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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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クロちゃん

「さ、行きますぞ!」

 俺が差し出した手にお義父さんは手を伸ばした。
 その手を取って、お義父さんを立たせる。

「元康さん、貴方……」

 樹が絶句したように俺を睨みつける。
 どんなに睨もうと、この元康は一歩も引きませんぞ。
 世界平和の為、お義父さんの為、フィーロたんの為、この元康は戦い続けるのです。
 例え相手が樹や錬、はたまた神であろうとも負けません。

「お前の隣にいるヴィッチの言葉を信じないことだぞ。樹」

 どうやら樹は俺が未来から来たという話を全く信じてくれなかったご様子。
 錬は半信半疑の表情で俺と樹を見ている。
 そんな二人を置いて、俺はお義父さんの手を握り、城を後にした。


「ありがとう! 北村くん!」

 城を出て広場に着くとお義父さんが感謝の言葉を仰りました。
 赤豚共の陰謀から俺はお義父さんを救ったんだ。

「北村くん……正直言って俺は君の事を少し苦手に感じていた。だけど君は俺のことを信じてくれるんだね」
「私は未来から来た愛の狩人ですからな。お義父さんの言う事は正しいに決まっているではありませんか!」

 お義父さんが今まで見せた事の無い表情で若干照れ気味に頭を掻きながら俺に礼を告げる。
 フィーロたんのお義父さんに感謝されるとは、最高の栄誉!

「それでお義父さん、お願いがあるのですが?」

 そう言えばお義父さんって出会った当初は俺の事を元康と呼び捨てしていたと思うけど、なんか遠い気がする。
 ならば……。

「是非、私の事は元康と呼び捨てで呼んでもらいたいのです」
「え……」

 お義父さんが困った表情を浮かべる。
 義理の息子である俺がお義父さんに呼び捨てされるのは当然のはずですが。

「どうかしたのですかな?」
「いや、何か……俺の事を信じてくれた人にそんななれなれしい態度で呼ぶって違和感があるんだ」
「気にせず呼んで頂けるとこちらも嬉しいですぞ」
「そ、そう? じゃ、じゃあ元康……くん」
「くんは余計ですぞ」
「えっと……ゴメン、慣れたら呼び捨てにするから」

 と、お義父さんは自粛したように答える。
 うーむ……もっと罵倒するような、馴れ馴れしい態度で呼んでくれた方が俺は嬉しいのだけどなぁ。
 と、思いながら俺はお義父さんを凝視する。
 インナー姿だ。

 そういえば赤豚から身ぐるみを剥がされたままでした!
 どうする? 今すぐあの赤豚をぶち殺して取り戻してくるか?
 うん。そうしよう。
 きっとお義父さんも笑顔になって褒めてくださるでしょう。
 お義父さんはそういう方です。

「ちょっと待っていてください」
「あ、ちょっと」

 俺が城に戻ろうとした所でお義父さんが俺を呼びとめる。
 困ったような、心配しているような、そんなお顔です。

「どうしました?」
「城になんで戻るの?」
「ははは、何を言っているんですか。あの赤い豚をぶち殺してお義父さんから奪った全てを取り戻してくるんですよ。なに、すぐですよ。樹や錬が邪魔したら死なない程度にボコしてきます。義は我にあり!」
「い!? あ、あの、元康くん。もう良いから……うん」

 驚愕するような表情になったお義父さんは遠い目をして答える。
 お優しい限りですが、少々生ぬるく感じますな。
 フォーブレイの豚王に赤豚を届けさせた人と同一人物とは思えませんぞ。
 そうか、お義父さんは本来はこんなにお優しいんですな。
 だからフィーロたんはあんなに素晴らしい天使へと成長したんでしょう。
 しかしながらこの元康、あの赤い豚への殺意はこの程度の事では消えませんぞ。

「そうですかな? 今なら即座にぶち殺せますぞ。あの世界の害悪足るクズヴィッチを」
「もう良いから……元康くんに凄い力があって、俺を信じてくれているのはわかった。だけど……もう良いんだ」
「なんと心優しい。この元康、お義父さんの慈悲に涙が止まりませぬぞ」
「あの、お願いだから人通りの良い所でそう言うのやめて!」

 俺が涙を流してお義父さんに敬礼していると道行く人達が首を傾げながらこちらを見ていました。
 むう、お義父さんにいらぬ恥をかかせてしまいそうですな。

「しかし……お義父さん。下着姿なのは頂けませんぞ」
「だけどお金も取られちゃったし」
「大丈夫ですぞ。俺のお金をお使いください」
「え? 良いの!?」

 俺は金袋をお義父さんに差し出す。
 袋を広げたお義父さんは信じられないと言うかのように答えた。
 フィロリアル様の卵を購入したので多少少なくなっておりますが、ある程度の金銭は残っておりますぞ。

「何を今更、私とお義父さんの仲じゃないですか」
「でもこのお金が無くなったら元康くんはどうするの?」
「ははは、問題ありませんぞ」
「いや……本当にどうするの?」
「ははは」
「笑って誤魔化さないでよ。えっと……ありがとう。半分だけ借りるね」

