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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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エイミング

 ガタンガタンと馬車は揺れる。

「夜でも進んで行くんだなー……魔物とかいないのかな?」

 という所で馬車は止まる。
 場所は次の町へ向かう為の山道の途中。

「ん? どうしたの?」

 止まった馬車の合間からお義父さんが覗き見ます。
 ローブを羽織った使者が馬車から下りてお義父さんの元へ……剣と槍を抜いて近寄ります。
 その気配にお義父さんも状況を察したのか表情が青ざめる。

「騙されやがって、馬鹿な奴め」
「能天気な顔をしてたよな。まったく、王も面倒な事をせずに最初からこうしてれば良いのにさ」
「他の勇者の不信を買いたくなかったんだろ? いつ自分が殺されるかとか警戒されて逃げられたらたまったもんじゃないから」
「え……あ……も、元康が言っていたのは……これだったのか!?」
「今更遅いぜ、盾の勇者! 覚悟!」

 間に会え!

「イナズマスピアー!」

 俺は雷を帯びた槍を、お義父さんを殺そうとしている者達に投げつけました。
 未来の勇者達が教えてくれた強化によって鍛えられた確固たる力から、繰り出される雷撃の如く閃光がメルロマルクの刺客に飛んで行きます。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 バチバチと雷が形となって敵を貫きました。
 しかし、まだ全ての敵を倒しきれておりません。
 その間にも俺は、少しでもお義父さんを守るべく馬車に向かって走る。
 同時に槍が手元に戻ってきた。

「これを使うのは久しぶりですな」

 俺は槍に意識を込め、誘導性は高いのですが威力に難のあるスキルで敵をロックオンします。

「エイミングランサーⅩ!」

 光り輝く槍を力強く投げました。
 エイミングランサー。
 ゲームだった頃は高い命中率の補正が掛るスキルでした。
 威力は平凡、エアストジャベリンより僅かに強い程度。
 言うなれば必中技……もちろん、切り払いなどで叩き落とされたらその限りではありませんが、今の俺の力ならお義父さんを殺そうとする連中を仕留めることなど造作もありませんな。

「グアアアアアアアアア!」
「うわああああああああああああ!」

 オーラを発した槍が俺の認識した敵を貫いて行く。
 マルチロック機能があるので、狙った敵全てへ飛んで行きますぞ。
 敵は三人。
 イナズマスピアーで一人、エイミングランサーで二人仕留めました。

「お義父さん! 大丈夫でしたか!?」

 俺は馬車に駆けよってお義父さんに声を掛ける。

「き、君は元康……うん。俺は……大丈夫だけど……」

 馬車から降りてお義父さんは倒れた敵を見つめる。

「こ、殺しちゃったの?」
「加減をできる状況ではありませんでしたからな」

 そう、生け捕りにして誰が黒幕だったのかを吐かせる事も出来たのでしょうが、そんな事をしていたらお義父さんが殺されてしまったかもしれません。
 そうなれば元の木阿弥です。

「シルトヴェルトの使者がなんで……」
「違うのですぞ。シルトヴェルトの使者では無く、メルロマルクの兵士か三勇教徒ですぞ」
「三勇教徒?」
「この国の国教で過激派……未来でお義父さんが壊滅に追い込んだ勢力ですぞ」
「そ、そうなんだ。元康……くんが俺を助けてくれたんだよね。どうもありがとう」
「礼には及びませんぞ。それが私の使命ですからな」

 などと感動の再会をひしひしと感じていると、エクレアがバテ気味に追いついてきました。

「やっと……追いついた……」
「君は……?」

 お義父さんがエクレアの顔を見て、若干頬を赤くしながら尋ねましたぞ。
 確かに豚ではない女……つまり素晴らしい容姿と心を持っている事の現われですからな。
 まあ、フィーロたんと比べれば豚も同然ですが。

「私の名前はエクレール=セーアエットと申します。故あってキタムラ殿に同行し、盾の勇者殿の力になろうと馳せました」
「そうなんだ?」
「盾の勇者殿、危ない所だった。槍の勇者であるキタムラ殿がいなかったら今頃どうなっていたか……」
「うん、それは痛いほどわかったよ……元康くんの言う事は本当だったんだね」

 お義父さんはやっと俺の事を信じてくださいましたぞ。
 ならば、これまでの話を全て伝えるべきでしょうな。
 そう思った所でお義父さんは今まで何があったのか話し始めました。

