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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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番外編 盾の勇者のバレンタイン【11】

下品な表現が含まれます。
食事中の閲覧は避けてください。
 義賊のダメ親父が工房へと走って行く。
 その後をゆっくりと追う。
 そして工房の中を確認した。

 ラトの研究所とは趣が異なるな。
 まあ、あっちは魔物の研究を重要視してて、どちらかというとまさしく研究所。
 こっちは鍋とかあって魔女の家って感じの工房っぽいな。
 うーん……錬金術師の工房の方が今じゃイメージしやすいかも。
 そんな工房の奥で義賊の親父はガチャガチャと何やら弄繰り回している。

「見ておれよ! ワシの最新作を見て絶句するがいい!」
「何を見せようが、大したもんじゃないと思うがな」

 正直、コイツにはいろんなモノが足りない。
 上から目線で語る俺もどうかとは思うが、コイツの作る物は致命的な欠陥がある。

 それは需要。
 買う側のニーズを度外視しているんだ。
 土臭いトリュフチョコ、バナナの皮で覆ったチョコなんてモノ好きしか欲しがらない。

 ……おかしくなった俺だってその辺りは理解してると思うぞ?
 だってパンの木とかクレープの木は、村の連中は喜んでいたし、時々買いに来るやつもいる。
 ラフちゃんはその辺りの考えを捨て去った代物だったけど、結果的に戦力にはなった。
 ラフ種自体は、魔物の中でもかなり優秀な戦力となっているからな。

 間違ってもコイツの発想では作りだせない。
 ラトだって舌を巻いていたじゃないか。粗が見つからないって。

 やがて義賊の親父は発明品を弄るのを終えたのか被せてあった布に手を掛ける。

「見るが良い!」

 バッと布が取られる。
 そこにある物を見て俺は眉を寄せながら首を傾げた。
 馬型の魔物の下半身を模した装置?
 前半分は材料を入れる透明なビーカー? で、下半身の部分につながっている。
 で、ビーカーの部分にはチョコレートがたっぷりと入っていた。

「これぞワシの最新作の試作第二号!」

 ポチっと義賊の親父は馬の下半身の腿辺りにあるボタンを押す。
 ガタンと音を立てて、蒸気機関みたいなリズムが響いてくる。
 そして前半分の中にあったチョコがガタガタと動きだし、目減りして下半身の方へと流れていく。
 これは……非常に嫌な予感がする!

「ラフタリア! 目を閉じて耳を塞げ!」
「え? あ、はい!」

 俺が注意してラフタリアが命ずるままに目を閉じて耳を塞ぐのと同時だっただろう。

 ブ……ブブブ……以下、俺が意図的に川のせせらぎに変更する。

 下半身の……とある穴からこぶし大のチョコレートの塊が落ちて、床に跳ねる。
 コイツの発言通り、この場にいた全員が絶句した。
 悪い意味で。

「これぞワシの新発明! 馬糞チョコだ! どうだ、ワシの発明に涙が溢れてくるじゃろう!」
「死ね! このスカトロ野郎!」

 このクソ親父、ガチで碌な物を作らねえ!
 これならまだ土臭いトリュフチョコや皮だけバナナチョコの方がマシだ。

「良いから、黙ってチョコを――」

 そこに二つの影がクソ親父の方へ近づき、馬糞チョコ製造マシーンに拳を叩きつける。

「ふん!」
「はぁああああ!」

 その影の正体は義賊の母親と妹だった。
 馬糞チョコ製造マシーンは二人の拳を受けて壁に激突し、煙を上げてから動かなくなった。

「ワシの大発明が! 何をする!」
「いい加減にしてください! 誰がそれを食べるんですか!」
「そうよ! 食べ物を粗末にして何が楽しいのよ!」

 気持ちはもっともだな。
 間違っても俺達は食べない。
 フィーロなら食うか? いや、さすがのフィーロも食わないだろう。
 食ったらアイドル廃業だ。業界から俺が問答無用で消す。

「今まで我慢していましたが、義父さんと義母さんが亡くなってからやりたい放題! もう限界です!」
「ワシの意向に逆らうと言うのか! 出てけ! 二度と帰ってくるな!」

