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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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番外編 盾の勇者のクリスマス【6】

 それから定期的に村の上空にまでソリで上がって、移動していく。
 これ、必要なのか?
 そう思っていると、錬を見つけた。
 いや、錬の家はあるんだけど、窓辺で机に伏している。

「ジングルベール……ジングルベール……」

 何をしているんだ?
 コンコンと窓を叩いて錬を呼ぶ。
 すると錬は半ベソをかきながら顔を上げた。

「どうしたんだ?」
「な、なんでもないさ」

 俺は錬の部屋の奥を見る。
 そこには……豪華な食事とケーキが手つかずで残っていた。席は三つ。

 これは……女騎士と谷子を呼んだが二人とも来なかった!?
 谷子はわからないが、女騎士……お前までか。
 他人の善意をなんたらとか言ってたじゃないか。なんで錬の誘いを無視してんだ!
 って……サンタを見張るんだったか。

 ガチでやっているのか!
 クリスマス限定魔物の討伐は終わったが、本人はシングルベルと。
 哀れだ……かなり頑張っているのにこれは余りにも哀れだな。
 二度思う。

 はぁ……しょうがないここは一肌脱いでやるか。
 どうせついでだし。

「錬」
「なんだ?」

 俺はポイっと袋からプレゼントを二つ取り出して投げ渡した。

「それを開けずにちゃんと持っていろよ。そうすりゃ少しは良い事がある」
「あ、ああ……」
「じゃあな」

 俺はフィーロに進むよう指示を出した。
 フィーロはご機嫌に走り始める。
 さながら空を走るトナカイのように。
 でだ。上空から確認した所、女騎士は何故か谷子と共に居て、魔物舎の前で素振りをしていた。
 奴等に見られないようにそれとなく降りた俺は、女騎士共に散歩の途中で見かけたように装って近づく。

「なんだお前等? もうみんな寝てんぞ」
「ん? イワタニ殿か。前に言ったであろう。今日は徹夜で、かのご老人に礼を述べる為に寝ずの晩の予定だ。同士ウィンディアと共にな」
「うん! サンタさんにお礼を言いたい!」

 ここぞとばかりに谷子は純粋そうな瞳をさせて言い放った。
 うーむ……ここで錬とは脈が無さそうな二人を騙す様で心が引ける気もするが、サンタを待って寝ずの晩をされるよりはマシか。

「その事なんだがな、白ひげを携えた老人が俺に言付けをしてきたんだ」
「何!?」
「剣の勇者に魔物舎の前で見張りをしている二人の分のプレゼントを渡しておいた、と言っておいてくれとな」
「く! あのご老人は要らぬ真心まで所持しているのか! ウィンディア、レンからプレゼントを強奪するぞ!」
「うん!」

 血相を変えて女騎士と谷子は走り去って行った。
 これで少しは錬もクリスマスを楽しめるだろう……と思いたい。

「汝……」

 半眼の親ガエリオンが魔物舎から顔を出して睨んでくる。

「要らぬ世話をしおって……」
「知らんな。シングルベルで泣いている剣の勇者が余りにも哀れだったんでな。お前も笑った口だろ?」
「それは……そうだが……確かに哀れでしかなかったが!」
「だから少しくらい大目に見てやれっての」
「はぁ……しょうがあるまい。あの二人も妙な殺気を放ちながら睨みあいをしておった。これで魔物舎の者共も静かに寝られるだろう」

 そういや、魔物舎の連中はまだ起きているようだった。
 それがやっとのこと、静かになった。
 なんだ? 女騎士と谷子の奴、サンタを気にしつつ錬の所へ行こう位には思っていたのか?

 まあ……あれは後ろ髪が引かれるだろうしなー。
 俺でさえも哀れに思えるくらいだった。
 これで錬のクリスマスプレゼントは配ったような物だろ。

「ついでだ。魔物舎の奴らに配っておいてくれ」
「汝が配る事に意味があるのではないか?」
「魔物共はサンタとか信じてねえだろ。俺が配る前提の願いばかりだったぞ」

 俺の手料理とか俺と沢山遊びたいとか、露骨だろ。
 その中で、物品を要求している連中にとガエリオンに渡す。

「そういや子ガエリオンは何が欲しいんだ? 短冊に書いてないだろ」
「ふむ……聞いてみよう」

 ガエリオンはぶつぶつと呟き始めた。

「……ダメだ。別のを要求しろ」

 と、何度か交渉していた。何を望んでいるんだ?

「汝に抱擁してほしいそうだ」
「なんで俺が……」
「スキンシップだそうだ」
「ああ、そう」

 あれだ。外人とかが愛馬に抱擁するとかそう言う奴?
 俺は子ガエリオンモードになったガエリオンを抱きしめる。

「キュアアアアアア!」

 するとガエリオンは嬉しそうに鳴いた。凄いテンション。ピョンピョン跳ねてる。

「変な奴だなー……」

 この意味を俺が知るのはもう少し後の事なんだが……語る日が来るか謎だな。

「むー……」

 フィーロが建物の影から何故か睨んでいる。
 焼きもちか。ほんとガエリオンと仲悪いなお前は。
 ラフちゃんを見習え。ガエリオンと一緒に跳ねているじゃないか。
 それからプレゼント配りを続行し、フィーロの引くラフちゃんのソリに乗って配り続けた。