「マルティ王女が予定よりも早くシルトヴェルトの使者が到着したと言って俺は出発する事になったんだ。で、みんなで見送ってくれたのに、こんな事になるなんて……」

 お義父さんがとても悲しそうにしています。

「お義父さん、どうか悲しまないでください。私、元康とこのエクレアが付いていますから」
「いや、私は……今はいい。そうだ、私も盾の勇者殿の力になろう。この国に居るくらいなら、盾の勇者殿を大切にしてくれるシルトヴェルトかシルドフリーデンに向かうべきだろう」
「うん……戦いの鉄則だよね。メルロマルクは俺にその二つの国に行って欲しくないからこんな事をしようとしたんだし、やられっぱなしは嫌だな」
「それでこそお義父さんですぞ」
「はは、なんか元康くんにお義父さんって呼ばれても抵抗感が無くなってきたよ。改めてよろしくね」

 こうして俺達はお義父さんを救いだすのに成功したのですぞ。
 ただ、翌日、俺達の手配書が国中にばらまかれる事になったのですが……ね。


「まずは国境を超える事が重要だと私は思う」

 野宿をした翌日の朝の事……エクレールがそう告げる。

「そうだけど……お腹減ったね」

 昨日は碌に食事を取らず、戦いの連続でした。
 本来なら食堂で食事を取るはずでしたが、俺は罠で地下に、お義父さんはその足で馬車で出発していた訳で。
 つまりこの世界に来てから一度も食事を取っていない事になります。
 そう考えるとお義父さんの言葉も尤もですな。

「まあ食事は後にして、これからどうしたら良いかな?」

 今の俺達は金銭も装備も全くありませんぞ。
 Lvと強化された槍のおかげで戦えるでしょうが、どうしても装備や金銭は必要です。
 今の懐事情ではフィロリアル様の卵を買う事もできません。
 それに俺もお義父さんも私服ですな。

「追い付かれたらポータルスキルで逃げる事は可能ですぞ」
「そうなんだろうけど」
「已むを得ないか……」

 昨日、捨て置いた兵士の亡きがらからエクレアは鎧をはぎ取って来ました。
 その事が心残りのようで、盗んだ金袋を見てお義父さんはエクレアに言いましたぞ。

「やっぱり死者から物を盗むのは嫌だった?」
「いや……死者から身ぐるみを剥ぐのは私の騎士道に反するが状況が状況だ。致し方ない」

 ここはお義父さんが言いそうな事を言ってみましょうぞ。

「戦場ではルールなんてありませんぞ。騎士道だけで生きれるなら生きれば良い。だけど今の私達は生きるだけで精いっぱい……自分の身を守る事も重要、玉砕が騎士道ですかな?」
「耳が痛い話だな。そうだ。戦場では戦友の亡骸を乗り越えてでも一歩前に出て戦わねばならん。ましてや卑劣な手でイワタニ殿を殺そうとした者達の物を徴収する事は……妥協すべき事なのだろう」
「敵から奪うのすら嫌悪するなんて……エクレールさんはとても真面目な方なんだね。カッコいいな」
「い、イワタニ殿。カッコいいと憧れるものでは無いぞ。そんな私もやむなく夜盗の真似事をしてしまったんだからな」
「空腹は途中で遭遇する魔物で凌ぎましょうぞ。金銭は……少しばかりならあるようですし、必要な物は途中で買ってくるしかありませんな」
「うん。そうだね」
「うむ」

 こうして出発しました。
 その途中にある村で盾と槍を持った危険な犯罪者と国の元騎士が徘徊中との御触れが出ているのを確認しました。

「んー……」

 俺はその看板を遠目で見ながら考えます。

「元康くん何考えているの?」
「いい加減ウザいので、あのクズと赤豚ヴィッチ、そして三勇教の教皇を殺してくるか考えているのですぞ」
「い!?」
「キ、キタムラ殿、そんな真似をしたら世界中から指名手配される。しばし我慢してくれ」

 二人に止められたのでぐっと堪える。
 とりあえず、静かに旅を続ける事になりました。
 お義父さんが乗っていた馬車は傷一つないのでそのまま利用してますぞ。
 シルトヴェルトまでフィロリアル様を利用せずにいるとして馬車で三、四週間は掛るでしょうな。
 少々時間が掛かり過ぎている気がしますが……。
 かといって今の俺が所持しているポータルは近隣の場所しかありませぬ。


「魔物を倒しても経験値が入らないね」
「それは勇者同士の反発の所為ですぞ」
「そう言えば、そんな話をしていたね。これがそうなんだ?」
「私が離れれば経験値を得る事は出来ますが……そうなると突然の事態に対応できなくなるかもしれません」

