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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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蹴り逃げ、再び

 龍刻の砂時計のある場所にたどり着いた。
 相変わらず、静かだけど重々しい雰囲気の漂う施設だ。

「盾の勇者様ですね」

 前に来た時と態度の変わらない怪訝な目をこちらに向けるシスターが俺達に話しかけてくる。

「ああ……」
「今回は何の御用で?」
「クラスアップをしたい」
「では……一人に付き、金貨15枚をお納めください」

 金貨15枚だと!? 幾らなんでも高すぎるだろ!
 シスターは表情こそ変えていないが目が笑っている。
 払えないと見て、馬鹿にでもするつもりだったのか?

「金貨15枚だな」

 俺は渋々、ラフタリア達の分である金貨30枚相当の金の入った袋を見せる。
 するとシスターの奴、顔色を変えて、書類を受付から取り出す。

「……盾の勇者様は禁止されています」
「なんだと!? どういう意味だ!」
「王直々の命令で、盾の勇者様一行のクラスアップの許可は降りません」

 あのクソ王! 本格的にウザイ事をかましてやがった!
 態々、法外なクラスアップ費用を要求し、それを満たしたら許可が降りないで突っぱねるとかいい加減にしろ!
 Lvアップができないってどうすりゃ良いんだよ!
 転職が出来るはずなのにしないで行くってどんなやりこみプレイだコラ!

「ふざけるな!」
「規則です。何より、盾の勇者様は最初から……いえ、なんでもありません」
「最初からなんだよ!」

 俺がいきり立つと、受付の奥から騎士っぽいのがずらずらと出てくる。

「チッ! 分かったよ!」

 足に力を入れて、大きく音を立てながら俺達は龍刻の砂時計を後にした。


 まったく、何処まで人を不愉快にさせる気だ、この国は!

「しかし、どうしましょう」

 ラフタリアが困ったように呟く、確かにこれは大問題だ。

「ねえねえ、あの砂時計はなんなのー? フィーロもっと見ていたかった」
「我慢しろ」

 不愉快な思いをしつつ、ヘルプを見てみる。
 ……クラスアップが見つかった。

 クラスアップとは勇者の仲間となったメンバーの可能性を広げる儀式です。
 国にある龍刻の砂時計へ行きましょう。
 ★が入るまで育ててからさせることを推奨します。
 勇者には成長限界は存在しません。

 あれか、勇者には成長限界の制限が無いのか……。
 という事は、俺だけ40以上になるのか。
 だけど、これは実に不愉快だ!
 どうにかしてラフタリア達にクラスアップをさせなければ攻撃面で不安が出てくる。

「どうしましょう……」
「しょうがない、これは後回しにしておこう」

 幸い、波を過ぎるまではLv上げをする予定は無かったし、その後に考えれば良い。
 クラスアップの紹介状を持っていそうな冒険者にラフタリア達を預けて、させるという奥の手も考えにある。
 金で釣ればどうにかなるだろ。
 けど、今は時間がない。
 態々探すのもなぁ。
 そういや、奴隷商の奴隷に40越えがいたな。フィーロの武器を買いに行くついでに顔を出す予定だったし行くか。

「あああああああああああーーーーーーーーー!」

 なんだ?
 俺が振り返ると元康一行が俺を指差しながら詰め寄ってくる。

「お前! 何考えてるんだよ!」
「何の事だ? 変な因縁をつけてくるな」
「とぼける気か!? 分かってるんだぞ。あのデブ鳥の飼い主がお前だっていう事を」

 デブ鳥……フィーロの事か。

「そういえば、お前、股間は潰れたか?」
「潰れるかと思ったよ、このクソ野郎!」
「なん、だと……!?」

 潰れなかっただと! ふざけやがって!
 あれだけの力で蹴られて機能を失っていないとはどういう事だ。

「お前は俺達の期待を裏切った」
「てめぇ――」
「私は違います! 何ですか股間が潰れるって!」

 ラフタリアが呆れながら聞いてくる。
 そういえばラフタリアはコイツが吹っ飛ぶ爽快な所を目撃していないな。

「なんで私をかわいそうな目で見るんですか」
「いや、凄く爽快な瞬間だったんだぞ?」
「見なくて良かったです!」
「良いからあのデブ鳥を出せ! ぶっ殺してやる!」
「出せと言われてもな。一体どうしたんだ? あの時のはお前が不用意に近づいたからだろ」
「しらばっくれる気か!? あのデブ鳥、俺を見るたびに跳ね飛ばしていったんだぞ!」

 ん? 何の事を言っているんだ?
 変な因縁だろうか。

「どういうことだ?」
「だから、お前の飼ってるデブでブサイクな鳥が、遭遇するたびに轢いて行くんだよ!」

 俺はフィーロの目を向ける。
 するとフィーロは。

「うん。見かけるたびに蹴ったの」
「そうかそうか、偉いぞー」
「えへへー」
「どうして褒めているんですか!」

 フィーロの頭を撫でる。
 そして元康を見ると、装備は豪華になりつつ、股間にファールカップが付いているのに気付いた。
 これは笑える! トラウマだコイツ!
 大爆笑だ。

「アッハッハ!」
「てめぇいい加減にしろ!」
「そうよそうよ! 盾の分際でモトヤス様に嫌がらせとか不相応なのよ!」

 何を言ってるんだ、この取り巻き。
 クソ女も顔を真っ赤にして俺を糾弾している。
 これは爽快。

「ナオフミ様がこれまでに無い程、さわやかな笑みを」
「この――」

 元康が拳を握り締め、俺の胸倉を掴んだその時。

「ごしゅじんさまーフィーロお腹すいたー」

 空気を読まない鳥が自己主張した。
 そこに元康が視線を向ける。
 ピタ。
 なんか元康が硬直してフィーロと視線を合わせる。
 ……どうしたんだ?