 家族が自分に逆らったから追い出すのか、碌でもないクソ親父だな。
 色んな意味で。

「意向? じゃあこのチョコを食べてみてください! さあ!」

 義賊の母親が馬糞チョコを主張する物体を指差してクソ親父に食う様に指示する。

「ワシが食べてどうするのだ! このチョコは客に食わせる物だ!」

 そんなもん客に食わせんな!
 誰が食うか。

「良いから食べる!」
「だからなんでワシが食わねばならない!」
「自分が食べられない物を作ったっていうの!?」
「ふん。この馬糞チョコが新たな市場の切り口になるのじゃ!」
「ぜってーないから諦めろ!」

 そんなやり取りをしていると、いつの間にかラフタリアが目を開けて耳を塞ぐのをやめていた。

「ラフタリア、目を開けちゃダメだろ」
「だ、大丈夫です」
「こんなモノを目に入れちゃいけないぞ! お前が穢れる」
「えっと……なんとなく、形状を見れば何が起こったのかはわかりますから……」

 まあ、想像しやすいよな。
 しかしとんでもない物を作りやがる。
 世の中が認めない天才……とか自分に酔ってんだろうが、この発想は何百何千年経っても無い。
 精々一発ネタが限界だ。

 確か……俺の世界にも似た様な物があった気がするが、完成品だったはず。
 間違っても作成過程まで見させられる物じゃなかったはずだ。

「まあいい、どうせ試作二号機だ。一号機はまだある」

 と言ってクソ親父はもう一つの布を取る。
 そこにはフィロリアルの下半身が――。

「クエエエエエエエ!」

 ヒヨちゃんの鋭い蹴りが馬糞チョコ製造器試作一号機を破壊した。
 よくやった。それでいい。

「ワシの世紀の大発明がぁあああああああああああああ!」

 黒煙を上げる二つの試作品。
 ふ……これで愚かな発明品はこの世から消え去った。

「きさまらぁあああ……絶対に許さん! さてはワシの才能を妬んだ末の蛮行だな!?」
「なんでそうなるんだよ!」
「悔しかったらワシの発明品を超えるモノを持ってくるが良い!」
「アナタ!」
「お父さん!」

 家族も完全に俺の味方だ。
 正直、付き合っていられない。
 だが、この手の馬鹿はここで無視しようものならつけあがる。
 相手をしても碌な結果にならないが、どっちに転んでも悪い結果なら、コイツのプライドをへし折った方がいくらかマシだ。

「良いだろう」
「盾の勇者様!?」
「ナオフミ様!? 何をするつもりですか!?」
「コイツが認めるかどうか知らないが、需要のある物とはどんな物かを見せてくれる」

 俺は懐からパンの木の種を取り出す。
 それだけでラフタリアが渋い顔をした。
 わかってるよ。ラフタリアがあの時の出来事を嫌がっている事は。

「何をするつもりですか?」
「良いから見ていろって」

 パンの木はおかしくなった俺が作った発明品だが、完成度は非常に高い。
 拡張性も高く、ラトも舌を巻くほどの代物だ。
 そして俺の盾には植物改造と言う技能があって、世界が平和になった後に習得した技能の中に遺伝子改造と言う物が存在した。
 どうやらおかしくなった俺が手にしていた盾は総合的な物であるらしいが、断片的な技能は他の盾にも存在したのだ。

 後はそれをある程度集めることで再現する事は可能となっている。
 この習得した技能の中に交配合成と言う物が存在する。
 これは植物、動物……魔物の関係なく、交配する方向性を定めると言う便利な技能だ。
 但し、発動には相当の魔力とSPを消費する。
 良い所取りの物を作るには長い時間が必要だろう。

 だが、材料があるのなら簡易に作りだす事は可能だ。
 俺は近くにあったチョコの木の種を採取し、パンの木の種を持って技能を発動させる。
 注意しないといけないのはカルマか。

 二つの種を浮かばせてステータスを弄る。
 そして程良い具合に……結果は上手く行くかは半分だな。
 暴走の危険性もある。
 最悪の場合はラフタリアとヒヨちゃんに処分させよう。

