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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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脆い所

「それにしても、全てが敵に見える状況か……」

 まるで異世界に召喚されたばかりの俺の精神状態みたいなのが伝染しているんだ。
 こりゃあ信用させるのは難しいな。

「ナオフミさん」

 グラスがやって来て、考え込む俺に声を掛ける。

「どうした?」
「これからどうしますか?」
「明日の作戦はクズに一任しているんだろ?」
「はい……ですが、あの方は確かに優秀ではありますが、相手が悪い様子なので……」

 そういえば四聖武器書にはそう言った記述がされていたな。
 というか蘇生で操られているとか偽者に裏切りを受けたとか書けよ。
 実際の現場じゃ些細な事だったって事か?
 色々と策略が渦巻いている、とかの一文で終わった範囲かよ。

「それで……ラフタリアさんはいつ槍の聖武器の勇者を連れてくるのですか?」
「そこなんだよな」

 思いのほか、ラフタリアが来るのが遅い。
 まあ、なんか並行世界に入り辛かったからラフタリアも苦労しているのかもしれないけどさ。

 下手に力を使うと並行世界だと気づかれそうだからなぁ。
 かるーく、気配を察知するけど、まだラフタリアは並行世界から出ていない。
 完全に信用してもらうにはラフタリアが来るのを待たないとダメそうだ。
 元康が来てからじゃないと世界を守る楔を打つのも難しいしな。
 俺がいれば勝てなくは無いとは思うが、あの女神に逃げられる危険がある。

 アイツは逃がしちゃいけない。
 逃がしたらまた何処かで悪さをする。
 ここで奴の息の根を止めるべきだ。

 精霊達はそれを望んでいる。
 俺は神としての力は使えるが、その力の根源は精霊の意志なんだ。
 そして精霊の意志は世界の意志にもつながる。

 俺は……まあ、代弁者みたいな物だ。
 その精霊と大地が俺に、まだ機会では無いと囁いている。

「もうしばらくは掛ると思う。ラフタリア達が駆けつけるまで戦うしかないだろう。もちろん、相手の戦線は後退させるべきだろうがな」
「……わかりました」

 これからは転生者を相手に負けたりもさせない。
 俺の力もこの世界の理に従う範囲で勝たせてもらう。
 相手に気づかれない範囲でだけどな。

「ところでグラス、お前は魂人だったか? 他者の魂を見る事が出来ないのか?」
「生者の魂と言うのは見えませんね。サディナさんはその点でも有能だと思います」
「まあなー……」

 何処まで万能なんだろうな。アイツ。
 サディナを想像していると、想像の中のサディナがピースをした。
 イエーイ! とか言っている。
 実際にやりそうだから怖いな。
 いや、どうでもいいか、こんな事。
 と、ともかく必要な事項を調べないとな。

「メルティ、明日は何処で戦うんだ?」
「今、私は父上の補佐をしているの。敵はとても強力で、父上が最前線で魔法を使わねばならない時があるのよ。その時に司令塔として指示を出したり、合唱魔法を唱えたりしているわ」
「そうか」
「ただ、最近は転生者に押されて、フィーロちゃんに守ってもらっている時が多いわね」

 歯痒そうに、メルティは呟く。
 メルティも大分Lvが上がっている。
 以前クラスアップでフィーロとボロボロになるまでLvを上げていたが、それよりも高い。
 転生者との攻防で上がるとは……難儀な話だな。

『やっと帰ってこれた』

 そこでガエリオンの声が聞こえてくる。

『自軍の近くに出現した汝の存在を感知しておったぞ』

 俺はチャンネルを合わせるように答える。

『お前は何をしていたんだ?』
『何も一方的にやられていた訳ではない。我はウィンディアと、遺憾だがフィロリアルの女王と共に敵軍の本拠地で戦っておったわ』

 ライバル同士による夢の共演だな。
 いや、そういう事を言う雰囲気じゃないけどさ。
 どちらにしても、ガエリオンとフィトリアが協力して戦ったのか。
 それだけ切羽詰まった状況だったんだろう。