 と、お義父さんは俺の金袋の金銭を半分にして返してくださいました。
 さすがお義父さん。謙虚ですな。

「ではお義父さんの防具を買いに行きましょう!」
「う、うん」

 お義父さんを連れて俺は朝の城下町を進んで行った。
 そこでお義父さんと仲が良かった武器屋の親父さんと出会う。

「おい、盾のアンちゃん」
「う……」

 武器屋の店主に睨まれてお義父さんは困った表情を浮かべる。
 咄嗟に俺はお義父さんを庇うように前に立った。

「聞いたぜ、仲間を強姦しようとしたんだってな。一発殴らせろ」
「違いますぞ!」
「ん? アンタ誰だ? その槍を見る限り、槍の勇者様って奴か?」
「そうですぞ。ですが、貴方は一つ勘違いをしております。お義父さんは強姦なぞしておりませぬ!」
「アンタに話はしてねえよ。俺はアンちゃんに話してんだ」
「俺は……やって無い」

 苛立つようにお義父さんは視線を外して答えた。
 武器屋の店主はお義父さんをしばらく睨んだ後、溜息を吐く様に力を抜いた。

「そうだなぁ。盾のアンちゃんはいきなりそういう行動に出るようなタイプじゃねえだろ」
「信じてくれるのか!?」
「そりゃあな。どっちかと言うと彼女の方が怪しい感じがしたぜ。長年接客をしてると自然となんとなくわかるぜ」
「親父さん……」
「それに……犯罪したのにインナーだけってのはどうなんだよ? 心当たりがあったら捕まる前に逃げるだろ普通」
「そうだよね」
「で? 服とかどうするんだ?」
「お金はここに」

 と、俺が金袋を武器屋の親父に渡す。

「この金銭でお義父さんに見合う防具を選んで欲しいですぞ」
「元康くん。それ、君のお金……」
「ははは」
「笑って誤魔化さないで」
「なんて言うか……仲良さそうで何よりだな」

 と、武器屋の店主は機嫌よく店に戻り、お義父さんに見合った鎧を見繕ってくれた。

「くさりかたびらで良いかい? アンちゃんも不幸だったな。サービスしてやるよ」
「いや……良いよ」

 お義父さんはウンザリした口調で、くさりかたびらを拒み、皮製の鎧を着た。
 やはり盗まれた物と類似した物を着るのは抵抗があるのかもしれませんな。

「そうかい?」
「元康くん、じゃあこのお金は君に返すね」

 お義父さんは律義に店主さんからおつりをもらうと、自分が持っていた金袋を俺に手渡す。

「気にしなくて良いんですぞ」
「俺が気になるんだよ」
「で? アンちゃん達はこれからどうするんだ?」
「俺は既に強いですからお義父さんが強くなる為のお手伝いをついでにしますぞ」
「それだと勇者同士の反発が起こるんじゃなかったっけ?」
「そう言えばそうでしたな……ですが、武器の素材は共有可能ですぞ」
「そうなんだ? じゃあ元康くんに素材を集めてもらって、教えてくれた通りの強化方法を試せばある程度は戦えるのかな?」
「とりあえずはそれで良いと思いますぞ」
「うん。じゃあしばらく一緒に居ようか」
「はい! お義父さんの命ずるままに」

 俺はお義父さんに頭を垂れて忠誠を誓う。
 するとお義父さんは困ったような表情をして数歩下がった。

「元康くん、ホントやめて!」
「アンちゃん、変な奴と仲良いな……」
「誤解が増えて行く……」

 ため息交じりにお義父さんは呟いた。
 なんて会話をしていると懐で温めていた卵と孵化器が震えだした。

「む……」

 俺は孵化器を取り出して店のカウンターに置きます。

「ん? 槍の兄ちゃんは魔物の卵を買ったのか?」
「はい。フィロリアル様の卵ですぞ」
「ああ、あの馬車を引く鳥?」
「はい。フィーロたんと同じ神々しい鳥ですぞ」
「へー……元康くんが本当に好きな魔物なんだね」
「はい!」

 震える卵を見ていると、ピシッとヒビが入って卵が孵化した。

「ピイ!」

 元気な声と共にフィロリアル様が顔を出しました。
 ……黒い……フィロリアル様のオスでしたぞ。

「ピイ!」

 既に魔物紋の登録は済んでおります。
 人に飼われる魔物は生まれる前から付けられているのですぞ。
 言わば俺とフィロリアル様を結ぶ絆の様な紋様なのです。

「うわぁ……かわいいね。元康……くん? なんで残念そうなの?」
「残念ではありませんぞ」

 フィーロたんではありませんでしたか。
 ですがしょうがありませぬ。
 俺はフィロリアル様に指を近づけ、軽く喉を撫でる。

「ピイイイ……」
「君の名前は……そうだなぁ。クロちゃんにしよう」
「色からかな? 安直だなぁ……」

 お義父さんが何やら言っております。
 フィーロたんを見つける為に沢山買う事になるし、黒いフィロリアル様ですからな。
 この名が一番しっくりくると思います。
 ですが、お義父さんが気に入らないなら別の名前でも良いですな。

「お義父さんが気に入らないなら……そうですねブラックサンダーとでも名付けましょうか?」
「それはちょっと……確かにクロちゃんがいいのかもね」
「ピイ!」

 そういう訳でこの子はクロちゃんで決まりました。
 きっと元気な天使に成長する事でしょう。

「これで仲間が増えましたぞ」
「ペットじゃないの?」
「フィロリアル様はとても頼りになる仲間ですぞ。いえ、家族ですぞ!」
「元康くんは色々と凄いね」
「とにかく私、元康はお義父さんの手伝いとフィロリアル様の育成に励みますぞ」
「まあ頑張れよ、アンちゃんと槍の兄ちゃん」
「うん。これから頑張ろう」
「では出発ですぞー!」
「ぴい!」

 フィロリアル様を手に乗せて俺達は城下町を後にしましたぞ。
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