「次はー……元康とフィロリアル共か」

 夜も大分更けてきた。
 元康はとっくに寝ているのかな?
 そっとフィロリアル舎を覗く。こいつ等は昼間のうちに色々とやったから問題ないだろ。飯とか、遊びとか、まさしく色々。元康自身のプレゼントもあるし。三匹フィロリアル共も俺から貰うよりも元康から貰った方が嬉しいだろ。

 元康はフィロリアル達に囲まれてスヤスヤと寝息を立てている。
 ソリに乗っていた俺は、静かに、かつ気付かれないようにフィーロのアホ毛……今は冠羽の先を摘まむ。

「フィーロ、勢いよく頭を下げろ!」
「え? うん! あいた!」

 俺の指示通りに頭を下げたフィーロから冠羽を抜くことに成功。
 これを先程、降りる前にやっておいた。

 後はこれを適当な箱に入れて……思いっきり元康に向けて投擲する。
 ポフッと音を立てて、元康の近くにいたフィロリアルの羽毛に命中。コテッと落ちた。
 ま、これで元康も満足するだろ。

 メリークリスマス。
 ってなんで元康にまでやってるのか俺もわからん。ついでだついで。

 その後はイミアとか、村の奴ら全員に配って回った。
 イミアはー……自室が穴の中だからイミアの叔父に任せたけどな。

 なんて感じで配っていると樹とリーシアが食堂に居るのを目撃した。
 何やってんだ?
 無言で見つめあっているように見える。
 クリスマスムードか?

「あ、尚文さんじゃないですか」

 樹が空飛ぶ俺達を見るなり手を振る。
 無視しろよ。ムードが台無しだろ。
 しょうがないから降り立つ。

「お前等、こんな夜晩くにどうしたんだ?」
「ええ、騒がしい村を見て、心を和ませていたんですよ」
「遠目にはリーシアとムードを出していたように見えたがな」
「そんな……僕は、そのような資格はありませんよ。リーシアさんもこんな僕を尊敬していただけです。恋愛はありません」
「ふぇ――そ、そうですよ。あくまでここには休暇で来ているんですぅ……」

 リーシアが一瞬だけ情けない声を出したかと思ったが、直ぐに樹に同意した。
 錬とは逆パターンだな。

「違うのか?」
「ええ、僕には資格はありません。リーシアさんもその辺りはわかっています。僕が、道を踏み外さないように監視してくださっているだけですよ」 

 ……何度も頷くリーシアだけど、顔が泣きそうだぞ。
 もしかして客観的に見た、過去の俺とラフタリアの関係がこれなのか?

「ああ、まあ……」
「皆さんへのプレゼントですか? 良ければ手伝いましょうか?」
「い、いや……いい」

 こっちも最初から気を使ってサンタ側をさせなかった訳だし、ゆっくりさせた方が良いだろ。
 勇者の中で一番、村に休みに来ない連中なんだ。
 少しくらい良い事があるべきだ。

「まあ、その辺りは……ある程度察しろ」
「はぁ……?」

 樹の事だから理解は早いだろ。
 俺みたいに考えないようにしている、と言う訳じゃないだろうしな。

「とりあえず、お前等にはこれだな」

 密かに製造させた特製のワインを二人に送る。

「度数は高いから注意しろよー」

 ルコルの実を改造できないかとラトと共に研究したモノの副産物だ。
 度数がかなり高いが、味は良くなった。
 しかも、僅かに本音を漏らしやすくなると言う副作用まで付与されている。
 上手く行くかどうかはリーシアのがんばりしだいだ。

「ありがとうございます」

 ま、結果だけ言えば、二人揃って酒に酔ってこの後何があったか覚えていない。
 ただ、とてもスッキリした朝だったらしい。事後とかは無かったらしいがな。
 精霊の力とかを使えば様子は確認できるだろうが、不粋だろ。

 後はー……。

「ナーオーフーミーちゃーん!」

 うん。クリスマスと言う聖なる夜を性なる夜にしようとしている女その二の処理だな。
 これの為に樹達に渡した酒があるんだ。
 俺は思いっきり酒をサディナに投擲した。
 サディナの口に命中し、酒好きシャチ女はぐびぐびと飲む。
 さすがは酒好き、そこに新しい酒があれば飲まずにはいられない。

「う……これはきつくて強いお酒ね。一瓶でお姉さんをここまで酔わせるなんて、さすがナオフミちゃん。ヒック!」
「お前用に作った酒だからな、ついでに本音も暴露して貰おうか」
「私は心の底からナオフミちゃんを愛してます。早くラフタリアちゃんと楽しい事をして、私と楽しい事をしましょう……そう、ラフタリアちゃんを出し抜くくらい」

 ……これが奴の本音か。
 うん。逃げよう。ここは危険だ。

「あー待ってー」

 空を駆けるフィーロに当ても無く走らせる。

「待ってってばー!」

 サディナの奴、酒に酔って魔法を唱え始めやがった。

「リベレイション・サンダーボルトⅩ!」

 俺の上に雷の魔法が降り注ぐ。
 だが、俺は盾の勇者、この程度痛くも痒くもない。
 盾を上空に構えて弾く。
 それにしてもリベレイションを唱えるって殺す気か!

「あらー」
「ごしゅじんさまーメルちゃんの所にも行こうよー」
「……そうだな」

 この村は危険だ。城の方へ行こうか。
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