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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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疫病の村

 その日は野宿となった。

「どうにかあの処分に困った食料を高値で処理できたな」

 南方じゃ飢饉が解消されていたから売れず、北方に来てやっとだった。
 まだ一台は食料を満載した荷車が残っているけれど、これは食いしん坊鳥の餌だ。

「ごっはーん!」

 布を被せた荷車に頭を入れて中身を貪る鳥。

「おーいすぃーいぃ!」

 どっかで聞いた事のあるウザイフレーズだ。
 コイツ、成長が終わっているのに大食漢なんだよ。日々の食費が馬鹿にならない。その代わりに移動は異様に早く済む。
 けれど、色々と無茶をしている所為で馬車がすぐにおかしくなる。
 修理代もかなりの金額に上っているし……。

「どうしたものか」

 この際、木製ではなく金属製にするかな。フィーロが軽い軽いうるさいし、でも耐久力考えるとかなり高くつきそうだ。
 ラフタリアは乗り物酔いを克服したけど、フィーロの全速力だと同乗する客が凄い勢いでリバースするんだよな。
 スプリングとかを入れさせてショックを緩和するのも良いかも。
 最近ではかなり金が貯まってきている。武器屋の親父に会うのが楽しみだ。
 この国を回ってみて分かるのは、やはり国の中枢である城下町の武器屋が一番良い物を売っている。
 他の勇者が何処で武器防具を買っているか知らないが、俺が回った町や村では親父の店よりもよい装備は売っていない。

「ごしゅじんさまー」

 もふ……フィーロの羽毛が俺に圧し掛かってくる。
 北方だからか少し肌寒い。だからフィーロの羽毛は本体の体温もあって温かい。

「えへへー」
「むう……」

 ラフタリアが何故か俺に引っ付くように座る。

「へへへ、みんなでポカポカ」
「俺はもう暑い……」

 なんで少し肌寒いからってこんなに固まっているんだ。

「フィーロ、離れなさい。アナタが離れれば丁度よくなります」
「やー、ラフタリアお姉ちゃんが離れれば良いんだよ。ごしゅじんさまを独り占めよくない」
「独り占めしてません!」

 さわがしい!

「さっさと寝ろ。お前等!」
「そんなー……」
「一緒に寝ようよーごしゅじんさまー」
「俺は東の地域に到着する前に薬を作っておかなきゃいけないんだよ」

 在庫の治療薬だけでは間に合わないのを見越して、大量に手に入った薬草で鋭意調合中だ。
 それでも足りるか分からないのが痛いなぁ……これが行商の難点だ。

「ぶー……」

 フィーロはむくれながら俺から離れて眠る。
 同時にラフタリアも馬車の中に入った。地べたで寝るよりは寝心地が悪くないからだろう。

「さて」

 俺は火の番をしながら治療薬の調合を続ける。

「ナオフミ様」
「ん?」

 ラフタリアの声に馬車の方を見る。
 するとラフタリアが馬車の中から手招きしている。

「どうした?」
「……一緒に寝ませんか?」
「お前もか……まったく」

 見た目は大人でも中身は子供。寂しいのだろう。

「フィーロを人型にして添い寝してもらえば良いだろ」
「寂しいとかじゃなくて……その……」

 ラフタリアは何か俯いて恥ずかしそうに呟く。
 そういえば何時の間にか夜泣きをしなくなったよなぁ……アレからずいぶん経った気もする。

「ナオフミ様は……好きな人とか……いるんですか? 元の世界に」
「は? 別にいないぞ」

 一体何の話がしたいというのだ。
 意図が掴めない。

「いきなりどうしたんだ?」
「いえ……ナオフミ様は私の事をどう思っているのかなと」

 は?
 うーむ……何かクソ女が頭に浮かんできてムカムカするがラフタリアに怒る理由は無い。
 なんでクソ女はこんな時に浮かぶのかの理由が俺自身不明だ。

「奴隷という立場で無理をさせてしまっている」
「その……それ以外では?」
「何かあるのか?」

 首を傾げながら答える俺にラフタリアは何とも微妙な顔をする。

「俺を信じてくれているからな。俺もお前を信じて大切にしている」
「は、はい! ……あれ?」

 笑顔で頷くラフタリアだけど、何か疑問を持ったように首を傾げつつ、馬車にある寝床に戻った。

「さて」

 俺は次の行商の為に作業を続行した。
 ちなみにここ最近の行商時に起こる戦いによってそれぞれLvは上がってきている。

 俺 Lv37
 ラフタリア Lv39
 フィーロ Lv38

 フィーロにすら抜かれた。俺のLvアップは相当遅いのか?
 いや、二人はアタッカーだ。特にフィーロはラフタリアよりも俊敏で敵を瞬殺する。
 だから上がりも早いのだろう。
 ラフタリアは堅実な攻撃をするのでそれに拍車をかける。


