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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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番外編 盾の勇者のバレンタイン【2】

「ふふふ、では次は……私の方ですな」

 アクセサリー商が立ち上がり俺に尋ねる。
 だから、なんでお前等はそう悪役臭いんだよ。
 その親玉である俺が突っ込むのはアレなのかもしれないけどさ。
 俺まで同類に思われたらどうするんだ。

「盾の勇者様の提案したアクセサリーのデザインが流行の兆しを見せてます。ジンクスを取り入れ、流行の形を作りだすその手腕、やはり舌を巻きます」

 カルミラ島の時の事を参考に、アクセサリー商は俺と提携して、様々なジンクスを生み出している。
 例えば商売祈願、これは義賊ギルドとも連携して、そのアクセサリーを馬車に吊るしていると盗賊に遭わない等のジンクス作りをさせている。
 但し、後ろめたい商売をしていると効果が薄いとまで追加してな。

 こういうこすっからい事でも儲けはかなりでる。
 意外にも人というのは、こういう験担ぎを大事にするものだ。
 普段神様を信じていない様な連中が正月に神社へ参拝に行ったり、とりあえず祭に参加してお守りを買ったりする。

 ジンクスの効果時期を一月と定め、新たなデザインでは無いモノは襲われるようにさせるのだ。
 こういうジンクスを作る事で、商人の多くはこのアクセサリーを買いに来る様になる。
 そして買って行った商人の身辺を調査して、義賊ギルドが行動に移る。
 つまり自分から私は商人です、調べてくださいと言わせている訳だ。
 そもそもこんな物を進んで買う時点で人には言えない商売をしている可能性も高いしな。

 俺も物凄い悪役だけど、アクセサリー商もどうなんだ?
 闇ギルドにも噂的なものを流していて、その界隈を牛耳っている。

「で? 新しいアクセサリーは何の鉱石で作る? 地域限定で今の値打ちは低い物が理想だぞ」
「そうですね。現在の候補は――」

 と、俺の領地内で採れる二束三文の価値の無い限定鉱石を見繕ってアクセサリーに仕立て上げている。
 安物のアクセサリーがジンクスを付与するだけであら不思議、金になるというからくりだ。
 これぞ錬金術。意味は違うが。

 すっごく邪悪なジンクスの裏側だけどな。
 とまあ、アクセサリー商の話は終わる。

「これで終わりか?」
「盾の勇者様。ハイ」

 奴隷商が手を上げた。

「なんだ? お前の話は終わったんじゃないのか?」
「ハイ。ゼルトブルの方から依頼があったのを忘れていましたです。ハイ」
「で?」
「勇者様の領地で育てているフィロリアルに関してです」

 現在、ゼルトブルではフィロリアルレースが活気を見せている。
 俺の領地で育った特別なフィロリアル達は既存の名羽達を圧倒的に凌駕してごぼう抜きして行くのだ。
 調教師や賭博関係者が時々俺の領地へ来るし、元康辺りに尋ねている。
 まあ半分はズルみたいな状態だ。マネできるはずもない。
 だから見当はついている。

「勇者様が育てたフィロリアル達の成績が余りに良く、別枠でレースを開催してもよいかとの打診が来ています」
「だろうな」

 幾らなんでも普通のフィロリアルがクイーンやキングと呼ばれる変異をした連中に敵うはずもない。
 更に普通のフィロリアルに化ける事も出来るんだ。審査なんてあって無い様なもんだ。
 受賞レースを総なめしてしまったらしいし、必然的にそうならざるを得ない。

「むしろ、別枠で収めたいんだろ」
「さすがは勇者様、お言葉の通りです。ハイ」
「しょうがないだろ。それに、普通のフィロリアルよりも素早いレースを楽しめると話題になるだろ。こっちに取り分を寄越すなら許可してやる」
「ありがとうございます。一度、私共の一族総出で、盾の勇者様に感謝をしたいと思っております」

 奴隷商の一族が総出で!?
 コイツと瓜二つの叔父だったかを見た覚えがあるぞ!
 という事は一族経営、ソックリさんの集まりが俺に群がってくるかもしれない!

