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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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番外編 盾の勇者のバレンタイン【9】

「で、ここが奴の実家か……」

 言われた通りの道を進んでいくと義賊の実家らしき農場に到着した。
 ただ……なんだろうか? 周りの木々の趣が若干異なるような気がする。
 チョコレートの木等の木もあるにはあるが、謎の畑や工房らしきものがある。
 町の方とは雰囲気が違うのは一目で理解できる。

 なんで空に稲光が轟いているんだろう?
 しかも雲行きが悪い。

「なんか不気味ですね」
「そうだな」

 俺は恐る恐る馬車から降りて農場の近くにある家の扉を叩く。

「はーい」

 女の子の声が聞こえた。
 ガチャリと音を立てて15歳くらいの女の子が出てきた。
 見た所、普通の女の子だ。少しぽっちゃりっぽいけどな。
 ま、こんな甘ったるい所に住んでたら太るか。
 きっと日常的にチョコを食ってるだろうし。

「どちら様ですか?」
「ああ、コイツからの斡旋で来た……者だ」

 と、俺は義賊からもらった紹介状を女の子に渡す。
 すると女の子は紹介状を読んでワナワナと震え始める。

「おかーさん! お兄ちゃんから手紙が来た! それときっと盾の勇者様!」

 一礼した後、女の子は家の中へ駆けこんで行った。
 義賊の働きに応じて送金はしていたからな……手紙でやり取りもしてたし、すぐにわかるか。
 血相を変えて義賊の妹と母親が俺達を出迎えてくれた。

「これはこれはよくいらっしゃいました、盾の勇者様!」

 親もちょっと小太りだけど健康そうな田舎のおばちゃんって感じだった。
 かっぽう着とか似合いそうだけど、作業着を着てる。
 チョコレートの収穫とかやってるのかな?

 義賊の妹もそうだが雰囲気とは違って結構普通だ。
 どこにでもいるチョコレート農家って感じ。
 ……チョコレート農家がどこにでもいるかどうかは知らないが。

「それで……何の御用で? チョコレートの買い付けでしょうか?」
「ああ、大量発注をしたくてな」
「それはそれは、こんな玄関じゃなんです。家におあがりください」
「はあ……」

 別に商談を進められるなら何でも良いんだがな。
 どれくらい注文出来るのかとか、キロ単位幾らで取引するかとかの話は進めるけど。
 俺はラフタリアを手招きして、義賊の実家に上がった。

「村特産のチョコレートドリンクです! どうぞ!」
「喉がかえって乾きそうな飲み物だな」

 俺の世界にもあるけど、チョコレートドリンクってきついよな。
 ドロッとした茶色い液体を飲みたいとは思えない。

「他に我が家自家製のケーキもどうぞ!」

 何故か蛍光ピンクなケーキが出てくる。
 しかもほんのりと温かい。絶対急いで作っただろ。
 海外のケーキにこういうのがあるけど、さすがの俺も手を伸ばすのは躊躇われるぞ。
 かといって手を付けないのはダメだ。これから商談するんだからな。
 そう考えてケーキをもう一度見る。

 なんだこれ? 気持ち悪いケーキだな。
 う……温度で色が変わるみたいだ。
 何処の美食漫画から出てきたケーキだよ、これ!

 たまーにこういうゲテモノみたいな料理がこの世界にはあるんだよ。
 再現したいと微塵も思わない。
 味が良いと言われても、食いたくないぞ。

「蛍光ピンクなのは何か意図があるのか?」
「え? 村でも高級なチョコを使っているんですけど……」
「市場には並べない方がいいと思うぞ」

 こんな色合いのチョコを望むなんて、チョコレートが当たり前のように手に入る環境で独自の価値観が動いてしまった結果だろ。

「えっと……」
「そこまで緊張するなって、ここには商談で来たんだ。普段通りに相手してほしい」

 勇者だからと安くしてくれるのはありがたいが、搾取するのが目的じゃない。
 ちゃんと筋の通った事をしてくれるなら譲歩する。
 俺だって鬼じゃないんだ。
 俺も相手も得をするように商談を進める時だってある。

「ラフタリアは食べるか?」
「えーっと……いただきます」

 お? 勇気があるな。
 ラフタリアがケーキを食べて美味しいと言っている。
 見た目に反して味はいいのか。
 どう考えても見た目で損しているタイプだな。
 義賊の妹もラフタリアの反応に緊張を緩めた。

「さて、軽く雑談をするのも良いが……」
「はい。商談ですね。どれだけのチョコを所望で?」
「別にここだけじゃなくても良いのだが――」

 と、俺はイベントで消費するであろう分のチョコレート量を提示する。
 もちろんその他練習とかで消耗する分も一緒に。

「うちの農場だけじゃ賄えきれるかわからないですね……」
「そこは良い。問題はキロ単位幾らで売ってくれる? 下手におべっかをするなよ?」
「そうですね……」

 義賊の母親は商売人の目で俺と会話を続けていく。
 値切るのは良いが、相手が大損にならないようにするのも重要だ。
 何せ、ここで底値で買い取ったとして来年はどうする?
 別の農場で買えば良いかもしれないが悪い噂を広まる可能性だってあるんだ。
 そうなったら誰も俺にチョコを本当は売りたくなくなる。

 これがあの戦いより以前だったら違っていた。
 あの頃の俺は最後は現実世界に帰るつもりだったからな。
 多少悪い噂が流れたって最終的に帰るんだから問題なかった。
 でも、今は一生この世界にいるつもりだから、そこ等辺も考える必要がある。

