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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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疑心暗鬼

「ともかく今は……」

 フォウルは何をしているのかと思ったら、近くでアトラの偽者相手に大苦戦していた。

「お兄様、邪魔です」
「く……」

 偽者はなんか目が見えるっぽくフォウルの動きを目で追いながら、防戦一方のフォウルを一方的に突いている。
 本物よりも幼い感じで、若干美化されている。
 しかも不自然に胸とか大きい。
 誰かの願望入ってないか?

 キーンと盾が鳴り響いた。
 ああ、そこへ行けと。
 俺はトンと軽く跳躍して、一瞬でフォウルに向かって攻撃する偽者のアトラの頭をわしづかみにした。

『お兄様、本物と偽者の私が区別できないと?』
「!?」

 カッと盾からアトラが姿を露わしてフォウルを睨みつける。
 その光景をまるで地獄絵図でも見るかの如く、唖然とするフォウル。
 まあ、死者が蘇り生者を襲うって時点で十分地獄だけどさ。

『こんな偽者を私と見分けがつかないのでしたら、軽蔑しますわ』
「退きなさい! この不細工!」
「お前はアトラじゃない! アトラは兄貴をそんな風に呼んだりしない!」

 偽アトラが俺を罵倒する。
 同時にフォウルは偽アトラに向かって拳を振るった。

「滅竜烈火拳Ⅹ 猛虎突破脚Ⅹ!」

 最後の締めと言わんばかりにフォウルは蹴りのスキルを偽アトラに放った。
 攻撃が完全に決まった。
 偽アトラはよろよろと数歩後退し、呟いた。

「ば、馬鹿な」

 おお……昔倒した亜人系のシャドウみたいに黒くなって消え去った。
 偽者なんてこんな物か。
 本物のアトラなら、フォウルの攻撃を防げるはずだ。

『まったく……お兄様は相変わらずなのですね』
「アトラ……それに兄貴?」
「ああ」
「本物……なのか?」
「どうやら偽者のアトラがいたようだな。誰かの頭の中でも覗いて作ったのか?」

 品の無い感じだった。
 あれは多分、フォウルの願望だろ。
 それはそれで微妙だけどさ。

「兄貴、何があったんだ? アトラも」
「色々とあったんだ。後で詳しく説明するが今は……」

 盾の精霊と一体化してしまった挙句、世界や様々な力を入れられたお陰でアトラは姿を現せるようになった。
 フォウルはアトラを見ると涙目になりながら駆け寄る。

「アトラ!」
「あ、お兄様」

 アトラに抱き付こうとしたフォウルだったが、とうのアトラはすり抜けてしまう。
 人の魂と精霊が融合した存在だからな。抱き合うのは難しい。
 今のアトラは言ってしまえば幽霊の上位版みたいな存在だ。

「実体はありませんから無理ですよ」
「あ、アトラ!」
「でも、尚文様には触れられますわ」

 と、アトラは俺に擦り寄る。
 またそういう煽るような事を……。
 やっとフォウルが俺を兄貴と慕ってくれるようになったのに、敵愾心を持たれたらどうするんだ。

「ぐぬぬ……」
「羨ましそうな顔をするな。おいおい、泣くなって」

 死んだ妹に会って話が出来た事で感極まったのか涙を流すフォウル。
 アトラがいるとホントだらしが無い兄だな。

「兄貴!」
「なんだ? 間違っても偽者じゃないからな」
「兄貴!」

 フォウルが俺に抱きついてくる。
 野郎を抱き締める趣味はないが……今日の所は、まあいいだろう。
 喜んでくれているみたいだしな。

 それにしてもメルティとフィーロは俺に抱きついてこなかったな。
 しかも謎の敵扱い。
 理由があるのは承知しているが、覚えておくぞ。

「生きていたんだな!」
「まあな、誰も信じてくれなくて泣きそうだ」

 なんて話をしていると……。

「あらあら、何か異界から来訪したと思ったら」

 一瞬で上空にメディアが現れて悠々と呟き始める。

「殺したと思ったけど、案外タフね」
「ちょっとした奇跡でな。運良くお前の攻撃から生き残れた」
「……」

 笑ってはいるが何かを考えているようだ。
 おそらく、神狩りの残した物の所為で殺しきれなかったのだろうと推理しているんだろうな。
 一応は正解だ。

 だが、俺が近しい存在になったとまでは理解していないだろう。
 理解していたら即座に必殺の概念攻撃を放ってくる。
 そうなったら、俺も即座に反撃するがな。

 あの攻撃に対しても対策を作ってある。
 長い時間を掛けて、俺はコイツを倒す方法を考えたんだからな。
 だが、それを使うにはもう少し時間を稼ぎたい。
 正直、ラフタリアが駆けつけてくるまで攻撃手段が無いと思った方が良いだろう。