 パンの木の種はバイオプラントを土台にしている。
 その為、広い拡張性と変異性を持っている。
 その部分を制限し、内部にチョコの木の情報を注ぎ込んだ。

「はぁあああああ!」

 盾が光、煙と共に一粒の種が排出される。
 俺はその種を掴む。

「完成だ」
「ナオフミ様? 気を付けて下さいね」
「ああ、わかってる」

 俺は新たに作り出された試作品の種を地面に落とす。
 一応、速効性を重視して、即座に枯れるようにした。
 成功したなら後で量産するか考えるだけだ。

 本来はチョコの木の種でうちの村にチョコ林を作れないかと思っていたんだ。
 だが、今はそんな事よりも、このクソ親父が敗北を認める顔が見たい。
 地面に落ちた試作品の種はメキメキと成長し、木となってパンを実らせる。
 パンの木とチョコの木の交配種……チョコパンの木だ!

「わああああ……」

 義賊の妹が感嘆の声を漏らす。

「食って良いぞ」
「良いの?」
「ああ、試作品だが……多分大丈夫だろ」

 見た感じだと実ったパンに統一性が無いな。
 かなり出来が悪い物がある。

 チョココロネになりかかっているものや、チョココッペパンになりそこなっているもの、チョコチップパンっぽいもの。
 やはり限界はあるか。

 まあそれでも、馬糞チョコよりは遥かにマシだ。
 これは断言できる。

「早く収穫しないと枯れるぞ?」
「ふはははは、すぐに枯れるとはたかが知れている!」
「わざと枯れるようにしたの。生物災害を起こしたら大変だろうが、このクソ野郎」
「さすが盾の勇者様……環境を考えてるんですね!」

 義賊の母親が両手を合わせて感心してる姿を見てクソ親父が悔しそうに声を漏らし、拳を握る。
 別に悔しがる所じゃないと思うが……。

「ほら、食ってみろ」

 出来そこないのチョコパンをクソ親父に投げる。

「誰がこんな気持ち悪いパンを食うものか!」

 そこには同意だ。
 俺、キールのクレープあんまり好きじゃないし。

「じゃあ私が食べるわ!」

 はたき落し、地面に落ちたチョコパンを義賊の妹が拾って頬張る。
 いや、そっちじゃなくてもいいんだが……。

「見た目は悪いけど……美味しい」
「そりゃあお前の所のチョコの木を原種にしてるからな」
「これ、名物に出来るよ! お母さん!」
「そうね。この人の発明品よりも価値はあるわ。凄く早く実るみたいだし」
「土壌とか色々と問題はあるから、注文次第だな。細かい調整もしないと危険だろうし」
「うん! 盾の勇者様の方が良い!」
「私も!」
「ぐぬ……」

 どうだ? これが発想の転換なんだよ。
 何も無から作って拒否される謎の発明品よりも、既存の物を掛け合わして作るのでも相手は満足するんだ。
 よく頭のおかしな発明家が誰も見た事の無い物を作るとか言うが、それは先人があえてやらなかった事なんだよ。

 重要なのは信頼だ。
 おかしな物ばかりを作っていると思われている無名の生産者より、世界を救った盾の勇者が作った物の方が、なんとなく良い物の様に感じる。
 実際の質とは無関係にな。

「ま、難点はチョコパンなんてこの地じゃ珍しくは無いって所か?」
「ぐ……」

 忌々しそうに、風向きの悪くなったクソ親父は俺を睨みつけている。
 昔のクズを甚振った時の様な優越感があるな。

「早さだけは自信があるぞ? なんならチョコレートを素早く実らせられるようにする事も出来るだろうな」
「すごーい!」

 義賊の妹がこれ見よがしに俺を褒めたたえる。

「ただ……変異されると危ないし、相性の問題もあるからなー……完成するチョコレートが危険な物になるかもしれないし、保留だな」
「えー! でも、危険かちゃんと考えているんですね」
「あんまりバイオプラントに頼りますと……」
「わかってるって……だが、コイツのプライドを完膚なきまでに砕くには足りない」