 それに厚顔無恥で行くのも良いが義賊の実家を潰す程、俺は恩知らずでは無い。
 義賊も一応俺の配下だし、むしろ少し位なら多めに払ってもいい位だ。
 そうすれば義賊も安心できるし、俺への信頼が多少は増すだろう
 最終的には義賊の働きで俺も儲けられる訳だから、長い範囲で考えれば得になる。

「うちの息子がお世話になっていますし……これくらいでどうですか?」
「お前も困らない範囲なんだな? あと、次の話はお前の所のチョコレートを見てからだ」
「はい。それは覚悟しています」

 相手も緊張が取れたのか俺に対して、一歩も引かずにいる。
 このピリピリした空気があるから商売は止められないな。
 義賊の家から出て倉庫に収穫されたチョコレートの塊を見させられる。

 試食とばかりに渡されたので、口に入れた。
 味やなめらかさは悪くない……むしろ良い方だ。
 目利きでも高品質と出ている。

「お前の所は他の商人と提携していないのか? 必要ならそちらにも話を通すが」
「……ええっと」

 と、小突いた所で義賊の母親は視線を逸らす。
 ぶっちゃけ、そこが気になる。
 質が良くて値段も手ごろなのに、誰も買い付けをしないとか、裏があると思わない方がおかしい。

「ない事はー……ないのですが……」

 なんて話をしていると爆発音が辺りに響き渡った。
 義賊の母親が額に手を当てて呻く。

「あー……せっかく商談が上手く行ってたのに」
「なんだ? アレが問題か?」
「そのー……」
「うちのチョコレートは悪くないんです! お願いします、商談をやめないで!」

 義賊の妹がすがりつく様に懇願する。
 俺は鬼か! 事情を知らなきゃ何も出来ないっての!
 なんで取り立てに来た借金取りみたいな扱いになっているんだよ。

「そういえばお前の息子も、ここに来る時に聞いたチョコ農家の奴らも、母親と妹にだけ話をしろとか言っていたな」

 一般家庭的に言えば父親が不在だ。
 もしくは弟か?
 何処にいるんだとか何か問題を抱えているのかと思ったが……。
 そう思いながら爆音の発生源である工房っぽい所から煙が上がっている事に気づく。

「いやー、失敗した失敗した。今度こそ成功すると思ったんだがなー」

 と、工房から白衣を着た小太りのおっさんが出てきた。
 そこはかとなく漂う嫌な予感。
 これはメルティと出会った頃や以前の勇者共と話をしている時にも感じた物だ。

「ん? 誰だ? ワシの敷地に足を踏み入れた奴は!」

 すっげー嫌な感じがする。
 ワシというフレーズもそうだが、この自信に満ちた喋り方もだ。
 間違いなく問題を起こしている張本人と見ていい。
 あの義賊が家出をし、村の連中も事情を察知する程だ。
 俺の想像だと間違いなく以前のクズと同類だ。

「お父さん! お兄ちゃんからの紹介状で盾の勇者様が来てくれたんだよ! チョコを買ってもらえば傾いた家もやり直せるよ!」

 そこまでの商談だったのか!?
 我ながら大口ではあるが……そんなに傾いてんのか、この農家は。

「あんな奴は知らん!」

 妹が父親に俺が持ってきた義賊の紹介状を見せると、父親は紹介状をビリビリと破きやがった!
 義賊の事を庇うつもりはないが、なんかむかついてきた。

「何やってるの! お兄ちゃんの仕送りと勇者様の援助でやっと家を切り盛りしてるのに!」
「うるさい!」

 そして父親は義賊の妹の頬を叩き、妻を睨む。
 目の前で繰り広げられるDVにドン引きだ。
 これはドラマか何かなのか? 異世界でもこんな光景珍しいぞ。
 ……いや、珍しくないか。以前、女王がクズにやっていたし。
 あっちはやられるだけの理由があったけどさ。

 それにしても義賊の奴、俺の援助以外に自分の金を仕送りしてんのか。
 なんか……給料アップという訳じゃないが分け前の比率を多めにしてやろうとか思ってしまった。

「勝手にワシのチョコを売り捌こうとしおって!」
「アナタ! いい加減夢ばかり追ってないで現実を見て!」
「ふん! あと少しでワシの発明品を世が認めるのだ!」

 この会話だけでコイツが如何にクズであるかわかるような気がする。
 とにかく、馬鹿親父には制裁が必要だな。

「貴様、盾の偽者とか言ったな。ワシのチョコレートが欲しいなら――」
「誰か偽者だ! ラフタリア、コイツを黙らせろ!」
「暴力の前に話を……」
「よし! じゃあお前!」
「クエエエエエ!」

 先手必勝、ヒヨちゃんを指差して馬鹿を仕留めさせるための一撃を仕掛ける。
 ヒヨちゃんが義賊の親父っぽい奴を蹴り上げる。

「ぐあああああああああああああ!」

 めりぃっとヒヨちゃんの蹴りが義賊の親父の腹部にめり込んで吹き飛んで行く。
 かなり手加減したみたいだけどさ。

「きゃああああああはははは! お父さん!」
「アナター! ハハッ」

 驚いたフリして何笑ってんだ、お前等!
 薄情な連中だな! おい!
 ま、さっきのやり取りで本心はわかるがな。
 もう少し隠せ!

 くるくると回転しながら義賊の親父はチョコレートで敷き詰められた沼? に落ちて行った。
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