『状況はどうだ?』
『芳しくない。我の力では女神には叶わん。その先兵は何度か屠ったがな』

 転生者は何回か倒した……か。
 確か、死ぬ度に蘇生を施しているような感じではあった。
 まさしく死に戻りしても平気ってか?
 良くやる。

 あのクソ女神の蘇生ってデメリット多いんだぞ?
 寿命は直ぐに来るは、気付かないうちに精神を弄られるはで、知っていたら頼ったりしない。

 なんかゲーム感がとても強いが……この世界はそこまでゲームでは無い。
 死んだら基本的に生き返らないし、生き返ったとしても手抜きをすると魂が汚れ、壊れて行く。
 精々……二度目となると自覚は無いが、所々が壊れているはずだ。
 どう誤魔化しているかは知らないがな。
 元から死んでも大丈夫なように作られている竜帝とは違うのだ。

「ナオフミ?」
「ん? ああ、それで?」

 メルティとの話に意識を集中させる。
 念会話みたいな感じだが、携帯電話でガエリオンと話、実体ではメルティと話している感じだ。

「父上が呼んでるわ。明日からの戦いで報告する事と聞きたい事があるんだって」
「わかった」

 そう頷き、クズの所へ向かおうと歩く。
 ……まだ言う事があったな。

「メルティ」
「な、なによ」
「今日までよくがんばった。必ず俺がなんとかしてやるからな」
「……ナオフミにそんな言い方は似合わないわ」
「確かに、前の俺なら言わないな」
「ええ、でも……」

 メルティは言葉を一度詰まらせ。

「うん……ありがとう。生きていてくれて、ありがとう……」

 そう、メルティは涙目になりながらもハッキリと言った。


 メルティとわかれた後、俺はクズが作戦を練っている会議室へと向かった。
 クズは明日から、敵の侵攻を止める作戦を考えているようだ。
 俺がサディナやメルティと話をしている間もクズは作戦を練り続けていたらしく、板にはびっしりと作戦が書き込まれていた。

「これはイワタニ殿、よく来て下さった」
「調子はどうだ?」
「……」

 クズの顔は疲労の色が濃い。
 そりゃあ敵はクズの事を良く知る女王が操られた状態で、指揮をしているのだから、やり辛いだろうな。
 昼間は俺の喝が効いて上手く行ったようだけど、クズはメンタルの面で問題を抱えている時が多い。

「辛いだろうが、お前の愛した女の国を守るんだ」
「わかっております。わかっておる!」

 自分を納得させるかのようなセリフだった。
 これからはその負担を減らせると思う。
 敵が女王なのが不安要素だが、それでも大丈夫だと俺が安心させてやれる。
 なんて考えていると……。

「尚文様!」

 アトラが壁抜けで現れた。
 それと一緒にフォウルとキールが会議室にまでやってきた。

「誤解だ! 俺とキールはそんな関係じゃない!」
「アトラちゃんは何か勘違いしてるぜ。俺は、クレープの木が一番で二番目が兄ちゃんで、三番目がフォウル兄ちゃんだ!」

 まだやっていたのか!
 アトラが俺を盾にしてフォウルから隠れる。
 俺の盾に成りたいと言った奴が俺を盾にするな。

 後キール、わけのわからない優先順位を作るな。
 なんで俺があの気持ち悪い木よりも下なんだ。

「あ……」

 フォウルとクズが顔を合わせ、微妙な空気になった。
 キールは空気を読まずに犬モードでフォウルの頭に乗って、尻尾を振っている。

「……」

 どうもこの二人は似た者同士なのか、言葉に困る時があるんだよな。
 クズはフォウルの事を気に掛けていて、フォウルはそれをうっとおしがっているけど。

「どうかしましたか?」
「アトラ、クズに元気な姿を見せてやってほしい。お前の事も気に病んでいた奴なんだ」
「はぁ……? わかりました」

 半透明なアトラがクズの前でふわりと浮かぶ。

「えっと、私はこのような姿になっていますが、元気です。どうか気を楽にしてください」
「……」

 クズは涙を拭って、アトラに背を向ける。

「……今回、戦うべき相手は貴方に取って苦しい相手でしょう。ですが……とても大切な者でもあるのは事実……そして考えてください。貴方の失った大切な者全てが敵ですか?」
「……そうじゃな」

 女王は今や敵だ。
 だが、クズと因縁のある相手は偽者のアトラ以外では他に出てきていない。
 アトラの母親に当たる者も、クズの宿敵であったハクコもクソ女神は呼び出していないのだ。

 これを楽観視すると見るか、それともまだ使っていないと悲観的に見るかは別だけどな。
 呼び出そうと思えばできなくはないだろう。
 だが……それをするにはコストが高いのが原因だろうな。

