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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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盾の勇者の成り上がり

「なんだこれ」

 思わず笑いが込み上げてきた。
 俺が手に取って読んでいたのはロックバレー勇者伝説という書物。
 現在、立ち寄っているのはロックバレーの本屋だ。
 魔法屋でもあるらしいけど、普通の本も売っている。

「どうしたんですか?」

 立ち読みをしているとエレナと同一視されている子が俺に話しかけてくる。
 俺は無言でその所を指差すと不機嫌そうに眉を寄せる。

「酷い話ですね」
「かなり事実と違う事が書いてあるよな」

 グラスの待ち人は女だぞ。
 魔物勢は大半が概念的な登場人物とか、実在したのに可哀想な連中だ。

「どうしたのー?」
「ラフー?」

 フィーロとラフちゃんが苦笑している俺達に不思議そうに尋ねた。

「ん? お前等の実在が疑われてるんだそうだ」
「えー……」

 同名の人物を同一視って酷いな。
 フィロリアルとして見られていないのか。

「しかし、久しぶりにこの世界に来たが、色々と変わっているな」

 俺は本屋から出て空を見る。
 そこには大きな木が聳え立っている。
 あれがロックバレー名物の神樹って奴か。

 キールが守っていたとか書かれているとなると……目を凝らして良く見る。
 ……うん。クレープの木だ。

「ラフタリア、あの木が気持ち悪いからぶっ飛ばしてこい。キールはもういないんだから良いだろ」
「嫌です。そんな事をしたら大騒ぎになりますよ!」
「そうだろうなぁ。だが、あの木はやっぱり慣れない」

 で、町の往来を見ていると、何処かで見た事のあるような種族の連中が結構歩いている。

 クソ女神を倒し、精霊共に選択を迫られた俺が選んだのは全てだ。
 あのクソ女神が使っていた分け身に近い、自分の分身をこの世界と現代社会に分けて、神としての力が使える俺とラフタリア、アトラはそのまま世界を守る為、精霊達の助けに応じて旅立ったのだ。

 あれから色々な事があった。
 世界毎にルールが異なるからなぁ。
 俺達は世界侵略を起こす神に対抗する精霊達の守り部として存在している。
 だからか、ほんと、星の数ほどの戦いに駆り出されているのだ。

 八つの世界が繋がらないと降りれないと言うルールは他の世界では少なかったり多かったりする。
 だけど俺達はそのルールに該当せず、と言うかその世界に入るギリギリの量を所持して乗り込む事が出来るからなぁ。
 何処で神が糸を引いているかわかったら、乗り込まれる前に神の方を仕留めるとかも出来る。
 そんな戦いを繰り広げていたら年月なんてあっという間に過ぎ去ってしまう。

 分け身って、そんな自分が放つ休暇みたいな側面があるんだよな。
 この世界に永住した俺は、日々様々な出来事があったが最終的には楽しい一生を送ったみたいだった。
 今じゃ俺自身と共有して戻っている。

 この世界の俺の死後、世界は様々な出来事があったらしい。
 だけど、波のような理不尽な災害は起こっていない。
 俺は解決させた世界全てに神が乗り込む事の出来ない結界を張っているからな。

 この世界に滞在しているのも久しぶりの休暇みたいな感じだ。
 なんだかんだで少し疲れた。
 アークも休暇を取ったら良いんじゃないかとか言ってたし。

 あの猫は時に俺達を助け、時に助けられを繰り返す仲になっている。
 アイツがいなきゃ危なかった世界もかなりある。
 逆に俺達じゃなきゃ危なかった世界も多い。
 俺とは近いながらも別のベクトルの戦闘スタイルだからな。

 アイツは神を狩る事に特化していて、他のはてんでダメと言う極端な奴だった。
 神同士の消耗戦とかじゃなく、単純に相手を殺せると言う便利能力だ。
 その代わり、ぶっちゃけるとこの世界の連中だったら赤ん坊にすら勝てない。
 そう言う理で動いているらしい。

 ま、俺も普通に殴るんじゃ赤ん坊にすら勝てないのは同じか。
 代わりにラフタリアが戦ってくれるけれどな。

 って脱線したな。
 今の俺は神としての戦いに身を置いている。
 俺本体と言うべきか。

「ロックバレー王国ですか? それとも共和国なんですか? 帝国? なんか歴史の本毎に違いがありますよ」
「長い歴史を歩んでいるんだろ。フィーロ、その辺りは知らないか?」
「んー……メルちゃんと一緒にいた頃は王国だったよ?」

 ふむ……フィーロの記憶力は些か怪しいがしょうがないか。
 ああ、そうだった。
 俺とラフタリアは久しぶりにこの世界に来訪した。

 で、思い出に浸りながら自分の分け身の記憶を頼りに歩いていると、フィーロとラフちゃんが気配に釣られて現れたんだ。
 実在を怪しまれているが、ちゃんといるぞ。

 しかし……ラフシルドってラフ種には大層な名前が付いたもんだ。
 あ、ラフシルドを発見……タヌキみたいな熊だ。
 馬車を引いているのや、子供を背中に乗せてあやしてる。
 人当たりの良い大人しい魔物と言う扱いみたいだ。
 ただ、あんまり戦闘力は無い様子だ。
 この辺りは勇者が育てなかったフィロリアルに似ているな。