 国の東の地域に到着した。
 なんていうのだろう。辺りの木々が枯れていて空気が重たい。
 別に特別、寒いわけでもない地域だと言うのに。
 大地の色も黒く、例えて言うのなら暗黒の大地みたいだ。
 空を見上げると雲も分厚く、大きな山脈が少しずつ近づいてくる。
 何とも不吉な感じだ。

「えっと」

 道が割れていたので地図を確認する。

「フィーロ、山の方へ進め」
「はーい!」
「二人とも念のために布で口を覆っておけよ。この辺りは疫病が流行しているらしいからな」
「はい」

 俺も口を布で覆い、最低限の防御をしてから目的の農村に辿り着いた。
 村の印象をあえて言うのなら、暗い。暗雲がこみ上げていて、何とも黒っぽい村だ。

「……行商の……方ですか? 申し訳ありませんがこの村は、疫病が蔓延していまして、ゴホ……避難した方が……」

 苦しそうに咳き込みながら村人が俺達に説明する。

「分かっています。だから治療薬を売りに来ました」
「そ、そうですか! 助かった」

 村人が走り出し、薬の行商が来たことを告げに行く。
 ……かなり緊迫した様子だ。
 この調子じゃ在庫に不安があるな。
 俺の不安は的中し、村中から薬を欲する声が響く。

「ち、巷で有名な神鳥の馬車だ! これで村も救われる!」

 うわぁ……期待が重いなぁ。
 これで俺の作った薬の効果が無いとかだと途端に信用が落ちる。
 しょうがない。

「薬を飲ませたい奴は何処だ?」

 治療薬を購入した奴から順に一番効果が高い方法の俺が飲ませるという行動に出る。

「こちらです。聖人様」

 前々から聖人とか言われているけど、なんかむず痒い。盾の勇者といやな目で見られるよりは良いけど。
 案内されたのは症状の重い者達を一緒に集めた建物だった。
 隔離施設的なものだったのだろう。
 施設の裏には墓地があり、真新しい墓標が何本も建っている。

 ……死の匂いがすると言えば伝わるだろうか。病院や墓場独特の嫌な空気の原因だと確信する。
 治療薬だけで治せるか不安だ。
 中級レシピを解読した程度で自惚れてはいけない。
 もしも、ここで治療薬の効果が無かったら手段が無くなる。
 いや……高く付くが高額の薬を俺が服用させれば効果は出るだろう。
 それでも……対応できるようになりたい。例え解読が難しくても、高くても何も手段が無いよりはあった方が良い。
 上級レシピの本を今度、薬屋に売ってもらえないか聞こう。

「妻をお願いします!」
「ああ」

 俺は病で咳を止め処なくする女性を起こし、少しずつ、治療薬を飲ませる。
 パア……っと光が女性を中心に広がった。
 少しは効果があっただろうか。女性の血色がよくなったように感じる。よかった。効果があるようだ。

「次!」

 俺が顔を上げると案内した村人の奴、驚愕の眼差しで俺を見ていた。

「どうした?」
「あ、あの……」

 女性の隣で横になっている子供を指差す。
 先ほどまで女性同様に咳き込んでいたはずなのに、咳が止まっていた。
 ん?
 死んだ……?
 俺はその子供の呼吸を確認する。
 ……よかった。まだ生きている
 しかし直前まで咳き込んでいたはずなのに随分と安定している。

「どうなっているんだ?」
「聖人様が妻に薬を飲ませるとほぼ同時に隣の子の呼吸も和らいだように見えました」

 ふむ……もしかして、薬効果範囲拡大(小)とはこの事を指していたのか?
 範囲が増えるって、有能すぎるだろ。
 見た限りだと半径1メートル程度、薬を服用させた者の周囲に同様の効果を出せるようだ。
 どれだけのスペックを秘めているんだこの盾は。
 ただ、戦闘になると範囲外である可能性は高いな。1メートル内で固まっていたら格下でない限り一網打尽にされる。

「それなら話は早い! 治療薬の効く奴は半径1メートル範囲で飲ませる。いそげ!」
「は、はい!」

 人手が足りないのでフィーロとラフタリアにも病人を運ばせて、近くで薬を飲ませた。
 薬の節約にもなり、隔離施設の連中の治療も思いのほか早く終わった。
 ただ……あれからしばらく経ったけれど、症状の緩和だけで完全に快方に向っている訳ではないのが厳しい所だ。