「俺からも注意しておくぞ。おそらく、そういう奴を出してくる可能性は高いが、それは偽者のアトラを出したのと同じく、お前の想い出から作った偽者だ。本物の魂を持ってこないだろう」

 この世界の魂の形は複雑だ。転生もするだろう。
 ただ、魂が龍脈に乗って巡回し、やがて真っ白な魂となって新たな命になる。
 そこからクズの家族を引き出してとなると因果律まで弄る事になる。
 そこまでするとコストが掛るから、遊びで相手を苦しめるクソ女神はやるはずもない。

 女王やババアを再利用したのは死んで日がそこまで経っていなかったからだろう。
 本人と間違える事無く応答も出来る可能性はある。
 人伝だけどババアは裏切るまで見分けられなかったみたいだしな。
 いや、本人が洗脳されているのか、それとも操られているのか知らないがな。
 偽者のアトラはフォウルの想像を具現化させたに過ぎないから俺を罵倒したみたいだし。

「じゃあ……俺達は出て行くから……」

 フォウルがキールを連れて立ち去って行った。
 まったく、騒がしい連中だ。

「俺が頼りになるかを聞きたいんじゃないのか?」
「はい……イワタニ殿はどれだけの強さを得たじゃろうか?」
「返答に困るが、あのクソ女神の攻撃を正面から受け止められる。後な、約束してやる。あのクソ女神が今度死者を冒涜するような真似をしたら、俺が阻止してやる」

 死んだ者を利用するような真似、絶対に許す訳にはいかない。
 ラフタリアが来ればいいけれど、この際だ。妨害くらいはさせようじゃないか。

「だからお前は……女王を休ませてやれ、メルティの為にも」

 メルティは気を強く持っているが、なんだかんだでクズと同じで脆い所がある。
 フィーロがいるから辛うじて持ちこたえているのだろう。
 そんな状況で父親が戦意喪失していては負担が大きくなる。

「お前には守るべきモノがあるんだ」
「はい……」

 クズはとても小さく、震えながら嗚咽を漏らす様に答えた。
 とても辛いんだろうと俺だって察する。

「尚文様、お力を使ってはどうなのですか?」
「死者を蘇らせるのは因果律や理を捻じ曲げる事に繋がる。出来なくはないと思うが……」

 使ったら一発でばれるし、反動が大きい。
 しかも女王の魂はクソ女神の手の内に落ちているとなると難しいだろうな。

「いえ……ミレリアも生き返りたいとは思っておらんとワシは思う。イワタニ殿の配慮……心より申し上げます」
「すまないな」

 死んでも生きたいと思う奴はいる。
 クソ女神のような即席蘇生じゃなく正式な手順を踏んだ蘇生なら、魂の劣化もある程度抑えられるとは盾が教えてくれる。
 ただ、そんなに使う事は出来ないだろうな。

 魂と、コストの関係だ。
 これ以上の蘇生は女王では無い何か、になるかもしれない。
 あまり良い手では無いのだ。だから俺達は使う訳にはいかない。

「クズ」
「なんでしょうか、イワタニ殿?」
「今は少し休め。じゃなきゃ良い案も出て来ないと思うぞ」
「……ですが」

 懸命に作戦案を考えていたクズは俺の指示に、首を僅かに振る。
 だが、アトラがふわりと近づき、手を当ててから額に手を当てるようにした。

「かなり疲れています。どうかお休みください」
「イワタニ殿とアトラ殿が……そこまで言うのでしたら少しだけ、休むとしましょう」

 クズは椅子にもたれ掛る。
 俺は疲労回復の魔法を唱えて、クズの疲れを無理の無い範囲で取り除いた。
 魔法で疲労を取ったとしても、精神的な疲労までは取り去る事は出来ない。

「アトラ、クズに良く眠れるように声を掛けてやれ」
「はい。確か……」

 アトラは耳に手を当てて、隠す様にしてからクズに向かって呟いた。

「お兄様、どうか……次の戦いに備えて、ゆっくりとお休みください。おつらいでしょうが、どうか、貴方の愛したモノの為にも……」
「イワタニ殿、アトラ殿……ありがとうございます」

 クズはアトラの言葉に、うっすらと涙を浮かべながら静かに目を瞑り、寝息を立て始めた。
 俺は城の側近から毛布をもらってきてクズに掛ける。

 期待するとしよう。
 明日には、眠れる英知の賢王が戦場をひっくりかえすほどの名案を捻りだすと。
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