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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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番外編 盾の勇者のクリスマス【4】

 クリスマス前々日。

「兄ちゃん兄ちゃん!」

 プレゼントの調達を秘密裏にしているとキールが心配そうに駆けてきた。

「なんだキール。普段から素行が悪いから善行をしようと言うのか?」
「兄ちゃんの中で俺は何なんだ!? そうじゃねえよ! 村の家で気付いた事があるんだ」
「……なんだ?」
「煙突のある家が少ない!」

 ああ、そう言えばそうだな。
 村にある家はバイオプラントで作られた家が多い。
 で、暖房機能は搭載されている為に、煙突と言う余計な物は無い。
 元々暖炉とか、厨房に煙突は必要なんだが、飯は村に建てた食堂で食う訳だから村の連中は家で料理しない。
 その結果、村には煙突のある家は極僅かとなっている。

「サンタが入ってこれねえよ!」
「大丈夫だ」
「何が?」
「サンタはピッキングが出来る。鍵開けして正面から家に入ってくるんだよ」
「イヤだよそんなサンタ!」
「じゃあサンタは壁抜けするんだ。で、駆け抜けるように枕元にプレゼントを配るんだよ」
「そんなのもっとイヤだ!」

 ワガママな奴だなぁ。
 見ると村の連中がキールに同意している。

「なんの話ー?」
「ああ、サンタが煙突から入ってくると言う話でな。村に煙突のある家が少ないってキールが心配してんだ」
「そうなの? 大丈夫だよー」

 ん? フィーロの奴、何を言うつもりだ?

「サンタはねー。ごしゅ――」
「フィーロ、それ以上喋るな」
「えー!」

 まったく、それを言ったら余計騒がしくなるだろうが!
 このお喋り鳥は余計な事しか言わないな。
 というか、なんで知っているんだ。

「キール。用件はわかった。村の家に煙突を増やせって言うんだな?」
「うん!」

 はぁ……面倒な作業をさせてくれる。
 これもサンタの仕事なんだろう。しょうがないな。
 面倒極まりないし、さっさと辞めたい所だけど、やる事はやるべきか。
 頑張っている村の連中に年に一度のご褒美みたいなものだしなぁ。
 こうして俺は村中のバイオプラント産の建物に煙突を付けることになった。
 ま、特殊コードで命ずるだけで出来るからそこまで手間は掛からなかったけどさ。

「そういや、サンタの引くソリとトナカイはどうするんだ?」

 満足したキールを追い払い、大人だけの会議の場で俺は尋ねる。
 ……なんかフィロリアル共がこっちをちらちら見ているような気がするのは気の所為か?
 フィーロも何故か俺の隣に居る。
 ラフタリアはこの集会に来ていないと言うのに。

「ごしゅじんさまー!」
「なんだ?」
「あのね、フィーロね、サンタがごしゅじんさまだって知ってるよーだからこっちに混ぜてー」
「それは配る方に入りたいのか?」
「うん!」

 どういう風の吹きまわしだ?
 フィーロはむしろ貰う側になりたいと言うかと思ったぞ。

「だってー、そっちの方が楽しそう!」

 なるほど、貰うよりもイベント自体を楽しみたいと。

「頑張ればごしゅじんさまが美味しいもの作ってくれるし」

 打算的な奴は嫌いだ。
 とは思うが、やる気があるなら良いか。

「はいはい。で、話は戻るがソリとトナカイはどうするんだ? 魔物商に魔物を注文するのか?」

 やはりこの辺りの演出は必要か?

「フィーロが引くー」
「と言うか空飛ぶソリとかあるのか?」
「フィーロが引くのー空飛ぶソリー」
「黙ってろ!」
「あの……さすがにお話では空飛ぶソリとアディレアを使いますが……現実でそこまでやるのはイベントだけかと」

 アディレアと言う魔物……トナカイじゃないのか。

「それってどんな魔物だ?」

 イミアの叔父がサラサラと魔物の絵を描く。
 思いっきりトナカイだった。

「調達は面倒そうだな」
「ごしゅじんさまー!」
「ああ、はいはい」

 どうせ村の中を巡回するだけだからな。フィーロでも良いだろ。
 というか、そんな魔物を使っている所を見られたらガキ共にバレるだろう。
 サンタの格好をするのもNGだ。
 知らないフリをすれば夜中に俺が出歩いていても怪しまれない。

