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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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番外編 盾の勇者のバレンタイン【10】

「さて、馬鹿は仕留めた。商談に戻ろう」
「そうですね」
「盾の勇者様やさしいですね」

 何がやさしいんだよ。お前の親父を吹っ飛ばしたんだぞ。
 それにしてもこいつ等、すごく軽い。
 きっとアイツが全ての原因だ。

「ああああ……」

 ラフタリアが絶句してる。
 流すこいつ等もこいつらだよな。

「ぬおおおおお! いきなり何をする!」

 ドバッとチョコレートの沼から人影が出てくる。
 チッ! 仕留め損ねたか!

 それはこっちのセリフだ。いきなり人の紹介状を破り捨てやがって。
 一歩間違えば犯罪だぞ。
 それ位、紹介状は人によっては価値があるんだぞ。
 舌打ちしながら義賊の父親を見る。

「ワシのチョコレートが欲しくばチョコへの愛を示せ」
「ふん!」

 近くに落ちているチョコの欠片を踏みつけて蹴り飛ばす。
 俺はこういう訳のわからない理屈をこねる奴が一番嫌いなんだ。
 以前の勇者共を思い出すのも理由だが、話が通じない奴が嫌いだ。
 嫌悪していると言ってもいい。
 何がチョコへの愛だ。そんなもん無いわ!

「きっさまー! 帰れ! 貴様にやるチョコなど無い!」
「知らんな。俺はお前から買っているんじゃない。そこの二人から買っているんだ」
「なんだと!」
「そもそも貴様のチョコへの愛とやらがどんな捻じ曲がった物なのか知りたくも無い」
「言ったな! じゃあワシの研究の成果を見せてやろうじゃないか! ワシの愛を知って悶絶するが良い!」

 なんでそうなる。
 知りたくねーって言っているだろ。
 本当、素直に知りたくない。

 見た感じラトみたいな研究者タイプなのは一目でわかる。
 が、ラトのような常識人じゃないだろ。
 ……本人はフィールドワークの影響で原始人化してしまっているが、こちらの話は通じたぞ?
 言葉が通じるはずなのに、会話が成立しない方が厄介だ。
 そういう点だとラフちゃんは良いよな。言葉が通じないのに意図を察してくれる。

 義賊の親父がノシノシと沼から出て来て、徐に畑の方へ来るように手招きしている。
 俺は上から目線で畑の方へ足を運ぶ。

「見てろよ! ワシの発明を!」

 とか言いながら義賊の親父は畑で埋まっている芋っぽい野菜を掘り出す。
 言動と行動が伴っていないな。

「ほれ! 食ってみろ!」

 野菜を出されてもなと、投げ渡されたモノを見てぎょっとする。
 真っ黒な……トリュフチョコレートだった。

「どうじゃ! ワシの発明品の一つ『畑に実るトリュフチョコレート』じゃ!」

 突っ込み所満載の料理マンガかっつーの!
 俺はトリュフチョコレートを口に放り込んで食う。
 品質はそう悪くないが、当然土の味がした。

「どうだ! 貴様のチョコレートへの愛情などワシの前では無いも同然! みんなワシを評価しないのが愚かなのだ!」
「何を言うかと思えば、愛? どんな物であろうとも需要と供給が無ければ無いも同然、独りよがりな発明こそ意味の無い物だと知れ!」
「なんだとぉ!」

 義賊よ。
 お前が家出した理由が俺には痛いほどわかるぞ。
 自分こそが大発明をする天才とか痛いことを思っている親がいたんじゃ、逃げたくもなる。

「このトリュフチョコレートの難点を上げてやる! それは土とココアパウダーの違いがわかり辛い事だ! 客はチョコを欲しているのであって土を食いたい訳じゃない!」

 現に俺が食ったトリュフチョコレートはココアパウダーの味の中に思いっきり土が自己主張している。
 だが、土を取るという事はココアパウダーも一緒に取る事に他ならない。
 水で洗おうものなら尚の事問題は増える。
 水で濡れたトリュフチョコレートを好んで食いたいなどとは思わないだろう。
 そもそもが水とチョコレートの相性は最悪だ。

「ついでに言えばチョコレート=トリュフチョコレートとでも言う気か? それにチョコレートの木の亜種じゃないか! 愛? それこそ足りないな」

 品種改良への愛情の方向性は間違っちゃいないだろうが、この程度で完成とは笑わせてくれる。
 このトリュフチョコレートが木に実ったのなら及第点だっただろう。
 最初から完成したトリュフチョコなら加工の手間も無い。
 そういう物ならば、夢があるなと言えた。

「言わせておけば好き勝手言いおって! じゃあ次のを見るが良い!」
「ああ……ナオフミ様と何やら勝負が始まってしまいました」

 ラフタリアがウンザリした口調で呟く。
 知らんな。こんな自信家は鼻っ柱をへし折らねば俺の商売魂は大人しくならないぞ。
 完全に商売を舐め切った奴に制裁を加えてくれる!

