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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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末路

「く……」

 クソ女神の悔しがるような声が聞こえてくる。
 ま、既に奴は詰んでいるような状態だが、一体何を仕出かすかわからない。
 手を抜く理由もなくなった。ここからは本気で戦おう。

「さて? 不正な力だったか? どうして没収出来ないんだろうな?」

 絶句する転生者とその取り巻きを俺は睨みつける。
 さすがにこの状況を引っくり返せるほどの異能力を所持している奴はこの場にはいないようだ。
 引っくり返せたらそれこそ神クラスの能力者になる訳だけど。

「ここは……」

 それぞれの転生者とその仲間達は目を合わせて頷く。
 そして間抜けにも背中を見せて逃げ始めた。

「あ……」

 なんとも情けない後ろ姿に半ばあきれる。
 だけど、その連中を守るように敵軍の兵士が道を阻む。
 陣形が取られている。勝てる相手では無いとわかっていても戦う心意気、連中よりも有能じゃないか。
 とは思ったが、どうも様子が違う。

 俺の目には……生命とでも言うのだろうか。
 それを燃焼させて捨て身の特攻を刊行しようとしている敵軍の連中が見えた。
 考えてみれば敵にはグラスの様な魂人が多数混ざっている。
 こんな時の備えて何か、奥の手があるのだろう。

「勇者様方が戻ってくるまで、我等が命を掛けて足止めをするぞ!」
「「「おー!」」」

 どうやら盲信している層とクソ女神に自我を奪われて駒と化している奴等がいるようだ。
 しかも後方には女王。
 こりゃあ、追いかけて行くしかないな。
 このまま俺とラフタリアだけで追いかけても問題は無いが……それは不粋か。

「追いかけるぞ!」

 俺の言葉にみんな頷く。
 直後、俺達に向かって高等集団合成魔法が降り注いだ。
 ディフェンスリンクと流星壁で被害は出なかったが、俺がいなければ危なかった。
 どうやら女王がまだ俺達と戦いたいようだ。
 ……いや、せめて時間稼ぎにと妨害しようとしている。

「クズ」
「……はい」
「お前の女だ。相手をしてやれ。俺達は敵軍を正面突破して行く、その後は任せた」
「……」

 拳を強く握りしめ、クズは頷いた。
 その隣にはメルティが立っている。

「頼んだわよ、ナオフミ」
「ああ」
「フィーロちゃんも一緒に行ってあげて」
「任せてー」

 頷く俺とフィーロ。
 そこにサディナとキール、グラスも話し掛けてくる。

「お姉さんもここでみんなを守っているわ。ナオフミちゃん、頼んだわよ」
「ラフタリアちゃん。兄ちゃんと一緒に頑張ってな!」
「私の世界の者達が迷惑を掛けます。死力を尽くして見せましょう」

 魂人の敵が突然強くなったからな。
 グラスは彼等に代わって謝罪している。

「グラス、敵が何をしたか分かるか?」
「おそらく……魂人の最後の手段を発動したのだと思います。後先考えず、この瞬間に全ての生命を活性化し、瞬間的な力の暴走を起こす禁じられた力……です。この力は相乗効果があります。戦場で幾人もの魂人がこれを使うと近くの人間や亜人、宝石人も同等の力を得ます」

 やけくそな攻撃だ。
 ネットゲームにもそう言ったスキルが無い訳じゃない。
 発動時間が切れるまで無敵だけど、切れたら即座に死亡とかそう言う奴。
 奴ら……後先考えずに勇者を仕留めようとしているんだ。

「そうか……クズ。本当に大丈夫なんだな?」
「はい。英知の賢王の名に賭けて、この戦を終わらせて見せましょう」
「……わかった。任せたぞ」

 俺達はクズとメルティ、サディナ、キール、グラスに戦場を任せて正面突破を決行した。
 ま、雨のように降り注ぐ魔法と武器の嵐は全て俺が引き受けての行軍だ。

「ラフー!」
「クエー!」
『やれやれ、我等が援護役をするとは……汝、後は任せたぞ』

 ラフちゃん、フィトリア、ガエリオンがクズを援護するために敵軍を引き受ける。
 同様に谷子と、後方援護をしているラトとミー君。そして村の連中達だ。
 流星壁によって遮られて敵軍の兵士共の攻撃を受けきっている。
 ただ――。

「アチョー!」

 俺の流星壁に強烈な一撃を仕掛けた奴が一人。

「ここから先は通させんのじゃ!」

 ……ババアか。
 変幻無双流のババアがそこに立っていた。
 目には敵意が宿り、無理やり魔法で強化された肉体。大地の力を強制的に吸引し、能力を跳ね上げた代償として、気持ち悪いほどに筋肉が盛り上がっている。