「お、お前等の一族も忙しいだろ。わ、悪いが気持ちだけ受け取っておく」
「それは残念です。ハイ」

 とまあ、会議は問題なく進んだ。


「……」

 義賊が悶々とした様子で俺達の会議を聞き入れていた。
 やがて奴隷商とアクセサリー商が出ていくと肩の力が若干抜けた様に感じる。

「どうした?」
「いや、別に」
「そうか?」

 そういやコイツの名前はなんて言ったかな?
 ロウディだったか? よく覚えてない。
 以前、義賊と呼んだら名前を言っていたけど、表だって名前を言い合う関係でもないから印象は薄い。

「ま、何もないなら良いんだけどな」

 そう呟くと義賊が重い口を開く様に俺に呟く。

「そう言う訳じゃなくて……」
「ん?」
「この義賊ギルドも大きくなってきたと思って……」
「ああ、そう言う事か」

 波が起こらなくなる以前……鳳凰戦よりも前だから半年以上前の事だ。
 僅か半年とも言えるのか。
 そんな短い期間で、よくもまあ大きくなってきたものだと思う。
 結果的に世界が戦いの時代だった頃より、平和になった今こそ重要な組織となって急激に巨大化した。

「余りにもとんとん拍子で……しかも急速に大きくなって不安になってきたんだ」
「なるほどな」
「俺は今、仲間を食わせる立場にいて、ボスとして立派にやることをしている……つもりだけど不安がぬぐえないんだ」

 ふむ……これは俺も理解できる事だな。
 波の前はどれだけ準備しても不安は消せなかった。
 最高の状況を作ったと思っても無傷とはいかないし、犠牲はなくならない。

 世界を救った勇者という立場もそうだ。
 人々が挙って俺を褒め称え、感謝の言葉を投げかけてくれる。
 この世界だけじゃない。グラス達の世界の連中もそうだ。
 皆が皆、世界を救った勇者である俺達に強い感謝の気持ちと期待を掛けてくる。
 やっとの事で大地を血で染める時代が終わったんだ。
 そんな暗黒の時代を終わらせたんだから、しょうがない。

 頼られるのは悪い気分じゃないが、圧し掛かる物も相応に重い。

 それと同じとは言わないが、こいつの気持ちはわかる。
 これから先やっていけるか、という不安は俺にだってあるからな。
 元々ただの大学生だったんだ。戦いなら盾の力でなんとかなるが、これからの時代は暴力ばっかりじゃない。
 今まで盾の力に頼っていたが、それが必要なくなっていく。
 そうなれば世界を救った勇者という肩書きを持っただけの、大学生にできる事も相応の物になっていく。

 この世界に残った時点で大公という役職もあり、その役職に応じた土地も保有している。
 そして膨大な土地があれば、そこに住む人々を守る義務も当然出てくる。
 なにも化け物に真っ向から立ち向かって、後ろの者を盾で守るだけが勇者じゃないって事だ。
 地位や力が大きくなれば、できる事が増えると同時に責任も大きくなる。

 偉くなったらお金持ちになって、美味しい物をいっぱい食べて、ハーレムを作れる。
 なんて単純な話ならいいんだが、少なくとも俺の場合、面倒な責任も多く付きまとっている。
 その事に不安がないはずがない。

 だが、だからこそ助言もできる。

「あまり不安がっている所を部下に見せるんじゃないぞ? そう言う所で下剋上とか愚かな事をしてここを乗っ取ろうとしようとする奴なんて星の数ほどいるだろうからな」
「耳が痛い話でごじゃるな」

 奴隷商とアクセサリー商を送り出した影が会話に加わった。
 なんだ? 国の闇である影も理解しているのか?

「拙者等も義賊ギルドに潜伏している手前、配下の行動は逐一監視しているでごじゃる。つい先日もボスへ下剋上を画策しようとして失敗した者を処分したでごじゃるよな」
「……ああ」

 ここでも弱肉強食というか頂点を欲するバカとの戦いがあった訳か。
 まあ無い方がおかしいけどさ。

「ま、愚かな奴や自分に歯向かう奴はそれとなく俺の所の馬車を襲わせれば良いだろ。処分は簡単だ」

 この義賊を慕う者は危険な橋を見極められると心酔している。
 その正体は、危険な相手と裏で繋がっている……なんて思っても確かめはしないだろうな。
 確かめるにもここに潜伏と察知能力の高い影がいるのだから不可能に近い。
 一介の盗賊程度では難しい。

 それに現在、この義賊のLvは150まで引き上げている。
 波によって危険になった人々が身を守るためにクラスアップを解放した所為で40の壁が取り払われた。
 つまり100が現在の一般人がなれる限界値だ。

 もちろん今では龍刻の砂時計は管理状態に戻されたから簡単にクラスアップ出来ないけどさ。
 一時的とはいえ、誰でも出来る状況になっていた所為で盗賊共にも40越えの粒ぞろいがいた。

 だが、この義賊は更に上の限界突破をさせて強さを得させた。
 Lv自体は配下に教えないようにさせている。
 恐ろしく強いボスと配下は慕っているようにさせたのだ。
 実際、戦闘センスはともかく、高いLvによるゴリ押しは可能だ。

