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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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番外編 盾の勇者のバレンタイン【15】

 さて、既にフィーロの手作りチョコと言う商品名のチョコは搬送を終えている。
 開場と同時に会場入り口で交換券と交換し、配布される予定だ。
 その後はフィーロのライブが開始される。
 売り子をラフタリアに任せて、見晴らしのいい場所へ移動し、会場の入り口を覗きこむ。

 キールの方も似たような物だな。
 ただ、キールの方は不明瞭なので会場の上からキールのチョコを欲しがる連中を見る。
 一応、会場の入り口を別にしているから見分けるのは簡単だ。

 お? キールの方もそれなりに客が来てるじゃないか。
 年齢層は……フィーロとは違うな。大人の女と子供が一杯だ。
 これはキールの方のチョコレートは失敗だったか。
 フィーロと同じ規格で作らせたからな。
 こっちはチョコレートクッキーとかにすれば良かった。

「ねえ。まだー?」

 先頭集団にいる子供が母親と一緒に開場待ちをしてる。

「もう少しよ」
「キールくんのイベント楽しみー」
「そうねー……あの無邪気なキールくんが何をしてくれるのか楽しみね」
「この前、干し肉上げたのー。キールくん凄く可愛かったー」

 そこで俺はフッと新しいアイデアが浮かぶ。
 やはりフィーロとは別ベクトルで売れる!
 キールの場合は女の子が喜ぶような……犬形態のキールとかのぬいぐるみを作らせてみよう。
 きっと売れるぞ。
 なんて思いつつ、開場時間になった。

「駆けこまないでくださーい。券さえあれば交換出来るので、駆けこまないでー」

 日本にいた頃を思い出すな。
 アイドルオタクじゃなかったからイベントまで行った事は無いけど同人の即売会なら行ったことがある。
 それに少し似てる。

 確かキールの方の交換券は販売して半日で売り切れてしまったんだったか。
 フィーロの方は元康が買い占めたのが原因か販売開始1時間で売り切れた。
 どんだけ人気あるんだよ。
 それでも客のタイプが違うのは驚きだ。

 今回は握手券とかじゃないからマシか。
 握手券販売時はフィーロが嫌そうにする事があるから宥めるのが大変だってメルティも言っていた。
 フィーロと握手するのがそんなにしたいかねー……提案した俺が言うのもなんだけど。
 フィロリアルを48人集めてアイドル活動させるとかどうかな。
 どれも似たような奴だからなぁ……キャラ分け出来るか怪しい。
 おつむの作りも悪いし、管理が難しいよな。やっぱり。


「みんなありがとー」

 お? フィーロの方はライブが始まったか。
 歓声が聞こえてくるので、スタッフ用の通路を通って確認する。
 会場に設置されたクズが発明した照明がフィーロを照らす。

 満席の会場に俺は言葉を失う。
 俺がおかしくなった時よりも規模が大きくなってるな。
 フィーロがマイク片手に歌い始めている。
 始まりからテンションが高いな。

 このイベント用にフィーロに新しい服を用意させた。
 今回のテーマはバレンタインだったか。包装紙みたいな柄の服装にリボンを髪に巻いている。
 フィーロは歌うのが好きだからなー。
 メルティも後方で楽器を弾いている。

 楽器の勇者となったメルティは曲で人々をある程度、援護する事が出来る。
 今、メルティが弾いているのはスキルを変形させた物だろうな。
 フィーロが歌って踊り、ポーズを決める。
 背後で爆発が起こったりして、会場内はヒートアップしてる。

「フィーロたーん! がんばー!」

 元康がファンクラブに指示を出して波を作らせたり、文字を浮かび上がらせたりしてる。
 元気な連中だな。

「今日は負けないよー!」
「「「おー! トリプルズの乱入だー!」」」

 変なチーム名だな。
 三色フィロリアルが乱入し、歌合戦に発展したみたいだ。
 安定のフィーロ達だな。失敗する事は無いだろ。
 チョコの方も交換率9割だったし。
 ほぼ完売だ。残り1割は……何かあったのか俺の管轄外だ。

 でー……キールの方はっと。
 お!? キールの方が若干交換率が高い。
 9割2分だ。
 キールの方の会場へ足を運ぶ。

「え、えっと……『みんな俺を罠に嵌めたんだな。陰謀には負けない!』」

 どんな演目をするのかノータッチだったから詳しくは知らない。
 ラフタリアが監修していたはずだが、何をしているんだ?
 ぼんやりと布の服を着たキールが鍋の蓋を持って、演劇をしてる。
 ただ、かなり初々しい感じで恥ずかしそうにしてる。
 それでも客は「がんばってー」って優しい目で応援をしてて、キールも徐々に緊張が解けたのか様になってきている。

