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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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樽風呂

 しばらくしてお湯の確保が出来たとシルトヴェルトの使者は告げてきましたぞ。
 洗い場の一角に仕切りを設け、お義父さんは樽で作られた風呂に入浴いたしました。

「お湯加減はどうですかな? 何なら魔法で温めますぞ」
「うん、問題ないよ。元康くんは入らないの?」
「お義父さんが入浴を終えてから入るとしましょう。ささ、お背中を流しましょうか」
「う、うん。同世代なのにお義父さんって呼ばれて背中を洗われるってのも不思議な感じだけど……」

 ああ、フィーロたんが懐かしい。
 カルミラ島で一緒に温泉に入った事がありました。
 あの頃の俺はまだ豚に欲情しており、使命に目覚めていませんでしたが良い思い出です。
 あえて言うとしたらフィーロたんの残り湯を保存しておきたかったですぞ。

 それにお義父さんにこうして慕われるというのも幸せな気持ちにさせてもらえますな。
 ゴシゴシとお義父さんの背中を洗います。
 この背中が世界を背負っている事を考えると入念に洗わねばなりませぬ。
 背中を洗い終えるとお義父さんは再度湯船に入りました。

「はぁ……」

 お義父さんが若干疲れたかのように声を洩らします。

「刺客が来ても乗り越えられるように、お義父さんも強くなる方法をこれから行う予定ですぞ」
「うん。出来れば元康くんみたいに強くなれるように頑張るよ」
「そうですぞ。こうして逃げ隠れせず、正面から刺客を返り討ち出来るようになるのですぞ!」
「そうなんだけど……どうする予定なの?」
「前に話しましたぞ。明日から計画を発動させましょうぞ」
「???」

 お義父さんは何の事なのかピンと来ていないご様子です。
 後になって気付きましたが、あの話をしたのは前回のループの事でした。


「良い湯であった。それでなのだが……」

 エクレアがシルトヴェルトの使者と何やら話し合いを始めましたぞ。
 時刻は日が沈みかけておりますな。
 どうやらエクレアが入浴から帰ってくると酒場の近くに刺客の気配があるとの話。
 この酒場は屈強な亜人の冒険者も滞在しているので、面と向かってくる事は無いでしょうが警戒するに越した事はありませんな。

 現に酒場の前に、亜人の冒険者が見張りをしております。
 お世話になっているのだからとお義父さんが厨房で料理をしておりますぞ。
 振舞われた料理に酒場の客も俺達も舌鼓をうっております。

「こんな事しか出来ないけど……」

 と自嘲するお義父さんですが、その姿に亜人の方々はやる気を見せておりましたぞ。

「盾の勇者様をお守りするのが我等が使命だ! みんな、絶対に死守するんだぞ!」
「おおー!」

 声に若干困った顔をしたお義父さんが厨房で忙しなく動いております。
 手際も中々に良いですな。
 さすがお義父さん。
 最初の世界で飯の勇者と誰かが呼んでいましたが、その名に恥じない働きですな。

「居酒屋でバイトしてた経験が役に立つよ」
「お義父さんは色々とやっていたのですな」

 確か、フードコーナーでバイトしていたとまた聞きしたことがあります。
 他にも掛け持ちをしていたとかなんとか。

「まあねー、元康くんもお酒飲む?」
「いりませんな。ところでお義父さんはお酒は好きだったのですかな?」
「うーん……実は酔った事が無いから好きじゃないんだよね。相手がべろんべろんになって支離滅裂になるし、同じ話の相槌をし続けるってのは何だかんだで疲れるからね」

 そう言えばお義父さんは酒に酔わない体質という話でしたな。
 懐かしいですな。
 ルコルの実を食べるお義父さんが酔わないという話を疑って、俺もルコルの実を食べて倒れた事がありました。
 あの時の酔い方は思い出すだけで地獄ですぞ。
 豚に介抱される悪夢と相まって、吐き気がしてきました。

「じゃあ、酒に合うツマミを適当に作っておくからみんな楽しんで行ってね」

 お義父さんが料理を終えるまで、俺は見守っておりました。
 それからエクレア達が話しあっている所へお義父さんと一緒に向かいました。

「会議はどうなりましたですぞ?」
「ふむ……案としてはキタムラ殿の転送スキルが良いと踏んでいる」
「妥当な話ですな。明日から私はフィロリアル様の育成をしたいと思っているのですぞ。そのついでにポータルを取って来ましょう」
「キタムラ殿、頼む」
「了解したのですぞ」
「それとシルトヴェルトの者達と話しあった結果、明日下水を通って町の別の建物に潜伏場所を変える予定だ」
「下水を通るんだ?」
「ああ、その為の手はずは整っている。何分刺客を完全に撒く必要があるのでな」

