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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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矛盾の再来

「とにかく、どうにか波を乗り越える事が出来たね」
「楽勝だったぜ! 余計な連中の茶々さえなければ、もっと楽だったと思うぜ」
「うん。サクラもそう思う」

 キールやサクラちゃんを初めユキちゃんやコウも頷いております。
 そうですな。今回は大成功と言えるでしょう。

「まあまあ、これもまだ始まったばかりなんだから……元康くんの話だと、これから波はどんどん厳しくなるんだよ? 油断しちゃダメだからね」
「「「はーい」」」

 などと話をしていると錬と樹の方へ行っていた騎士団長が大きな声で宣言する。

「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」

 未来の事を考えるとお義父さんへの嫌がらせの為に招待する癖に、よく言いますな。
 ですがもらえるものはもらっておいた方が良いでしょう。
 手切れ金になるでしょうが、銀貨五○○枚は馬鹿には出来ませんからな。
 まあ、シルトヴェルトで手に入る金銭や装備の必要性から考えれば割と余計な金でもありますが。
 武器の強化には直接金を使うものがあるので、あって損では無いでしょう。

「波は上手く行ったけど、本番は……今夜になるのかな? でも元康くんがこっちについているんだし、何も起こらなければ良いんだけど……」

 不安を隠しきれない様にお義父さんが俺にポツリと呟きます。
 そうですな。
 何も無ければ良いでしょうが、クズと赤豚の事ですから何か仕出かす可能性はゼロではありません。

 ですが、奴等の策を無理に潰せば、流れが変わってしまいます。
 なに、今のお義父さんは最初の世界よりも遥かにLvが上がっているはず。
 ちょっとの事ではやられません。
 ましてや、俺も一緒にいるのですから奴等の思う通りにはさせませんぞ。

「あ、あの」

 俺達に避難していたリユート村の人たちが話しかけてきましたな。

「何? 俺達に何か用?」

 気さくにお義父さんは答えますぞ。

「ありがとうございました。あなた達が居なかったら、みんな危なかったと思います」
「ど、どう致しまして。怪我人は出ていない? 何なら余った薬を提供するけど?」
「大丈夫です。特に死傷者は出ず……村も無事に済みました。盾と槍の勇者様一行のお陰です」
「そ、そう? それならよかった。復興は大変だと思うけど、がんばってね?」
「はい、ありがとうございます!」

 深く頭を下げた村の連中はそれぞれ自宅に帰って行った様ですぞ。
 その様子は安堵の一言でしたな。
 大きな損害は無いですが、若干魔物に被害を受けた建物がありますな。
 ……未来のリユート村よりは被害は無いかと思いますぞ。

 とにかく、どうにか最小限の被害で守りきれました。
 やはりお義父さんの偉業は素晴らしいですな。
 あの時のお義父さんはお姉さんと二人で守っていたのです。
 俺を含めてやっと守りきれた村を二人で、あの程度の被害に抑えたともなるとその手腕が伺えますな。

「じゃあ、城の方へ帰ろうか。今夜は御馳走らしいからみんな楽しみにね」
「わーい! ごっちそー!」
「サクラ楽しみー」
「みんなはしたないですわ」
「ユキは楽しみじゃないの? コウは今にも涎が出てくるーキールくんみたいなのが出て来ないかなー」
「俺は食いもんじゃねえって言ってんだろ! 出てきたらこえーよ!」
「ブー……」

 そういえば怠け豚もいましたな。
 どこで何をしていたのでしょうか。
 まさか波までサボっていた訳ではないでしょうな?
 だとしたらぶっ飛ばしてやりますぞ。

「うん、エレナさんの避難誘導は効率がよかったね」
「ブー……」
「的確な指示ではありましたわ」
「エレナ姉ちゃん全然戦ってなかったけどな」

 む、そうだったのですか。
 しょうがありませんな。
 お義父さんがそう言うのですから、少しだけ評価を上げてやる事にしましょう。

 などと考えながら、引きあげる騎士団の後について行きますぞ。
 一抹の不安を持ちつつ、お義父さんと共に俺達も続いたのです。

「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」

 夜になってからクズが城の会場で堂々と宣言し、宴は開かれましたぞ。
 前回の被害ですとな。
 俺もキールやお姉さん、村の奴隷達から口伝えでしか知りませんが相当の被害者が出たそうですな。