「『この国は奴隷を使ってるじゃないか。なんで俺だけ没収されなきゃならない』……で、良いんだよね?」

 うわぁ……お遊戯の領域だ。
 舞台の下でイミアがカンペを広げて見せてる。
 台詞を覚えきれてないって……本格的に稽古させるべきだろ。
 キールの人格的に難しいか?
 というか先ほどから気になっているんだがー……もしかして。

「ラフー!」

 兵士役の奴隷が何故かヒロイン役をしているラフちゃんを捕まえている。
 ラフちゃんは腰に短剣を下げて鳴いている。
 ラフちゃんの方が演技が上手いな。ラフとしか鳴いてないのに台詞が耳に入ってくるかのようだ。
 一応、補足としてナレーションがラフちゃんの台詞を代弁してる。

 でー……なんでクズがこっちで王様役をしているんだよ。
 お前はメルティの仕事の手伝いか、城で公務してろよ!
 どんだけノリが良いんだよ。

「『この国でワシの言う事は絶対! 従わねば無理矢理にでも奴隷を没収するまでだ!』」

 ブーイングが聞こえてくる。
 それ……実際に言った言葉だからな? 本気で笑えないぞ。
 が、それも演技の内、キールが興奮しすぎてボフンと子犬形態になって笑いが起きる。

「『では城の庭で決闘を開催する!』」

 間違いない! これ……俺をモデルにした劇じゃねえか!
 キールの方の会場に貼られたポスターを見る。

 演目名は盾の勇者の伝説、第一幕……おい!

 キールが俺の役をしてんのかよ!
 男役をやらせろとは言ったが、なんで自分がモデルの物語を劇にされているのを見なきゃならないんだよ。
 その後、ラフタリアが奴隷から解放されても俺と共に居ると言う所まで劇は続いて、第一幕が終了した。

「盾の勇者様って大変だったんだねーキールくん可愛かった」
「そうよ。この世界は盾の勇者様が救ってくださったのよ」

 やっと終わったかと思ったら別の劇が始まる。
 次は……男装のお姫様が世直しをする話だ。
 その話の途中、呪いを受けてしまい、変身してしまうようだった。

「『う……私が呪いの力で狼に……』わんわん!」

 キールがけるべろす形態に変身して、劇場内を動きまわる。
 最終的に、呪いを掛けた悪者は倒されてハッピーエンド?
 その後は劇に携わった連中が一挙に集まって礼をしてる。

「今回は来て下さりありがとうございましゅ――」

 キールが噛んだ。
 だが、客は多めに見ていて、笑いがこみあげている。

「キールくんがんばー! 次もやってー!」

 と、会場に御捻りとしてチョコレートが投げ込まれる。

「ありがとー!」
「キールくんこっちー!」
「わんわん!」

 お菓子だからかキールはけるべろす形態に変身して貪り始める。

「あれ? なんでチョコから俺の匂いがするんだー?」

 げ!? キールの奴が気付いた!?
 だが、キールは首を傾げるだけでそれ以上は疑問に思わなかったみたいで手を振ってる。
 その様子を客共は楽しげに見ていた。
 平和なのか、独自の空気なのかわからない光景だったな。
 こんな感じで大盛況に二つのバレンタインイベントは終わった。


 会場の片付けをラフタリアに任せ、俺は足早に村に戻ってきた。
 日が落ちて夜になりつつある。
 晩飯の準備をしないとな……。

 一応、片付けとかその後の祝杯はゼルトブルがやってくれるとの話で、ラフタリアやキールはあっちで宿泊となる。
 こっちはこっちで仕事があるし、行商や次のイベントに備えて企画を練らねばならない。
 きっと雛祭りとかもあるに違いない。
 備えあれば憂いなしだ。

 お? 錬達がポータルで帰還してきたみたいだ。
 そわそわした様子の錬が女騎士と谷子と話をしている。

「じゃあなレン。明日もまた早いからゆっくり休めよ」
「……おやすみ」
「お、おう……」

 錬が両手を軽く前に出しているのに気づいてやれよ。
 絶対、チョコを作って無いな。
 いや、気付いて流しているのか?
 ふ……そんな哀れな錬に俺はある程度気を使ってやったぞ?