「まあいいわ。今日の所は撤退してあげる。精々奇跡に感謝する事ね。飽きてきた所だったし、もう少しは遊べそうね」

 メディアは指を鳴らす。
 すると今まで戦場にいた転生者とその仲間、敵の兵士が一瞬で消え去った。

「それではまた明日、ゲームをしましょうね。それじゃあさようなら」

 メディアは出てきた時と同じように一瞬で消えた。
 どうやら立ち去ってくれたようだな。

 にしてもゲーム、ね。
 奴にとってはこの戦いもお遊びって事か。
 ハッ! 今のうちにお遊戯を楽しんでいるといい。
 こっちは『戦いの準備』をしておけばいいさ。 

「さて、そろそろ……警戒を解いてほしいんだが」

 メルティを始め、フィーロまでもが警戒しているのは嫌な感じだ。

「フィーロ? 俺がわからないのか?」
「えっとねー、たぶんごしゅじんさまだよ? だけど、メルちゃんのお母さんや無双のおばあちゃんみたいに死んだのに操られているんじゃないかとおもうのー」

 俺は深い溜息を吐いた。
 あー……もう、この世界は本当にクズだよなぁ。
 いつも俺に向かって碌な事をしない。
 戻って来てそうそう後悔してる。
 滅んでしまえとか思っちまうじゃねーか。やらないけど。

「な、尚文さん!?」

 樹がリーシアを連れてこっちにやってくる。
 敵が突然消えたんだから本隊に来るのは当たり前か。

「よ、樹。良く頑張ったな。で、警戒するのはわかったから、とにかく信じてくれ」

 樹も信用するか半信半疑で俺を見つめている。
 頼りになるとは思うが、弓に手を掛けたままなのは穏やかじゃない。

「樹! 久しぶりだな!」
「えっと……そこにいるのは誰でしょうか? 錬さんに似ていると思うのですが」
「ああ、コイツは錬だ。ここに戻ってくるまでに二年間も元の世界で過ごしていたらしい」
「え!?」

 樹の顔が驚きで彩られた。
 そりゃあ俺だって驚いたさ。

「信じろってのは難しいかもしれないけどさ」

 女騎士が錬を疑いの眼差しで見てる。
 その錬も返す言葉に困っている感じだ。
 しかしあのクソ女神、ホント碌な事しないな。

「ラフー」
「お? ラフちゃんじゃないか」

 ラフちゃんにまで警戒されたら落ち込みそうだけど、ラフちゃんは親しげに俺に擦り寄ってきた。
 おお……ここで俺を信じてくれるのはラフちゃんとフォウルだけみたいだぞ。
 思い切り撫でまわしてやる。

「兄貴が本物で、利用されていないのはわかった」
「そうですわ。尚文様がそのような扱いをされるのは非常に遺憾です」
「良く見たら、そのアトラちゃん。体が無いの?」
「盾の精霊と一体化したらしくてな。誰かの記憶を元に作った偽者とは違うだろ?」

 フォウルと若干距離を持つアトラを見てメルティやフィーロが警戒を解いた。
 そこが信じる所なのか?

「まだ私は信じた訳じゃないんだからね!」
「ああ、はいはい」

 疑心暗鬼って怖いな。

「多少は経過は知っているが詳しい出来事を知りたい」
「あの、ナオフミ。ラフタリアさんは……?」

 どう尋ねるか困った様子で、メルティは俺に聞いてくる。
 あの状況じゃ俺と共に死んだように見えてもしょうがないか。

「別行動中だ。錬を連れて来たように元康を連れて来ようとしている」
「ホント!?」

 ん? 話を聞きつけてきたのか、みどりとその他二匹が近寄ってきた。
 コイツ等は元康が大好きだからな。話しておいた方がいいだろう。

「もとやすさんも生きてるの?」
「ああ、生きている。何分、並行世界に飛んだらしくて探すのに苦労する」
「もっくんが元いた世界じゃないの?」
「そうなんだよなぁ。最初はアイツの世界を探そうと思ったが、この世界の並行世界に反応があるんだ」
「並行世界って何処? もーちゃんはそこにいるの?」
「説明が難しいな。ここと限りなく同じの別世界が正しいか」
「同じ別世界?」
「もしもあの時……って後悔する時があるだろ? その時、後悔しない選択をした世界が存在して、そこに元康は居る」

 みどり達がフィーロと同じく首を傾げてから頷く。
 絶対理解してないだろうな。
 ただ、みどりは利発だからフィーロよりは理解しているのか、ぶつぶつと呟いて納得する。

「フィーロ次期女王陛下にわかりやすく言いますと、なおふみさんに出会えずに普通のフィロリアルとして産まれてしまう世界があるんですよ」
「そうなの?」
「そう言う事だ」
「んー?」

 話を聞いていたフィーロが首を傾げている。
 やっぱりフィーロの頭じゃ無理か。
 まあ、それでこそフィーロって感じもするけどさ。
 逆に頭の良いフィーロとか見たくない。

「とにかく、こうして立ち話をするのもなんだ。一度安全な場所に戻るべきじゃないか?」

 攻めてきた敵の迎撃はできたんだし。

「……わかったわ。ナオフミが偽者か本物かを見極められる人に頼みましょう。それまでは保留にするわ」
「そんな奴がいるのか?」

 便利な能力所持者だな。
 こっち側に潜んでいる転生者じゃないか?

「何言ってるのよ。サディナさんよ?」

 あーサディナか。
 アイツ、俺が偽者か本物か見分ける能力を持っていたのか?
 いやいや……まあアイツとの付き合いも程々に長いからわからなくもないが。
 しょうがない。それで信じてくれるなら、サディナの鑑定とやらを受けてやろう。

 こうしてメルロマルク近隣の戦場を後にして、俺達は城下町の方へと移動したのだった。
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