「やはり俺の治療薬じゃこれが限界か……」
「ありがとうございました!」

 感謝されこそすれ、俺は満足とは言い切れない状況だった。
 感染する危険性も孕んでいるし、根絶できないとは。

「そういえば、この病は何処から? 風土病か何かからか? いや普通は流行り病か」

 治療薬がこの程度しか効果が無いという事はかなりの病だ。
 俺達も感染する危険性がある。
 最悪、足早にここを去るという選択を決断せねばならないだろう。

「その……実は魔物の住む山から流れてくる風が原因だと治療師は説明しておりました」
「詳しく話せ」
「では、彼に……」

 治療師とは俺の世界で言う医者に近い、回復魔法と薬学に精通した職種だ。
 その治療師はこの村で病に効果のある薬の調合を行っており、丁度俺達が治療中に隔離施設に来て治療を手伝っていた。

「お前、治療薬より高位の薬が作れるか?」
「はい。現在製作中です。聖人様が行った薬で症状の大規模な改善が見られたので、放置しています」
「早く作業を再開しろ、完全に治療できていないという事は、いずれ再発する」
「は、はい!」
「待て」

 走って作業を続行しようとする治療師を呼び止める。

「お前がこの病の原因が山からの風だと説明していたそうだな。何故だ」
「あ、はい。約一ヶ月ほど前、山脈を縄張りにする巨大なドラゴンを剣の勇者様が退治いたしました」

 そういえば、そんな噂が流れたな。

「ドラゴンは人里離れた地を根城にして巣を作るのですが、このドラゴンははぐれ者だったようなのです」
「それと何の関係があるんだ?」
「一時期、この村には勇者様の偉業を見に冒険者が集まったそうです。そして冒険者は山に上り、勇者様が倒したドラゴンの素材を持ち帰ってきました」

 ドラゴンの素材で優秀な武器とか防具を作れば良いものなぁ……。
 ちょっと羨ましい。

「で?」
「ここからが本題です。素材が剥がされたまではよかったのです。そのお陰でこの寂れた村も非常に潤いました。ですが……そのドラゴンの死骸が腐り始めた頃に問題が起こったのです。ちょうど同時期に死骸を見に行った冒険者が病を発症しました」
「……分かってきたぞ。その死骸がこの病の原因か」
「おそらくは……」

 素材を剥ぎまくっているのに……という所で安易に想像が付く、ドラゴンの死骸で残されていそうな部位。
 肉だな。幾らドラゴンといえど一番に腐るといったらその辺りだろう。
 一部の美食家とかが欲するかもしれないが大抵は腐りかけの肉など冒険者は欲しない。
 物語とかだとドラゴンって余す所が無いとか、肉でも美味しいとか言われるけど、この世界の基準だとどうなのだろう。
 後は臓物だ。特に肝臓の類は腐りやすい。
 錬は素材目当ての可能性が高いから臓物辺りは無視していそうだ。
 精々、心臓とか……魔力的効果の高そうな部位だろうなぁ。

「原因が分かっているならササッと処分すれば良いだろ」
「それが……元々冒険者でもなければ入らない凶悪な魔物の住む地域の山脈なので……近隣の農民では撤去も不可能なのです」
「じゃあ、冒険者に頼めば良いだろ」
「気付いた頃には山の生態系が劇的に変化していまして、空気には毒が混ざり、病の影響で並みの冒険者では入ることさえ困難に……しかも流行り病を警戒して冒険者も近づきません」

 はぁ……。
 錬の奴、魔物の死骸くらいちゃんと処分していけ。
 錬は勇者の中で一番年下だ。
 俺が高校生の時に、物が腐って困る、なんて発想は出てこなかっただろう。
 ましてや、あいつは勇者の中で一番ゲームに精通している。
 それもVRMMOとかいうSFの産物だ。
 ゲームと現実の違いに一番遠いと言われれば、この結果は必然と言える。

「聖人様、どうしましょう」
「国には報告したのか?」
「はい。近々、薬が届く予定です」
「……勇者は?」
「何分、忙しい身なので、後回しになっている可能性が高いかと」

 元康といい錬といい。
 腹立たしくてしょうがない。

「国への依頼料とかは既に払っているのか?」
「ええ……」
「キャンセルしたら戻ってくるか?」

 治療師の奴、俺をまっすぐに見て目を見開く。

「聖人様が行くのですか?」
「どうせ薬が出来るまで時間が掛かるだろ?」
「はい……後半日は掛かるかと」
「分かった。その間にドラゴンの死骸を処分しに行ってくる。代わりに国への依頼料を寄越せ」
「わ、わかりました」

 こうして俺達は山の方へドラゴンの死骸を処分しに行く事になった。
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