 錬は家の前にあるポストにチョコが入っている事に気づいた。
 ま、そこまでは村の連中がくれた義理チョコだと思うだろう。
 だが、その中に無骨な感じの不器用な包装がされたチョコの箱を見て錬はハッとなる。
 他にドラゴンのデザインが入れられた包装のチョコもな。
 そして中を確認し、ニヤけた笑みを女騎士と谷子に向けて錬は家へスキップしながら入って行った。

「な、なんだったんだ?」

 女騎士と谷子が首を傾げながら歩いてくる。

「イワタニ殿、先ほどレンが変な態度を取っていたのだが、何か良い物でも届いたのか?」
「チョコじゃないのか?」
「いや、そうなんだが……」
「私達以外でもらって嬉しい人いたんだと思って」

 さも当然の様に言ってのけた。
 わかっているならチョコの一つ位作ってやれよ!
 微妙に脈がある癖に、イベント時の対応が悪いなこの二人。

「ああ、こんな事もあろうかと錬の為に俺がお前等のフリをしてポストにチョコを投函しておいた」
「なんだと!?」

 女騎士と谷子が怒りを露わにして俺に詰め寄ってくる。
 当然の反応だと思う。
 だが、錬の場合、こうでもしないとモチベーションを保てないんだよ。

 何ももらえず明日になってみろ。クリスマスの時みたいになるぞ。
 で、樹辺りがチョコを食べている姿を見て、嫉妬辺りのカースに目覚めるんだ。
 全てのリア充を爆発させる! とか言いながらな。

 錬には奴隷狩りの問題に取り組んでもらわないといけないからな。
 好きな女からチョコをもらって、高いテンションでいてもらわないと困る。

「どういう事だ!」
「なーに、お前等もわかるだろ? バレンタインにチョコをもらえない奴の気持ちが」
「わかるか! イワタニ殿は私をなんだと思っている!」
「ああ、そういえばお前は女だったな。だが、今日はもらう立場だろ?」
「う……」

 心当たりがあるのか女騎士が微妙に声を詰まらせる。
 谷子も同様に、嫌そうな目を俺に向けていた。

「確かに今日ほど、うっとおしい日は無いと思ってはいるが……」

 女騎士で男っぽくてクソ真面目。これでモテないはずも無い。
 やはり異世界でもこの基準は変わらないんだな。
 まあ広めたのが勇者だから、なんとなくわかってた。

「私が事もあろうにレンにチョコを贈った!? イワタニ殿が作ったのか!」
「ああ、お前が作りそうな無骨な感じの、それでいて真心が入ってそうなチョコを不器用な包装にしてポストに入れた」
「イワタニ殿! レンの心を弄んだのか!」
「ふん。別にお前の名前を入れてはいないぞ? お前が送りそうな……風にしておいただけだからな。錬が勝手にお前のだと勘違いしているだけだ」
「く……」
「私の方は?」
「お前のも名前は入れていない。ただ、ドラゴンの焼印を付けた包装紙とガエリオンの鱗をリボンに挟んで入れた。これで錬はお前のだと勘違いする」
「…………」

 無言で睨まれた。
 深淵の闇みたいな目を向けてくんなっての!
 というか嫌いなのか好きなのかハッキリさせろよ。
 気になっているとかか?

「そういう訳だ。チョコを用意しているのなら今すぐ渡しに行くんだな」

 女騎士が忌々しそうにチョコを持ってきて俺に見せる。
 想像以上に悪かった。
 コゲコゲ……うん、まだ俺の作った偽チョコの方がマシ。
 谷子の方は動いてんぞ。チョコレートモンスターか?

 そもそもがそれ以前の問題として、チョコを作っていた事に驚きだ。
 あるなら渡せよ。
 最悪、伝説の武器を使って作ればよかっただろ。

「とりあえずお前等は来年までに勉強しろよ」
「く……イワタニ殿! 今日の事は根に持つからな!」
「許さない」

 ふん、これまでお前等が俺に向けてきた敵意ある態度を考えれば無難な対応だ。
 だいたいお前等、結構錬の事好きだろ。
 どっちでもいいから、さっさとくっつけって感じだ。
 じゃないと錬が鬱陶しくてしょうがない。

 青春マンガみたいに付かず離れずの微妙な距離感はやめろ。
 錬が不安定になる。
 恋愛関係の不安定で許されるのは創作物の中だけだ。

「好きにしろ。あんだけ村でチョコの創作教室をしていたのに出席しなかったからこうなるんだ」

 女騎士と谷子は悔しそうに立ち去って行ったのだった。
 これで平穏イベントが終わってくれると俺は思っていた。

 そう――ここからバレンタインの悪夢の始まりだった……。
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