 他にガエリオンもいるのがわかるな。
 後で会いにでも行くか。

 今いるのはロックバレー国。
 帝国なのか共和国なのかよくわからない。
 だけど平和な国ではあるらしい。

 キールの子犬モードみたいな連中が大きなクレープの木を世話している。
 クレープの木から実るクレープはこの国の名物で、ちょっと高めだけど食べる事が出来るらしい。
 あの気持ち悪い木が世界樹のように聳え立っている光景を想像してくれれば良い。

 その下に大きな城下町がある感じだ。
 海に面している元々は俺が開拓したラフタリアの故郷……だったんだけどなぁ。
 今じゃ港町みたいな側面もあるようだ。

「フィーロ」
「なーに?」
「お前人型だけどフィロリアルの姿にならないのか?」

 まあ、こんな所でなったら大騒ぎになりそうだ。
 一応伝説の神鳥だしな。

「えっとねーここじゃちょっと狭いかなー」

 そうなのか?
 また随分とでかくなったもんだ。

「うん。ラフちゃんもそうだよ」
「ラフー」

 そういや、ラフちゃんと再会した時は驚いたな。
 人里離れた所に降り立ったんだけど。
 ラフ種総出で出迎えてくれていたんだが山のような大きな狸が近寄ってきた。
 それがラフちゃんだと気づくのに少し時間が掛った。
 今は出会った時と同じ姿に変身している。

「フィーロね。やっとごしゅじんさまを見つけたよ。今度こそ置いて行っちゃやだからね」
「ああ、はいはい」

 フィーロの奴、あれからどれだけの年月が経っているのかわかっているのか?
 全然変わっているように見えない。
 まあ、なんか本質が神に近付いていて、世界の壁を通過出来そうではある。
 炎を纏って飛ぶ事も出来るようになっていて、この世界に近づいた時に見えた火の鳥がフィーロだった時は驚いた。
 あの姿も変身の一つだと思ったが、どうなんだろうな。

「ラフー」
「ラフちゃんはこの世界を影で守るからお留守番だって」
「そうかそうか、ラフちゃんは偉いぞー。何処かの幾つになってもおつむが成長しない鳥とは大違いだ」
「誰の事ー?」

 お前だ、お前。

「ラフゥ……」

 照れるラフちゃんを撫でまわしながら俺は城下町を歩いている。
 見知らぬ街並み、だけどなんとなく名残があって、感慨深くさせてくれる。

「フィトリアは現存か?」
「うん。フィーロにしょっちゅう、継げってうるさいよ。隠居したいって言ってる」

 あの鳥は幾つまで生きるんだと思うが、そういや不老なんだったか。
 フィーロも後で不老の薬を飲んだんだな。
 他の連中の事を聞くのは不粋だな。
 フィーロも辛い別れを経験しただろうし。

「ごしゅじんさま酷いんだよ。みんなとは色々としてくれたのにフィーロには何もしてくれなかったんだよ」

 ムッとするようにフィーロはあれこれ話し始める。

「メルちゃんがいるからダメって、そのメルちゃんだってごしゅじんさまと何かしてたのに」
「それくらいにしておけって、これからはついてくるんだろ?」

 フィーロの頭をわしゃわしゃと撫でる。
 ご機嫌そうにフィーロはされるがままになっている。
 負けじとラフちゃんが俺によじ登って頭の上でポーズを取って覗きこむ。

「ああ、はいはい。ラフちゃんもな」

 フィーロと同じく撫でてやるとこっちも機嫌が良くなった。

「尚文様、私も撫でてください」

 アトラが盾から現れて、立候補する。

「お前は毎日しているだろうが」
「毎日でも、足りないのですわ」
「はいはい」
「フィーロはごしゅじんさまと一緒が良いの、今度こそついて行くの!」
「わかったわかった」

 この世界じゃ既に俺の知る連中なんて一握りだ。
 こうして町を普通に歩いていたって誰も俺が盾の勇者だって気づかない。
 いや、多分、伝承の勇者のコスプレとか思っているんじゃないかってレベルだ。

 文化はそこまで発展はしていないように見えなくもない。
 まあ、魔法文明なんてこんな物かな?
 フィーロやラフちゃんから聞くと繁栄と衰退を繰り返しているらしいし。

 空飛ぶ船とか馬車辺りは開発されていて、人々の足にはなっているみたいなのが文明が進んだのを理解できる瞬間か?
 でも飛行機とかあの時代にもあったし、かなり適当だな。
 メルティの血族やキール、サディナとかの子孫は生きてはいるけれど、王政を離れたり復権したりを繰り返しているそうだ。

 勇者亡き後も、相変わらずこの世界は勇者召喚に頼っている事が多い。
 四聖……今じゃ八聖か? が呼び出されたり、他の眷属器が召喚したりとあるみたいだ。
 ただ、盾の勇者は俺の後に出現した記述は無い事で有名だ。