「じゃあフィーロ、お前はソリとトナカイ……アディレア役な」
「わーい!」
「ソリの方はどうする?」
「フィーロに任せてー」
「当てがあるのか?」
「うん!」
「そうか、じゃあ任せたぞ」
「はーい!」
「念の為だ。お前にも任せる」

 些か不安だったので、イミアの叔父にも手伝う様に指示を出しておいた。
 こうして、クリスマス前日に日は進んだ。



「メェリィイクリスマァアアアス!」

 朝、元康がフィロリアルに乗って村を駆けまわっている。
 そんなにクリスマスムードが好きか。
 ……よく考えたらコイツは元イケメンリア充だ。
 クリスマスといえば女共と楽しい一日を過ごしていたんだろう。
 その元康だが、何かをフィロリアル共に配っている。

「兄ちゃん! 兄ちゃん! 誰かが俺のクレープの木からクレープを全部毟って行ったんだ! 犯人捜してくれよ!」

 キールが一直線に俺の元へやってきて、殺気を放ちながら意見する。
 俺は無言で元康を指差した。
 そう、元康がクリスマスを連呼しながらクレープをばらまいている最中だった。

「てめぇえええええええええええええええ!」

 あ、キールを本気で怒らせた。

「力の根源足る鎌の勇者が命ずる! 理を今一度紐解き、我が鎌をここに!」

 カッと音を立てて、キールの前に鎌が出現した。
 波が終わったからか、伝説の武器は持ち主の命令一つで出し入れ自由になっている。
 俺は……出来ないみたいだけどさ。
 キールは鎌を持ったかと思うと振り回し、元康に音も無く近寄る。
 これは鎌の能力であるらしい。

「メリィイイイイイイイイ――」

 壊れた玩具見たいにハイテンションで爽やかにクレープをばらまく元康の背後にキールが回り込んで跳躍する。

「ソウルリッパーⅩ!」

 ザシュッと音を立てて、一筋の光が通り過ぎ、キールが鎌をくるくると振り回して決めポーズを取る。

「仇は取ったぜ」

 ……どこのゲームだ。
 ドサッと元康は糸が切れたかのようにフィロリアルから落ちた。

「もっくん!」
「もーちゃん!」
「もとやすさん!」

 三匹が元康に駆け寄る。

「何すんの!」
「それはこっちの台詞だ!」

 こうしてキールと三匹フィロリアルの死闘が始まった。
 結果で言えば大事な物を汚されたキールの怒りは激しく、三匹フィロリアルは元康を連れて敗走する事になった。

「まったく、朝から何をしてんだ……」

 呆れて物も言えないな。
 元康も元康だ。キールの承諾なく、クレープの木からクレープをもいだらそうなるのが想像できなかったのか。

「うー……せっかくクリスマスにみんなに配ろうとしてたのにー」
「ああ、お前なりに盛り上げようとしてたのか」
「当たり前だぜ兄ちゃん。それをあの槍の兄ちゃんは!」
「怒りはもっともだが、ちゃんと仕返しはしたんだ。我慢……いや、殺すべきか」
「ナオフミ様、程々に」
「わかってるって」

 ラフタリアも半ば呆れながら呟く。
 まあ、わからなくもない。
 元康も何故こんな馬鹿な真似を……ほんと奴はぶれないな。

「さて、クリスマスのごちそうは何にするかな」
「わーい! 兄ちゃんのごちそうー! サンタのプレゼントー」

 ハイテンションになる村の連中。
 さすがはクリスマスイブだ。
 現実世界よりもテンションが高い気がする。
 それだけ純粋って事か?

「クリスマスと言ったら俺の世界じゃ七面鳥とかだよな。日本だったら……」

 俺は顎に手を当てて考え呟いた。

「鳥!」
「「「クエエエエエエエ!?」」」

 俺の視線に気づいたフィロリアル共が蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。
 なんでだよ。
 しょうがないな。逃げる獲物は捕まえるべきか。

「待て! ラフタリア、生かして返すな!」
「なんですかその台詞は!」
「だがクリスマスと言ったら鳥肉と相場が決まっているではないか!」
「だからってなんでフィロリアルなんですか! ほら、フィーロまで逃げているじゃないですか!」
「そうか、じゃあドラゴンでも何でも良い。鳥肉っぽいものを調達するんだ!」
「キュア!?」

 丁度谷子がラトとミー君、ガエリオンを連れてポータルで帰還した所だった。
 いや、タイミングが悪かったのか?