 俺は更にバイオプラントの種を取り出す。

「ナオフミ様、何をするつもりで?」
「これで終わりだよ」

 俺はクソ親父が作った『畑に実るトリュフチョコ』を持ち、バイオプラントの種を使って植物改造と遺伝子改造と植物交配を行う。

「これが貴様の作りたがっていたチョコの完成品だろ?」

 俺は『畑に実るトリュフチョコ』の最大の短所であった土臭さを解消する改造を行った。

「お前流で言うのなら……『木に実るトリュフチョコ』だ。これで最大の短所だった土の味がする問題を解消させたぞ?」

 木に実るトリュフチョコを地面に落して実らせる。
 メキメキと音を立てて即席で作った種は実を宿らせる。

「わぁ……チョコレートの木みたいにあのトリュフチョコレートが実った」
「模倣先と素材さえあれば即席でこの程度どうとでもなる」

 ま、なんだかんだでかなりの魔力とSPが消耗したけどな。
 カルマの方はー……多少悪い方に傾いたが問題ない。
 この程度ならすぐに取り返せる。
 そこまで驚異的な改造をした訳じゃないからな。
 元々の素材を組み合わせただけだし。

「さて、畑に実るトリュフチョコとやらは収穫までにどれくらいの時間が必要なんだ?」
「八ヶ月ですよ、盾の勇者様!」
「ほう……ずいぶんと収穫に時間の掛るんだなー? 普通のチョコレートの木は四ヶ月と聞いたが?」
「はい! だからみんな効率悪いって注意してます。なのに聞き入れません」
「機密を喋ったな、お前等!」

 クソ親父が俺を物凄く悔しげに見ている。
 機密って……他のチョコ農家も知っているって話だろ。
 まあいい。こういうタイプはなんでも大袈裟に言いたがるもんだ。
 ほら、この世界で自分の事をワシという奴はみんな、碌な奴がいない。
 ……俺を含めて。

「これで短所二つが潰れて良い所取りの木になったな」
「はい! 是非譲ってください!」
「んー……どうするかなー」

 俺はチラッとクソ親父を見る。

「奴が頭を下げたら考えてやろう」
「アナタ! ッハハ! 頭を下げなさい!」
「お父さん! 頭を地面に擦りつけた方が身のためよ!」

 こんなもんだろうよ。
 しかし義賊の母親と妹はすっげー軽くて強者の味方をするなぁ……。
 ビッチなのだろうか? 
 積年の恨みとかかな? もう少し観察すべきか。

 クソ親父の方を見ると怒りで狂い死ぬんじゃないかって位顔を真っ赤にさせて何やら喚いている。
 短所を突きまくろうとしているが、それ以上に長所の方が多いんだよ。
 こういうのだって、トライ&エラーを繰り返して完成に近づけていくんだ。
 たぶん、木に実るトリュフチョコレートは現在だと味とか様々な面で問題を出すだろう。
 むざむざポンと渡せるかっての。

 しかしコイツの発明品は紹介される度に質が低下したな。
 その点で言えば畑に実るトリュフチョコレートはマシな方だ。
 なんで最新作に近づくほど粗悪品になって行くんだよ。
 そもそも、植物改良がどうして機械系に?

「ふ、ふん! まだワシにはとっておきの発明品の構想があるんじゃ! その程度で自惚れるなよ!」
「でたー……現物が無くなったら構想とか言いだす奴」
「ナオフミ様、あんまり刺激すると面倒な事態が更に面倒になりますよ?」
「そりゃあそうだが、俺はコイツを説教したい」
「はぁ……程々にしてくださいね」

 む……まあ、十分悔しそうな顔を見たから良いか。
 とりあえずやりたいようにさせて、後は無視を決め込もう。
 そう思っていると、クソ親父が工房の奥にある謎のレバーを下げた。

「見ておれよ! これがワシの構想中の発明を現実にする材料! 全ては馬糞チョコを完成させる為の試作なのだ!」

 ゴゴゴと音を立てて、工房の床が二つに分離し、下から何かが上がってくる。
 なんだ? 今度は何を見せる気だ?
 巨大な馬の下半身とかだったら即座に破壊させよう。
 そう思っていると謎の巨大試験管らしきものが上がってきた。

 ……は?
 試験管の中にはチョコレートモンスターと思わしき魔物が暴れている。
 俺もラフタリアも義賊の母も妹も、ヒヨちゃんも上がってきた試験管に入っている物を見てポカーンと絶句した。

「これぞ、チョコレートモンスターのボスだぁあああああああ!」
+注意+
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