 ちなみに今回の被害者は俺とお義父さん達の活躍でほぼゼロだそうですぞ。
 まあ、ここで俺達の活躍であると宣言しても流されると踏んで、お義父さんは俺に黙っているように頼んできましたがな。

 最初から理由がわかっていれば苛立ちもしないとの話がお義父さんの弁ですぞ。
 さすがですな。
 ここにいるのは食費を浮かす事と銀貨をもらう為なのです。

「わぁ! いっただきまーす!」

 キール達がバイキング形式で並んでいる食事に駆けこむように近づいて、各々皿に盛っては掻っ込む様に平らげていきますぞ。
 凄い食欲ですな。
 成長期のフィロリアル様にも匹敵しますぞ。

「みんな良く食べるねー」
「兄ちゃんの料理には劣るな。明日は兄ちゃんが作ってよ」
「はいはい」
「サクラもー」
「コウもー……このソースをキールくんに掛けて舐めたい」
「どこまで俺を食おうとすれば気が済むんだ! 絶対に俺は負けねーぞ!」

 ワンワンとコウがキールに吠えますぞ。
 既にコウはキールにソースを振りかけて舌舐めずりしていますぞ。

「コラコラ、コウはキールくんを狙うのはもうやめてね」
「はーい。じゃあキールくんが増えたら一匹ちょうだい」
「いや……増えても食べちゃダメだよ……」
「俺を増やすってどうするつもりだ!」

 なんとも微笑ましい光景ですぞ。
 見ていると楽しくなってきますな。
 お義父さんがキールやユキちゃん。コウの面倒を見ている姿は心が洗われますぞ。

 サクラちゃんも輪に加わって食事を楽しんでおられです。
 ただ、周りの連中は白い目で俺達を見ておりますがな。
 まったく……誰が一番活躍したかわかっているのですかな?

 さて……こんな呑気な時間が流れておりますが、時間的に言えば赤豚とクズに騙されてお義父さんに俺が詰め寄った頃に差しかかりますぞ。
 ふと、不快そうな表情の樹がこちらに向かって歩いてきます。

 まったく……俺がやらないと樹がやるのですな。
 どうしますかな?
 このまま黙っている事は出来ませんから俺が前に出ますかな。

「樹、どうしたのですかな?」
「どいてください。僕は尚文さんに用があるのです」
「だから何の用ですかな? 俺が受けますぞ」
「元康さん、貴方じゃ話になりません!」

 無理やり俺をどかそうとしますが樹程度の強さでは俺をどかす事など不可能ですぞ。
 お義父さんが何事かと俺の方へ駆けよってきます。
 そして、樹の表情を見て、全てを理解した様に頷きました。

「どうしたの?」
「どうしたのではありません!」

 樹がお義父さんに向けて指差しました。

「聞きましたよ! 尚文さん……いえ、尚文! 貴様が仲間だと言った者達は奴隷だという事を!」
「……そうだけど?」

 樹の声にキールやサクラちゃん、ユキちゃん、コウがこちらを見ましたぞ。
 怠け豚は……我関せずと人混みに紛れて部外者のフリをしているようですな。
 そしてお義父さんは樹に対して、なにを言っているんだ? とでも言いたげな、演技の入った顔をしました。
 事前にこうなる可能性については話していたので、そんなに驚いている様子はありません。

「だから……何?」
「認めましたね!」

 勝利は我にありと言わんばかりに樹が確信に満ちた表情で言い放ちます。
 そんな樹とは対照的に、呆れ顔でお義父さんは言葉を紡ぎました。

「正確にはキールくんとエレナさんは奴隷、サクラちゃんとユキちゃん、コウは魔物だよ? それがどうしたの?」
「な……何を当たり前のように言っているのですか!」
「何かおかしな事を言った? まあ人聞きは悪いけど、この国の法律は違反していない。この国で活動するためには――」