「でりゃあああああああああああああああああああああああああ!」

 そして俺を見るなり、顔面に向けてテレフォンパンチをかますが、その拳を見切って掴む。

「何の真似だ? 俺とやりあうんだったら、槍を使え」
「お嬢さん! 早く逃げるんだ! コイツはとても危険な男なんだ」

 元康の奴、フィーロに向けて必死に良い男アピールをしている。
 お前が先ほどまで、殺す殺す連呼していたデブ鳥だぞ。
 ああ、そういえば今は人の姿だったな。
 基準では美少女だからか。元康らしい発想だ。

「えー? ごしゅじんさま危険じゃないよー?」
「ごしゅじんさま、だと!?」

 元康の顔が怒りに染められる。

「また奴隷か貴様!」
「いやぁ……それより何だよお前は、女なら何でも良いのか?」
「違う!」

 何か豪語しやがった。

「すげぇ……こんな理想的な女性は初めてみた……」
「……は?」
「こんな魔界大地のフレオンちゃんみたいな子が実在するなんて思わなかった!」

 誰だよソレ。
 ……ゲームのキャラだな。
 そういえば、フィーロの外見は俺の世界のゲームにも居る典型的なピュア天使娘だよな。

「俺、天使萌えなんだ……」
「黙れ! お前の性的嗜好なんて知りたくも無い!」
「異世界最高!」

 元康のテンションが最高潮に達している。
 取り巻きの機嫌は逆に悪くなっている。
 とてもじゃないがさっきまで激怒していた人間とは思えない。
 しかし、突然キリッとした表情でフィーロを見る。

「お嬢さん、お名前は?」
「えっとねーフィーロ」
「素直に答えるな!」

 元康の奴、フィーロにキザったらしく手を添える。

「コイツに馬車馬のように働かせているのだろう? 俺が救ってあげよう」
「まあ、馬車馬のように馬車を引かせているな」

 それは素直に認めないといけない。そういう種族だし。

「一ヶ月以上毎日の様に重い馬車を引かせていた」

 まあ引かせないとうるさいんだけどな。

「貴様ーーーー!」

 元康の奴、うるさいな。
 こっちだって暇じゃないんだ。早く次に行きたいというのに。

「フィーロちゃんを解放しろ!」
「またか、お前!」

 ラフタリアがダメだったら今度はフィーロか?
 俺からそんなに配下を奪いたいのか!
 元康が殺気を放って俺に槍を向ける。
 その時。

「ごしゅじんさまになにするのー!」

 フィーロが眉を寄せて詰問する。

「大丈夫だよフィーロちゃん! 俺が君を救ってあげるからね」

 人の話を聞いていない!
 完全に空回りしているぞ。

「フィーロの事、ぶさいくって言った。デブ鳥って言った」
「尚文! 貴様、女の子になんて事を言うんだ」
「お前だ。お前がフィーロに連呼している言葉だ。ぶっ殺すとも言っていたな」
「はぁ?」

 何言ってんだコイツって顔してる。
 実際に言ったくせに。

「つべこべ言わず、早く――」
「フィーロはごしゅじんさまを守るー!」

 ボフンと音を立ててフィーロは本当の姿に戻る。

「へ? アレ?」

 フィーロは唖然としている元康の股間目掛けて強靭な足で蹴り上げた。

「ああああああ――――」

 俺には見えた。元康が困惑した表情のまま、錐揉み回転で10メートル以上飛んでいくのを。
 さらにファールカップが粉々に砕け散っていた。

「うげ!」

 今度こそ潰れたか?
 いや、おそらく平気だろうな。ファールカップがあったし。

「さて、馬鹿はおいて、先を急ぐか」

 ラフタリアが青い顔をしてアワアワと呟いていたが、まあ、良いだろ。
 さすがに取り巻きも不快だったのか助けようとしない。
 いやぁ……さっきの不愉快な気分が若干晴れたな。
 フィーロにはご褒美をあげなきゃな。

「よし、じゃあこれから奴隷商の所へ行くか」

 人型に戻ったフィーロが怯えた表情を浮かべる。

「フィーロを売るの?」
「売らないから安心しろ、ご褒美だよ」

 あの元康を出会うたびに蹴っていたみたいだし、さっきも会心の一撃を加えていたからな。
 これは褒美をやらなきゃいけない。

「ほしがっていた装備を買ってやろう」
「わーい! ごはんもほしい」
「ああ、絶対に食わせてやる」
「じゃあ、ごしゅじんさまの手料理がたべたーい」
「良いだろう。特別だぞ」
「はーい!」

 フィーロはご機嫌でスキップを始めた。
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