 エクレアが煩わしそうに外に視線を向けますぞ。
 すると剣戟の音が聞こえてきますな。

「三勇教の連中……当然と言えば当然だが、どうやらイワタニ殿にシルトヴェルトへ行って欲しくないようだな」
「冒険者の騒ぎに託けておりますが、間違いないでしょう」

 酒に酔ったと思わしき冒険者の騒ぎは酒場にいた亜人と町の自警団によって沈められる事になりましたが、その頻度が確かに多く感じられますぞ。
 下から「なんだこの酒場? 亜人くせーぞ!」との言葉がこれまでに三回ほど聞こえてきました。
 何度もやれば誰でも気付きそうなものですな。
 因縁のつけ方にも、もう少しバリエーションが欲しいですぞ。
 しかも自警団も買収された者がいるのか、変な因縁をつけて奥に入って来ようとする者がいたとの話。

 現在、俺達がいる部屋は隠し部屋ですぞ。
 メルロマルクを出ても近隣の国ではこんな所なのでしょう。

「刺客の攻撃を受けても返り討ちに出来るほどにお義父さんを強くさせようと思ってますぞ」
「出来ればLvを上げれれば良いのだが……出来るのか?」
「明後日には準備が整いますぞ」
「わかった。じゃあ明日、キタムラ殿が出発した後、私達は移動をする。危険かもしれないがやるしかない」

 お義父さん達を強くさせるためには、この元康が離れないといけませぬ。
 なんとも煩わしい限りですな。
 問題さえ片付けば刺客などお義父さんの敵ではありませぬ。
 これはお義父さんと何度も敵対し、配下としても戦った俺だから言える言葉ですぞ。
 その日の晩、久しぶりにフィロリアル様の卵の匂いを嗅いで寝る事が出来ましたぞ。


 翌日の出発前。

「あ、元康くん。卵の一つにヒビが入ったよ。そろそろ産まれるんじゃないかな?」

 夜間に襲撃が来る事4回。
 最後には放火という手段にまで出た連中を退治しての眩しい朝ですぞ。
 いい加減、ポータルで乗り込んで三勇教とクズ共をぶち殺したくなりますな。
 お義父さんとエクレアが拒むのですからしょうがありませぬが。

 卵の方に目を向けると丁度、一つ目の卵が孵ろうとしておりました。
 確か、農夫が高いと言っていたフィロリアル様ですぞ。

「ピイ!」

 元気な声と共にフィロリアル様が孵化致しましたぞ。
 色は……白いフィロリアル様でした。

「わぁ……真っ白だね」

 フィロリアル様を手に乗せて確認しますぞ。性別は……雌ですな。
 ちなみにフィロリアル様は雌の方が若干多めですぞ。

「名前は何に致しましょうか」

 実はシロちゃんを想像していたのですが、シロちゃんはループする前に付けた事のある名前なので、再度名付けるか悩んでいるのですぞ。
 俺の知るシロちゃんはオスでしたので、同じ個体ではありません。
 だから付けては被ってしまいます。

「フィロリアルだからね……フィーロ、だと元康くんの好きな子の名前になっちゃうね」
「白いフィロリアルか……」

 エクレアが産まれた雛を見て呟きますぞ。

「エクレールさんも白馬に乗った王子とかにロマンを感じてた? というかこの世界だとどんな表現になるのかな?」
「白羽に乗った勇者……白グリフィンに乗った勇者、他に白飛竜もあるな」
「勇者は鉄板なんだ?」
「そうだな……だが、その夢も……」

 エクレアが何やら失礼な事を思っている様に感じますぞ。
 お義父さんが頼りないとでも言うつもりですかな。

「失礼な。お義父さんがフィロリアル様に乗る姿は荘厳に価しますぞ!」
「いや、キタムラ殿を見て思ったのだ!」
「あはは……悪いけど、返す言葉も無いと思っちゃった」

 なんて話をしていると次の卵にヒビが入りましたぞ。

「ピイ!」

 次は……黄色いフィロリアル様でした。
 みんなかわいいですぞ。

「ピイ!」

 エクレアが手に乗せて俺に手渡します。
 性別は……雄ですな。

「うーん、名前をどうしますかな」
「ピイピイ!」
「きいろとかだと安直過ぎますかな」
「オスなんだっけ? 色からレモンとか考えたけど、男の子でレモンは可哀想だよね」

 などと名前について話をしている間に最後の一つが孵りましたぞ。

「ピイ!」

 そして最後に殻を蹴破ったのはピンク色のフィロリアル様でした。
 惜しい! 白と桜色でしたらフィーロたんの名前を仮に与えたのですが……。
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