 しかも肉体改造の形跡まである始末……。
 魂が語りかけているのを感じる。
 心の底では戦いたくないと言う声が俺には聞こえてきた。
 止めて欲しいとの願いが。

「ナオフミさん!」
「イワタニ殿」

 リーシアと女騎士がババアの前に立って宣言する。

「ここは私達にお任せください」
「良いのか?」
「はい。私達は師匠に色々と学びました。その強さを、師匠に見せる時……です!」
「リーシアさん」
「イツキ様、これは絶対に譲れません。どうか世界の為に、先へ」
「わかりました。リーシアさん。絶対に生きて帰ってきてください」
「はい!」
「レン、私もここは引けん。後は任せたぞ」
「わかった。エクレール。師匠の事は任せたぞ」

 ここで、ラフタリアがババアを止める事は簡単だ。
 だが、それではいけないのだと俺は認識している。
 リーシアや女騎士だからこそ、開ける可能性が眠っていると……精霊の因果律が応じている気がした。

「じゃあ……行くぞ!」
「「でりゃあああああああああ!」」

 俺が前に出ると同時に、リーシアと女騎士がババアに向けて突撃した。


 リーシアと女騎士が改造され、操られたババアと相対していた。
 俺はそんな光景を敵を追い駆けながら、力を使って確認する。

「アチョー!」

 筋肉が盛り上がり、変幻無双流の真髄を持って攻撃してくるババア。
 クソ女神の常軌を逸脱した援護魔法によって眷属器の勇者でさえも圧倒する程の強さを見せていた。
 俺がリーシア達にディフェンスリンクを発動させているからこそ、戦闘が続行されているが、普通に戦っていたら今頃リーシア達は敗北をしていただろう。
 どんだけ加護を掛けているんだよ。

 考えてみれば変幻無双流は弱者が強者を倒すために存在する流派であり、同時に強者が更なる強者を倒すための流派でもあるんだろう。
 一見矛盾しているように思うかもしれないが、上を目指す限り終わりは無い。
 弱者が上り詰める流派なのだ。

 そしてリーシア達は潜在的には既にババアよりも勝っている。
 だが、クソ女神の加護と同時に強者を殲滅する流派の力がリーシア達を追い詰めている。

「ぐああああああ!」

 女騎士がボロ雑巾のように宙を舞い、地に伏す。

「まだだ!」

 が、直後に起き上がって、戦闘を継続する。
 俺の守りのお陰で大きなダメージは負わない。
 だけど、吹き飛ばされた時に気を体に流し込み、ディフェンスリンクを貫通してリーシア達の疲労を蓄積させていっているのだ。
 ババア……味方として、様々な連中に流派を叩きこんでいたお前が敵として前に立った時、これほどにまで脅威となるとはな。

「でぇえええええええい!」

 リーシアが投擲具の武器で近接も可能な投げナイフに変えて切りつける。

「ドリッド・スラッシュ――スローイン!」

 切りつけると同時に投擲具がリーシアの手からババアの顔面目掛けてホーミングで飛んでいく。

「この程度か! 変幻無双流、満月!」

 リーシアの投擲した武器を掴み、片手で気を練り上げて大きな玉としてリーシアに投げつける。
 ……もはやここだけ次元を超越した戦いになっているぞ。
 ババアの筋肉の盛り上がり具合、暴れ方を見るに、昔見たアニメの格闘家を思い出す。
 伝説の戦士と恐れられた化け物。
 気と言う概念からそっくりだな。

「カハ……」

 ババアの放った気で作られた玉を諸に受けたリーシアが吹き飛ばされ、倒れる。

「まだ……です」
「そうだぞリーシア! 私達が師匠を止めなくてどうする!」
「ええ……まだ、私達は、師匠に何も返せていません。師匠を蝕み、操る力はそれはとても強靭でしょうが……変幻無双流は――」
「弱者が強者を倒すためにある……無理を通す流派!」

 女騎士が刀を前に向けて、スキルを放つ。

「剛刀霞十字、十!」

 ババアの体に十字の亀裂が走り、同時にリーシアが――。

「ミョルニルⅩ!」

 雷を司る、ラフタリアのトールハンマーに限りなく近いスキルを……二人揃って気を最大限込めて放った。

「ぐああああああ!」

 ババアに向かって二人の気が籠った、スキルが放たれる。
 ババアは黒焦げになって膝を付く、しかし、すぐに立ち上がった。

「中々やるようじゃな……だが、まだまだじゃ!」
「く……」
「エクレールさん。気づきましたか?」
「ああ、気を全力で込めた時にな」

 リーシアと女騎士は顔を合わせ、頷き合う。

「私は諦めません。ナオフミさんに、諦めるなと言われて、私は決意したんです。恋も夢も、その全てを諦めないと」
「私は、私の信じる正義を貫く、その為にこんな理不尽があると言うのなら、こんな理不尽を打破できる可能性があるのなら! 私は何を賭けても後悔はしない!」