「次はこれだ!」

 義賊の親父はチョコレートの木の中から一本……バナナっぽい奴を指差して、実を引きちぎって俺に投げつける。

「ただのバナナじゃないか! と言うかバナナもこの世界にあるのか?」

 それ以前の問題だな。バナナあるのか……。
 そういやクレープの木にバナナ生クリームがあったような……?

「ふん。だから貴様は愛が足りんのだ! ワシの愛を見抜けないとはな。皮を剥くがいい!」

 言われるままバナナの皮を剥く……すると中の部分がチョコだった。
 意味がわからないな。

「これぞ、ワシが作った発明品の中でも上位の品『木に実るチョコバナナ』だ!」

 いや、この世界のチョコレートはすでに木に実ってないか?
 そもそもバナナの皮の色は黄色だが、本物のバナナと同じく熟してくるとチョコも甘さが増すんだろうか。

 ……一口食ってみる。
 バナナの形をしたチョコだ。夜店のチョコバナナじゃない。
 それ所かバナナ味のチョコという訳でもない。
 ただ、バナナの形をしたチョコだ。
 これじゃあ銀紙に包まれたチョコと差がない。
 もしかしたらそのギミックで売れるかもしれないが、少々子供騙しだ。

「愚かな……これをチョコバナナと呼ぶにはあまりにも足りない。チョコレートをバナナの皮で包んで実らせただけじゃないか」
「ぐ……貴様! ワシの愛を否定するとは……出てけ出てけ!」
「理解されないと知るや追い出しか? 客商売を舐めきっているな」
「ワシの発明は見る人が見れば理解してもらえるものなのだ! ワシの死んだあと、後世の人々がワシの作りだした発明品を好んで育てるようになる! そう、時代が追いついていないのじゃ!」
「何を言うかと思えば……絵画じゃないんだぞ? そんな受け身じゃ売れるものも売れるはず無いだろ!」

 俺の世界じゃ、ひまわりとかで有名な画家は生涯の間には碌に売れなかった、とかある。
 で、自分を認めてもらえない奴はこういう有名画家と自分を重ね合わせて、後の世で評価されるんだ! とか喚き散らす。

 実際に評価される事の方が珍しいっての!
 そんな風に後世で評価される奴の何千倍努力しても評価されずに消えて行っているんだ。
 そういうのは極々一部の例外に過ぎない。

 実際、あの画家の絵が高く取引される様になったのは、やり手の商人による所が大きい。
 元々紙切れ同然だった大量の紙クズの評価を上げて売ったんだ。
 そういう意味では大量に描き続けた画家も凄いが、それ以上にその商人が凄い事になる。

 そもそも自分が評価されなくて発表も疎かにした挙句、こんな所で変な発明したって碌なモノがあるはずが無い。
 隠れた天才? 開発者没後評価される発明品?
 ふざけんな! 芸術家志望の痛い妄想に付き合わされる方の身にもなれ!

「発明自体は凄いとは思うのですけどー……これは……」

 ラフタリアも困った様子で、このクソ親父の発明品を試食している。
 こんな失敗作食わなくていいぞ。

「そうなんです。夫はおかしな発明ばかりする人でして……」
「うん。お父さんが自分のチョコを理解しない奴には絶対に売らないって言って、うちの財政は火の車で……挙句、変な商売人によく騙されるんです」
「甘い事を囁かれてんだろ?」

 義賊の母親と妹は頷く。
 あれだ。販売協力とか言って二束三文で売る事になる。
 中途半端に品質が良いから、実際は中身を溶かされて別の商品にされてたりしてな。
 パッと考えたが……俺の知っている商人共ならやりそうな手口だ。

「お前はチョコ以外の……お前を騙そうとする奴等が話す甘い話を食ってんだ。おいしかったか? だが、お前に必要なのは現実のチョコよりも甘い夢は捨てて、ビター……いやブラックチョコレートな現実を直視する事だ」
「ぐぬぬ……許さん! 許さんぞ! ワシの大発明をその目に見るが良い!」
「まだやるのか……お前の発明の程度などたかが知れているがな」

 義賊の親父は顔を真っ赤にして煙が晴れた工房の方へ走り去って行く。
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