 時々、追手とばかりに国の兵士や冒険者が襲い掛かって来ます。
 お義父さんは馬車で待機してもらって、私が薙ぎ払いますぞ。
 シルトヴェルトを目指して三日目……何度目かの暗殺者を屠った記憶が新しいですな。

「危険だな。イワタニ殿はLv1だ。だが、上げるにはこの国は危険すぎて私だけだと守り切れる自信が無い」

 ああ、フィロリアル様が懐かしい。
 もふもふとした艶のある健康的な羽毛が懐かしいですぞ。

「せめて仲間がもっといれば心強いのだがな……」
「信用できるの?」

 怪訝な目でお義父さんがエクレアに答えます。

「そこが問題だ……」

 確かに難題ですな。敵と味方の区別がつけられませんぞ。
 そう言えば……そろそろシルトヴェルトの使者がコンタクトを取ってくる頃合いですな。
 とはいえ、俺達は現在お尋ね者状態。

 なんて思っていたその時、見覚えのある亜人と豚二匹がこちらに正面から歩いてきましたぞ。
 凄いですな。俺達の所在を掴んでいるとは……。
 エクレアが剣を抜いて警戒態勢を取ります。

「私……シルトヴェルトからの使者でございます。セーアエットの忘れ形見……剣を引いてください。こちらは戦う気はありません」
「む……わかった」

 使者はお義父さんに深々と祈るように頭を下げてから話始めます。

「盾の勇者様、槍の勇者様、どうか我が国に来ていただけないでしょうか?」
「元からシルトヴェルトの方へ向かう予定だったのだけど……」

 お義父さんが言い辛そうに視線を逸らしながらポツリと呟く。

「その使者を語る人達に殺されそうになったから信用できなくて……元康くん、君に聞きたいんだけど、この人達は信用できるかな?」

 前回、この方々に預けた所為でお義父さんは亡くなりました。
 何が理由かはまだ判明していないので、使者を語る偽者の可能性は捨てきれません。

「未来の話をしましたな」
「うん。だから危険なんだよね」

 これまでの道中、俺はお義父さんにループしている事を説明しました。
 それはシルトヴェルトの使者を名乗る人達にお義父さんを預けたら死んだ事まで包み隠さず話しております。

「盾の勇者様方の旅路が騙しの連続であった事、お悔やみ申し上げます。信用できない事は非常に心苦しい限りです」
「そこなんだよ。出来れば信じたいんだけど……」

 今までの出来事が信じさせてくれない。
 少なくともこのメルロマルクでは信用できる人物は限られているでしょうな。

「でしたら私達を奴隷にして拘束してくだされば良いかと思います」
「奴隷……確かにその手がありましたな」
「奴隷って……アレだよね。この世界の奴隷って奴隷紋に縛られて主の命令に逆らえないんだっけ?」
「そうですぞ」
「なるほど……だが、奴隷か」

 エクレアの顔が曇る。
 その表情を見たお義父さんが慌てた様子で声を出しました。

「ごめん、エクレールさん。念には念を入れておいた方が良いと思うんだ」
「わかっている。石橋を叩いて渡る程、慎重に行かねばならない」
「奴隷化の儀式はどうするのですかな? インク壺があるのなら奴隷化させる事が出来るかと思いますが?」
「準備させます。少々お待ちください」
「念の為、俺も主の登録をしたいけど良いですかな?」
「それが信用の条件なら喜んで飲みましょう」

 俺が前に立って、辺りを確認しますぞ。
 それから数時間後……シルトヴェルトの使者がインク壺を俺達の前に持ってきました。

「お義父さん、この壺に血を少量落とすのですぞ」
「う、うん」

 お義父さんがエクレアの剣で指先を軽く傷つけてインク壺に血を落とす。
 そして俺も血をインク壺に流し込みました。

「後は最寄りの儀式をしてくれる協力者の元へ行って私達は奴隷になって来ます。お待ちください」

 こうして俺達は人通りの少ない森に潜伏してシルトヴェルトの使者が奴隷化するのを待ちました。
 やがて、視界に奴隷のアイコンが浮かび上がりましたぞ。

「わ、これが奴隷のステータス? 色々な項目があるね」
「そうですぞ。後は項目に嘘を付けない、主に敵意を向けない、攻撃できない等、注意事項をチェックしてから合流するのですぞ」

 俺が設定して、お義父さんに教えて行きます。
 どちらかと言うと俺は魔物紋の登録の方が得意なのですが、あまり差はありませんな。
 しかし、ちゃんと奴隷化をしているという事は偽者では無い……と推測するのが良いですかな?
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