を下げた。

「僕……出身がリユート村なんです。ですから盾の勇者様に家族を助けてもらって……だからせめて少しでもお役に立ちたくて」
「ああ、なるほどね」

 家族が助けて貰ったから恩を返したい奴か。

「確かに勇者様の言うとおりの者も居るとは思います。ですが、僕は盾の勇者様のお力になりたいのです」
「そうか、物好きもいたもんだな……ん?」
「あの……勇者様」

 魔法使いっぽい衣装の少年が顔を上げてローブの裏地を出すなり、羽ペンを俺に向ける。

「……サインください」

 何か裏があるかもしれない。日本語で元康とでも書くか。
 ん?
 よく見るとこの子、亜人だ。
 人間至上主義のこの国で亜人、しかも兵士になるって事は何か思う所があるのかもしれない。
 以前の波で騎士団と同伴していた魔法使い達と比べて安っぽい衣装をしているのは、何も年齢や階級だけが原因ではなさそうだな。

 無言でサインを強請る魔法使いっぽい衣装の少年の願い通り、ローブの裏地に軽くそれっぽいサインをしておく。見た感じ、変な魔法的効果も無いでサインと同時に俺を縛り付けるとかはなさそうだ。
 まあ何か媒介に使っている訳じゃない。後から何を言われようと無視を決め込めば良い。
 魔法使いっぽい衣装の少年は顔を若干赤くして嬉しそうに笑みを向けてくる。
 何だろう。むず痒くなってくる。

「こいつ、盾の勇者様のファンなんですよ。昔から、この国とは別の勇者の伝承を聞いていて盾の勇者様にあこがれていたんです」
「へー……」

 極々一部の俺を信用している連中が力になりたいという事か。
 という事はこの少年は話していないが、行商している間に救った村とかの出身者が同じ思いで集まったとかかもしれない。
 ま、試してみるか。
 俺はステータス魔法の編隊の項目から分隊長を目の前の少年に向けて発した。
 パーティの状態はリーダーが俺でラフタリア、フィーロと続く。
 その下に、分隊長の権限を与えたのだ。
 この権限は俺の方が優先されるパーティ状態。つまり、分隊長に経験値を渡さないようにする事も可能だ。

「これは……」
「分からないか?」
「いえ」
「お前が代表じゃないならソイツにそれを渡せ、で、参加したい奴を集めればいい。だけど勘違いするなよ。俺をただ利用したり、何か不埒な事をしようとしたら間違いなく任を解いて解散させる」
「はい! ありがとうございました!」

 二人揃って敬礼し、立ち去っていった。
 思う所はあるが、少しずつこの国でも信用されだしている。
 そんな実感を得られた瞬間だった。
 無論、言った通り何かアレば容赦はしないが。
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