「何を話しているの?」
「ああ、丁度良い晩餐がやってきたぞ。ガエリオン。巨竜の姿になって尻尾を寄越せ」
「キュアアアアアア!?」
『汝! 何を考えている!』
「クリスマスの肉が必要なんだよ!」
「だからってなんでガエリオンの肉が必要なのよ!」
「ドラゴンの肉は恐竜……恐竜は鳥肉と似た味がすると聞いている。フィロリアルがダメなら代用するのが一番だろ?」

 この大所帯を全員分、クリスマス用のチキンが必要なんだ。

「ナオフミ様、悪ふざけも大概になさってください」
「む……そうか?」

 村の連中を驚かしてやろうと思ったのだが。

「ほら、みんな脅えているじゃないですか」

 みればフィロリアルは元より、魔物共や村の連中がドン引きしていた。

「あら? 尚文様、おやめになるのですか?」

 アトラが首を傾げている。
 お前は俺が言う事は絶対に守ろうとするよな。
 精霊化しているから何も出来ないのが幸いしたな。
 実体化していたら間違いなく一匹位は狩っていただろう。

「冗談だ。料理するのに必要な材料を買って来い」

 全員、ホッと胸をなでおろす。

「もしも足りなかったら、補うまでだ」

 と、脅しておいた。

「行くぞみんなぁああああああああああああああ!」
「「「クエーーーーーー!」」」
「キュアアアアアアア!」
「ちょっとガエリオン!?」
「ラフー!」
「「「ラフー!」」」

 土煙を上げて、村の連中は総出で狩りや買い物に出かけた。
 これで少しは静かになるだろう。

「ナオフミ様……」
「ま、これで食材はそろうだろ? 事前に準備もさせたけどさ」

 何もせずに貰うだけで済まそうなんて甘い考えをしている奴らには良い薬だ。
 昔から俺のスタンスは働かざる者食うべからずだからなー。
 なんて思っていると創作系を仕事にしている連中が出遅れているのに気づいた。

「ああ、お前等は留守番してていいぞ」

 その代表のイミアが脅えながら近づいてくる。

「よろしいのですか?」
「ああ、お前等はちゃんとイベントを盛り上げようとしてくれているからな。それにせっかくのクリスマスなんだ。こう言う風にみんなで作業をすれば楽しくなるだろ」
「ナオフミ様。突発的にイベントを作って盛り上げないでください」
「良いじゃないか。イベントは楽しむモノなんだろ? 誰が一番かで報酬を決めるのも一興だ」
「はぁ……」

 やれやれと言った感じでラフタリアは頭を抱えていた。

「イミア」
「なんですか?」
「この前、お前の叔父からお前の地元料理を教わった。頑張っている褒美に今日は特別に作ってやろう」
「あ、ありがとうございます!」

 まあ、ちょっとゲテモノ料理だから、みんなの前では振舞えないんだよな。
 だから創作系専門で頑張っているルーモ種の連中が残るようにした訳だし。
 今回のイベントでもかなり貢献してくれたから前祝いだな。

 ルーモ種の好きな料理ってのは……まあミミズとアリを使った物だ。珍味に該当すると思う。
 勇気を振り絞って食えばすごくうまい。そんな料理だ。
 食い意地の張ったフィロリアル共や魔物共に食われる前に披露するのが一番だと思う。

「ただいま帰りました」
「ふぇええ……なんですかこれ?」

 樹とリーシアがタイミング悪く帰ってきた。
 この二人、世直しの旅に出ると、波が終わってしばらくしたら旅だったんだよな。
 定期的に帰ってくるが、クリスマスに来るとはどういう了見だ?
 リーシアが脅えるようにゲテモノ料理を見ている。相変わらず臆病な所は治らないな。
 で、この二人は……言っちゃあなんだが甘い空気は醸し出すから近寄りたくない。

「聖なる夜を性なる夜にするなよ?」
「当たり前じゃないですか。出来れば楽器の引ける方々と聖歌を歌いましょうよ」
「……」

 樹は、見た目通りの返答をした。

「メルティは来れないから村の連中で我慢してくれ、フィーロ辺りに歌わせるか」

 クリスマスの準備をしていた連中はこうして先に祝った。
 ちなみにフォウルは部屋でまだ寝ていた。
 相当寒いのが苦手らしい。
 サディナは海で大きな魚を捕まえてきたから問題ないな。

 その後、村の連中が食料を持ってきたので、料理を披露し、日は落ちて行った。
 樹の提案で、フィーロと聖歌を歌う羽目になった。
続きは夜に更新します。
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