「わかってる。ただ……怖いんだ」
「怖い?」
「奴隷狩りなんて一年前だったら珍しくなかっただろ? そんな事にルールを設けようとしていたり、闇ギルドを操ろうと模索していたり、とてもじゃないが規模が大きすぎる。負けたらどうするんだ!」
「物理的に黙らせる」

 今の俺達なら出来ると思う。
 仮に闇ギルドが俺達を危険分子として刺客を送りつけようものならゼルトブルに勇者総出で乗り込んで闇ギルド自体を潰すと脅す。
 結局、交渉するには力は最低限必要だ。
 力なき正義は無力であるようにな。

 話し合いだけで戦争が無くなるなら苦労はしない。
 その戦争の無い時代、俺の元いた現代日本だって争いがあった。
 経済戦争という、目に見えた死者が存在しない厄介な戦争がな。
 結局これだって、大国の都合が悪いと関税とか設けて制限をしてくるし、仮に関税が通じなかったら物理的な戦争になっただろう。

「な!?」
「とにかく、うろたえるなって、何かあったらこっちがフォローをする手はずだ。お前はここのボスだが、盾の勇者である俺の配下でもある。ちゃんとやる事をやっていれば守ってやる」
「そうか……わかった」

 とは言いつつ、義賊の顔は晴れない。

「……それとも、元の盗賊家業の方が気楽だったか?」

 俺の問いに義賊は頷く。

「ただ使われているのは気楽だった。何かあったら逃げればよかった。自分の事だけを考えて、自分の快楽を追い求める。ただそれだけの日々が、時々懐かしい」
「戻りたいのか? いや、真っ当な職に就きたいか?」

 もしもそうならば解任する事も考える。
 これからの時代、真っ当な仕事に就けば生きていくのは然程難しくない。
 本人が心の底からやりたくないのなら、やらせても碌な事は無い。
 ま、なんちゃってカツ丼を食わせて買収したんだけどさ。
 だが、義賊は困った顔をしたまま首を横に振った。

「いいや、奪った物ではあるけど、困った人々に配って感謝されると……その、嬉しい。仕事自体は嫌じゃない」
「そうか」

 コイツなりのやりがいがあるのなら良いんじゃないか?
 と思うが、プレッシャーも大きいって事か。

「田舎に残した家族は……俺が良い事をしていると思ってるけど……多分、これは悪い事だ。だけど、良い事でもある。理解してもらえないと思うけど、やりがいはあるんだ」
「それが義賊だからな。義賊っていうのは善行を悪い手段で行う奴の事だ」

 善行を正しい者が出来ない場合もある。
 芯まで腐った奴っていうのは、ルールを掻い潜って悪い事をするもんだからな。

 ……俺の事か? 知らんな。

 だから義賊は表だって裁けない悪人を裁いて弱者を助ける。
 俺達の場合ちょっと違うが、それで救われている奴がいるのも事実だ。
 それでも悪い事は悪い事だ。その事実は変わらない。
 だが、コイツの不安が拭えないとこちらも困る。
 そうだな。裏で動く者の快感を刺激してやるか。

「お前ならわかっているだろうが、世界が救われても悪人は途絶えない。これは、十年経とうが百年経とうが千年経とうが……人がいる限り続くだろうな」
「……」
「お前等みたいな連中は食うに困って盗賊になった奴が多いだろうが、十分に衣食住があっても悪い事を続ける奴はそれこそごまんといる」
「ああ」
「そういう連中の中には、世界を救った俺達勇者でもどうしようもない奴も混じってる」

 これは事実だ。
 悪い事をしているから裁く、なんて中々に難しい。
 一歩間違えば独裁の始まりだしな。
 そうして進んだ未来はディストピアになるんだ。

「そんな世界の寄生虫、どうしようもない連中を裁けるのはお前だけなんだ」
「俺、だけ?」

 誰もが称える勇者でもできない事を自分にはできる。
 それは別種の快感だろう。

「そうだ。勇者でも手を拱いて見ているしか出来ない悪人を裁けるのが義賊である、お前だ」
「……」

 この程度じゃ慰めにもならないかもしれないがな。

「ま、がんばれよ。余程のヘマをやらかさない限りはこっちがフォローしてやるさ」
「あ、ああ!」

 義賊の顔は先ほどよりは良くなっている様に、俺には思えたのだった。
 まあ、こんなもんだろう。
 さて、村に帰るか。
 などと考えていると義賊が口を開いた。

「盾の勇者様、そういや――」
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