 ディフェンスリンクは消費した気を回復する能力は無い。
 もしもリーシア達が助けを求めるのなら、迷わず俺は力を貸す。
 だけど……今の二人にそれは不粋なようにしか見えなかった。
 二人の武器が、二人の意志に呼応して輝く。

「「「変幻無双流奥義――」」」

 三人の変幻無双流の戦いは、佳境へと向かい始めていた。


 アレから二十分程経過しただろうか。
 俺達は襲い掛かる大軍を薙ぎ払い、クソ女神が待っている最も後ろの陣地目掛けて駆けていた。
 転生者も必死に逃げている。
 無傷とは言え、邪魔だから薙ぎ払っていると自然と距離が開く。

 どれだけ敵軍が集まっているんだよ。
 そりゃあ見えなかった訳じゃないけどさ。
 飛んでいけばいいんだろうけど、そうなると錬、元康、樹が追いつくのに時間が掛る。

 リーシア達と同様に後方を力を使って確認する。
 先ほどから爆発が鳴りやまない。
 驚異となる転生者がいなくなったのは良いが、その代償なのか、敵軍の兵士共の攻撃が激しくなった。

 戦争の最前線ではクズと女王が今まさに取り巻きを引き連れて大将同士のぶつかり合いへと発展していた。
 女王側には既にエースの殆どが存在しない。だからせめて相手の大将を仕留めるのに、唯一のエースである女王自身が乗り込んできた、という事だったのだろう。

「ミレリア……」

 クズが扇で口元を隠し、目が死んでいる女王に向かって声を掛ける。

「父上……」

 その隣でメルティが楽器を鳴らしてスキルを発動させる。

「メルティ、他の者達よ。すまないが……これはワシの戦い。少しの間、ミレリアと話をさせてくれ」

 その場に居た全員が心配そうに、だが英知の賢王を信じて頷いた。

「……これが最終決戦です。私の軍が勝つか、貴方の軍が勝つか……いえ、既に勝敗は決しているのかもしれませんね」

 操られている女王がクズに言葉を紡ぐ。

 クズは杖を強く握りしめる。
 女王が魔法を練り始める。
 手の扇が怪しく輝いた。こんな事もあろうかとクソ女神が女王の扇に潜ませていた、武器だったのだろうな。
 扇から光線が放たれ、クズの肩を貫いた。

「うぐ……」
「アル・ドライファ・フリーズフレア!」

 女王の両手から氷と炎が出現し、辺りに巨大な魔法の玉が生成される。
 それが落下した時、その場所が空気すらも凍りつかせる絶対零度と、骨すら残らない太陽の如き熱が降り注いだのだ。

「さあ、何をしているのです? 貴方の強さはその程度なのですか! 英知の賢王!」

 肩を抑えたクズがメルティを後ろに突き飛ばして魔法を唱えながら叫ぶ!

「う、うおおおおおおおおおおおおおおお!」

 クズの杖が光り輝く。
 そこから先を確認する前に――

「女神様! どうか俺達に新しい力を授けて下さい! 奴らを皆殺しに出来る、奇跡の如く、最強の力を!」

 転生者がクソ女神が足を組んで鎮座していた最後尾の司令部に行って宣言した。
 クソ女神の所まで来て力を下さいって、情けねえ連中だな。
 転生者の取り巻きも考えなしに、その状況で祈りをささげているようだし。

 誰かから与えられ続けた者の末路は……こうなるのか。
 俺も自分の力に溺れないよう気をつけるとしよう。

「……」

 肩肘を突き、面白くなさそうに眉を寄せながら、足を組んでいたクソ女神が転生者達を一瞥する。

「良いわ」
「女神様!」

 転生者共の顔が明るくなり、振り返って俺達を睨みつける。

「さあ、女神様! 俺達に新たな力を」
「ええ……もう十分よ。ゆっくりとおやすみなさい」

 クソ女神がそう宣言すると同時に、雷が転生者とその仲間達、そして戦場の全てに降り注ぐ。

「ぎゃあああああああああああああああああああああ! な、何故!?」
「貴方達があまりにも情けないから遊びを終わらせようと思ったのよ。まあ、少しは楽しめたから良いわね」
「そ、そんな――」
「そう、その顔、その顔が見たかったのよ。アハハハハハハ!」

 絶望し、雷によって消し炭に成りながらも絶望の眼差しを転生者とその仲間達はクソ女神に向ける。
 そう……クソ女神は態々自分達が死ぬ、その瞬間を見せているのだ。
 即死なんて物は無い。
 自分の身体が崩れていく激痛、恐怖、絶望、後悔、それ等をショーにしている。
 信じていた者に裏切られる表情、想い……その全てをクソ女神はご機嫌な表情であざ笑った。
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