「のどかだな」

 天気が良く、のんきに鳥の声が聞こえてくる。
 街道の方へ歩き、草原で軽く食事を作ってフィーロやラフちゃんに披露する。
 久しぶりの俺の手料理に二匹は大満足のようだ。

「どうする? ラフタリア」
「何がですか?」
「ここでまたのんきに暮らすか?」

 しばらくの間なら休暇と称して休む事くらいは出来るだろう。
 百年程度なら、今の俺達からすれば日曜日みたいなもんだし。
 今まで戦いの連続だったし、精霊達も待ってくれると思う。

「この世界で子供を作って、その子が自立するまではのんきに家庭を築いてさ」

 現代社会に戻った俺達と異世界に留まった俺達と同じように、またここで何かしても良いような気もしなくもない。
 なんだかんだで村作りは……楽しかった。
 ヴィッチや差別されるような事があったのは今でも不快な思い出ではあるけれど、それ以外はなんだかんだで楽しい日々だった。

「今度はフィーロも混ぜてー!」
「ラフー!」
「私もですわ!」
「ああ、はいはい」

 本末転倒な三人は無視して、ラフタリアに尋ねる。

「それも良いですね」

 思えば遠くに来たものだ。
 アークに後悔しないかと尋ねられた選択だけど、後悔が無い訳じゃない。
 親しい者達との死別は確かに悲しい。
 だけど、それ以上に様々な世界で出会いがあって、様々な世界で別れがあり、感謝もある。

「ですけど、私達の戦いはまだ続いています。自分勝手な神を僭称する存在に泣かされる人々の為に、私達は進まなくちゃいけないんです」
「……そうだな」

 分け身を使って気分転換は幾らでも出来る。
 この世界を楽しむのは分け身に任せると言う手もあるしな。
 今じゃ俺達は、神を僭称する存在が起こす波を鎮める、概念みたいな役目を背負っている。
 だから、歩みは止められない……か。

 休みは程々にして行くべきか。
 最悪、この世界の連中、メルティやサディナ、キールやフォウルには時間跳躍を行えば会いに行けるんだ。
 永遠の別れじゃない。

「あ、どうやらまた世界融合をさせて乗り込もうとしている連中がいるそうですよ」

 ラフタリアが神狩りをしている連中からの応援を聞いて俺に指示を問う。
 そう、アークと同じく、俺達と志を同じにする仲間もいる。
 まあ俺達みたいに、精霊に頼まれてやっている奴は見た事が無いけどさ。

 そういう奴等の中にも裏切り者や心変わりする者がいて、何度騙された事か……。
 幸い、俺達は今もこうして無事だけどな。

 今回はその仲間の誰かが協力を仰いでいる。
 もちろん、すぐにでも急行するつもりだ。
 あんな理不尽を起こす連中に負ける訳にはいかないんだ。
 それは、俺達の意地だからな。

 大丈夫、俺にはラフタリアがいる。
 守るべき世界がある。
 フィーロやみんながいる。

 この時間軸では会えないけど、もう二度と会えない訳じゃない。
 だけど、神を僭称する存在は過去すらも消し去る。

 だから……みんなを守るんだ。

「じゃあ、リフレッシュ用に分け身を置いて俺達は行くとするか」

 もはや伝説になっているこの世界に復活した勇者的な感じで、のんきに冒険とかする感じだな。
 もしも世界が戦乱で困っているなら、平和にしてくれるだろう。
 大丈夫、盾の勇者だ。この世界なら大歓迎される。

 またハメられたりしてな。
 ……ありそうだ。不安になってきた。
 いや、こっちの俺にもラフタリアとアトラがいるんだ。大丈夫……だと思いたい。

「わかりましたわ」
「フィーロ、ごしゅじんさまについて行くよ」
「ラフー」

 ラフちゃんが手を振っている。
 今度再会した時はラフちゃんもついてくるのかな?

 そうして俺達は分け身を置いて、次元跳躍をした。
 今度はフィーロも一緒だ。
 懐かしい仲間が増えた。なんとなくやる気も向上した気分だ。

 思えば、ただのオタクな大学生が冤罪を掛けられ、異世界で無一文で放り出された挙句底辺生活、そこから貴族まで上り詰め、挙句には神だ。
 まさしく、盾の勇者の成り上がりだな。

「よし! ラフタリア、アトラ、フィーロ、これからもよろしく頼むぞ!」
「はい」
「了解ですわ」
「うん!」

 俺達の戦いはまだまだ続く。
 理不尽に泣く命の為に、守り続ける。

 これからも……いつまでも――


 完
これにて一端閉じさせてもらいます。

一応、完結という形にしますが、折を見て番外編や短編を投稿する予定です。
まだ未回収の伏線もありますしね。
その場合、在留した尚文とラフタリアのエピソードになるのかな?
FD的な感じになるかと思われます。

最後まで読んでくださりありがとうございました。
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