 お義父さんの返答よりも早く樹がまくし立てるように続けますぞ。

「人を隷属し、戦いたくも無い戦場に無理やり行かせて死闘をさせるなんて勇者の風上にも置けません! 今すぐ彼らを解放しなさい! じゃないと許しませんよ」
「何言ってんだ! 俺達は好きで兄ちゃんと一緒に戦ってんだ!」

 樹の言葉にキールが間に入ってきて、反論します。
 しかし樹は聞く耳を持っていない様ですな。

「そう言わないと死ぬ様に奴隷紋という紋様で操作しているのはわかっています。安心してください。僕があなた達を救ってあげますよ」
「はぁ……何を言うかと思えば、勇者が奴隷を使っちゃいけない? この国じゃ亜人はみんな奴隷みたいな形でしか認められていないんだよ。例外は冒険者だけど、この国じゃ亜人の冒険者は活動し辛いし、認められていた区域は最初の波で潰されている。それも……この国の騎士団に!」

 お義父さんの返答など耳に入らないかのように樹は睨みつけています。
 騒ぎを聞きつけて赤豚とクズが半笑いで近づいてきますな。
 おそらく、樹に余計な事を囁いたのでしょう。

「このキールくんだって、この国の連中に無理やり奴隷に落とされたのを俺が仲間にしたんだよ」
「そうだぜ! 国の連中は再興しようとしていた大人達を皆殺しにして、戦えない女の人や子供をみんな連れて行ったんだ!」

 キールの言う事は真実ですぞ。
 ですが樹は最初に聞いた赤豚とクズの話を信じているのか、表情一つ変えません。
 おそらく、無理やり言わせられていると思いこんでいるのです。
 昔の俺の様に。

「樹、ここは異世界なんだ。郷に居れば郷に従って、奴隷が存在するのはしょうが無い事なんだ」
「しょうがない事ですって? いいえ、しょうが無くなんかありません! 尚文! 貴様は間違っている!」
「そうだね。俺は間違っているね。そこは否定しないよ。普通の日本なら樹の言葉はとても正しい言葉だ。だけど、正しい事が何もかも通せると思わない方がいいよ。正しくない事をしなければ明日を迎える事すら出来ない人も沢山いるんだ」

 と、お義父さんが仰っているのに樹は一歩も譲らないと言いたげな表情をしております。
 お義父さんのお言葉、胸に響きますな。

 俺は霊亀の一件で決して許されない事をしてしまいました。
 当然の報いとして人々に糾弾されましたが、それでも今ここに生きています。
 同じ様に最初の世界の錬や樹も俺と同様な目にあったでしょう。
 ですがお義父さんはそんな俺達をちょっと叱った程度で許してくれたのです。

 極論すれば、それは正しい事ではありません。
 なんせ、多くの人々を犠牲にした張本人なのですから。
 ですがお義父さんは俺達の中にある勇者の力を必要として生かしてくれました。

 今、樹が行なっている様にお義父さんを何度も追い詰めたのに、です。
 そう、世の中、正しい事だけでは回っていないのでしょう。
 フィーロたんと約束した事とは少々矛盾しますが、多くの人々を救うには、綺麗事だけでは実現不可能なのです。
 そんな大事な事をお義父さんは行動を示す事で俺に教えてくれました。

「イツキ殿の話は聞かせてもらった!」

 クズが真面目な表情を取り繕って宣言しましたぞ。
 人垣を割ってクズが堂々とやってきました。

 最初から決まっていて樹を焚きつけた癖に良く言いますぞ。
 嫌がらせにだけは知恵が回りますな。
 今すぐ殺してやりますかな?
 いや、それでは大きく未来が変わってしまいますぞ。

「ではこうしたらどうじゃ? 勇者同士が戦い、勝った者の主張が正しいとするのは?」
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